Top Page About My Shop Catalog Buy Now Contact Us

Catalog
リストマーク  前へ 次へ

 バイトが終わって、帰るバスの中でメールが来た。九条君からで、
「話があるから、家に帰ってから電話をしろ」と書かれてあった。この命令形のメールでは、恋愛の相手って感じじゃないよね。とため息をついた。彼のことがよく分からなくなった。好きなのかなあ。でも、よく分からない。綸同君とのデートは、緊張はしていた。会話が途切れるたびに、不安があった。でも、彼は飄々としていて、楽しそうではあった。よく分からない。彼のことを憧れていたのは、あの先輩のことで嫌なことが何度かあったけれど、彼は穏やかに笑って話しかけてくれたので、かなり驚いた。他の男子は先輩の顔色を窺って、話すのを嫌がっている人もいたし、森園君はごく普通にしてくれたけれど、私と仲良く話していると、
「あんなのと話すなよ」などと言われていたらしくて、私の方が遠慮してしまった。そういう先輩のことを大学に入ってからすっかり忘れてしまっていた。先輩は来ないときもあったので、そういうときはのびのびと練習ができた。そんな時に、彼を自然と見ていることが多くなった。あの先輩がいると男子の方に顔を向けることもできないぐらいの時期もあったからだ。エミリは怒ってくれたけれど、本当はそれが素直な反応なんだろう。先輩だからと遠慮してしまった。私のせいで先輩に迷惑をかけてしまったことがあったから。部活の備品を不注意から壊してしまい、先生からかなり怒られた。そばにいた先輩が監督不行き届きということで特に怒られたせいで、私は目を付けられてしまった。
「お前のせいだぞ。お前がだらしないから、ふがいないから」何かあるとそう言われた。でも、友達は、
「えー、あれって、ちゃんと使い方を説明もせずに、ほかの人と話していた先輩の方が悪いと、私は思うよ」と言ってくれた子もいる。他の子も、
「確かに説明はほとんどしてくれないし、それで聞いてもちゃんと答えてくれなかったのは、あの先輩のせいじゃない」とぼやいていた。私はそれでも自分が至らないからだと、何度も先輩や部活の子に謝ったけれど、先輩以外は、
「しょうがないな」と言ってくれたけれど、それからその先輩は、
「お前のせいであの先生に授業中にも怒られたぞ。お前のせいだ。目を付けられて、何で嫌な思いをしないといけない」そういうことを何度か言われてしまった。それをほかの先輩はなだめるわけもなく止めることもしてなかった。先輩だから、黙って聞いているしかなくて、
「すみません」と頭を下げるしかできなかった。

 お風呂から出た後、
「そういえば、電話しないといけないかな」と迷っていたら、携帯が鳴ったので出たら、ひーちゃんで、
「あれ、どうした?」と聞いた。
「どうだった?」と聞かれて報告した。
「そうなんだ。で、次の約束は?」と聞かれて、
「してないけど」
「だと思った。どうせ、そういうこともしてないだろうから、また、お膳立てしてやれって、森園が」
「もう、いいよ。彼に悪いから」
「え、そんなことは言ってなかったよ。楽しかったと言ってたし」
「え、連絡したの?」
「当り前。気になるもの。森園も電話したみたい」
「あのね、二人で勝手に盛り上がらないでね」
「えー、だって、お膳立てしたから確認しないとね。それで、どうする?」
「どうするって?」
「どこに行きたいか決めておいてね。あとはまた、聞いてあげるからね」
「もういいよ。悪いからね」
「悪くないって」
「そう言われても、会話が続かなくて」
「あ、やっぱり。でも、大丈夫だよ。彼はそういう人だから」
「え、そうなの?」
「森園の時も聞いているときが多い人だから。それで楽しいみたい」そういう人なのか。
「でも」
「嫌なの?」
「うーん、というか、なんだか悪くて」
「どうして?」
「色々あったからね」
「色々ってなによ」彼といると嫌でも先輩のことを思い出してしまう。私が気にしなければいいのだけれど、すっかり忘れていたことなのに、彼といると思い出しやすいようだ。
「ちょっとね」
「ダメなの?」
「うーん、そうじゃなくて。初心者同士だから、慣れてないから悪いの」
「そうなんだ。でも、行きたいところがあるなら決めておいてね。向こうにも聞いてみるよ。たぶん、行くって言うと思う。そういう人だから」
「そういう人?」
「嫌って言わない人。森園が誘えば、『いいよ』と言う人だからね」森園君でもそうなのか。部活の後輩の指導も行こうと誘って断らなかったんだろうな。なんだか森園君といい、綸同君といい、人がいいなと思っていたら、
「由香には合うと思うよ。わがままは言わないし、気を使わなければいいんだよ。彼は大概のことは受け入れられる人だからね。由香がわがままを言っても、『いいよ』と言ってくれると思う」
「え、そうなの?」
「それで楽しんだよ、きっと」
「あ、そういえば、黄和さんからいまだに連絡があるって言ってた。それには『いいよ』とは言わないんだね」
「そこは相手によるでしょ」
「なるほどね。あ、それからね、頼みたいことがあるの。森園君に」
「え、なに?」
「ある人の人となりを聞いてほしくて」
「ある人? いいよ、じゃあ、聞いてあげるよ。誰?」と言って、彼女に美優ちゃんのあこがれの男性の名前を告げた。

 前へ 次へ

ライン

inserted by FC2 system