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「まだまだかかりそうだ。大橋は気にしないようにしてくれたらいいから」
「ありがと」花咲君が笑った。
「あれ、変なことを言った?」
「大橋のほうが柔軟性があるんだけれどなあ。押しの強さは向こうが100万倍だからな。その力加減が困ったね」
「私も困った」と言ったら、花咲君が笑ってくれて、なんだかほっとしてしまった。
「目をつぶって3分待ってくれるかな?」といきなり聞かれて、
「なに?」と聞いて、彼が笑っていて、
「その意味を聞いてはいけなさそうだね?」と言ったら、うなずいた。花咲君はニコニコしていて、彼の顔を見て何か考えがあるんだと気づき、
「じゃあ、やってみる」と言ったら、
「君なら、1分でいいよ」と言われてしまった。どういう意味だろうと思ったけれど、彼に、
「はい」と言われて、目をつぶって待っていた。1分って長いんだな……と思いながら、雑踏の声、そうか、日ごろ、こういう中で生活しているんだな。ラウンジって、結構うるさい場所かも。女の子の声、男子学生がどなる声、大学って、結構うるさいかもしれないな。目が見えないって、怖いかもしれない。何も見えない、そういう中で人の声だけが聞こえてくる。そのうち、心臓や呼吸の音が気になり始めた。自分の呼吸って意識してないけれど、私はこうやって、いつも呼吸しているんだな。
「はい、1分経ちました。もう、いいよ」と言われて、目を開けた。
「まぶしいね」と笑ったら、花咲君も笑っていた。
「大橋はやはり素直だね」
「え?」
「犬童は1分さえ目をつぶっていられなかった。彼女は40秒で目を開けた。その後、3分待つことができなくて、何度も何度も目を開ける。待てない性格なんだ」
「なるほど」そう言うタイプかも。
「大橋はどう思った?」
「そうだね」さっき、思ったことを一つ一つ挙げていった。花咲君が笑った。
「怒った時に、数を数えたり、呼吸を整えると言う方法を使うときがあるんだよ」
「え?」
「犬童には時間や呼吸を意識してもらいたかったんだけれどなあ。彼女はその境地にはならなかった。『うるさい環境、これをして何が意味があるのよ、訳が分からないわ』その境地から脱することすらできなかった」
「境地から脱すって、大げさだね」
「そう? 怒りの境地から脱するには、自分の時間を取り戻してもらう必要があるからだよ」
「え?」
「彼女は反省しない。怒るばかりで反省するところまでいかない。怒りを抑えることもできない。そう言う部分を直してもらいたくて、さっき、大橋に提案したように眼をつぶってもらった。でも、彼女はできなかった」
「そう。でも、難しくないかな。その意味を分からずにやるのは」
「納得してからじゃないと動かないのは分かっているよ。でも、僕は先入観なしで、そう言う瞬間に気づいてほしかった。彼女は気づける境地にまで来てないってこと。また、気づける時期が来たら教えるよ」
「来るの?」
「なかなか来ないかもね。卒業して、そのあと、何年も経ってからかもしれない」ありえるかも。
「卒業後でも困った時には僕には連絡してくるさ。彼女はそう言う人だから。そこまで、待つしかないかもね」
「待ってあげるの?」
「いや、その時が来たら考えるよ」
「のんびりしてるなあ」
「それぐらい、彼女はその部分での成長は遅いと思えるから」
「かなりすごいことを言ってるね」
「大橋だから言えるんだよ」と花咲君がさわやかに笑っていた。気を許してくれているようで、うれしかった。

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