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 もう一度、会場に戻ろうとしたら、前の回で見終えた人たちが出てくるところだった。私たちの顔を見て、
「あ、ちょっと」とみんなが指差していたりしたけれど、
「俺、こいつの先輩だったからな」と自慢げな声がした。会場の中から声が聞こえてきた。
「下手な演技だよな」と言い出して驚いた。
「こいつさあ、俺に迷惑をかけてきて」と言ったので、そこで立ち止まった。
「それでさ、ひどい女なんだぜ、こいつ。部活で後輩だったくせにさ、俺にたてついて」と言ったところで、なんだか物音がした。
「え、なに?」と驚いていたら、九条君が先に入っていき、物音に驚いて、出て行こうとしていた人たちが立ち止まって振り返っていた。
「あなた、なによ」とエミリが怒っていた。
「お前こそ、なにするんだよ」さすがに困って中に入ったら、呉屋先輩が座席に座りながらも前の席に足を投げ出していて、行儀が悪い恰好でにらんでいたけれど、怒りながら立ち上がっていた。エミリがにらみながら、
「あなた、部活の先輩だか何だか知らないけどね、後輩いびりして、卒業した後も、まだ、そんな態度のままなの」と怒っていた。
「お前に関係ないだろ」と呉屋先輩がにらんでいた。ニキビ跡があちこち残った大きめの顔、少し毛深いごつごつした手をエミリに振りかざして、
「お前、生意気な女だな」と言ったけれど、エミリのそばにいた人たちが何人か、
「エミリ」と声を掛けていた。呉屋先輩は気に入らなさそうな顔をして、エミリを眺めた後、
「ひょっとして、あの生意気な女の知り合いか? じゃあ、ろくでもない女だな、お前。かわいくない女の友達かよ」と言ったので、
「なんですって。由香の悪口を言わないでよ。あなたね、由香をいびってたんでしょ。由香がすごく嫌がってた。あなたみたいなのが先輩なんて、由香がかわいそうだ」さすがに止めた方がいいと前に出ようとしたら、姉がすぐそばに立っていて、
「あれ、だれ?」と聞いてきた。
「えっと、部活の呉屋という先輩。高校の」
「くれあ?」
「呉市の『くれ』に、屋台の『や』で、呉屋先輩」
「同じ大学?」と聞かれて、
「久我山……だったかも」と教えたら、少し考えるような顔をした後、思いついたような顔になり、シオンさんの方に寄って行き、、マイクを借りていた。
「えー、テステス。映画スタッフの関係者の者でございます。皆様にお願いがございます」と言ったために、みんなが一斉に見ていた。
「ご鑑賞の後、盛り上がっているようですが、ほかの観客の皆様にご迷惑ですから、意見交換などは退場後に行ってください。それから、久我山大学からお越し の呉屋さま。わざわざお越しくださいまして、熱いご感想をいただきまして、誠にありがとうございます」と、姉が言ったために、みんなが笑った。
「久我山だって」という声が聞こえた。
「え、なんだ、久我山なの」という声がして、呉屋先輩が気に入らなさそうな顔をしていた。
「うるさい、俺は恒栄だ」と呉屋先輩がどなったら、
「失礼しました。恒栄大学からお越しの呉屋様。先輩として、恥ずかしくない行動をしてくださるよう、お願いします。以上、映画のスタッフの関係者からでし た」と姉が言ったために、みんなが一斉に笑っていた。さすがに呉屋先輩が風向きが変わったのが嫌だったらしく、席を立って行ってしまった。
「顔を洗って出直してきなさいよ。恒栄大学の呉屋先輩」最後はわざと声を大きくして、『恒栄』を強調してエミリが声を掛けていたけれど、
「やめろって」と止められていた。姉がそばによって来たら、近くの人が、
「さすが女帝」と言ったので、
「ジョテイ?」と驚いた。

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