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 家に帰ってから、電話をした。
「俺も感想を言われたよ」と九条君が面倒くさそうだった。
「あいかわらずだね、ちっともうれしそうじゃない」
「それじゃない。お前とのことを聞かれたからだよ。映画は付け足しなんだよ」
「なるほど」
「お前も言われたんだろ」
「エミリが止めてくれた。わたしたちはまだ、その段階じゃないから騒ぐとだめになると言ってくれて」
「それはあるよな。はじまったばかりで報告できることなんて何もないと言うのに」
「そうだね。根ほり葉ほり聞かれても、困る。あちこち様子が変だったし」
「誰と誰だよ?」
「千花ちゃんは元気がなさそうで、段君も同じ」
「振られたんだろ」
「映画を見て、それぞれ違うことを思ったみたい」
「ふーん」
「サリと美優ちゃんが仲直りしてくれてほっとしたし」
「ほっとけよ。男に振られたら、また八つ当たりで言われるぞ」
「なにを?」
「俺たちのこと」
「あり得るね、困ったな」
「ほっとけばいいだろ。あいつらの問題なんだから」
「あいかわらずだね、あなた」
「不満そうだな」もう少し優しい言葉を言えないのか、こいつは。
「でもさ、わからないものだね。画面だと、私たちが言い合いしていたのは綺麗に消えてたね」
「それはそうだろ。顔だけは取り繕ったつもりだ、俺は」
「無愛想だったのに?」
「うるさい」
「そうじゃなくて、私の表情が、本当に恋してるみたいだって、言われちゃった。何度かね」
「事実だろ。役じゃなくて、俺に恋してたんだから」
「あなたはそういうことを、さらっと言わないでよ。役になりきってたつもりだったの」
「どんなにごまかしたって、画面には出てる。お前の全てが」
「え?」
「だから、見られなかった、俺は」
「はあ」
「ま、今度説明するよ」
「気になるんだけれど」
「長船に言われたことのほうなら言えるよ」
「え、シオンさんに?」
「仏頂面の男とのデート。それを見抜かれるってさ」
「え、なに、それ?」
「あの演技。お前のほうは自然で良かったと言ってた。でも、俺はだめだしされた」
「え、誰に?」
「高校時代のやつら」
「はあ、辛口だね」
「違う。最初はあいつらがからかってると思ってた。でも、違うみたいだ。あの後、さらに電話がかかってきたり、一部の女子学生が俺の演技が良くなかったと言ってたみたいだから」
「はあ、そうなの? 身内だからなのかな、よくわからないよ」
「そうかもな。あの時、撮影時は俺のダメ出しは誰もしなかった。それは石渡が『そのままでいい』と言ってくれたからだ。でも、長船はずっと不満だったらしい」
「え、そうなの?」
「お前の降板騒ぎのとき、俺のほうをだめだししてた。草刈も長船も。俺はこのままでいいと思い込んでた。あの意見を聞くまでは。俺は『顔は好みだけれど』 としか書いてもらえなかった。『楽しそうじゃない、デートしているような顔をしてない』『どこかで面倒くさそう』『デートしたいって思わせるような映画 じゃなかった』とまで言われて、正直ショックだった」
「え、ひどい」
「そう言う感想が箱に入っていて、石渡がショックを受けてた」
「あ、見てない。見せてもらったほうがいいかな?」
「ショックを受けるからやめておけ。好評だったと思ったけれど、一部は酷評も入ってたらしい。同じ大学の学生の映画だと言うことを考慮しても、俺の演技はだめだったらしいから」
「きついね」
「いや、改めて観たら、言われて仕方ないのかもしれないと、今は思ってるよ」
「はあ」
「お前は一生懸命やってたって、長船も言ってたし、感想にも書かれていた。『面白かった』と言うものはあまりなかった。『がんばっていた』と書かれていた ものが多くて、でも、俺のことはあまり評価されてなかった。まさか、そうとらえられるとは俺は思ってなかったからな。石渡はショックを受けて、納得してい なかったが、長船と明神に教えられて、ほかのスタッフたちも結構落ち込んでたみたいだな。女性の意見って鋭いってさ」
「は?」
「男が多い現場で作ったものだから、男の目線で、これでいいだろうと言うものを作ってしまっていたってことだ」
「え、どういうこと?」

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