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「花咲は笑ってた。あいつは不思議だよ。九条とどうにかなる前に止めろって、みんながいくら勧めても笑ってた」
「花咲君らしい」
「俺は大橋のことが好きだと思ってる、今も」
「え?」
「あいつは大橋が好きだよ」
「あの、えっと。言いきられても困る」
「そう思う。大橋は九条が好きだとわかりやすかったから言わなかっただけだと思う」
「はあ、違うと思うけど」
「あいつはそういうやつだと思う。恋愛に対して向ける割合が少ないから、今は彼女が積極的にほしくなかっただけだと思う。もしも、九条がいなかったら、誘ってたと思うけど」
「誘われたことは一度もないけど」
「俺たちと違うからな。花咲はいつの間にか彼女ができているタイプだと思う。誘いやすいって、女の子たちが言ってた。俺も上久保も笑顔が少ないから誘いにくいって言われてさ。ちょっと、ショックだったし」
「あれ、そう? そうは見えないけど。確かに、花咲君は話しているとホッとするタイプだと思う。失敗したり、ちょっと言い間違いしても、笑って許してくれ る度量の深さがあるから。馬鹿にされたりするのは困るから、そういう心配だけはないから、相談しやすいだけだと思うなあ」
「お前のほうが絶対に合ってると思う」
「誰と比べているの?」
「犬童だよ。俺はあの二人は反対だからなあ。俺たち全員の意見」
「それはどちらかというと」千花ちゃんがそばにいると疲れるから、二人に反対ってわけじゃない気がするけど……とは言えない。
「とにかくさ。少し考えないとな。行動できないから、俺は。大橋の映画を見て考えさせられたよ」
「え、なんで?」
「生き生きとしてた。普段の大橋もああやって笑ってたのに、画面で見るとさらに分かりやすくなってた。九条のことが本当に好きなんだろうなって、画面からあふれ出てたから。だから、付き合えたんだものな」
「えっと」どう言ったらいいんだろう? 実際の撮影現場では甘い言葉は言い合ってなかった。ほとんどケンカに近かった。画面では笑ってたんだけど、
「映画のマジックかな」
「なにが?」
「フィルターを通してみると、綺麗に見える」
「なにがだ?」
「すべての物が。画面だとピンポイントで映ってるから、綺麗に見えると言ってたから。明神君、ああ、カメラ担当の人ね。ほら、海に行って、ごみとか落ちて たり、あまり映したくない風景とか避けて撮影するから。それで、その場所がとても素敵な場所に見えるけれど、実際に行ってみると、違うじゃない。旅行番組 とかでもそうでしょ」
「ああ、あるな」
「映画と現実って違う部分がいくらでもあるね。映画はちょうどいいところで終わるように作ってあるって、九条君に教えてもらったの」
「あいつが?」
「色々教えてくれる」段君が黙っていて、
「なに?」と聞いた。
「本当にうれしそうな顔をするんだな。そうだな、見えてなかっただけだ。本当に好きな相手とは違うんだな、女の子は」
「え?」
「犬童に負けないようにしないと、俺も」
「はあ」段君が行ってしまい、意味が分からなくて、そうしたら海里ちゃんが笑いながら寄ってきた。
「あれ、見てたんだ?」
「最後だけ。段君たち、驚いてたみたい」
「なにに?」
「花咲君と何が何でもくっつけたい理由が分かってないからね」
「何が何でも?」
「二人がくっついたら、犬童さんが寄って来なくなる、それが大事だったの。あとは、からかって遊べる……とか」
「ひどいなあ。自分のためなんじゃない」
「それはあるでしょ。彼女のことに対しては他力に頼らないと。自分で動いたら、自分に攻撃されたら怖いでしょ」
「そんな本当のことを……はっきり言って」
「いいじゃないの。彼らのほうがおかしいのよ。彼女のことは距離を適当に置くしかないわ。花咲君が認めているのだから、ほかの人も認めてあげないとね。ただ、私は世話は焼けないけど」
「え、海里ちゃんならできそう」
「無理。そこに時間を使いたくない」それがほとんどの人の本音だろうな。面倒な人と友達として付き合うにしても、それなりに距離を取るだろう。花咲君のような親切な人って、やはり少ないかもしれない。特に千花ちゃんに対しては。
「難しいね。なんだか」
「そう?」
「恋愛にしろ、友達関係にしろ。サリが仲直りしてくれてほっとした。美優ちゃんが元気になってくれてうれしかったし」
「そうね。決着をつけたら、元気を取り戻すわよ。ただ、ひっかくだけで済まない気がするな」
「大丈夫かな?」
「サリを止めるでしょ」
「サリ……を?」海里ちゃんが笑った。
「きっと、サリのほうが怒って、美優ちゃんが止めるほうに回ると思うよ。今度は」
「えー!!」
「そうなると思うな」と笑っていたので、
「笑い事じゃないって」と慌てたら、
「大丈夫。どっちかが切れたら、片方が止めるものだから。二人で切れたりはしないでしょ、多分」
「他人事だなあ」
「あとで慰めるほうに回りましょ」と淡々と言っていて、敵わないなと思った。
「さっきは何で笑ったの?」
「ああ、あれね。九条君の話をするときの由香ちゃんの表情が、本当にうれしそうだから」
「え、そう?」
「だから、段君もそれ以上言えなくなっていただけだと思う」
「え、そうなの?」
「分かりやすいからね、由香ちゃんは。ただね、どうしても面白いほうとくっつけたいのよ。グループの子は」
「面白い方って?」
「高校時代もあったもの。グループ内でくっつけて、からかって遊びたいと言う。そう言う欲求」
「不純だなあ」
「だから、それだけだから。気にしなくてもいいよ」と言われてしまった。


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