Top Page About My Shop Catalog Buy Now Contact Us

Catalog
リストマーク  前へ 次へ

「お前だけ違う」
「なにが?」
「さっきの言葉も、映画の時も、違うから」
「映画の時って?」
「あの映画、一人で見たときは、お前はどう思った?」
「どうって、別に、恥ずかしかっただけで」彼が私をじっと見ていて、
「そう言えば、あなたの感想を聞いてないね」
「DVDを渡された後に石渡に何度も感想メールを送るように催促されてもだめだった」
「え、どうして?」
「俺はあの映画を冷静に見られなかったんだ。何度見返してもね」
「え、なんで?」私の顔を見てきて、
「私?」と驚いた。
「お前の顔ばかり気になった。俺の顔を見ているお前の表情、お前ばかり見て、ストーリーがどうとか、カメラアングルがどうとか、全部ぶっ飛んだ」
「え、なんで?」
「お前が俺ばかり見てたから」
「あのね、あれは監督とシオンさんの指示」
「分かってるよ。でも、何気ない表情が全部、俺に向けられている表情が見ていられなかったな」
「そうなの?」九条君の顔を見ていた。困った顔をしていて、
「あの」
「俺は駄目だな。冷静なつもりだったのに。あの映画を客観的にはどうしても見られなかった。だから、感想を書けなかった。いくら、石渡に催促されてもね」
「そう」
「俺は分かってなかったよ。映画を作ってるときはどこか他人事というか、参加していても、言われたとおりに動けばいいさ、ぐらいに考えていた。でも、お前は生き生きとして動いていた。嬉しそうに笑って、怒って、俺を見て」と顔を見られてしまい、恥ずかしくて、ちょっと俯いた。
「表情にすべて出ていたな。お前は分かりやすいよ。だから、見ている人も見やすいんだろうな、映像としてね。草刈は頑張ってやっていたけれど、ちょっと、大げさすぎた。でも、そのほうが作り物として見やすかった。でも、お前が出てくるとだめだった。どうしても冷静に見られなくて、お前の表情ばかり追ってた」
「はあ、あの、よくわからないんだけど」
「お前が好きなんだろうな、俺は」さりげなく凄いことを言われて、恥ずかしくなり俯いてから、うれしくなって、
「お前は本当に正直者だな。顔を見ていたら、何を考えているのかすべてが出ている」
「だって、ちょっとうれしくて」
「素直なんだろうな。お前は」
「あなたは素直じゃないの?」
「素直じゃないって、何度か言われた。昔の彼女にもね」
「え?」

 前へ 次へ

ライン

inserted by FC2 system