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「疲れる女だ」と仲島君が小声で言いながら席に座った。千花ちゃんが近くにいないからだろう。
「俺さ。さすがに見ていられなかったな。大橋がオロオロしてるのに、あの女、当然のような顔をしていてさ、さすがに嫌だったのに、お前が移動したら悔しそうな顔をしてさ。怖いよ」
「女はしつこいのは嫌だよな」
「えー、でもさ、大橋に『どけ』って言うか、普通。大橋の隣に座ったのは花咲の方だろ」と言われて、
「あれ、そうだっけ?」と聞き返した。そうしたら、花咲君が笑っていた。
「わざとなの?」と小声で聞いたら、返事はしてくれなかったけれど笑っていて、
「呆れた」と海里ちゃんも気づいて、花咲君を見ていた。
「ああでもしないと、分からないんだよ」と花咲君が言ったけれど、
「いっそのこと、迷惑だ。近寄らないでくれと言えば、いなくなるかもよ」と仲島君が言い出したけれど、
「引き下がらないでしょ。そうなったら、今度は由香ちゃんの方に八つ当たりするわね」と海里ちゃんに言われて、
「えー、勘弁して。もう、無理」と机に伏せた。
「ありえるよなあ。あいつ、引き下がらないだろうな。怖いよな、ああなったら」
「花咲が付き合えば収まるかもよ」
「いや、いっそのこと、大橋が花咲と付き合って」
「あのね」と止めた。
「いいじゃないか。どうせ、九条がだめだったのだからさ。いい加減、あいつはあきらめろ」と言われて、
「もう」と流した。
「そういう問題じゃないと思うわよ。花咲君、ちょっとやりすぎよ」と海里ちゃんが注意していたけれど、
「そう? 俺はそうでもないと思うけどな」と言っていた。

 彼に話しかけたくて、見かけたときに近くに寄っていったけれど、
「何か用か?」と聞かれて、言おうかどうか迷ったけれど、すぐに甲羅に気づかれて、
「あれえ、九条ちゃん、なにしてんの? あ、ごめんね、大橋ちゃん。九条ちゃんは、もうすぐデートだから。残念だったね。今週は学園祭があるしねえ」と言われて驚いた。
「デートじゃない」と九条君が言ったけれど、なんだか寂しかったけれど、甲羅がいたので、
「がんばってね」とだけ言って、その場を立ち去った。
「あれえ、あれはやっぱり九条ちゃんに未練だな。デートはしても、九条ちゃんのことが忘れられなかったりして」
「うるさい」
「それより、九条ちゃん、俺も誘ってよ。お金持ちの家に俺も行きたい」
「うるさい。そんなんじゃない。親せきのパーティーなんだよ」
「いいよなあ。九条ちゃんちは金持ちで」
「お前は別の子とデートだろ。そっちに早く行けよ」
「俺も一緒に連れてってくれ。それでついでにお嬢様を紹介してくれ」
「うるさい。お前は合コンでもしてろ」とあきれていた。

バイトに行く前に、シオンさんに会った。
「ごめんなさい。手伝えないね」
「ああ、大丈夫。もう、さほどないから。というか、あとは私たちの意見をまとめることだけだから」
「もめてるの?」
「明神君と石渡君の意見が割れているの」
「完成したんじゃないの?」不安になって聞いたら、
「ああ、違うの。ちょっとね、どこを使うかでもめただけ。それより、仲直りした?」と聞かれて、
「してない。というか、私が怒らせてしまって」
「いいんじゃないの」
「え、どうして?」
「喧嘩もできないような者同士だと、遠慮があって大変だからね。言えずにストレスをためるよりは、言い合えるほうが」
「意外なことを言うね。ケンカしないほうがいいんじゃないのかな」
「最初からケンカしないような相性が合う人というのは少ないんじゃないの。というか、初めてのタイプだと戸惑って、当然」
「はあ」
「小学校の時から、こういう発言、行動、態度をした人とはどう付き合おうか、そういうものが蓄積されていると思う。そうして、それに照らし合わせて、なんとか相手に合わせていると思うけれど、そのパターンがインプットされていないだけだから。それでお互いにぶつかってしまうだけのことだし。そもそも、そこまで嫌いだったら、最初からケンカしないと思うけど」相川とだったら、ほとんどの人が逃げていることを思い出した。同じ無神経でも、あいつだとぶつかるのも無駄のように思えた。自分が絶対に正しい。相手が間違っている。そう思い込んでいそうだからだ。
「いっぱい喧嘩をしたらいいじゃない。今はその段階。それをやりつくしても、まだ、一緒にいたいのなら、そうしたらいいし。途中で駄目だと思えば、そこで距離を置けばいいことだし」
「なるほど」
「由香さんも彼も、きっと、お互いがまだわかってないだけだと思うよ」
「石渡君と明神君は?」
「えっと、それとは違うかもね。持論をお互いに曲げたくないだけだと思う。でも、映画を作るスタッフとしては付き合っていかないといけないし。意見がぶつかり合うだけだから。最終決定はこの場合、石渡君がするだろうし」
「監督だから」
「そういうこと」
「彼がどうしてもこだわるというのなら、今度から、脚本、演出など、すべて自分でやるようにしないと無理だと思う。ただ、石渡君のほうが全体を見ているから」
「うーん」よくわからない。
「観客の目を持っているか、自分が撮りたいものにこだわるか。大学で発表するわけだから。彼がこだわっている映像よりは、一般受けするもののほうがわかりやすいと思うからね」
「ああ、そういう理由なんだ。それだと意見はぶつかるね」と言ったら笑って手を挙げて行ってしまった。そういう理由でぶつかっていたら、目指す方向がちょっと違ってきても仕方ないかもしれないな。石渡君の判断のほうが、うちの大学での上映では人が来てくれるだろうと思えた。

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