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 掲示板に映画のポスターを張っているシオンさんに出くわした。
「宣伝?」と聞いたら、
「こうでもしとかないと見てくれないらしいよ」と笑った。宣伝しても見てくれるんだろうか。学生が作ったサイレントムービーを見て、楽しめるものだろうか? ポスターを見ながら考えていたら、
「九条君とはその後、どう?」と聞かれてしまった。
「喧嘩する回数は減ってきた」とだけ答えた。
「ダメだね。進展してないんだ。彼の場合は優しさが欠けるからね。もう少し気を使えるようになるといいけど、彼の方が」
「私が気にしないようにした方がいいんじゃないの?」
「違うと思うけれど。彼の方に問題があると思うよ。あのときは、撮影時はそれどころじゃなくて、男性スタッフしかいなかったから言えなかったけれどね、私は、九条君の態度の方が問題だと思ってた、ずっと」うーん、そうなのか。確かに男性スタッフの前でそれを出しても否定されておしまいだろうな。それが分かっているから、あえて出さなかったんだ。さすが人間関係学部コミュニケーション学科。
「九条君の機嫌が悪くなる原因があるから」
「原因って?」シオンさんが笑って、それ以上教えてくれなかった。
「来てくれるといいね。頑張って、撮影したんだもの」
「そうだね。さすがにさっさと帰られて、『おもしろくないよ』と、帰る途中で言われ続けるのは耐えられないらしいよ、今度は」
「そこまで言われたの? きついね」
「男性って、気を使わないんじゃないの。特に同学年の男子だと」
「なるほど」そういう部分はあるかもしれないな。友達なら気を使うかもしれないけれど、同学年で知り合いでもない程度なら、学園祭で発表したとしても、つい、そういうことを口に出してしまえるのかもしれない。
「今度は女の子がいるから言えないと思うしね。表では」
「え、どうして?」
「それはあるでしょ。男しか出ていない、風景が多い映画と、女の子も出ていて、一応ラブストーリーなんだし」
「よく分からないけど。完成してるの?」
「ほぼ」
「その、『ほぼ』っと言うのは、ちょっと不安なんだけど」
「いつもと同じだって。私が妥協すると明神がダメ。明神が渋々引き下がると監督が納得しない。それの繰り返し」
「大変だ」
「由香さんたちの比じゃないよね。喧嘩の数。どちらもひっこめないもの。持論を。私の意図した台本とは違う方向に行きそうだ」
「せっかく書いたのにね」
「いいよ。もう、こうなったら別物だと思うことにした。あれはあれで、別の完成形を作ろうと思ってる」
「別の完成形?」
「小説にまとめ上げて、周りに読んでもらおうと思ってるからね」
「がんばって」
「由香さんも」と、行ってしまった。そういえば、明神君との仲を聞くのを忘れた。撮影中、ほかのスタッフと態度は変わってなかった。本当に付き合ってるのかなあ、と不思議で後姿をしばらく見てしまった。
「これに出たんだな」後ろから声を掛けられて、見たら段君たちで、
「そうだけれど」とだけ言った。
「あまりうれしそうじゃないな」ポスターと私を見ながら言われて、
「だって、緊張してきて」
「相変わらずだなあ、大橋は」と、みんなに笑われてしまった。
「でも、九条と出てるんだろ。ちょっと、面白そうではあるよな。お前たちって付き合ってるって、本当か?」いきなり聞かれて驚いたけれど、
「いや、別に」とだけ答えた。付き合っているとは言い難い。でも、デートはしたけれど、という程度ではどっちつかずすぎた。彼に好きだと言われたわけじゃない。こっちも向こうを好きかもしれないけれど……でも、という程度では付き合っているとは言えないだろうな。
「あいつはやめとけ。花咲にしておけよ。俺たち、なんだか落ち着かないんだよ」と言われてしまった。
「落ち着かないって?」と聞いたら、困った顔をした後、
「やはりさ、あまり、言いたくはないけど……あいつは」と言いにくそうだった。その先はみんな言いづらくなり、言葉を濁す。その話題は出ることは出るけれど、いつも、こうやってそのままになって、違う話題に移る。
「それよりさ、八束、大丈夫なのか?」と聞かれてしまった。段君が見るからに落ち込んでしまい、
「俺たち、心配だしなあ。男のために顔まで変えて」
「言いすぎだ」と止める人もいたけれど、顔を見合わせた後、みんなが段君を見た。
「分からない、ごめん。どうなってるかは聞いてないよ。エミリかサリに聞いておくね。直接だと聞きづらいし、彼女たちなら電話で聞いているかもしれないし」
「でもなあ、相手の男、遊び人だって俺たち聞いたんだけど、サリからさ」うーん、サリちゃんがそういうことをちらっと話していたのは聞いているけれど、でも、それもどこまで本当なのか、
「大丈夫だろうか」と段君が心配そうで、
「心配するなよ」と言いながら行ってしまった。

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