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 シオンさんに会って、
「まだ、もめてる」と言ったので、
「今度はなに?」と聞いた。
「脚本のコンセプト。次の脚本で、どういう登場人物がいいとか、勝手に提案してきて」
「それを決めてから書くのは大変そうだね」
「脚本だと予算とか配役とか考慮しないといけないから、制約が多いから、不自由すぎて、時々切れそうになるし」分かる気もする。カメラの明神君が使いたいカット、監督は全体の流れ、脚本担当のシオンさんは、どうしても外したくないシーンもあったりして、それでもめていたし。
「また、組むのは大変そうなんだよね」
「がんばって」
「あら、由香さんも参加してくれるんでしょ?」
「え、それは困る。エミリじゃいけないの?」
「彼女だとコメディ以外は難しいと思うんだよね。由香さんなら何でもできそう」
「無理でしょ」
「そう思うよ。由香さんのほうが自然に動けるの。サイレントじゃなくても由香さんのほうが、見やすいと思うから」
「そうかな?」
「そう思わなかった?」
「友達にはそう言われた。画面だと大きく見えるとか、自然とか、そんな感じ」シオンさんが笑った。
「そういうのって、とても重要なの。脚本家が書きたいと思わせてくれるような人じゃないと。草刈さんは、それが思い浮かばない。由香さんはいくらでも構想が出てくるタイプなんだよね。私たちの」
「私たち?」
「ヤスと私。明神君の場合は、配役より、自分が撮りたいアングル、映像、そちらにこだわりがあるから」
「なるほど。そう言えば、監督はヤスなのに、どうして明神君は彼氏なのに、名字で呼ぶの?」シオンさんが笑った。
「あれ、おかしなことを言ってしまった?」
「なんだ、気づかれてたのか」
「いや、教えてもらったの。九条君に」
「そっちも同じでしょ。まだ、名字で呼んでる。それと同じ感じかな。ヤスには監督と呼べと命令されたけれど、みんなで、ヤスと呼ぼうと決めたの。図に乗ると困るから」
「知らなかった」
「監督と呼んでいたのは由香さんだけだよ。あとは全員がヤスと呼んでいたから」
「へえ、そういう理由なんだ。そう言えば、そうだったかも」と言ったら笑われてしまった。

 九条君に会って、さっきの話を教えた。
「劇的に鈍いんだな、お前は」とあきれられて、これでは名字から名前で呼ぶまでに時間がかかりそうだなと見ていた。
「なんだよ、その顔は」
「いや、私たちって、きっと、明神君とシオンさんよりもさらに進むのが遅そうだなと思えただけ」
「別にいいだろ。人それぞれだ。あそこに張り合う必要はなし。俺たちは俺たちのペースだろ。ほかと比べて、どうするんだよ」
「いや、少しは気になる」
「女って、面倒だな。比べて、どうにかなるわけでもあるまいし」
「また、そうやって言う。『女って』という、括りをやめてもらえないかな? 『女性は面倒な生き物である』そういう風にとらえていたら、いつまで経っても」で止めた。
「なんだよ?」
「誰のことも理解できない気がしてきただけ。私も同じかも」
「なんだよ、それは」
「先入観を外したほうがいい場合もあり、深く知らないと分からないこともある。色々だね」
「ま、それはあるだろ。お前の場合は先入観は外しっぱなしだ。全然見えてなかったな」
「同じく。あなたの表面には出ていない部分を探って行こう」
「探検するな」
「でも、そういうことなのかなって思ったの。自分探しも他人探しも大変だと言うことで」
「そうかもな」とじっと見られてしまった。
「難しいね。自分のことも分かってないし、相手から見えている部分も、相手によって違ってきてしまってる気がしてきた。エミリ、花咲君、千花ちゃん、甲羅たち、あなた。それぞれが見えている私は違いそうだから」と言って見ていたら、
「分かってないかもな。お互いに」と言われてしまった。

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