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 エミリに、
「九条と何かあった?」と聞かれてしまった。さっき、会ったときにちょっと不機嫌そうだったからだろう。
「さあね、あいつ、よく怒るから」としか言えなかった。結局、なんで怒っているのか、分からない。
「やきもちかもね」と言われて驚いた。
「やきもち、だれが?」
「九条。どうせ、由香が花咲君とくっつきそうなのが面白くないんでしょ」うーん、そう言われても困るなあ。
「くっつくも何も、花咲君から誘われたことなんて一度もないよ」
「あれ、そうだったっけ? じゃあ、こっちから誘ったら」
「でも、悪いし。彼、付き合いも多そうだしね。高校やそれ以外の趣味友達がいるみたいだし」
「へえ、男との付き合いの方を優先するんだ。じゃあ、無理だ」
「なにが」
「犬童の気持ちは一生通じないね」
「どういう意味?」
「だって、あの女がいたら、友達と会えなくなるよ」
「どういう意味よ」
「張り付いてるじゃない。友達と仲良く交えてグループでの付き合いなんてありえないタイプでしょ」
「ああ、なるほどね」
「由香ならいけると思うけど」
「人見知り強いから無理だね」
「え、だって、花咲君の友達でしょ。だったら、今のグループと大差はないでしょ、そこまでは」
「だったら、千花ちゃんだって」
「今でも浮いているのに?」と言い切られて、何も言えなくなった。
「難しいんじゃないの。あの女が納得するとは思えないから、ずっと、付きまといそうだ」
「そういうことは言わないほうが」
「でも、好きじゃないんだよね。男たちは彼女がいると違う席に行きたがるよ」
「そう」
「段君が落ち込んでるのに、傷つけるようなことを言っていたみたいだし」
「美優ちゃん?」と聞いたらうなずいていた。困ったなあ。千花ちゃんは、元気がない人を励ましているつもりらしいけれど、結構きついことを言う。当たっているにしろ、ほかに言い方があると思う。そう思っても、だれも強くは注意できない。彼女だと必ず言い返してきて、面倒になるだけだからだ。そのため、注意するのは花咲君だけになり、『一度注意したほうが』と彼の方に言うことが増えてしまい、彼がそのことを言えるはずもなく、浮いている感じになってはいるけれど、それを千花ちゃんがますます気に入らないようで面白くなさそうな顔を露骨にするときもあり、時々、疲れてしまう。
「段君と美優ちゃんか。気づかなかったとはいえ、難しそうだね。あの二人は」
「無理だよ。美優ちゃん、顔がいい人とか、お金持ちそうな人が好みだと聞いたよ。あとね、冷めた感じの態度の人の方がいいんだって」絶望的だ。どこもかぶらない。段君は安修の平均的な学生という感じだからだ。
「外車に乗っていそうなクール系が好みらしいよ」
「そういう人だと、相手にもしてもらえそうにないから、私は最初から、あきらめるというか好きになれそうもないなあ」
「それは同じだって。話していても楽しくないもの。ちょっとナルシスト気味だったら、もっと無理」うーん。
「そういえば、あれから、どうなったの?」
「なにが?」
「甲羅と佐並君」
「オロオロ君はないよ。甲羅は友達として付き合う程度にしておくだけ」
「友達としては付き合うんだ?」
「役に立つから」すごい割り切り。花咲君といい、エミリといい、結構、そういう割り切りがはっきりしている。うらやましいな。デートまでした人と、そのあと、別れても友達でいられるかなあ。
「エミリがうらやましい」
「それより、九条とどうなった?」
「それなりに」
「それじゃあ、分からないって。でも、やめておいた方がいいよ。あいつと一緒だと面白くなさそうだ。会話はつまらなそうだし、自分勝手そうだしね、待ってくれなさそう」
「待つ?」
「おなかがすいて、何を食べようかという話になって、何を食べたいか聞きもしないで店を勝手に決めるタイプがいるでしょ。しかも、メニューでどっちにしようか迷っているとイライラして待ってくれないタイプ」
「ああ、なるほどね」
「そういうタイプはダメ。そこも楽しく、二人で決めたいの。あいつは無理でしょ」と言い切られて、確かに……とは思った。花咲君とだったら話し合えることを、九条君は話し合いは応じてはくれるだろうけれど、なんだか怒っているようにも見えるときがあり、さすがに気を使う。
「合わないのかな。性格が」
「合うわけがないじゃない。私の演技も嫌がってさ。せっかくこっちが合わせてやってるのに、目もあわさなかったよ、あいつ」
「え?」と驚いた。
「私の時は違ったよ」
「気が乗らないとか、なんとか言い訳してさ。顔も見ないし、会話はかみ合わないし、あれでは恋人同士には絶対に見えないと思う。元カノだという設定も無理があるね」
「そう、完成品を見せてくれないの」
「え、見せてくれるようにメールしたら、『いい』って返事は来てたよ。一緒に行こうよ」
「誰にメールしたの?」
「監督」
「明神君は?」
「さあ、聞いてないけど」
「もめてたけど、できたのかな」
「いいんじゃないの。間に合えば」
「そうだけどね」ちょっと心配ではあった。

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