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 昼食中に、千花ちゃんを呼びに来たグループがいて、彼女が行ってしまってから、
「お守、お疲れ」一人の男子学生が言い出した。隣にいた人だった。みんなが花咲君を見て、でも、何も言えず、
「俺なら、ありえないけどな。あの女、勘違いしすぎるぜ。お前も災難だな。もっと美人なら考えてもいいけれど、付き合いづらそうなタイプだしさ」そのそばにいた男子学生が同情するように言った後、席を立って行ってしまった。うーん、ほかのグループでもそう見えるのか。
「美人かどうかはともかく、花咲、もう少し、考えた方が」と段君が言い出した。でも、花咲君は黙っていた。
「ごめん、よけいなお世話とは思うけれど、お前、あの女にデートに誘われているだろう?」と段君が小声で聞いたら、
「え、そうなの?」と何人かが驚いていた。
「行くの?」一人が心配そうに聞いたら、花咲君は笑って、
「時間がないからね」と流していた。ほっとしたような顔をしたので、好きなのかなと思った。

 与田海里ちゃんにさっきのことを聞いたら、
「小坂さんが好きみたいよ」と教えてくれた。さっき、その話を聞いた家中さんの友達だった。
「ああ、あの」小坂さんは何度かそばの席に座ったことはあった。ただ、彼と話しているのは見たことがなかったので、
「なるほど」としか言えなかった。家中さんは時々グループに合流する程度、小坂さんはあまり合流してはいなかったと記憶していた。
「そのほか、何人かに聞かれた、私も」と海里ちゃんが言い出して驚いた。
「へえ、そうなんだ」
「気にはなってるみたいだね」と聞かれてうなずいた。
「だって、不思議だもの。彼はどういう人と恋人になるのかなと思って」と言ったら、海里ちゃんが困った顔をしてこっちを見てきた。最近はエミリよりも彼女と話す回数が増えていた。エミリは顔が広すぎて、あちこちから誘われる。学校帰りにどこかに寄っているらしい。
「どうかした?」と聞いたら、
「あのね、一応、言っておいた方がいいのかもしれないから、言っておく。ただね、だれに聞かれたかは言えないから、そのつもりで」
「はあ」
「『花咲君と大橋さんは付き合っているの?』かなりの数、聞かれたから」
「誰に?」
「最初に説明した」うーん。
「えっと、そう言われても、付き合ってないけどなあ」
「でも、男子学生も女子学生も何人かに聞かれた。男子学生はただの冷やかしだと思う。女子学生は、多分、彼を気になってるんだろうね」そうだろうな。やさしい笑顔で親切で、女子学生とも話しやすくて、相談しやすい雰囲気を持っている。そういう人だとモテるかもしれないな。うちの学校だと特に。
「観光希望みたいだから、女の子と付き合うより旅行だと聞いたけどね」と海里ちゃんが付け足した。
「ああ、そうみたいだね」ライフデザイン科はいくつかコースがある。ブライダルやファッション関連、旅行関連とか、栄養士コースもあり、私はそちらに行きたいと思っているけれど、彼は旅行関連に行きたいと言っていた。エミリも同じだ。段君も似たようなことを言っていた。
「だから、彼女を作るにしても、優先しないだろうね。時間が空いたときにデート、という程度しかなさそうに見えるけどな」と海里ちゃんが言ったので、
「へえ、そうなんだ」としか言えなかった。彼が女の子に興味があるのかないのか、分からなかった。
「そう思えるけど。美優ちゃんところも、難しそうだしね。手近な男子学生には目はいかなさそう」と海里ちゃんが言ったので、
「さあ、どうなんだろうね」としか言えなかった。美優ちゃんはグループ内でも、かわいい方で、整形しなくても十分だと思うけれど、ちょっとミーハーなところがあり、狙っている男性はかなりのいい男だとうれしそうに話していた。顔が良くて品が良くて、背はかなり低いという噂は聞いていた。相手の男性は、違う大学に通っていると聞いている。でも、バイト先で知り合って、必死になって会いに行っているようで、グループでの付き合いも悪くなっている。暇があれば、メールを送っているし、でも、返事はほとんど返ってこないらしい。そばに座った子たちが、美優ちゃんの名前が聞こえたらしく、
「美優ちゃんの相手の男性って、久我山らしいよ」と教えてくれた。久我山はここからそう遠くないところにある。
「あそこ工学部しかないしなあ。でも、だったら、恩湯のほうがいいね」と言い出した。よく分からなくて黙っていたら、
「恩湯(キャンパス)の方が上(のランク)だから」と海里ちゃんが小声で教えてくれた。恩湯キャンパスには、理工学部がある。理工学部はライフデザイン科の社会学部よりはランクが上で、でも、交流はない。駐車場は広く、設備も新しい。彼女たちは興味が無くなったのか違う話題をしだして、
「恩湯か」と思わず声を出したら、
「知り合いならいるから紹介してあげようか」と海里ちゃんが意外なことを言い出した。
「そうなんだ」
「高校の同級生がいるの。あと、親せきのお兄さんもいるしね」
「ねえ、国公立はいないの?」そばに座った子が聞こえたらしく聞いてきた。
「いないよ、ごめん」と海里ちゃんが謝っていた。
「農学部系なら」と思わず言ったら、
「パス。動物系、植物系はいいや」と冷たく言われてしまった。
「動物系?」海里ちゃんが驚いて聞いたら、
「獣医学部に行った友達の話を聞いていたら、ナシだと思う。あと、農学部系も忙しそうだしね。医学部なら考えてもいいな。あと、まあ、理工系でも相手の顔が良ければ」うーん、すごいことを言っているなあ。
「だって、忙しそうだし。学生時代はいいや。社会人になってからで」と言われてしまい、海里ちゃんと顔を見合わせて、何も言えなくて、
「ああ、いいよ」と彼女たちは違う話題を話し出していた。
「農学部系の知り合いがいるんだ?」海里ちゃんに聞かれて、
「ああ、でも、まあ、仲良くはないから、無理かもしれないけど」
「ああ、ただの知り合い程度ね。でも、紹介してもらえるなら、それでいいんじゃない」と言われてしまった。知り合い程度か。姉と私はその程度なのかなあ……。

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