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「君はアナウンサーにもなれると思い込んでいるけれど」
「あら、それはキー局は無理だと思っているけれど、地方局ならなんとかなるでしょ」花咲君が笑った。
「笑い事じゃないわよ。わたし、いくらでもがんばるわ。つまらないレポートでもがんばれるわよ。色々できるんだから」
「君は出来る女じゃない」
「え?」
「君は出来ると思い込んでいる中途半端にできる女性だ」
「ちょっと、嫌よ。それは訂正して」
「でも、そう思っている人は多いと思えるけれど。君の場合はね、強いから、自分は出来る女だと勘違いしてしまっている。前だったら注意しなかった。今は少しは聞く耳を持ってくれているようだから、あえて言わせてもらっているので、もしも怒るようなら君に注意するのをやめよう。それから、説明前に禁止事項があるんだけれど、聞いてもらえるかな?」
「なによ、変なことじゃないでしょうね?」千花ちゃんが睨んでいた。
「一つ、牛美と呼んではいけない」花咲君が話し出した。千花ちゃんが睨んでいた。
「そして、グループのことで個人的な範囲まで言わない。大橋さんと九条のことは特にね」
「えー!!」
「不満をそうやって、すぐに顔を出す人を嫌がるグループだと言うことをお忘れなく」
「え?」
「気づいてなかったんだ?」
「え、でも、誰も何も言わないわよ」花咲君が笑った。
「何も言わない、イコール不満がない、と言うことではないよ」
「はぁー?」千花ちゃんが思いっきり不満そうに声をあげた。
「そう言う態度、それがみっともないとうつる。彼らの目にはね」
「どういう意味よ」食って掛かっていた。
「できる女だと思い込んでいるけれど、それは間違いだ。君だけができる女だと思っているってこと。今なら、少しは理解できるんじゃないかな」
「あら、私、小学生の時から先生や大人たちに何度もほめられていたわ。彼らはそういうのもないじゃない」とバカにするような口調だった。花咲君がじっと見ていたので、
「違うの?」と聞き返した。
「小学生のころからね。なるほどね」
「なによ?」
「いや、そうか、それでね」花咲君が笑った。
「だから、教えなさいよ。笑ってないで」
「また、怒るね」
「怒ってなんかないわよ」完全に怒っている口調だった。
「その態度で怒ってない判定をする人って、いるんだろうか?」のんびりと花咲君がひとりごとのように言った。
「え?」と戸惑っていた。
「今の口調、ほとんどの人は怒っているように聞いてしまうだろうね」
「だって、あなたがイライラさせるから」
「あの程度で怒るんだね?」
「だって、笑ったじゃない。訳が分からないし」
「小さなころからほめられた。だから、自分はできる女だ。そういう強い確信をもって、今の年まできたんだと想像してしまって、笑ってしまっただけだよ」
「あら、いいじゃない。実際に褒められて育って」
「それで、褒められて育った子は、高校卒業後に、当時の同級生たちに、ほめられているでしょうか? 牛木さんと、君の憧れていた男性とか」と言われて、黙ってしまった。
「そうね。それは……」
「高校の同級生に聞いてみたら? できる女かどうかをね」かなり黙った後、
「それは……無理ね」
「どうして?」
「彼らは、私の話なんて、理解できないから」
「理解?」
「聞いてくれないのよ。理解できないらしくて」
「まだ、分かってないみたいだね」
「なにが?」
「君が大橋に八つ当たりしたこと、覚えてる?」
「八つ当たり? してないわよ」
「忘れっぽいのは、君の特技みたいだね。大橋は覚えているだろうな。かなり悩んでいたから」
「あら、あの程度で?」
「やはり、覚えていたね」
「違うわよ。八つ当たりしたけれど、たいしたことじゃないし、大橋さんのことだから、あのことだと思って」
「八つ当たりしたほうはその程度なんだね」と花咲君が笑った。
「あら、だって、あれは彼女が私を怒らせるから」
「ちょっと待って。君はまだ、大橋のせいにしているの?」
「彼女が段君たちに告げ口するからよ」
「してないよ。まだ、分からない? 大橋さんは告げ口なんてしてないよ。悩んでしまって、俺たちが相談に乗っただけ」
「結果として、私を悪者にしたじゃない?」と怒っていた。
「悪者に? どうして?」
「だって、あれは、えっと、私がきついとか、しゃべりたくないとか。よく覚えてないわよ」
「よく覚えてないのに、大橋のせいにするの?」と聞かれて黙った。
「君の記憶があいまいなのは、大橋は関係ないからだ」断言されて、
「え?」と戸惑っていた。
「あの時のこと、僕も納得はしてないよ。大橋もグループの連中も、君が怒った理由はいまだにわからないんだ」
「どうして?」
「君が何をどうして怒ったのか理解できないんだよ。悪口を言ったと君は言い張った。でも、思い当たるところはないよ。ただ、君がきつい口調で大橋に言ったことに関しては抗議してしまったかもしれない。それは君の方にも問題があるからね」
「え、私?」
「あの時、何をどう怒っていたか、冷静に筋道立てて、説明できる?」
「えっと、あの」戸惑っていた。
「できないと思う。なぜなら、大橋が主な理由じゃなかったから」
「え?」
「君が何を怒っているのかを聞かせてもらったとき、君が一番気になっていた部分は、大橋のこととは違うと感じた」
「気になっている部分ってなによ? だいたいね、男子学生にいきなり囲まれて、すごく嫌な思いをしたのは私なのよ」畳み掛けるように聞いたので、
「今の口調だと、きついと思われる。そうして、その言い方に対して、段たちは抗議したんだと思う。それを君は男子学生に、なぜこんな風に言われないといけないのよと怒ってしまった。でも、その件は実は、君が最初に大橋に怒ったこととは関係ないよね」
「え?」
「最初は、『私のことをほかの人に言わないでくれ』と怒った。そのあと、大橋にきつい口調で怒っていたのを男子学生が目撃して、君に注意した」
「注意って」
「順序が逆だよ。男子学生に注意されたことと大橋に最初に怒ったことを混同しないでほしい」
「え、ああ、そうだったわね」
「君が覚えていないようだから、ちゃんと教えておくと、君は大橋に自分の話をほかの人としないでほしいと怒った。大橋はそれで落ち込んで、段たちが心配して、君に注意した。君はそのことに関しても理不尽に感じて、大橋がすべて悪いかのように思い込み」
「ちょっと待ってよ。その話は済んだ話よ」
「違う。君が勝手に済んだ話だと思っているだけ。君以外は納得してない。だから、今、改めて考える時期だと思っているからこそ、蒸し返している。もし、嫌なのなら、続きはすべて話さない。これで帰るよ」
「ちょっと待ってよ」
「すべてつながっているからこそ、あえて、今、ここで話しているからね。聞きたくない話なのかもしれないけれど、君の決着のつけ方は間違っているから、説明しているんだ。もしも、聞きたくないと言うのなら、この先の話も全て無駄になる。だから、ここで帰ると言っているんだ」強く言われて、千花ちゃんが黙った。しばらく無言で、
「言いなさいよ」と言われても、花咲君が黙っていた。
「言いなさいよ、何か。……もう、聞けばいいんでしょう?」開き直るような態度だったので、花咲君が立ち上がりかけたら、
「ちょっと、やだ、待って」と慌てた。

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