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エミリと一緒に何とか衣装を選んで、家に帰ってから、電話を掛けた。
「インフォーマルのドレスって、よくわかんない」
「俺に聞くな。俺も分からない」
「慣れているんじゃないの?」
「美弥の家とは違う」
「美弥さんといとこだから、そういう機会もあるんじゃないかと」
「母親の兄弟の娘。でも、俺のところは家でパーティーしない。演奏会も美弥の家でやっているものに参加する程度だ。俺の家族は誰も楽器が弾けないぞ」
「お母さんも?」
「さあ、大昔にやっていたみたいだけれど、現在、弾いているところを見たこともないな」
「なるほど」
「それで、用意はできたんだろ? 連れて行かないと、俺が怒られるんだよ」
「え、どうして?」
「美弥に怒られた。ちゃんと付き合えってさ」
「え、なんで?」
「尻込みするなって言われたんだよ。俺は面倒なことから逃げるから、それだと女性とはうまくいかなくなるからと。良くわからないよ。美弥に聞け」
「はあ、そう言われても。あなたは面倒事からは逃げるの?」
「それはあるかもな。女が相手だとどうも駄目だ」
「そう」
「なんだよ?」
「ねえ、あなたは私が花咲君と話すと怒るの?」かなり黙ってしまって、
「聞いてるんだけど」
「怒られたよ」
「誰に?」
「長船に。不機嫌になった理由を言えと言われても、俺だって」
「はあ」
「花咲の話が出ると俺は不機嫌になるらしい」自覚がないのか。
「花咲の話が出ると面白くなくなるから」
「はあ、それはもしかして、やきもちでしょうか?」かなり黙ってから、
「そういうことになるんだろうな」
「他人のことを話してるかのような口ぶりだね」
「うるさい。そう言われても、俺だってどうしてこうなるか分からないよ」
「え、どうして?」
「こういうモヤモヤっとした感じがどうも駄目だ。俺だって良くわからないうちに怒れてきて」
「なるほど」エミリが言っていたことが分かった気がする。やきもちは焼いてくれていると言うことは、少なくとも女性として意識してくれているってことなんだろうな。うれしいと言うより、この人はそういうことを自覚せずに怒るんだなと、不思議だった。
「今まで、やきもちを焼く経験がなかったの?」
「してない」
「美弥さんの時は怒ってたじゃない」
「ああ、あの時は心配だった。やきもちも確かにあった。でもな、何かが違う」
「え、なにが?」
「取られたくないものと言うか、身近な誰かがほかの人のものになるのが悔しいと言うか、兄に言わせるとシスターコンプレックスだって」
「え、いとこなのに?」
「憧れていた身近な女性がほかの人のものになることが寂しいらしい」
「それはなんとなくわかる気がする。中学時代に憧れていたスポーツ万能の女の先輩が、ちょっと細めのあまり顔も良くなくて、しかも注目度ゼロの男子学生、年下ね。その人と付き合ってると聞いて、かなーり嫌だった」
「女の先輩に彼氏ができるぐらいで嫌なものか?」
「かっこよかったんだって。短髪ではきはきした明るくて元気な先輩が、気弱系男子と付き合っていると言う事実が受け止められなかった」
「お前、美弥の相手を見ても、あまり言うなよ」
「え、どういう意味?」
「期待しないほうがいいぞ、きっと」
「その言い方をされるとすごく気になる」
「ま、お前には関係ない。写真を見せてもらったときに心配になっただけだ。お嬢さまがだまされている、目を覚ましてやらないといけないって、俺は使命感があったから」
「それで?」
「きっぱり断られた。ああいうところは年上だな。あいつは。俺は子ども扱いだ。自分で選んだ人を祝福してくれってさ。それより、自分の恋愛を大事にしろって。俺はすぐに切り捨てるからと怒られたし」
「切り捨て?」
「そう。女だろうと男だろうと、深く付き合わないからって」
「なるほどね」
「でも、犬童や相川みたいなやつに時間を取られたくないだけだ」
「それは同感だなあ」あの海里ちゃんでさえ、距離を置くと言っていた。たいがいの人は同じような反応になるだろうな。相川は、映画のスタッフが一生懸命作ったものを、馬鹿にしていたと聞いた。千花ちゃんと言い合いになり、さらに強く否定していたみたいだけれど、『自分でも作ってみてから言ってみろ』と千花ちゃんに言われていたと、エミリから聞いた。
「美弥さんは映画の感想は何か言ってたの?」
「『頑張ってたね』と言ってたよ」
「そう、良かったね」
「俺はがんばってない」
「そう? がんばってたじゃない。相手役が美人じゃなくて拗ねてたけれど、合コンに行きながらも、流れでデートしながらも、それなりに参加してたじゃない」
「別に相手役に美人なんて望んでないぞ。それに頼まれたから、渋々」
「その割にはちゃんとやってたよ。デート中の顔ではなかったけどね」
「そうか? 高校時代のデートもあんな感じだったけど」こいつは……。
「美弥さんが心配するわけだ」
「どういう意味だ?」
「とにかく、服は用意したからね」
「お前だと心配なんだよな。何かトラブルを起こしそうで」
「悪かったわね」
「なんだかどうも心配になるやつだよな、お前って」どうして、もう少し優しい言い方ができないんだ、こいつは。
「あなたの言葉は何かが足りないよ」
「うるさい」と言って電話を切っていた。花咲君のことをやきもちを焼く前に、女性に対しての言葉遣いを勉強してほしいなと思った。人のことは言えないけどね。

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