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「俺 の演技は石渡は納得していたが、観客は誰も納得してなかったってことだ。俺も気づかなかった。お前に振り回されて、正直、そこまで一生懸命やっていなく て、ボランティアのつもりでやっていた。それを観客は見抜いたってことだ。お前の演技のほうはほめていた。がんばっていたと。それは長船も認めてた。で も、俺たちは誰も分かってなかった。甘かったな」
「はあ」としか言えなかった。
「え、てことは、シオンさんだけは、わかってたってこと?」
「撮っている途中で、何度も喧嘩してただろ。意見が合わなくて、あいつらはやりあってた。明神は風景の映像にこだわり、アングル、カットなどこだわってい て、演技部分は流してたところがあるらしい。でも、長船は脚本担当だから、イメージしていたものと違うと何度も思っていたようだ」そう言えば、そう言って いたかも。
「でも、石渡は自分の撮りたいものと同時に、今度は失敗したくない、女性も観られるものにすればいいだろ、となめてた」
「舐めて?」
「そう。容姿が女性好みの男をキャスティングすれば、あ、俺が言ったんじゃないからな、とにかく、そういう男を出しておけば観てくれるだろうって、甘いよ な」当たっているような気がするけれど、うなずけないかも。そうか、それで、不機嫌な九条君でも、何も言わなかったんだ。うーん、それは甘いだろうな。配 役もさることながら、たとえ、学生でもある程度の演技は必要だと、あの映画を会場で観てから、さらに思った。テレビで見るときとは違い、細かい部分で気に なるところがいくらでもあった。カメラから離れて撮ってはいても、表情が見えてしまう場面がいくらでもあった。
「女性好みって、どんな感じ?」
「ラブストーリーとして盛り上がって、泣いて笑って楽しんで、最後はくっついて、うまくいって、そんな感じなんだろ」とどこか他人事で、
「そうか、それで」と納得した。つまり、この人たちは、石渡君、明神君、九条君にスタッフさんたちは女性慣れしてないってことなんだ。しばらく黙ったので、
「なんだよ?」と聞いてきた。
「いや、女性の好みって、分かってなかったんだね。そうか、それで居心地が悪かったんだな、やりづらかったんだなと、改めて納得」
「言えよ。そういうことは」
「男性が多い現場で、石渡君が作ろうとしているものに反論しずらいよ」
「そう言われたら、そうだけど。でも、言っておけば、少しは良くなったかもしれないぞ」
「うーん、そういうのって、ほら、台本を見せてもらっているのなら、大体の完成形を分かっているのなら、意見が言えると思う。でも、その場で説明し、動い て、セリフもなくて、何を撮ろうとしてるのかも、なんとなくしかわからないから、手探り状態だったし、だから、言えない」九条君が黙った。
「ごめん」
「違うの、そうじゃなくて」
「俺たちは甘かったな、つくづく」
「あら、珍し」
「ま、あいつらも俺も女性はどこか苦手なんだろうな」
「そうかもね。でも、女性にばかり合わせなくてもいいんじゃないの? 彼らの作りたいものが男性向けなのなら、男性が多く観てくれたら」
「男のほうは、知り合いが出てる学生映画ぐらいしか観てなかったかもな。ただ、細かいところの注意点をびっしり書かれた男文字の意見がいくつか入ってたみたいだけれど」
「男にも評価が低い人もいたってことなんだね」
「違う。評価が高いと言う人はいないってことだ。『いいんじゃないか、あれぐらいでも』と言う評価が多いのかもな」
「でも、スタッフさんたちの満足度はどうなの?」
「低いだろ。自己満足度は公開したときは強かっただろうな。でも、感想って、結構、正直に書くよな。無記名だから、よけいだな」それはあるだろうなあ。面と向かっては言いづらいかも。
「せっかくがんばったのにね」
「まだまだってことなんだろ。大画面で観ることを想定してなかったってことなんだし」
「想定してなかったの?」

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