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「高校のときとは規模が違ってたからな」
「ああ、なるほど」恩湯、鹿飲キャンパスでは液晶モニターで流れていたみたいだけれど、沢登の本会場は大学の備え付けのプロジェクターで放映していた。広さも割と大きかったし、後ろまで見えるように画面も大きめで、そうか、それで、
「細かい演技まで見えてしまったってことなんだね。女性は細かく観てるからね」
「そうなんだな、気づかなかった。俺は大体の流れを見てるのかと思ったけれど、女の視点って違う。鋭い」
「それはあるよ。映画が好きな子だって多いから、そういう人はプロの作品もいくらでも見てるから、細かい部分にも気づくだろうね。あなたの表情だって、画面がテレビと違って、大きかった分だけ、見えてしまったってことなんだろうね」
「声を使わないし、表情もそれとなく映っていれば、それらしく見えるだろうと高をくくってたってことだろ。俺の無愛想が目立ったらしいから」
「誰が言ったの?」
「高校時代のやつら」
「はあ」
「とにかく、素人を使って、それなりのものができたんだから満足だろと言ってみたけれど、落ち込んではいたけれど、また、やるって」
「また、やるんだ?」
「当たり前だろ。また、出発点に立った程度だと思うけれど。自己満足映画を作ってもしょうがないだろ。ラフィロスは映画サークルなんだから、観客も満足させないとつぶれるぞ」うーん、ありえるなあ。
「大変そう」
「それより、用意しておけよ。服装もそこまで気を遣わなくてもいいとは言っていたけれど、俺も勝手に用意されてた」
「え?」
「スーツが置いてあった。親父のだけじゃなくて、俺のも弟のも」
「弟さん、制服じゃないんだ?」
「婚約披露パーティーなんだから、それなりに服装は必要になるからって、弟のは前に俺が着ていたやつみたいだけどな。俺のは兄のおさがりは無理だし」
「え、なんで?」
「兄のほうが体つきが大きいんだよ。会えば分るさ」
「そう言えば、お兄さんって、どんな感じ?」黙ってしまった。
「ごめん」
「違う。あの人のことを形容したくないんだ、俺」
「はあ、どうして?」
「コンプレックスだろ。やっかみが入るから、出来がいい兄と比べられると、面白くないから、素直な感想なんて言えない」
「私のお姉ちゃんも出来は良いよ。ただ、ほら、あれだから」
「お兄さんみたいだよな。女帝だっけ?」
「そうだね。納得する。姉って、ああいう感じ。強いから」
「そうみたいだな、お互い苦労するな」
「え、別に苦労はしてないよ。お姉ちゃんに勝てないのは分かってるし、勝とうと思ったこともないし」
「子供のころからか?」
「お姉ちゃんに言わせると、私のほうがかわいがってもらって、ずるいって」
「あるかもな。それって。出来より、親にどれだけかわいがられているかのほうが重要なんじゃないの?」
「あなたは?」
「俺の親は、父親は俺とはあまり。母親は弟が面倒を見てるぐらいだぞ」
「なるほど」
「それより、早めに用意しておけよ」
「あ、そうだね。エミリに電話しとこ」
「なんで、あいつに電話するんだよ」
「相談するの」
「お前って、完全に末っ子体質だな。それぐらい自分で決めろよ」
「いいじゃない。友達と相談したいものなんだって」
「女って、面倒だな」
「それを口に出さなくていいの」
「はいはい」と言って電話を切っていた。こういうところで気を遣えないから、いまいちモテないんだろうな。甲羅なら明るく、「相談しなよ」とでも言うんだ ろうな。でも、それだとまた、面白くないかもね。あいつは軽く考えて、そこまで考えての発言じゃない。その場限りの日和見さがある。それでは意見として ちゃんとしてない。
「どっちもどっちか」とつい声に出してしまった。

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