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「思い当たることがいくらでもあるだろう?」
「それはそうだけれど、でも」
「ほら、また、言い返そうとする。君は相手に注意されたら、それが面白くないからと反論する」
「だって、私とは意見が違うもの」
「意見が違うにしても、相手の言いたいことを最後まで聞く余裕すらないの?」と言われて、さすがに黙っていた。
「君は意見を戦わしたいんだと思う。相手の意見を自分の意見でねじ伏せ、その場は勝ったと酔いしれたい」
「酔いしれたいって、失礼よ」
「そう? 本当にそう?」改めて聞き返されて、
「だって、それは……」と言いかけてやめた。
「その場は勝った気持ちになるかもしれない。でもね、相手の心の中は違う気持ちでいっぱいだ。『この人、自分の意見を押し付けるばかりで相手の言い分すら認めない、自己中心的な人なんだな。そう言う人なら、何を言っても喧嘩にしかならないから、相手にしないようにしよう』そう思ってる」
「え?」千花ちゃんが驚いていた。
「驚くことはないと思うけれど」
「え、でも、相手は、負けたと思ってるんじゃないの?」花咲君が笑った。
「何よ、笑うことはないでしょう?」
「負けたとは思わない。言い負かされたとも思ってないだろうね。心の中でひっそりとため息をつくだけなんだ。相手に何を言っても無駄だとね」最後のほうはゆっくり言われて、千花ちゃんが言葉を失っていた。
「まさか、だって……」しばらくしてから、確認するように花咲君を見たけれど、彼は何も言わなくて、
「え、だって、今までだって、……それでうまくいっていたわよ」自分に言い聞かせるように、思い出すような顔で千花ちゃんが動揺したまま、目線があちこちに動きながらも言って、しばらくしてから、花咲君を見た。
「じゃあ、えっと、大橋さんは?」
「それも同じだよ。僕を含めて、グループの人たちのほとんどがそう思って、君には何も言わない。だから、結果、君には話しかけたがらない」言い聞かせるようにゆっくりと言われて、千花ちゃんが動揺していた。かなり黙ってから、
「嘘よ」と花咲君に言い放った。ちょっと泣きそうだった。それから、
「絶対に違うわよ。彼らは、彼らになんて、私の意見が理解できないからよ。ええ、そうよ。彼らは私にかないっこないから、だから、そんなうがった見方を」認めたくないために、必死だったけれど、
「やめたほうがいいよ」花咲君がゆっくりと言った。
「え?」千花ちゃんが戸惑っていた。
「今の君は相川と同じ扱いをされるからね」
「どういう意味?」
「君は注意を素直に聞けない」花咲君に言われたけれど、
「聞けるわ。なによ、それ」と怒った。花咲君がお店の奥を見たので、千花ちゃんが、
「聞き捨てならないわ」と取り繕うように言った。
「君は注意を聞けない。それはなぜかわかってる?」
「聞けるって言ってるでしょ」構わず花咲君が続けた。
「君はプライドが高すぎるんだ」ゆっくり言われて、
「それが何よ。プライドぐらい誰でも持ってるでしょ」と怒っていた。ちょっと怒鳴り気味だったので、
「君は本当にその場に合わせた態度が取れない人だね」と花咲君が笑った。
「笑い事じゃないわよ。怒らせてるのはそっちでしょ」
「怒っているの?」
「怒っているわ」
「じゃあ、帰るよ」と花咲君が立ち上がろうとしたら、
「待って」と慌てて止めた。
「君は注意を聞きたくないんだろう?」
「き、聞くわよ。聞けばいいんでしょ。もう、やめてよ。あのときだってすごく不満だったんだから。面白くなくて、訳が分からなくて、勝手に置いて行って、電話にも出てくれなかったりして、嫌なのよ。本当、冷たいわ。わたしが困っているのに」花咲君が笑った。
「笑い事じゃないわよ」
「続きを聞きたいのなら、怒るのをやめること。できる?」と聞かれて、渋々うなずいた。
「もしも、また、怒り出したり、怒鳴るのなら、次は帰る。宣言しておくよ」
「もう。冷たいんだから」
「プライドの話の続きをしてもいいかな」
「もう、そうやって、すぐに話を続けようとして、本当、私に合わせてくれないわね」
「わざと合わせないようにしてる」
「は?」
「とにかく、続きを言うよ。プライドの高さが、君がほかの人の忠告を素直に聞けない原因だ」
「そうかしらねえ」と千花ちゃんが不満そうだった。
「僕以外の人に、注意を受けたら、君は怒り出す。そうして、まるで相手が悪いかのようにしていくんだよ」
「え?」
「それは無意識にしているのかもしれない。注意されることは誰だって面白くない。小学生でも嫌だろう。先生や上級生や先輩に言われても、うれしくはないだろう。仲が良くなかったり自分のことを良く知らない人に、したり顔で言われたら気分が悪いものだしね。相手の言い方が悪かったり、面白くないことも多い。ただ、同級生でも、年上でも、どういう立場の人でも注意してくれる中に愛情が含まれているのなら、聞く耳を持つ人は多いんじゃないかと思う。その場は面白くなくても、あとで、相手の言いたかった本当の意味が分かったり、自分のために、あえて言ってくれていると気づいたり。大橋や段、与田などは、そういうところで、怒ったりしない。悩んだり、それなりに考えたり、反応は個人差はあるけれど、ほとんどの人が君のようには怒ったりしない。怒るのは相川や君みたいな人たち」
「や、やめてよ。相川と同じ扱いにしないで」と千花ちゃんが怒鳴ったら、花咲君がゆっくりと立ち上がり、
「今のは違うわ。怒っているわけじゃないのよ」慌ててとりなすように止めた。花咲君はゆっくりと座りなおして、
「続きを言ってもいい?」と聞き返した。
「早く言いなさいよ」と言われて、花咲君が黙ってしまい、
「続きを教えて」と懇願するように頼んだ。
「怒ったりしない。みんなはそういう反応。でも、君は『なんでそんなこと、あなたに言われないといけないの?』と怒り出す。それはプライドが関係している」
「それは……」
「つまり、君は相手のレベルによって、態度を露骨に変える」
「そんなことないわよ」と言い返したけれど、
「大橋、段、そのほかのグループの人たちと話さないのは、君のほうに垣根があると思うけれど」
「垣根?」
「彼らが話しかけないのは、彼らのほうがおかしいととらえている。でも、実際はさっき説明したとおり、この人は言い合いになると面倒だからという理由で、好ましく思ってないってことなんだよ」
「え、あ……」千花ちゃんが、花咲君を見て、花咲君がうなずいた。
「でも、彼らは私と意見を戦わせるだけのものは持ってないから」と言いかけたら、
「君は、今までの説明を聞いていたはずなのに、自分が認めたくないことを捻じ曲げてしまうことがあるからね」
「え?」
「そう。彼らは意見をたたかわせたいなんて一度も思ったこともないだろう。それは君が望んでいることで、彼らの多くは、学生として友達として楽しく会話をして過ごしたいと思っている。君は自分がそうだから、ほかの人もそうだと、すぐに誤解する。それぞれ価値観が違うため、どう考えているのかは一人一人違うのに、君は思い込んでいることが多い。そうして、自分は悪くなかったと言う方向に考えが行ってしまう。そのために、いつも、反省は途中で止まる。自分が悪かった部分を見つめなおすこともしないし、反省して、次につなげることもしない」花咲君にゆっくり言われて、千花ちゃんは動揺していた。
「えっと、あの」
「君は注意してくれた人がどう思って注意してくれたのかも気づかないまま、注意した相手が悪いかのように持って行ってしまう。結果、注意してくれる人が誰もいない状態にまで悪化して」と言って止めた。千花ちゃんが花咲君を見た。
「高校時代の男友達に、ああいうことを言われて、逃げられてしまった」
「逃げられてなんか……」と言いながら声が弱かった。
「これ以上聞きたくないと言うのなら、やめるけれど」
「いえ、続けてよ」
「君は注意してくれたことを、ちゃんと考えない。そういう状態を続けていたら、高校時代と同じことを繰り返すだろうね。プライドから、誰の意見も聞けないような、そんな状態の人と意見を戦わしたいと思うような人は……少ないだろうね」
「え、でも、講義では」と千花ちゃんが言いかけたら、
「そちらでも同じだよ。君の意見に同調する人は少ないだろうね。君の話を黙って聞いているように見えても、反対意見を言うと面倒なことになりそうだからと遠慮していることもあると思うけれど」
「そんなことあるわけが」
「相川が何か意見を言って、誰か、それに口をはさむ人はいる?」と言われて黙った。
「今の君は、相川と同じように、扱いづらい人と思われているだろうね」
「でも……」
「それが嫌なのなら、少しは考えほしいと思う」花咲君が黙ってしまい、千花ちゃんが考えるようにしていた。
「結局、何が言いたいの?」言われっぱなしで面白くなかったらしく、いろいろ考えあぐねて、やはり怒り出して、花咲君が立ち上がろうとして、
「やめて」と慌てて止めた。
「言ったはずだ。今度怒ったら、僕は帰ると」
「やめてよ。怒ってないわ。ただね、納得できないだけ」と必死になって止めていた。手を持っていて止めたけれど、花咲君はそれを軽く離してしまい、千花ちゃんが不満そうで、
「あなたって、あなたって、優しそうに見えるのに、時々冷たいわ」
「そう?」と笑ったので、
「ほら、笑うところじゃないわよ。もう、面白くない。大橋さんには優しいくせに、どうして私には冷たいのよ。同じに、いえ、もっと優しく扱って」花咲君が笑っていて、
「だから、笑いごとじゃないわよ」
「君の要求はかなり難しいと思うよ。わがままだと自分で気づかないみたいだけれど」
「あら、どうしてよ?」
「気が強いね。さっきまで落ち込んで見えたのに、すぐに立ち直って、言い返す。その前に、反省」と言われて、
「反省……と言われても」戸惑っていた。

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