Top Page About My Shop Catalog Buy Now Contact Us

Catalog
リストマーク  前へ 次へ

 ラフィロスに九条君が一人で来たために、
「由香さんは?」とシオンさんが聞いた。
「来ないよ。デートだろ」と言ったために、呆れた顔をして、
「止めなかったの?」と言ったら、
「なんで、俺が」とそっけなかった。
「それだと、彼女は迷っちゃうだろうね」
「なにが?」
「九条君の態度がそれだと、由香さんは戸惑い続けるだろうと思えるなあ」九条君が黙っていたので、
「ちゃんと意思表示をしないと難しいと思うよ。九条君は分かりづらいから」
「ふーん」
「由香さん、デート相手がいるの? てっきり、九条君とデートしていたと思ったけれど」九条君が黙ったので、
「ちゃんと言わずにデートだけ続けても嫌がられるからね」
「なにを?」
「だから、意思表示。デートしようと誘うだけだと、困るってこと。自分に気があるのか、ただ、時間つぶしなのかが分からないってことじゃないの。九条君、合コンの数が多いと聞いたし」
「してない。あれは友達が誘ってくるから、適当に会ってただけだ」
「そう? 由香さん、それだと不安だろうね」
「あいつは別のやつに夢中になってる」
「え、そうなの? そうは見えなかったけどな。撮影中は」
「あれから、かなり経ってるから心変わりしたよ。昔から、憧れていた男に誘われて、ホイホイついて行った。意外と軽いんだろ」
「軽くはないでしょ。というか、九条君、冷たくしなかった?」
「してない」
「学校でそっけない態度で接してるんじゃないの」
「それが普通だろ」
「気になってたんじゃないの? お互いに」
「あいつは気が多いから、俺以外にもいくらでもいるんだよ」
「そうかなあ。なんだか、そうは思えないけど」
「あとのやつらは?」九条君がはぐらかすように聞いたら、
「恩湯に行ってる。ポスター貼りとか、手伝いとか、色々あるみたい」
「ふーん、じゃあ、手伝うことがないなら、帰るよ、俺」
「あ、それ、見ておいてくれって」と言ってDVDを指差した。
「家で見てもいいか?」
「終わったら、由香さんに回してくれって。あと、草刈さんも。メールで感想を送ってくれって」
「ふーん」
「仲直りしたほうがいいと思うけどなあ」
「なにが?」
「あのね、二人の態度から、みんなは薄々二人がカップルになりつつあるのは気づいてると思うんだよね」
「だから、なんだよ」
「学園祭の時にも、その態度だと困るから、ちゃんと仲直りしてね。喧嘩している二人が主演だと、話題が違う方向に行きそうだから」
「別にカップル役を演じたからと言って、どうなろうと関係ないだろう」
「それはそうなんだけど、学園祭が終わるまでは、喧嘩しないでね。仲直りしておいて。さすがに二人がそういう態度だと、あなたたちの友達が見てくれなくなりそう」
「映画の質で見てもらえるようになった方が早いだろ。身内で見てもらったとしても、次につながらないだろう」
「それはそうなんだけど、見てもらって感想をもらって、それで自信をつけてもらいたいと思うからね。誰にも見てもらえないと、それもないよ」
「ふーん、いいけどな。俺は二度と出るつもりはない」
「そう、そのほうがいいかもね」
「俺が主演だったのが気に入らなさそうだな」と言われて、シオンさんが九条君をちょっとだけ見て、
「ごめん、不満は少しあったよ」
「なんだよ、それは」
「上演後に話す。今、話してもいいけれど、ヤスと同じでわかってもらえそうにないもの」
「上演後? 気になるだろう?」
「えっとね、ヤスと意見が合わなかったのは、観ている人がどこまで観てくるかが分かってないと言うか、えっと」
「予算でもめてたんじゃないのか?」
「それもあるけれど、それだけじゃなくて、ヤスはわかってない。ヤス好みの映像を観て、学生が満足すると思えないんだけれどね」
「どういう意味だよ」
「女の子は物足りないと言う人も出てくるだろうね」
「素人の映像にそこまでのクオリティは無理だろ。予算は限られているしね」
「そうじゃなくって、えっと、なんて言ったらいいのか、女の子って、男よりドラマや映画を観ることが多いんだよね」
「え?」
「男って、せいぜい自分の好みの映画か、デートで使う程度でしょう? 女の子は日頃からドラマも良くチェックしてると言うのに」
「言っている意味が分からない」
「だから、上演後に考えて。今は無理。もう、撮り終えたあとなんだしね」
「分かりづらいよな。お前も大橋も。女は回りくどく説明する。単刀直入に理路整然と説明してくれないとわかりづらい」と言いながら、面白くなさそうだったので、
「九条君、怒ってるの?」シオンさんが聞いた。
「なにを?」
「由香さんがほかの人とデートをしたことを」と聞かれて黙っていた。
「だったら、その気持ちはここではなくて、映画でもなくて、彼女にぶつけないとね。方向が間違ってる」と言われて、
「あいつに言ってくれ」と言って、部室を出て行ってしまった。

 前へ 次へ

ライン

inserted by FC2 system