7

新しいクラス

 新学期になって、騒がしかった。誰がどのクラスなのかで、騒いでいて、ミコちゃんが、
「C組だ。戸狩と一緒」と言ったので、
「私は?」と聞いたら、
「B組だよ。でも、良かったね」と言ったので、なんの事だろうなと見てしまった。やがて、拓海君がそばに寄ってきて、
「良かったよな」と笑ったので、
「それじゃあ」と聞いたらうなずいていた。
「後は、桃も一緒だよ。かなりの割合で一緒のヤツが多かったぞ」と言われて、私も見に行った。うーんと悩んでしまった。かなりと言っても、半分は離れてしまった。碧子さんは一緒だったけれど、後は須貝君と佐々木君が同じで、知夏ちゃんたちとは離れてしまった。
「ひどいよ」と夕実ちゃんが怒っていて、
「隣のクラスならいいじゃないか」とみんなが慰めていた。
「離れちゃうのは困るなあ」と佐々木君が光本君や弘通君に言った。それは確かにあるなあと思った。なんだかんだ言って頼りにしていただけに心細かった。
「違うクラスだけれどがんばろうね」と弘通君に言われて、うなずいた。その後、何か言いたそうにしていたけれど、拓海君が寄って来たので、
「何かあったら相談に乗るよ」と優しく笑って行ってしまった。うーん、心細い。
「お前なあ」と後ろで拓海君に言われて、
「そう言えば、ちょっとだけ背が高くなったんじゃないの?」と聞いたら、
「お前はあまり伸びるなよ。俺が先だ」と訳の分からないことを言ったので、笑ってしまった。
「牛乳が好きだから無理だって」と言ったら、
「お前はうるさい」とそばで光本君が怒っていた。
「弘通ともお前らとも離れて、困るなあ」と言ったので、
「遠藤君は?」と聞いたけれど、
「あいつも別のクラスだぞ」と須貝君が教えてくれた。
「がんばってやるさ。弘通がいないのはかなり困るけれどな」と離れて行った。
「あちこちあるな」と言っていて、体育館に移動した。新入生がいて、なんだか初々しくて、いいなあと見ていた。先生の挨拶の後、周りがうるさかった。担当クラスの発表があって、私たちは引き続き赤木先生で、でも別のクラスは変更があった。
「うちのクラスって引き続きが多くないかな」とそばで小声で言っていた。
「でもさあ、誰が学級委員やるの?」
「本宮君がいい」と小声で言っていて、そうか、彼も同じクラスなんだなと聞いていた。これじゃあ、クラスの女子がうるさそうだなあと欠伸をした。

「えー、それって本当?」と隣でうるさかった。
「らしいよ。A組は受験に期待されている人が多いと聞いた。あの生徒会長だって、そうだと聞いたよ」
「磯部君でしょう? でも、ミコちゃんは?」
「だって、その前の生徒会長と同じだよ。先生にガンガン言うタイプは敬遠されるんだって、だから、A組は先生の言いなりちゃんらしいよ」と言っていて、どこまで本当なんだろうなと思った。
「Dが問題児が多いんだって」
「問題児って、あれでしょう? 佐分利に内藤さんに、一之瀬さん」
「違うよ、一之瀬さんは確かE組らしいよ」と隣で言っていて、少しは離れられて、ほっとしていた。近くの教室だと良く遊びに来られるから困るなと思っていた。
「佐分利は怖いなあ」と男子が聞こえたらしくて小声で言っていて、
「危ないらしいよ。ほら、例の件」
「内藤のヤツだろう? でも、あの場にいたのって確かさ」とそれ以上は聞こえなくなった。
「でも、ほっとしましたわ。一緒になれて」と碧子さんと話していたら、男子が話しかけてきて、彼女をぼーとしながら見とれていて、つくづく美人だなと見ていたら、
「あ、あの人」と誰かが指差した。廊下を歩いている人を指差して、
「今年は何通かな」とそばで言いあっていた。

「では、今年は受験もあるから、みんなも勉強をがんばるように。模試もがんばらないといけないからな」と言われて、困ったなあと考えていた。先生が教室に戻る時に、
「あ、あの」と先生に呼びかけた。
「どうした、佐倉? また問題でも起きたか?」と聞かれて、
「相談したい事がありまして」と言ったら、
「職員室に行こう」と言われてうなずいた。

「え?」と先生がのけぞっていた。簡易の応接セットのところで話を聞いてもらい、そばには誰もいなかったけれど、かなり驚いていたので、恥かしかった。高校からアメリカに行くという話をしたら、先生が動揺していたけれど、
「それでですね。具体的な準備を始めたいと思ってるんですけれど」
「おい、それは俺も初めてのケースだぞ。できればもっと前に」
「ああ、それはまだ相談ごともあって、本決まりになったのがこの間だったので、すみません」
「そうか、急だなあ」
「それで、相談なんですが」
「無理だ、俺はその辺は詳しくないぞ。誰か経験者に聞いてみるよ」
「え、いえそうではなくて。模試の事なんですが」
「ああ、それな。そうか、そうだったな、そういう細かいことも出てくるな」
「それ以外にもできればクラスの人には内密にしていただけるとありがたいんですが」
「うーん、そうか、そうだよな。やっかまれて、また問題が起きると困るな。それは上にも相談して、そうするようにしよう」
「お願いします。すみません」
「いや、お前大丈夫か? 英語は喋られそうか?」
「ああ、それは、徐々にやっていきます。ヒアリングができなければ話になりませんから、そこからやっていきます」
「そうか、そうだよな。俺にできることがあったら言ってくれ」
「いえ、ほとんどは母と相談しようと思っています。あちらに住んでいますから、資料など取り寄せもそちらに頼んであります。幸い知り合いがそういう事情の人がいるそうで、そちらからも話を聞くことにしたいと思います」
「そうか、大変だな」
「じゃあ、そういうことで」と立ち上がったら、先生が困った顔をしていた。

「どうかしたのか?」と教室に戻ったら、拓海君が待っていた。
「ごめんね。部活は?」
「あるけれどな。新入生の見学もあるって話だから、どうせ女の子を値踏みしているのに忙しいだけだ」と言い切ったので笑ってしまった。
「そういうのがあったね。大丈夫だよ。ちょっと、相談事があったの。模試の事でね」
「模試?」
「そう、いい点数を取らないと、お母さんの怒られちゃうの。約束しているし」
「お前も大変だよな」
「お互い様だよ」
「そうだけど」と言いながら、二人で部室に向かった。男子はとっくの昔にやり始めていて、珍しくロザリーも真面目にやっていた。
「ロザリーももっと真面目にやれば違うだろうに」と拓海君に言われて、
「どうして強くなれないのかな?」
「教える人がいないからだ。せめて、あの顧問がやれば違うさ」
「そう言えば、あの顧問はどうして信用がないんだろうね」
「当たり前だ。実績がものをいう。もしくは人間性の違いだ。そばにいて相談できるような性格なら、問題だってあそこまで起きなかったんだよ。でも、あの人はこれから忙しくなるから、また来なくなるだろうけれどね」
「困ったね」と見ていた。

 部活の方では見学は少なかった。
「あちこち勧誘に歩いていると聞いたよ。ここはやらないねえ」と緑ちゃんが笑っていて、
「テニスの場合は評判が悪いので、難しいですよ。めぼしいヤツには声をかけましたが、逃げられるんですよ」と結城君が言ったため、
「すごいね」とみんなが言っていて、
「先輩命令ですよ。部長になるために、少しはそれらしいことをしろと言われまして」と掛布君のほうを見ていた。
「掛布君は部長じゃないじゃない」とみんなが言ったら、
「実質そうなってるよ」と大和田君に言われて、木下君が落ち込んでいた。なんだか、色々ありそうだなと思った。
「知ってる? 木下君って、最近負け続けてるらしいよ。掛布君と大和田君が仲が良くて、そっちと組みたいと言いだして、現在紛争中だって」と緑ちゃんが言いだして、男子もとうとうそういう風になったんだなと思った。
「なんだか、あちこち問題が」と千沙ちゃんが心配そうだった。
「木下君と仲がいいけれど、でも、掛布君が千沙ちゃんを好きだって密かに有名」
「えー、菅原さんじゃないの?」とみんなが言いだして、
「それは昔だよ。その後、一年生を経て、千沙ちゃん」と言ったので、めまぐるしいなあと聞いていた。
「なんだか、いっぱい変わってる人が多いよね」と後輩から声が出ていた。
「だって、すぐに違う人もいいかなと思っちゃうし」とあちこち言いだして、色々あるなあと聞いていた。
「佐倉先輩だって、楢節先輩から山崎先輩に乗り換えたじゃないですか」と風向きが変わってしまった。
「乗り換えると言われても、あの先輩の場合は洒落にならないぐらいいっぱいあったからね」と言ったら、みんなが笑った。
「どうして、それで平気だったんですか?」と後輩に聞かれて、
「あの人は優しい人だからね」と答えたら、全員がきょとんとしていた。
「意外とそういう人だった。もちろん、他に本命がいたのかもしれないけれど、そういうのも関係ない感じだったなあ」
「それはどういうことですか?」と結城君がいつのまにかそばにいて聞いていて、
「いつのまに」と後輩が笑っていた。
「そう言えば、いつも聞きたがりますね。もしかして、先輩の事」と後輩が結城君をからかっていて。
「当然です。あの先輩はなんと言われようと僕の目標だ。テニスでも勉強でもがんばって追いつきたいからです」
「なんだ、楢節先輩が気になるんだ?」と美鈴ちゃんが笑っていて、
「無理だよ。あの人は不思議すぎるよ。目指すのはいいけれど、全教科100点取らないといけないよ」と言ったら、
「がんばります」と結城君が言って、
「すごいですよね」とみんなが感心していた。

「どうして、あの先輩と付き合ったの?」と帰る時に一之瀬さんに聞かれて、隣にいた前園さんがじっと見ていて、ちょっと怖いなと思いながら、
「いい人だったよ」
「どうせ、山崎君に振られてのあてつけじゃないの?」と一之瀬さんが決め付けるように言った。
「裏でそうやって、いつも言ってるの?」と質問したら、
「え?」と困った顔をしていた。
「いつも不思議だった。テニス部で変な噂が勝手に流れて、みんながそれに一喜一憂しているのがどうも不思議でね。私はそういうのは苦手なの。嘘だと困るし、当たっていても周りにも迷惑を掛ける話ならやめてほしいのだけれど」と言ったら、さすがに一之瀬さんが困っていて、
「そんなことはどうでもいいわよ。実際はどうなのよ」と前園さんがなじるように言ったので、
「先輩に好きだと告白したの?」と聞いたら、
「そんなこと…」と困っていた。
「実際に言ったのなら別だけれど、私に八つ当たりされても困るな」と返したら、さすがに困った顔で見ていて、
「今からでも遅くないから言えばいいのに。電話でも何でも」と言ったら、
「あなたには言えるの?」と睨まれて、
「あの先輩に注意されたの。自分がしてほしいこと、望むことは自分で何とかするしかないって。ことごとく注意してくれて、いつも心配してくれた。だから言っているの。前園さんの気持ちは分からなくはないけれど、私に八つ当たりされても何の解決にもならないよ。むしろ、あの先輩はそういう人は認めないと思うな。そういう人だった。よく観察していて、分析していて、心理状況も的確に説明して教えてくれた先生のような人だった。前園さんがどういう風に感じているのかは知らないけれど、先輩と私は恋愛関係と言うより、師弟関係だったのかもしれない」実際そうだったけれど。
「だから、そのことで不快に感じたのなら、悪かったとは思うけれど、今更、言われても困るよ。先輩に好きだと言って、綺麗に諦めるしかないのかもしれない。たとえ、すぐには納得できなくてもそうしないと」
「あなたに言われたくないわよ」と前園さんが怒るように言ったら、
「違ってると思うよ」と千沙ちゃんが言い出した。
「なにが?」と周りが聞いていて、
「八つ当たりしているのはそのとおりだし、今のは忠告だもの。それを否定する事を言われたら、変だもの。詩織ちゃんはこうこのために言ったのであって、別に悪気があって言ったわけじゃないのに、その言い方は」と言ったため、前園さんがうつむいていた。
「変ですよ。前から思ってましたけれど、女の子って、言われたくないなら相手にも言わなければいいのに、結構ひどいことを平気で言いますよね。僕は矛盾を感じますよ。佐倉先輩と同意見ですね」と結城君に言われて、
「この分じゃ、入部希望者が少ないだろうな。こういうのって困るからね」と大和田君が冷めた顔で見ていて、
「女子のことはほっとけよ。それより、ペア決めなおそうぜ」と言いながら行ってしまった。
「なによ、あれ」と前園さんが怒っていたけれど、
「なんだか、変だと思うわ」と小平さんが着替えて外に出ながら言った。
「なにがよ」
「意見の交換はいいと思うわ。でも、相手の意見を頭ごなしに否定するやり方は私は好きじゃない。今まで、自分の意見を持っていても、立場上言うのは控えていたけれど、さすがに目に余るわ。試合まであと1ヶ月しかないのに、そういうのは困るの。自分の事が上手くいかないことを佐倉さんに八つ当たりする傾向が2人にあるのは困るの。その辺はやめてほしいわ」と言いながら、百井さんたちと帰ってしまい、
「私もそう思うな。変だと思う。なんだか、前からこういうのって好きじゃなかった。クラスでもシカトとか仲間はずれにしようとか言っているのを聞いていて、どうも好きじゃないと言ってたよ。クラスの男子が何か言っていたから、あまりやるのはどうかと思うけれどね」と美鈴ちゃんに言われて、二人が顔を見合わせていた。

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