Top Page About My Shop Catalog Buy Now Contact Us

Catalog
リストマーク  前へ 次へ

 二人で歩いていたら、こっちを見て笑う人がいたので、
「恥ずかしい」と言ったら、
「女優になった気分でいろよ、今日ぐらい」と九条君に言われてしまった。
「でも、ちょっとね」
「甲羅だったら、愛想よく手を振るか、アドレスか携帯番号、学籍番号ぐらいは確かめるな」
「あのね」
「そういうやつだよ、あいつは」と言われてしまった。
「メイキング映像を見たやつなら、笑うかも」と意外なことを言ったので、
「メイキング映像?」と驚いた。
「テスト映像の時に流していた。俺はちらっとしか見てないけどな」
「え、知らない。あとで確認しに行こう。なんだか気になってきた。さっきはそれどころじゃなかったし」
「それより、八束のフォローって誰がしてるんだ?」と聞かれた。
「海里ちゃんがメールを送った程度。家には電話を掛けて、もし、戻ったらかけてくれるように頼んであるけれど、その程度しか」彼女は家にいなかった。どこに出掛けたのかも分からない。相手の男性は、今日はバイトに出ていなかった。
「高校時代の友達に会ってるかもしれないと、海里ちゃんとエミリが言ってたの。そうしたら、その子に話を聞いてもらって落ち着いているかもしれないから、様子を見ようって」
「落ち着くか? あれだけ怒っていて」
「いや、美優ちゃんも、家に帰ったら少しは落ち着くんじゃないかって、海里ちゃんが言ってたから。サリは怒っていたけれど、今はそれどころじゃないし」
「俺にまで聞いてきたぞ。付き合ってるかどうかを」
「いつ?」
「お前たちが右往左往してるとき」
「そう」
「一応デートはしたぞと言っておいた」
「そう」
「お前、あまり謝らなくてもいいぞ」
「でも、私がよけいなことをしてしまったから」
「どっちかっていうとあいつが見境なく貢ぐからだろ。自分が心配をかけるような危ない行動をしておいて、心配するな、調べるななんて、八つ当たりだろ」
「でも、内緒でしちゃったから」
「内緒じゃなくて、おおっぴらに調べたら実態が分からないだろ」
「そうなんだけどね」
「相手の男のところに乗り込んで行っても、もう、あいつの責任だから、ほっとけ」
「え、でもね」
「止めても難しいぞ。ああいうのは、どうも苦手だ」
「あなたはあいかわらず、女の子との面倒を嫌うね」と言ったら、こっちを見てきた。
「なに?」
「お前だけは別なのかもな」
「え、どういう意味?」
「それより、おなかが空いたな。何か食べようぜ」と言われてしまった。

 食べているときに、花咲君からメールが届いて、
「千花ちゃんが鹿飲に来てるって」と言ったら、
「八束は?」と聞かれて、
「それは書いてない」
「だったら、来てないな。お前たちの予想通り、どうせ、どこかの友達にぼやいているだろうな。自分の気持ちはいつか通じるはずなのに、妨害されたとでも言っていそうだ」
「通じないんだってね。ああいう場合」
「どういう意味だ?」
「姉に聞いたの。相手は本命として見ることがないって言ってたの。貢いだりしたらね」
「それはそうだろ。八束のお金や時間なんて、考えてもいないだろうな、相手の男。『くれるっていうから、もらっておく』その程度だろ」
「え、そうなの?」
「そういう男がいたよ。高校の時にそう言ってた。モテたし、女がいくらでもいたって聞いたよ。先輩だけど」
「じゃあ、安修に来てるの?」
「知らない。その後の進路なんて」
「そう」
「八束の気持ちは相手には伝わらないよ。どれだけ頑張ってもね」
「そうなのかな」
「好きな相手に苦労させてまで、物を欲しがる奴はいないかもな。自分優先だろうな、多分。だから、付き合っても、苦労するぞ、それだと。もちろん、相手は 八束より、友達や女の子を優先するだろうな。八束は貢いでくれたから、しょうがないから付き合ってやる。そういう形になるだろうな」
「ひどい」
「でも、そうなると思うけど。八束はそれが分かってないんだろうな。ライバルの子がいるのなら、貢いだ金額が大きいのなら、見返りを期待したいし、ライバルより上になりたいと思うだろうし。それで、周りの心配はうっとうしく感じるんだろ」
「じゃあ、いくら注意しても駄目なの?」
「分からないよ。俺は。女がどういう心理でああいうことをするのかなんて」
「ごめん、そうだよね」
「とりあえず、お前は心配するのはやめろ。今日ぐらいは楽しめ」
「そうだね。結局、寝不足なんだよね」
「なんで?」
「あなたは緊張しなかったの?」
「俺はあの映画にそこまで全身全霊傾けてないぞ」
「怒られるよ、スタッフに。でも、私、みんなの反応が怖かった。特に相川とか」
「いいんじゃないか。どう思おうと、それはあいつらの自由。こっちは映像として作って、でも、それをどう取るかは観客が決めることだ。一人ひとり解釈が違うだろうな」
「そうなのかな」
「そういうものだ。女だったら、見たことのある風景やストーリーを楽しむかもしれないし、男は撮り方がどうとか講釈を述べるやつだっているだろうしな」
「あなたは?」と聞いたら、困った顔をした後、
「俺は無理だ」と言ったので驚いた。
「え、どうして?」
「説明してもいいけど、学校ではやめておくよ。後日、他のやつらがいないところで」と言われてしまった。
リストマーク  前へ 次へ

ライン

inserted by FC2 system