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「あの」綸同君は相変わらず、分かっているのか分かってないのか、理系クラスの人なので、女の子と話すということもそれほどなかったからなのか、私が戸惑っていても、よく分かっていないようで、でも、不思議そうに屈託なさそうに育ちの良さそうな顔で見られてしまい、恥ずかしくなった。
「本島朝日がいたのなら、クラス会は騒がしくなったんじゃないの?」
「ん、そうかな」とまた、よく分かってない感じだった。うーん、そういう部分に気づかないタイプかも。甲羅とは正反対。目端が利くということは、まずなさそうな、そういうタイプ。空気や流れを読むというのもしそうもない。穏やかでほわーんとした雰囲気を持っている。
「この間」彼が言いかけた時、
「おい、また、迷子」という声が後ろから聞こえて、まずいなと思ったけれど振り返ったら、九条君が気に入らなさそうな顔をしながら、でも、綸同君の方を見ていたので、
「あの」と聞いたら、
「こっちの道は違うぞ。お前、どうせ、こうなってる気がしたんだよな。俺の視力が良かったことをありがたく思えよ」と淡々と言われて、
「知り合い?」と綸同君に聞かれて、
「同じ学部の人なの」とだけ教えた。
「ふーん」九条君がなぜか気に入らなさそうな顔をして、
「じゃあな」と行ってしまい、さすがに驚いて、
「あ、えっと、ごめん、またね」と綸同君に言ってから行こうとしたら、
「大橋」と呼ばれて振り返ったら、
「あ、い、いいよ。また、今度」と言われてしまい、どうしようか迷ったけれど、明らかに気に入らなさそうな九条君の方が気になったので仕方なく走って追いかけた。
「早いってば。ちょっとぐらい待ってよ」と追いついてからぼやいたら、
「お前は、呆れる」と怒っていた。
「あのー、何で、怒ってるの?」でも、答えてくれなかった。

 バスに乗ってから、
「なんで内緒にしていた」とかなり気に入らなさそうな声で言われてしまい、
「内緒?」と驚いて彼の顔を見た。かなり不機嫌だった。
「内緒と言われても」
「高校時代の男だろ、あれ」うーん、ばれていたのか。説明しなかったのに、どうしてバレたんだろうなあ。
「あのー」
「なんだよ」かなり不機嫌そうな返事で困ったけれど、
「なんで、分かったの?」と聞いた。
「一度見てるから、分かってるにきまってるだろ」
「一度?」と言われて考えてから、
「えー、だって、あれ、かなり離れた距離であなたが上からちょっと確認した程度だよ。同じ人物だとは分からないでしょ。普通は」彼が綸同君たちを見ていたのは高校のテニスコートで、彼が立っていた位置からは顔なんてとても確認できる距離ではなかった。
「あいにく、俺は視力がいいんだよ。あいつの顔には見覚えがあるからね。立ち姿でわかる」
「はあ」
「それより、何で言わなかった。同じ大学だったんじゃないか」と怒られて、なるほど、それで怒っているんだなと気づいた。
「えっと、同じ大学ではあるけれど、キャンパスは違うわけだし」
「あのとき、あれほど悩むぐらいなら、恩湯に行けばすんだ話だろ。お前は、どうして言わないんだよ」
「そう言われても、言いづらいでしょ。さすがにね」
「俺の知り合いだっていたから、お前があそこに行くのを付き合うぐらいはしてやったぞ。まったく。内緒にしなくてもいいだろうに」
「うーん、そう言われても。言いづらいというか、行きづらいというか、恩湯は男性ばかりだと聞いているし」
「ふーん、まあ、いいけどねえ。俺には関係がないしね」
「とげがある言い方だなあ」
「お前が悪いんだろ。内緒にするから」
「そう言われても、言いづらいよ。あなただって美弥さんが年上だとは教えてくれなかったし、従弟だということも聞いてないし」
「お前に言う必要があるのか。あのときに」
「綸同君が同じ大学だと教えないといけなかったのかな、私」
「今は関係あるだろ」と言い切られて、
「どこが?」と聞き返した。
「関係あるだろ、俺には」
「だから、どこがよ」
「デートしといて関係ない男だとでも言いたそうだな」
「当たり前でしょ。その程度で」
「さっきもうれしそうに誘われていたけれど、あいつらは女に見境がないからやめておけよ」
「止めてくれてもいいじゃない。あなたの親友なら」
「悪友だよ。親友じゃない。勝間田は悪友。浦島と戸東はクラスメイトだっただけ」
「あ、そういえば、不思議だった。どうして、石渡君とは仲良くなさそうだったの? まるで初対面のような」
「石渡は高校から来てるし、それに石渡はそこまで付き合いは広くないからだろ。俺は甲羅のおかげでそれなりに顔見知りが多いだけ。勝間田も人懐っこいから、戸東も同じ」
「男子校って不思議」
「共学の方が不思議だね。お前の方があり得ないだろ。確認せずにほっといて、高校も大学も同じ学校だというのに、そのままほっとくか、普通」
「ごめん」
「同じ大学なら、行けば済むことだろ。家に行きづらくてもね」
「ごめんなさい」さすがに肩身が狭くて謝ったらしばらくしてから、
「ごめん」と謝ってきた。
「言いづらかったから」
「ふーん、まあ、いいけどな。今は誤解は解けたようだし」
「悪いことをしたなあ。彼ともう少し話をしておけばよかったな」
「だったら、戻れば」
「もういないでしょ。あそこには。なんだか変だね。言い方が冷たいよ」
「うるさい」とそっけなかった。

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