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 花咲君が寄ってきて、
「千花ちゃんのそばにいないと怒られないの? 私のそばに来たら、また、邪魔しそうだから」と聞いてしまった。
「そうしたら、今度は僕が逃げるよ」
「独り占めしたいって感じは無くならなかったね」と言ったら笑った。千花ちゃんは、結局、ほかの人に話しかけられないし、話しかけもしない。花咲君にべったりくっついていた。
「少しは変わるかと期待したのに」
「ほかの男子学生の多くが同じことを言った」そうだろうなあ。
「彼女は無理かもしれないな。角が少しずつ取れる程度。大きく方向転換することは難しい。よほどのことがないと」
「花咲君と付き合うとか?」笑って答えてくれなかった。無さそうだなあ。
「難しいんだね」
「でも、一歩だけ進んだよ」
「一歩かあ」
「認めたんだ。初めてね。自分は言えない立場だと言うことを」
「はあ、どういう意味だろう?」
「言える人っていないんだよ」
「え?」
「誰のことも、とやかく言える人はいない。親にしてもね。人格否定するほどまで言っていい人は誰もいない。人格を尊重したうえでの忠告ならしてもいいけれど、けなすのは誰もしたらいけないってこと。それを教えたよ」
「忠告かあ」
「そう。言葉を変える必要がある。相手に聞いてもらえるように話す必要がある。相手の余裕度、理解度に合わせて話すと言うことで」
「難しいでしょ」と言ったら花咲君が笑った。
「そうだね。でも、それをしていかないと、彼女の意見の同調してくれる人はずっと現れない」そうだろうな。
「そこが解消すれば余裕が出てくるはずだ。そうしたら、少しは人間として丸みを帯びてくると思えるけどな」
「難しくない? 同調してもらう場所って重要だと言ってなかったっけ? 主流派、多数派が正しいとは限らないって話をしてくれたでしょ? つまり、彼女の意見を同調しやすい場所があるってことなんだよね?」
「そうだけれど。どういう場所でも、相手に合わせることは必要になってくると思うよ。これからは特に」
「花咲君は、仕事は旅行関係に行きたいんだっけ? 自分が属する場所によっては、合わせないと難しいかもしれないね」ライフデザイン科には、それぞれ選択コースが用意されている。花咲君は旅行関係に興味があることは聞いていた。
「そういうことだ」
「この間ね、九条君に言われたの。映画スタッフは男性が多い。それで、女性の意見が通りにくいって」花咲君が笑った。
「それにね、男性は潤滑油のような言葉を使わないらしいから、そう?」
「その説明だけではわからないよ」と笑ったので、
「あ、ごめん、そうだったね。潤滑油のような言葉の説明をしてないね」と言って、ありがとう、すみませんなどの言葉だと教えたら、しばらく考えてから、
「使う人は使うと思うよ」
「それはわかるよ。段君は意外と気を使うタイプだし、花咲君は人によっては違うかもしれないけれど、そういう言葉はちゃんと言ってくれるから、女性に人気がある」と言ったら笑い出した。
「え、でも、そう思わない? でも、『そういう言葉は言わなくてもいい』と思っているのが、いまいち、わからないんだよね」
「使わないタイプもいるだろうね。『そういう言葉を言う必要がない』と言い切る人もいるだろうね」
「誰?」と聞いたら、少し離れたところにいた甲羅たちを見ていて、
「あれ、だれかいたっけ?」と見ていた。
「いちいち謝らない人もいるかもしれないね。自分の過ちを認めたくないときは特に」うーん、千花ちゃんや佐並君、相川を思わず思い出してしまった。花咲君が笑って、
「え、なんで笑うの?」と聞いた。
「いや、今、思い浮かべた人は誰だろうなと、つい、想像してしまったからね」
「彼らの行動の意味は全然分からないなあ。『ありがとう』って、言っているところを見たところがないかもしれないなあ。どうしてだろう?」
「ああ、それは環境もあるかもしれないよ」
「環境?」
「性差の違いもあるかもしれないね。女性のほうが、そういうところに気づくことも多い。でも、環境もあると思うよ。たとえば、年配の女性で、腰が低くて、とても丁寧に謝ってくれたり、お礼を言う人がいる。感謝の気持ちを大事にしているし、それを実践しているんだろうね。個人差はあるけれど、そういう年配の人がそばにいて、教えてくれるような環境で育ったら、自然とそう言うことが身についてくるものなのかもしれない。潤滑油と、さっき言っていたけれど、その通りだと思うよ。そういう言葉って、実は人の心を柔らかくしたり、優しくするものだから」
「はあ、そう言われると、そうかもしれない」
「北風と太陽の話は知っているよね?」
「ああ、あれね。北風さんと太陽さんが張り合って、上着を脱がす合戦をするんだっけ?」と言ったら、花咲君が笑った。
「冷たい言葉でけなしたり、馬鹿にしたりするような人に命令されてもね、聞きたくなくなると思う。もちろん、立場が弱かったり、その場の流れで、どうしても命令を聞かないといけない事態になることがあったとして、渋々動くことはあると思う。でもね、日ごろから、『ありがとう』『ごめんなさい』などの言葉を大切にしている人の場合は、命令ではなく、頼んでくると思うから、そうすると力になりたいと思いやすいってことなんだ。だから、潤滑油ってことなんだろうね」
「ああ、なんとなくわかる。相川や」と言いかけてやめた。佐並君、千花ちゃんに命令形で言われたら、やりたくないって気持ちが強くなり、もしも、無理矢理やらされたら、恨むところまでは行かないけれど、面白くはないだろう。花咲君やエミリに、頼まれたら、そのあと、お礼を言ってもらえたら、その言葉だけで、やってよかったと感じるだろう。つまり、後味が全然違ってきてしまうかもしれないな……と考えていたら、花咲君に笑われてしまった。
「千花ちゃんも一歩進んだんだね。私も少しは進んできているのかな?」
「進んでいると思うよ。影響力が強い人がそばにいるからね」
「花咲君だ」と言ったら、笑われてしまった。
「違うの?」
「僕のことより、影響力が強い人がいるだろう? その相手の表情一つで一喜一憂するぐらいの相手が」うーん。やはり、彼ってことなんだ。
「疲れちゃうんだよね」
「それだけ気持ちが強いんだよ。だからこそ疲れてしまう。相手に対しての気持ちの強さからくるものだから。それだけ真剣だからこそ、影響力が強い。相手に対しての期待度も高いし」
「はあ、さすが」花咲君が笑った。
「でも、花咲君に影響はいっぱい受けたよ。優しさや度量の深さ、物事の考え方とか、エミリもそうだし」
「そうだね」
「エミリに出会えたから、色々なことに挑戦できたと思うからね。映画に出られたのもエミリのおかげだし」
「そう?」
「エミリが誘ってくれたことから始まってると思う。映画に出られたからこそ、彼ともケンカしながらも、ああやって」仲良くなれたのかもしれない。花咲君が笑ってくれた。

「なんだか、悔しい」とサリがぼやいた。
「なんで?」そばにいる子たちが聞いてきて、
「あれ見てよ。絶対に、怪しい。なのに、なんで九条君なのよ」と言いながら花咲君と私を見ていた。
「似合ってるなあ。やっぱり、あの二人のほうがしっくりくるよね。どう考えても、無愛想な九条君とは似合ってない」
「やめよ」と美優ちゃんが止めた。
「なんでよ。美優が言ったんだよ?」
「友達に聞いてもらってさ。あれから反省したの。由香ちゃんに謝ってもらって、悪かったなと思って。内緒で調べてくれたのも好奇心じゃないだろうって、友達が言ってた。心配してくれたんだろうって」
「それはあるかもね。美優ちゃんのこと、由香ちゃんは言い触らしてないし。言い触らしたのは」とみんながサリを見ていた。
「やだ、わたし?」サリが嫌がっていて、
「返済するお金、減額してもいい?」美優ちゃんがちゃっかり提案していて、
「ちょっと、やだ。それとこれとは別だって」と言い合って笑われていた。

 みんなと合流してから、
「エミリがさあ、映画に出たいって言ってたけれど、由香ちゃん、推薦してよ」と頼まれてしまった。
「エキストラでいい」と言い出したので、
「脚本担当の人には言っておく。でも、来年用に作るかどうかは知らないし」
「いいよね、ああいうの。記念になる」
「由香ちゃんは出るの?」と聞かれて、
「勘弁して」と言ったら、みんなに笑われてしまった。そのあと、エミリと会って、
「映画の主役、お願いするって、頼んだのに、返事がもらえない」とぼやいていた。
「駄目だったんだ?」
「まだ、脚本もできてないからって」そうだろうな。あの3人だと、そこからもめそうだ。
「ラブストーリーでもアクションでも、なんでもやりますからと言ってある」
「アクションは無理でしょう?」
「もう、この際、なんでもやる」とエミリが元気よく言い出して、
「でもさ、九条君とくっつくとは思ってなかった。よほど、仲良く撮ってたんだ?」と聞かれて、
「喧嘩してたよ」とエミリが教えてしまい、
「え、それでなんで、ああなるの?」と聞かれて、
「私が聞きたいくらいだよ」とぼやいたら、みんなに笑われてしまった。

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