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「疲れる」と思わずつぶやいた。エミリと帰りながら、そう言ったら、
「だから言ったじゃない。あの女は要注意だよ。絶対に花咲君を手放さないだろうね。必死みたいだから」エミリが言ったので、さらにため息をついた。そうだろうな。千花ちゃんは夏休みの間、何かと彼を呼び出そうとしていたらしい。段君にそう聞いていた。でも、彼も忙しかったらしくて、行かなかったようで、メールの数だけはかなり多かったみたいだけど、返信の字数が少なかったためか、
「もう少しいっぱい書いてよ」と彼に怒っていたらしい。でも、彼は淡々として笑っているだけだったようで、
「段君が同情していた」
「当り前。あの子、ちょっとうるさいよ。仕切りたがるのはいいけど、私たちと同じ年なのに、上から目線の言葉はうっとうしい」確かにそのことは同調したくなる。彼女はまだ命令形で話すことが多い。内心、嫌がっている人も多くて、でも、彼女のことを悪く言うのも気が引けて、その話題は避けているところがある。エミリは私と花咲君がくっつくとばかり思っていたようで、だから、彼女が邪魔していると見えてしまうようで、だれもいなくなるとこうやって怒っている。
「なんだか、大変だ。彼女のことも。映画の方も」
「いっぱい宣伝してあるからね」エミリがうれしそうで、
「うらやましい」としか言えなかった。
「ねえ、高校時代の彼に言わなくていいの?」と聞かれて、
「言えないよ。絶対に」
「でも、相手もまんざらでもなかったのかもよ」高校の部活に行き、そこでのいきさつをエミリに報告したら、
「それは絶対に脈ありだって」と言われてしまった。そうでもないと思うけどなあ。どの子が好みかなんて言うのは、部活じゃなくても、学生ならどこでもやっていた。それで実際に付き合うかというと……。
「だから、その場の流れで適当に言っていた言葉を真に受けないでよ」
「えー、でも、そうだと思うよ。私ならもう一度がんばるね」
「無理だよ。彼、理系だから勉強も忙しいと思うしね」
「理系の彼か。だとしたら、あまりデートできないかもしれないね。残念」情社の彼でもあまりデートできないんだけどね、と言いたくても言えなかった。エミリにはデートをしたことは教えてはあるけれど、彼女は映画のスタッフとの打ち上げ程度にしか思ってないようで、二人だけでデートしたとは思ってなかったみたいで、それ以上言いづらかった。それなりに盛り上がったのなら教えてもいいけれど、あれではねえ。
「それでも、教えておいた方がいいよ。あとで後悔するって」
「いいよ、それは」と言って止めた。
「でも、引き離した方がいいよ。あっちも」
「どっち?」
「花が咲かれると困る方」うーん。
「でもね、咲かないという人もいるんだよね」
「誰が?」
「九条君」
「男の考えだなあ。男なんてね、つい、同情で付き合って、その後、関係ができてズルズルと」
「ないと思うなあ。ズルズルはないよ。花咲君は意外とそういう部分で逃げるタイプというか、あまり情に流されないというか」なにしろ、泣いてすがる千花ちゃんをカフェに置いたまま帰って来てしまった実績がある。今もきっと、彼女の困ったところを直しておいた方がグループのため、そういう割り切り方で付き合っているかもしれないなと思っている。さすがにエミリにそういう細かい部分は説明してない。言いづらい。泣いてすがっていた千花ちゃんの態度は誰にも言えそうもない。
「そう? まあ、由香がいいならいいけど。お勧めなんだけどなあ。ああいう誠実で優しくて人当たりがいい人。良く笑っているし。何しろ、『誠実』っていうのが一番」エミリはあれから、そのことばかり口にする。騙されたくないらしい。
「あのね、そのことは忘れた方が」
「忘れているけどね。しつこいの、二人が」
「二人?」
「ああ、言ってなかったっけ? どういうわけか、もう一人、話しかけてくるの」
「誰かいた? えっと、社学? 違うな、情社の男子学生だっけ?」エミリは友達も交えて、いくつか誘われて一緒に遊びに行ったらしい。そこには同じ学部の男子学生が何人かいて、アドレス交換はしていたようで、
「一緒に行ったでしょ。オロオロ男」オロオロ男……?
「ひょっとして、救急車の人?」と聞いたらうなずいた。佐並君か。意外だ、意外すぎる。
「ありえないでしょ、あの人。私は絶対に無理。あれだけ言われた後だと」
「私も同じよ。『由香のことをなんだと思ってるのよ』と怒っておいてあげたからね」
「それで?」
「無理よ。あいつ、分かってないよ。関係ないって。『俺が気になるのはお前だから』って」いかにも言いそう。佐並なら、ありえるなあ。そういう部分でつめたそうだ。ああいうことがあっても変わらないだろうな。プライドが高そうだし。
「『だから、そういう部分がだめよ』と言っておいてあげたからね。女性に最低限の気を使えないような男はあり得ないからとはっきり言っておいたから。あれで、どれぐらい反省するかは知らないけどね」
「しないでしょ」
「そうかもね。顔は悪くはないけど、好みから思いっきり外れてる。暗い人はダメだ。会話が続かない」そうだろうな。甲羅がいいというのもその部分なんだし、見下し発言連発でナルシストの相川や、顔はいいけど、愛想がないからと九条君も却下してくれるし、当然、高飛車さが学部内でも上を行くんじゃないかと思われる、佐並はもっとありえないだろうな。
「不思議な行動だね。ああいう高飛車な人って、自分のプライドを満足させるような女性を好きになるとばかり。ああ、エミリがかわいくないんじゃないよ。そうじゃなくて、なんていうか、ほら、高額な服装を好みそうな女性っていうのかな、そういうタイプじゃないと満足できないとばかり」
「そこは同意見。あいつ、分からない。変な男なんだよ。きっと、あのことで私に上に立たれたというか、指図されたのが面白くなくて、彼女として従えたいだけでしょ。女性としての興味じゃないな、あれは」
「そうだろうね」意味不明だな。よく分からない人が多い。相川といい、彼といい、
「男性が分からない」
「分かりやすい人もいるでしょ。花咲君、取られる前にちゃんとしておいた方がいいよ」
「取られる?」
「そう。犬童。あの女、しつこそうだ」
「花咲君のこと、好きだと思ってる子がほかにいるみたいだよ。ちらほら聞いた」
「ああ、あれね。確かにね。付き合いやすいからじゃないの。初心者向きだって、彼は」
「はいはい、どうせ、私は初心者です」初心者同士なんだろうな、九条君と私。とてもじゃないけれど、付き合ってますという状態とは言えないよね。とため息をつきたくなった。

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