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 九条君に会ったとき、態度には出さないようにはしていたけれど、向こうもそっけなくて、私も喧嘩した後だったから気まずくて、その場を離れた。
「また、やりあったの?」海里ちゃんが気づいて聞いてきた。
「無理なのかもね。彼の場合はそばにいると喧嘩しやすいの」
「てっきり、好きなのかと思ってた」
「そう言われても」
「きっと、花咲君もそう思っているから誘わないのかもね」
「え?」と驚いた。
「そうだと思うけど。もし、由香ちゃんの気持ちが自分に向いているなら、彼は誘っていると思うけど」
「違うんじゃないの? 旅行関係の本ばかり読んでいるみたいだし。そういう話を友達としたいんじゃないのかな。だから、女の子に割く時間がないってことだと思ってた。女の子より、自分の趣味の時間を大事に」
「違うと思うけどなあ。私、高校時代から男友達も多かったのよ。もちろん、女の子の友達もいっぱいいたんだけどね、花咲君みたいなタイプって『友達から恋人に』っていうパターンがすごく多いの。だから、一番話が合う人を選ぶ。女の子に興味がないわけじゃなくて、様子を見てるだけだと思うけど」
「よく分からないよ」
「九条君と喧嘩するのもいいけどね、ちゃんと考えた方がいいよ。自分に合った人と選んだ方が。高望みはしないほうがいいと思うけどな」
「高望みなんて」
「九条君は条件がいいから、愛想さえ良かったら、もっと誘われていると思うけどね」
「そう言われても」
「いくつか誘われているみたいだよ」
「誰に?」と慌てて聞いた。その話は聞いていなかった。
「え、そう聞いたけど。彼は車も持っているしね。見た目も悪くないし、甲羅と一緒に出掛けようと誘っている子もいたみたいだし」
「そう」
「彼より花咲君の方が楽しいと思うけどね」うーん、そう言われてもなあ。綸同君とデートして気づいてしまったことがある。やはり、会話ができる人がいいなとつくづくそう思った。
「海里ちゃんは、デートしたことは?」
「何度かあるよ。言ったでしょ。順番待ちしてるって。相手の男性とは話が合うよ。いくらでも尽きない」
「そうなんだ」そういうものなのかもしれないな。ただ、あこがれていた時とは違う。綸同君は優しい人だ。でも……。
「花咲君もぼやぼやしてると、彼女に取られるかもよ」
「誰?」
「犬童さん。デートに何度もしつこく誘っているみたいよ。映画とか凱歌スクエアも誘っているかもしれないよ」
「彼とだったら、楽しいデートになったかもしれないね」
「だったら」
「なんだか、よく分からなくなった」としか言えなかった。

 バイトに行く前にエミリと少しだけ話をしていた。
「なんだか疲れちゃった」
「どうして?」
「デート慣れしてない二人だと会話に気を使うから」
「そう? 私はそうでもないけどなあ」
「綸同君、不思議な人だった」
「楽しかったんじゃないの?」
「私がいっぱい話して、彼が聞いているだけ。彼はきっと楽しくなかったと思っていると思う」
「え、そう? 相手の人、聞いているほうが楽なのかもね。会話をしたいタイプじゃなくて、会話を聞きたいタイプ」
「え、それって、恋人でもそうなるかな?」
「どうだろ。私はそれだと物足りない」
「そうだよね」
「残念だな。せっかく、お互いにまんざらでもなくてもうまくいかないね」
「楽しくはあったよ。ただ、会話が弾むわけでもないし、彼は次にまた会いたいとは思わないんじゃないかな」
「残念。それだと無理か」
「思い描いていたのと違ったな」
「どういう風に?」

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