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 待ち合わせて、綸同君がが遅れてきて、試写会会場に急いだ。
「ごめん。ちょっと調べ物が長引いて」
「大変そうだね」
「そうでもないけど」と相変わらず会話が続かなかった。それでも、歩きながら、これから観るアニメのことに関して、いくつか質問して、彼は見ていると言ったので、だいたいの説明をしてもらった。
「アニメを見るんだね、知らなかった」
「んー、友達と一緒に何度か見たよ。映画館で見ると迫力があるからと」
「そうなんだ。森園君とは?」
「あいつは映画よりもテニスの方が大事みたいだから」
「まさかと思うけど、今も指導に行ってるの?」
「時々、誘われるけれど、夏休みは行けたけれど、今はちょっと」そうだろうな。さすがに学校まで行って指導するのは、大変だろう。
「森園君、どうして、そこまで熱心なんだろう」
「心残りだったみたいだよ。先輩の代まで負け続けたのが面白くなくて、自分が部長になったら、絶対に強くしたいと」
「それは聞いたことがあるけれど、卒業してからもなんて、熱心すぎる」
「それまでの部活の方針が面白くなかったみたいで、何度か先輩に頼んでいたみたいだけれど、一部の先輩が反対していて」
「ひょっとして副部長?」
「んー、そうかな」そうかもしれないな。部長さんは事なかれ主義というか、そこまで熱心じゃない。副部長だったあの先輩が、
「え、そこまでしなくてもいいだろ」と言って止めたりする場面を何度か見た。森園君はそれが不満だったのかもしれない。
「女子の方はそれなりで良かったけど、彼は不満そうだったものね」
「顧問を変えてくれって、何度か頼んでいたよ。指導できる先生をお願いしますって」
「熱心だね」
「んー、でも、自分の代では納得できるところまで行かなかったから、せめて、下の代はそれ以上は行ってほしいみたいだから」
「そう」二人で話すこともなくて、
「ひーちゃん達とどういう会話をするの?」と聞いてみた。
「ん、どうかな?」としか言わなかった。
「どんな話をしていたの? 高校時代とか」
「テレビの話とか、勉強とかかな。周りは芸能人の話はしていたよ」
「綸同君は、……しそうもないね」
「んー、名前が分からない子が多くて」そうかもしれないな。ミーハーなところがなさそうだ。
「じゃあ、ほかには?」と聞いた。

 森園君から電話がかかってきて、
「色々聞いたけどさ、やはり、あまり評判は良くないぞ、あいつ」と言われてしまった。阿木君は女性とデートすることにためらいはないらしい。車はお兄さんからもらったものを最近乗り出して、デートをしていると聞いたらしい。ただ、相手の女性は派手な格好をした子で、うちとは違う学校名を挙げていたらしい。
「その人は本命のというか、本当の彼女なの?」
「あいつ、夏ごろに、一度別れているらしいよ。その相手と同じ人物かどうかは分からないらしい。別の子から、しきりにメールと電話が来て、彼女になりたがっていたらしいけれど、その子のことは相手にもしてなかったって。一度、デートはしたみたいだけど」
「え、デートしたのに?」
「うーん、あいつ、高校時代から、かなりモテたと聞いたぞ。その時から、似たような付き合いしかしてないって。バイトはしてるけれど、すべて洋服や時計代に消えたんじゃないかって、聞いたよ」
「時計?」
「学生が持てるようなものじゃなかったらしいぞ。前から欲しがっていたやつを手に入れて自慢していたらしいし」
「そう」
「服も俺たちが着ているようなものは絶対に着てないよ。かなり高そうだと聞いた」
「そうなんだ」
「なあ、これって、ひょっとして、お前の友達があいつを好きとか、そういうことか?」と聞かれて、黙っていたら、
「ごめん」と謝ってきて、調べてもらって事情を言わないのも悪いかと思い、
「友達があこがれているようだから、ちょっと心配で」
「あいつ、彼女じゃない子ともデートするようだから、危ないかもしれないぞ」そうかもしれないな。
「よけいなお世話かもしれないけれど、それとなく注意してやれよ。それから、試写会はどうだった?」
「ごめん、やっぱり、会話が続かない」
「困ったなあ。あいつ、そういうところで気は利かないけどさ、でも、いいやつなんだ。頼むよ」
「頼むと言われても、なんだか、ちょっと」
「ダメか、やっぱり。そうかもしれないとは思っていたんだ。でも、これを逃したら、あいつに彼女ができないかもしれないなあ」
「そこまで焦らなくても大丈夫だよ。それより森園君の方はどうなの?」
「俺は彼女より後輩の指導を優先していたからな」
「熱心だね」
「夏の試合に負けたんだ。あとちょっとだった」
「そう、惜しかったね」
「呉屋先輩に言われなくなって、やっとまともに練習ができるようになったからな。だから、今度こそと思っていたのに、悔しいよ」と言われて、返事ができなかった。あの先輩の名字を聞くのも嫌だった。
「ごめん。あの先輩、大橋のこと、色々してたみたいだな。クラス会の時にちらっと聞いたよ」
「いいよ、その話は」
「あいつと付き合いたいとか言わなかったのも、それなんだろ」
「え、なにそれ?」
「そう聞いたぞ。あの先輩がいると大橋にあれこれ言うから、大橋は男子の方に近づかないようにしていたって。だから、綸ちゃんに何も言わなかったんじゃないかって」
「それは誤解だよ。あの先輩のことがなくても、付き合いたいとか、そういうことじゃなかったから。ただ、勝手に憧れていただけで」
「だったら、このまま付き合って」と言われて、
「ごめん」と謝った。
「嫌なのか?」と聞かれて、
「私ね、やっぱりダメみたい」
「なにが?」
「彼には合わせられないと言うだけじゃなくてね」気になってしょうがない人がいる。映画の試写会を見ている途中で、思い出した人。本当だったら、彼とも一緒に行くはずだった、そういうことを思い出して、途中から映画に集中できなくなった。映画が終わった後も……。
「なにかあるのか?」
「うまく説明できないや。ごめん。綸同君のことは憧れていたというかデートしたかったわけじゃなかったんだと思う。えっと、彼を見ているとほっとするというか、部活のぎくしゃくした緊張感を癒してくれる存在だったというか」
「呉屋先輩のことか?」
「あの先輩に色々と言われてしまって、男子とかかわるのが怖かったところがあるの。でも、綸同君はそういうことは関係なくて、いつも笑顔でいる人だから、見ているとほっとしたんだと思う。憧れていたのはそういうことも関係あるのかと」
「そうか、それだとダメか」とため息をつかれてしまった。
「ごめん」
「残念だな。お互いに好みだというのならうまくいくと思ったんだけどな」
「好みって、彼は違うでしょ」
「いや、ほかに名前は出てなかったぞ。大橋ぐらいしか。クラスで好きなタイプの子を聞かれても、名前を出してなかったから」
「そう」
「仕方ないな。じゃあ、気が変わったら、また頼む。それか、あいつに合う子がいたら紹介してやってくれ」
「世話好きだね」
「そうでもしないと、のんびりしすぎてるんだ、あいつは」
「森園君の彼女ができたら、それどころじゃなくなるよ」
「あ、言ってなかったっけ。俺は彼女がいるぞ」
「え、そうなの? まさか、ひーちゃん」
「頼む。そういう冗談は笑えない。俺はもっとかわいらしい子が好みだ。後輩に誘われて、デートしてる」
「テニス部の子?」
「ああ」そうか、それで、女子も指導していたのか。やることはやっているなあ。
「じゃあな、そういうことで」と電話を切った。森園君のようなタイプはほっといても彼女はできるのかもしれないなあ。
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