帰りながら、
「お似合いだったね」と言った。
「そうか? どこが?」
「だって、美弥さんはとても幸せそうだったもの」
「そうかもな。俺には物足りないけれど」
「あなたがいちゃもんをつける資格はないでしょう」
「あるね、美弥は俺の憧れなんだから」
「はいはい、99の残り1は何が足りないの?」
「俺に気持ちが向いてない」
「仕方ないでしょう。そこは、彼女の気持ちなんだから」
「あの婚約者は認められない」
「そう? 演奏している時は素敵だったよ。演奏家なんだから、才能が全てなんじゃないの?」
「それ以外は認められない」
「あなたの許可はいらないと思うんだけれど」
「うるさい。美弥は騙されているかもしれないだろ」
「シスターコンプレックスだね。それを直さないと、私とは距離が縮まらないよ」
「うるさい。そうじゃない。心配なだけだ」
「はいはい」
「お前は花咲に彼女ができたら、同じように心配するんじゃないか?」
「花咲君は私と兄弟ではないでしょう」
「でも、男として意識してないから似たようなものだろう」
「心配しないかも。彼なら、なんでもやっていけそう。困難も妥協点を見つけてうまくやっていくタイプに見える。うらやましいぐらいにね」
「ふーん」
「なに?」
「あいつのことをそこまで理解しているのは気に食わないだけ」
「彼はね、なんていうか、話していると、とても楽なの。否定しない、不機嫌にならない、安定感抜群。それが女子学生に人気があるところ。変なへこひいきはしない。女子学生が不愉快になる言葉は絶対に使わない。いつも優しく笑ってくれる。そういう人ってね、一緒にいると元気が出るからね」
「男としては意識しないのにか?」
「意識してたら、相談事とか話せなくならない? 好きな相手だと言えなくなるかもしれない。そういう話をね」
「ふーん」
「彼のような人って、いつの間にかグループの中心にいると思う。自然と人が集まってくる感じかな。エミリと同じ。だから、モテる」
「草刈は彼氏はいないのか?」
「探しているみたいだね。見つからないみたいだよ。エミリは大丈夫だよ。ほっといても男性が寄ってくる。明るいし、かわいいし」
「お前には寄ってこないのか?」
「無理だよ。私とサリは」
「猿林とお前は違うだろうな」
「どうして?」
「猿林はあれ以上伸びしろが少ない」
「伸びしろって?」
「お前は努力したら、伸びると思う。草刈も努力したいでかなり上になる。でも、猿林みたいなのは、ちょっとね」
「え、どこがだめ?」
「そもそも努力しなさそうに見えるから。『男は見る目がない』と怒ってばかりいる気がする。お前に八つ当たりしてる時点でおかしいだろ。草刈はそういう態度じゃなかった。ほかのやつらも。それが駄目だ」
「はあ」そう言われると、海里ちゃんもほかの子も私たちのことに興味はあるみたいだけれど、気を使ってか根掘り葉掘り聞いては来ない。それをしたのは普段あまり話さない子たちや、サリが多かった気がする。
「お前を妬んでいる気がして、どうも駄目。女がそういう態度だと困るから。それに容姿の点でも、お前なら伸びるだろうけれど」
「ストップ。それ以上は聞けない」
「なら、言わない。お前の場合は頑張れば、俺と釣り合うさ。でも、あいつとは一生無理かもなあ」
「ひどい」
「頑張ればいいだろ」
「違う。サリが一生無理って言う部分の方」
「八束のような努力も過剰すぎて、俺にはちょっと。でも、友達の努力を認められないような猿林のタイプはたとえ見た目を良くしても、性格がともなわないから、草刈のように男には声を掛けられないままだと思うけど。必然的に彼氏ができにくいままでいきやすいって。甲羅の解説」
「はいはい。もう、甲羅って意外とそういう部分で細かくチェックしてるんだから」
「お前はもう少し努力してほしいってさ。ほかのやつらの意見」
「はあ」とため息をついた。 |