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「気長にやるよ。今度は距離を置いて、みんなと話すように持っていくしか」
「でも、嫌がっているように見えるけれど。話したいのは花咲君だけなんじゃないのかな」
「彼女は受け入れてくれないグループの方が悪いと思っているからだよ」
「はあ」
「でも実は、みんなは様子を見ているだけで、どうしたらいいのか考えあぐねている。彼女と同じような性格の人が一人でもいるのなら、彼女を排除するような方向に向かってしまうこともあり得るけれど、あのグループはそういう部分はない。みんな仲良く友好的に雑談をしたいと思っている。それが彼女には分からないのかもしれないね」
「え、どうして?」
「彼女は人のことを観察しているように見えて、勝手に決めつけている。たとえば、大橋や段はふがいない、言いたいことも言えない人、そういう括りで一まとめにしている。草刈は元気で明るいけれどミーハーとかね」
「えー、ちょっとひどい」
「一人一人違うのに、たいして興味がない相手だと、イメージでしか見てない。大まかな括りで付き合い方を変えているんだ。自分が話してもいい人、どうでもいい人」
「はあ」
「そういう部分を変えていかないと、あの学校のあのグループでは浮いちゃうからなあ」
「違う学校、違うグループだとどうなるの?」と聞いたら笑い出して、
「だって、分からないから」
「うーん、彼女と同じような話し方をして、同じように見下したり命令口調だったりした人と一緒にいたら違和感はなくなると思うよ。話題もそういう話になるだろうし」
「話題?」
「ちょっと人を小ばかにするような感じかな。気に入らない人の話をみんなで言い合うような」
「え、ちょっと嫌かも」と言ったら笑われてしまった。
「そういうグループに入った方が無難だとは思う。ただ、彼女はそれだと不満なんだ」
「どうして?」
「意見を戦わしたいところがある。ニュースとか日常に起きることとか、意見交換をしたいんだと思う。女の子だとそういう話より、テレビの話とか芸能人の話とかファッションや美容関係の方が楽しいだろう?」
「そう言われるとそうだね。エミリとか美優ちゃんだとそうなる」
「だから、それだと物足りないんだ。男性の意見を聞きたいところがあるようだし。それで男女混合の俺たちのグループに混じりたいと思っている。ただ、グループのカラーには合わせない」
「はあ」とため息をつくしかできなかった。
「つまり、彼女と合っている人とは話題が合わないってことなんだね」
「そういう感じだと思う」
「なんだか難しいものだね。彼女と話が合う人がいたら良かったのに」
「男性と話したいんだと思う。でも、高校時代の人も逃げてしまったから、俺たちに執着してるんだよ」
「ほかにも男子学生はいくらでもいるじゃない。沢登でも恩湯でもどこかのサークルに入ったら」
「僕に執着してるからね。現在は」
「ああ、それで」
「それに大橋にもこだわってる。負けたくないんだよ」
「意味が分からない」と思わず言ったら、また笑われてしまった。
「笑い事じゃないよ。負けるとか勝つとか、どういう基準なんだろうね。彼女の方が勝ってるからいいんじゃないの?」
「いや、彼女にとってね、上久保や段、仲島たちが自分に同調してくれることを望んでいるんだよ。特に僕に」
「はあ」
「だから、大橋と僕が話していると必死になって割り込んで邪魔をしたくなるんだろうね」
「なるほどね。困ったなあ」
「困らなくてもいいよ。自然にしていよう。君が遠慮する必要はないからね。大橋が悪いわけじゃないんだ。彼女が勝手にライバル視して、むきになっているだけだから。それがおかしいってことに、今は気づけていないだけだから」
「気づいてくれる日はくるのかな?」
「未熟な自分、そういうのを受け入れるしかないんだよ」
「え、それは」
「彼女にとって不本意だったことがいくつか続いた。でも、それは彼女が自分で納得していくしかないことだからね。大橋には関係ないんだよ」
「でも、牛木さんだっけ? その人に似ているから、こだわっているんでしょう?」
「最初はそれが理由だったと思う。でも、今は僕と仲良くしていることが面白くないんだろうな。自分を初めて理解してくれた人、そう言ってたよ。僕のことをね」
「それだと絶対に手放したくないだろうね。必死なのも、それなんだ」
「重すぎる行動をしてるのを分かってないな。恋愛相手にそれをすると逃げられるんだけどなあ」と笑いながら言ったので、
「笑い事じゃないって」
「大丈夫だよ。彼女は僕が好きな訳じゃないから」
「え、違うの?」
「恋しているように見える、あれが?」と聞かれて、
「正直、よく分からない」としか言えなかった。
「彼女は自分を優先している。『自分を見て』『自分を選んで』そういう気持ちが強すぎるんだ。相手への思いやりがほとんどない。そういう状態では恋愛には発展しにくい。たとえ、それが愛情の裏返しだったとしてもね」
「そう言われるとそうだね」
「でも、愛情じゃないな。執着心。自分が一番でいたいだけだろうね。認めたくない部分を認めてくれたら直ってくると思うよ」
「認めたくないところってなに?」
「あの学校に来たこと、高校の時の友達に逃げられたこと」
「ああ」
「つまり、素《もと》になっているのは僕でも大橋でもないよ。高校の時の人と仲直りできたら、きっと、僕たちは見向きもされないかもね」
「え、そんなものなの?」
「そういう人だと思うよ」と笑いながら言われてしまった。

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