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 美弥さんがバイトをしているバイオリン教室に行き、九条君が見まわした。
「あ、どうかしたの?」と、美弥さんがやってきた。
「何か欲しいものってあるかって、聞いて来いって」
「電話で良かったのに」
「兄貴だよ。俺たち兄弟からも贈ろうって、兄貴がそう言いだして」
「あら、いいわよ。気を遣わなくても」
「美弥のことは気に入ってるからだろ。兄貴も。だから、遠慮しなくてもいいさ。どうせ、兄貴も彼女を連れて参加するみたいだし」
「由香さんは来てくれるんでしょう?」と聞かれて黙ったので、
「ダメだったの?」
「いや、誘ってない」
「あら、どうして? 演奏会もするの。彼女はバイオリンを習いたいと言っていたから、ぜひ、生の演奏を聴いてもらいたかったのに」
「そんな理由なのか。ふーん、俺も女連れで来いってことなのかと思ってた」
「颯司君には言ってないし、それに、紘司さんはいづれ結婚する相手だからじゃないの。彼が彼女を誘ってもいいか聞いてきたから、そうだと思ってた。それに、だったら、由香さんも誘ってあげた方が」
「あいつは来ない」
「どうして?」と聞かれてしばらく黙った後、
「恋人ができた」と言ったために、
「……そう。残念ね。でも、龍司君は、誘いたかったんじゃないの?」と聞かれて黙っていた。
「本当に恋人がいるのなら、仕方ないけれど、もしも、そこまでの相手じゃないのなら、誘ってみたらいいと思うけれど」
「どうして?」
「龍司君が女性の話をしてくれたのは初めてだったから」
「え?」
「私に結婚するなと言いに来た時に、そう言っていたじゃない。彼女のことを色々と」
「そうか?」
「龍司君はもっと、自分の気持ちに正直になった方がいいと思うけれど」
「俺は、別に」
「龍司君はちゃんと誰かを好きにならないといけないと思うけれど」と言って笑ったために、
「それぐらいある」向きになって言い返したために、さらに美弥さんが笑って、
「本当に好きになったことはなさそうに見えるけれど。好きになったつもりなだけ。なんとなくかわいいな、という程度でデートしただけ。それだと、相手の女性は物足りないと思うかもしれないよ」
「あいつと同じことを言う。おせっかいだな」
「あいつ?」
「映画のスタッフ」
「映画は私も見に行くからね。婚約者と」
「いいよ、来なくても」
「そう? 龍司君が初めてちゃんと誰かと向き合って作ったものなら、見てみたいけどな。紘司さんもそう言っていたから」
「え?」
「電話でそう言っていたから。家族で楽しみにしてるみたいよ。映画を見るのを」
「えー、やめてくれよ。友達が見るのも嫌なのに」
「あいかわらずね。どこかでそういうのを照れるというか、面倒くさいと思っているみたいだけど。由香さんとちゃんと向き合ってね。私のことは心配しなくてもいいからね」
「してないよ、もう。分かってるよ。よけいなお世話だって言うんだろ。美弥のこと、憧れていたから、心配なだけだ。世間知らずのお嬢様がだまされたと思ったんだよ」
「あら、ひどいなあ。でも、そういう心配は自分の彼女に向けないと。由香さんとちゃんと向き合って」
「あいつは俺の彼女でもなんでもないぞ」
「だったら、彼女にしないと。そうしないと手遅れになるわよ」と言われて、しばらく黙った後、
「俺よりも、うれしそうな顔をして、デートするような女なんて」
「やきもち?」と聞かれて、
「そんなんじゃない」とそっけなく言ったけれど、
「龍司君って、本当、そういうところは変わらないね。ちゃんと言わないと。彼女を誘ってね。たとえ、恋人がいたとしても」
「なんで?」
「あら、彼女に演奏を聴いてもらいたいからよ」
「だったら、美弥が誘えばいいだろ」
「あら、龍司君が誘わないと、ダメよ。ちゃんと誘ってね」
「うるさいよな、あちこち。女って、どうしてこうもよけいなことに口を挟みたがるんだろうな」
「あら、ほかにも言われたんだ?」
「あいつと仲直りしろと言われた。映画の発表に影響があるからってさ。脚本担当の女に怒られた」
「だったら、仲直りするいい機会だから、ちゃんと誘って、二人で来てね。絶対よ」と言われて、
「まるで俺が悪いかのようだよな」と九条君がぼやいたので、美弥さんが笑った。

 ベットに横になり、しばらくぼんやりした後、机の方を見た。時間がない、どうしよう?
 しばらく考えてから、メールをした。そうしたら、電話がかかってきた。
「あれはなんだよ」と九条君が聞いてきた。
「あのままだよ。『時間、空いていますか?』あなたに聞いているの」
「ふーん、いまさらだろ」
「でも、私はあなたと」
「俺からチケットをもらったからって、別に遠慮しなくてもいいさ」
「ごめん」しばらく黙ってから、
「草刈と行け」と言われてしまったけれど、
「私はあなたと行きたいと思ったから」とだけ告げたけれど、返事がなくて、そのまま電話を切られてしまった。完全に嫌われちゃったのかもしれないな。

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