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「あ」とエミリの声がしたけれど、
「言いすぎだ」と驚いたことに九条君が立っていた。
「お前ら、忘れているようだけど、ここは学校だぞ」と九条君が呆れた顔で入り口を見て、美優ちゃんがあわてて周りを見て、それから、
「え、ちょっと、やだ」と言い、
「わたし、やっかんでなんていないからね」とサリは言い訳をしていたけれど、
「みんなに見られてるよ」と海里ちゃんが止めて、その時に初めて気づいたようにサリが見まわしてから、
「ちょっと、やだー、えー、何で、こんなに人が集まってるのよ」と驚いて、
「やだ、ちょっと」と言って、そこから離れていた。窓の向こうや教室の入り口で何人か野次馬がこっちを見ていた。
「遅いだろ。気づくのが」と九条君が思いっきり呆れていたけれど、サリは少し移動しただけで、窓から見えないようにしゃがんでいたけれど、
「嫌だな。もう」と言っているのが聞こえて、
「約束の時間だから、行くぞ」と言われて、
「え?」と彼の顔を見た。
「約束?」とエミリが驚いて聞いてきた。
「デート。これからね」と九条君が言ったので、
「え、だって」と言ったら、
「ほら、行くぞ。時間が無くなるからな。後の処理は草刈がやっておけよ。それから、八束、お前のさっきの言葉はほとんどが間違いだから」と言って、腕を持たれて、
「ほら、行くぞ」と促された。それにつられて歩き出したけれど、途中で振り向いたら、
「えーと」とエミリが間の抜けた顔をして見ていて、
「あの、えっと」と九条君の顔を見た。
「今の八束と話し合っても無駄だと、一人ぐらい気づけよ」
「そう言われても」
「事情はあとで聞く。今は急ごうぜ。時間がない」
「いや、時間じゃなくて、えっと、断られたと思ったんだけど」
「観たかったんだ、本当は」と言われて、しばらく考えてから、
「え、だったら、私にくれなくても自分で誰かと行けば」
「お前と行くつもりだったから。あのときはもう観たくなくなったんだよ」
「あのとき?」
「ほら、行くぞ」と言われてしまった。

 バスに乗ってから、
「疲れた」と言ったら、
「お前は本当に巻き込まれるよな。不器用な奴」
「ごめん」
「さすがに聞いていられないぞ。俺の名前まで、出すか、あの場で」
「ごめん」
「あれはお前のせいじゃないだろ。どう考えてもね。お前が謝る必要があったと思えないけれど」
「でも、裏で調べたから気分が悪かったと思うし」
「俺には、貢いでも相手にもされていない女のヒステリーにしか聞こえなかったけれど」
「ヒステリーって、失礼な」
「あれは明日、噂になるぞ」
「えっと、でも、良かったの?」
「なにが?」
「だって、誤解されて」
「あの場の勢い。見ていられなかったし聞いていられなかったから、ああしただけだ。試写会のチケットは?」
「用意してあります」
「俺に渡せ。お前だと落としそうだ」
「ごめん」と言って、カバンから取り出して渡した。

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