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 しばらく黙ってから、彼が、
「恩湯の方でも上映するから、あいつも見るかもな」と言われて現実に引き戻された。しばらく高校時代のことを考えていたので、
「あ、それがあった」と慌てたら、
「今更、ジタバタするな。同じ学校なら見られる可能性だってあることぐらい、最初から分かっているだろうに」とあきれた顔をしていた。
「そうなんだけど、えっと、彼ね。そういうものは見そうもないというか、ミーハーなところがないというか、映画とかも見ないような、そんな感じの人なの」
「そうなのか?」
「ちょっと不思議な感じの人なの。クラスは違ったから、どういう性格なのかは人づてにしか聞いてないから、分からないところもあるけれど、漫画とかも読まなさそうに思えるんだよね」
「勉強熱心だったのか? 恩湯の理工なら、お前の学校だと入るのは大変なんじゃないか?」
「そうかもね」姉の行っている公立高校は、雷名轟山には及ばないけれど、県内ではランクの高い学校だった。でも、私の学校は普通レベル。安修の理工学部に入るには勉強を頑張らないといけない。
「なんだかおもしろくないよな」
「そう言われても」しばらく黙ってしまったので、九条君の顔を見るしかできなくて、
「ま、いいけどな。あれだと、彼女はできてないかもな」
「どういう意味?」
「さっきのやつらと同じだ。出会いが少ないらしいぞ。理工の方は特に」
「そう」
「俺たちのところだって、甲羅の紹介やバイト先以外だと少ないしな」
「ライデの女の子じゃ、物足りないって言うんでしょ」
「違う」
「どうせ、美弥さんのように生粋のお嬢様が来るような学校じゃないものね。でも、好きだけどな。私は、あの学校。みんなとやっと仲良く話せるようになってきたし、あたたかくてのんびりした校風で」
「高校は違ったぞ。大学からかもな」
「私の高校ものんびりはしてた。穂壁は地方都市だから、のんびりしているって姉が言うしね」
「そういえば、お姉さん、国立(大学)なんだな。聞いてなかったな」
「言いづらいの。仲良しさんじゃないから、私たち姉妹は」
「そうなのか?」
「姉は穂壁、私は安修、そういうランクの差もあるんじゃないの。ただ、お姉ちゃんが言うには、お母さんたちは私に甘いって」
「それはあるだろうな。兄弟の扱いの差は」
「あなたのところは?」
「前に話しただろ。お前のところと似てるかもな。兄は優秀だよ。雷名には行けなかったけれど、錦秋だから」
「え、そうなの。佐並君と同じだ。そういえば、エミリが誘われているらしいの」
「誰に?」
「佐並君」
「ふーん、趣味を変えたのか、あいつ」
「趣味って」
「『とりあえず美人』と言っていたぞ。見た目だと思う」
「やっぱりねえ。そういうと思ったんだよね。そういう人って、自分の隣に並ぶ人のランクを選ぶんだろうね。でも、どうして、エミリ?」
「知らない。俺、あいつ、よく知らないからな。甲羅に聞いておくよ」
「元彼に聞くのはもめそうな予感が」
「いや、いいんじゃないか。佐並が相手なら、あいつもややこしいのは嫌がるから逃げるから、ちょうどいいかもよ」ありえるなあ。
「もっとも、草刈はどっちとも付き合うことはなさそうだな」
「そうかもね。甲羅もどうせ、ほかにも候補がいっぱいいるのに、何でエミリにこだわるの?」
「とりあえずかわいい子はキープしておきたいだけだろ。あいつはそういうやつだ」困った性格だな。
「一人に絞らないとそのうち、修羅場を見てしまいそうだね」
「修羅場ね」
「先輩にいたんだよね。前にね。すごかったよ。卒業式の前日に廊下で言い合って、先生まで来てしまう始末で」
「おい、高校でか?」
「一年の時に目撃した。ああいうのってすごいね。確か、神奈川からの転校生だったはず。それで、東京かどこかに引っ越すことを内緒にしていて、バレちゃって、それで修羅場」
「なるほどな。そういえば、川出って女、大阪にいたのか?」と聞かれて、
「え、どうして?」と驚いた。
「いや、イントネーションがそうじゃないかって、小さいころにそっちに住んでいた女の子が言っていたらしい。甲羅に聞いた」
「へえ、知らない。彼女ってどこの学校?」
「誰も知らないみたいだぞ。それに元の顔も」
「元の顔って、それは」言いづらいなあ。その話題。
「だから、甲羅にその話を教えてくれた子が言っていたらしい。あれは作り顔だって」
「作り顔?」
「だから、整形をあちこちしてるはずだってさ」
「目だけじゃなくて?」彼女は休み明けに目の大きさが違ってしまっていた。
「と言っていた。女ってそういうのは見抜くな。天然の顔じゃないらしい」うーん、よく分からないなあ。
「そういうのは言わないほうがいいと思うよ。花咲君が言っていたの。その人が満足して幸せそうなら、それでいいんじゃないかと。赤の他人の私たちがとやかく言うのは。美優ちゃんと違って、内緒にしておきたそうだしね」
「八束も内緒にしておいた方が良かったんじゃないか」
「家の方針の違いじゃないの? 美優ちゃんのお母さんは賛成してくれて、お金を援助してくれたらしいよ。ただ、お父さんは、まだ、納得してないんだって。『元々がかわいいのだから、いじらなくても良かったのに』とぼやいてるんだって」
「父親に同情するな。もし、自分の顔に似ていたのに不満足で直したとしたら、嫌だろうな」うーん、そう考えるのか。
「『女の子の場合は顔で人生が大きく変わるから当然だ』と力説してたよ、美優ちゃんが」
「顔ね。その前に努力するところが違う気がするけどな」
「それは恵まれた環境と容姿のあなただから言える言葉なの」
「お前は何かというと、すぐにそう言うんだな。俺は恵まれてなんか」
「大学に入って、すぐに車を乗っていられる身分の人は言ってはいけないね、そういうことは」
「うるさい」
「いいなあ。そういう人って、車だけじゃなくて、ずっと、そうやって親に援助してもらえるんだってね。サリがそう言っていた」
「あの女は。口が相変わらず軽いな」
「友達の悪口を言わないでよ」

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