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「本気というか、彼に恥ずかしく思われたくないというか」
「なによ、それ?」
「部活の先輩に何度か言われちゃったの。かわいくないとか、そういうことをね」
「ひどい先輩だ。そんなに見た目が良いの、その人?」
「いや、どうだろ。うーん、素敵だと言っていた子はいなかった」
「だったら、私なら、『あなたに言われたくない』と言い返すね」
「強気だね。私、そういう言葉を飲み込んじゃうからなあ。相手は先輩だし」
「先輩だろうとなんだろうと傷つけるようなことを平気で言うような奴は、私には先輩として尊敬はできないよ」
「あ、でも、私が迷惑を掛けちゃったことがあってね。それで気に入らなかったんだと」
「やつあたりじゃない、それって」
「というか、私たち一年生3人が先生に備品の移動と手入れを頼まれて、よく分からなくて、先輩に聞こうと思ったの。その先輩はそばについていて、ちょっとだけ教えた後、通りかかった知り合いと話し始めちゃって、少し離れたところで話していたの。待っていたけれど、だめで、先輩に大声で呼びかけたら、『それぐらいできるだろ』と、言われて、仕方なく私たちだけでやろうとして、壊れちゃったの。私が悪かったんだけど」
「ちょっと待ってよ。どう考えても、その先輩の監督不行き届きじゃない」
「いや、私が要領が悪かったからと怒られて、確かにそうだったから」
「違うと思うけど。その先輩が面倒くさいから、ほっといた責任がある。指導し見張るためについている必要があるから行ったのに、おしゃべりを優先して、それで、何で由香を目の敵にするのよ」
「私、そういう部分で要領が良くなかったんだと思う。他の子は先輩に話しかけたり、ヨイショしてた子もいたけれど。私はそれをしなかったから、面白くなかったのかもしれないし」
「ちょっと待ってよ。完全な依怙贔屓男じゃない。部長だったの?」
「副部長だった」
「それでもなあ、私なら嫌になるね。その先輩、ちょっとおかしいよ。確かにね、由香が失敗して、それで責任を取らされて面白くなかったのかもしれないけれど、根に持つなんて、最低じゃない」
「いや、でも、その後に、怒られた先生に、『信用が無くなった』とか、そう言ってた。『あの時、怒られたからだ』と」
「えー、自分のせいじゃない。その先生が怒ったのは備品が壊れたからじゃない。監督不行き届きで責任をなすりつけるようなそういう性格を怒ったと、私は思う」と声が大きくなっていて、
「抑えて」とエミリに頼んだ。
「許せないな。そいつ。私だったらあり得ないよ。いくら副部長でもね、ほかの人のお土産をお気に入りの子に優先して渡すような奴、後輩だって嫌がるよ」
「え、うれしそうだったよ」
「そんなの、その時だけに決まってるじゃない。一応副部長だったからゴマを擦っていただけ。副部長でもなく、その部活で権限を持ってなかったら、もっとよそよそしかったと思うよ。私、そういう人は嫌いだな」
「ごめん、変な話をして」
「そういう先輩って、いるけどさ。好き嫌いで区別、差別する人。私は好きになれないからそばに寄らないな」
「エミリは強いからだよ。私は処世術なんて身に着けてないもの。だから、嫌われちゃったんだと思う」
「えー、そんな人に取り入ってまで、部活でおいしい思いなんてしたくないな、私なら」
「いいよ、そういう人なんだしね。諦めてるし」
「そうかもね。そういうやつって、逆恨みすることはあっても、思い直すことはなさそうだ。プライドが高そうだし、いつまでも根に持ちそうだし」
「根に持たれても困るけどね。要領が悪いから嫌われていたんだと思うけれど」
「益々嫌な奴だな。自分の基準に満たない人をかばうどころが馬鹿にするようなのは先輩として絶対に尊敬しないね」エミリは強いな、つくづく思った。今なら、そう思えることも、先輩がいるところでは、そんな余裕もなかった。先輩と一緒にいた男子もあとでまた、部活に来たことは来たけれど、前と同じようにはなれなかった。もう、森園君のカラーに染まっていて、後輩も真面目な子が頑張っていて、彼らのような要領はいいけど、練習より女の子と話したいというタイプには居心地は悪かったようで、結局、来なくなっていた。
「その先輩と、良く一緒にやれたね」
「うーん、練習日が少なかったからね。うちの部活。休んでもそこまで怒られないところがあって」
「のんびりしてるね」
「顧問が熱心じゃなかったんで」
「そういうものなんだ」「それより、美優ちゃんのこと、困ったね」
「もっと詳しく分かってからじゃないと言えないと思う。それまで待とう」と言われてうなずいた。

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