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素直になれない

 試合が終わっても、練習はしっかりあった。柳沢は試合の結果が気に入らなくて、また、熱血に戻り、男子はそれに合わせていたけれど、女子は話し合いの場を持っていた。昼休みに、後輩と一緒に固まって話し合っていた。
「だから、このままじゃ練習に集中できません」と後輩から声が上がり、3年生の方は、そういうので迷いがあった。
「一年生が見学だけじゃなく、部活に本格的に参加するようになれば動揺があります。例のせいで、入部希望者が例年の半分以下なんですよ。このままでは」と言われて、そう言われるとそうだなと考えていた。
「でも、一之瀬さんは心を入れ替えると約束して」と千沙ちゃんが言い出したら、小平さんと湯島さんがうなずきあっていて、
「それもちょっとねえ」と後輩からあちこち声が上がっていた。
「でも、やはり、彼女は中心選手で」と湯島さんが言ったら、
「中心選手なら人を傷つけていいんですか? また、同じような問題が起こったらどうするんですか?」
「うちの親も、部活を変えたほうがとまで言いだして」とあちこちうなずいていて、小平さんが困っていて、
「とりあえず、本人に話を聞いてみたら」と美鈴ちゃんが言ってくれたけれど、
「あの人が反省するとはとても思えない。今までの発言でそういうことを口にしたことは一度もありませんでしたよ」と言いだして、後輩の不満がピークに達しているなとひしひしと感じた。千沙ちゃんと美鈴ちゃんは浮かない顔をしていて、緑ちゃんは後ろのほうで雑談していて、前園さんとなんだか楽しそうにしていた。友達じゃないんだろうかと不思議で仕方なかった。室根さんは黙って聞いていて、菅原さんと一緒にいた。百井さんと相良さんは何か言い合っていて、
「そこ、意見ある?」と小平さんが聞いたら、
「時間の無駄よ。練習させてよ。試したい事がやまほどあるの」と百井さんが言ったため、さすがにハッキリしているなあと思った。相良さんも、
「また、問題が出てきて試合に出られないのは困るから、できれば早く決めてほしいのよ。どっちでもいいわ、試合に出られさえすればね」と淡々と言ったため、かなり怒ってるなと感じた。
「そうね、ここで話し合っていても難しいわね。もう一度先生と彼女と話し合ってみるわ」と小平さんが言ったので、多分、もう戻ってこないのかもしれないなと思った。小平さんの言葉には戻ってほしくなさそうな感じが含まれていた。

 午後からは、柳沢が個別に指導し始めて、周りは戸惑っていた。
「今更、先生の意見聞くのはちょっと」と相良さんがはっきり言ってしまったため、柳沢がショックを受けていた。
「俺は顧問だぞ」と言ったので、後ろでひそひそ後輩が言いだして、
「なんだよ」と聞いていて、
「今更、先生の意見を聞きたいと思ってる人がいないってことですよ」と百井さんがはっきり言った。すごいかも。
「どうしてだ?」と柳沢が睨んでいた。
「だってねえ」とあちこちから声が上がっていて、
「言いたいことがあるならはっきりしろ」と言ったため、後輩の一人が、
「一之瀬さんを野放しにした責任はどうするんですか?」と聞かれたため、柳沢に明らかに「嫌な事を聞くんだな」と顔に出ていて、
「そうですよ。他の部活に聞いたら、そこまでほっとかないそうですよ。ジャージを捨てたバスケ部員は即刻首になったそうですよ」
「あ、あれは……」と柳沢が困った顔をしていて、
「元々問題があって、それで……」と柳沢が言ったので、
「同じじゃないですか。どれだけあの人がのさばって」
「加茂さんとひどかったですよ」
「怖くて辞めようと何度も思いました」と次々言われてショックを受けていた。
「柳沢のせいだよな」と大和田君がそばに来て言ったため、とどめを刺されてうな垂れていた。
「もう、その辺で。先生、終わったあとに相談が」と小平さんが言ったため、先生はうな垂れながらもうなずいていた。

「どうなると思う?」と拓海君に聞いたら、
「お前の想像通りだろうな」と言われてしまい、そうだよねと考えてしまった。
「最後の出校停止処分で今までの我慢が限界を達してしまったんだよ。生半可な謝り方では戻れないね」
「そうかもしれないね。ただ、その事件は古い話だから、心を入れ替えつつあったのかもしれないなら」
「俺はここまで来ているのなら、辞めたほうがいいと思う」
「でも、永峯君が」
「確かにあいつは心残りで一生懸命動いていたと思う。でも、それなら、本人と親がもっと反省の態度を見せてもいいだろう? 親は一度しか来ていないし、逃げ腰の態度で謝罪もなおざりだったと聞いた。普通なら、かなり謝るらしいぞ。何度もね」そう言われると、確かに家に来たときも、何度も謝ったのは加賀沼さんの親だけだったなと思いだした。宮内さんもそれなりに謝っていたけれど、一之瀬さんの親は謝っていなかったし、加茂さんの親は時々睨んでいて怖かった。
「親のそういう態度を見て、子供は判断するんだよ。反省しないのは親にどこか舐めた甘えた考えがあるのかもしれないな。自分の子供のしでかしたことに対して責任を取らない態度が、一之瀬のあの態度になるのかもね」
「困っちゃうね」
「ほっとけよ。もう、そこまで来てるならお前に危害さえなければ、それでいい」
「なんだか拓海君らしくないね」
「俺だって怒ってるよ。許せない気持ちを抑えてやってきただけに、面白くないのは確かだが、あいつはそういう気持ちも踏みにじって、今に至ってるんだ。永峯だってきっともう見放すかもな」
「そうは思えないよ。それに拓海君は優しい人なのに」
「お前にあれだけなければ、もっと冷静になれるのかもな」
「え?」
「俺に取ってはそういうことなんだよ、今度のことはね」
「そう言われてもね。後味が」
「あいつの態度が改めるまで、誰も許さないよ」と言われて何も言えなかった。

 例年だと遠足なのに、今年はないのでだれきって授業を受けていた。ゴールデンウィークと言いながら飛び飛びだなあと思いながら授業を受けていて、
「えー、ここを根元」と当てられていた。根元さんはすらすらと書いていて、周りから「すごいね」と声が上がっていた。仙道さんは押され気味で大丈夫かなと見ていた。
 班に分かれて集まって休み時間に修学旅行の話をしていることが多くなり、あちこち楽しそうにしていて、
「こことここと」と男子が笑って丸をつけていて、
「コース決めろよ」と拓海君が言われていて、
「桃に任せた」と言ったため、
「また、それ?」と言いながら桃子ちゃんが恵比寿君たちと話し合っていた。碧子さんのそばには布池さんがいて話しかけていて、
「詩織はどうする?」と拓海君に聞かれて、そっちを見たら、布池さんがまた拓海君を見ているのに気づいた。

 部活の方もなんだか連休気分であまりやる気もなさそうだった。男子は張り切っていたけれど、木下君が元気がなさそうで、心配になるほどだった。
「ロザリー、彼氏とデートだって」と言ったので、みんなが呆れていた。
 一之瀬さんと決別し、男子がロザリーに教えるどころじゃなくなってから不真面目だった。
「でも、外人とデートしたいです」と後輩が笑っていて、
「私も彼氏とデートしたい。詩織ちゃんたちはどこに行った?」と聞かれて、
「町内一周」と言ったら、みんなが笑っていた。
「冗談じゃなくて、どこに行ったの? クリスマスとか」と聞いてきたので、
「内緒」と笑った。
「あいつもそういうことはしているのか?」と掛布君が聞いてきて、そういうことってどういうこと?……と言う顔で見たら、
「この中でデートした事のあるヤツ?」と大和田君が聞いてきて、結城君と後輩の女の子だけが手を上げていた。
「少ない」とみんなが笑っていて、
「なんだか少ないよな」と大和田君が笑っていた。
「大和田もあるんだろう?」
「お前は?」と掛布君と聞きあっていて、
「でもなあ。小学生のデートは入れるなよ。どうせ動物園か近所の公園だろう?」と言われていて、
「中学生でも同じだよ」と笑っていた。
「デートって、どこでするんですか?」と聞かれてしまい、
「デートなんてしていないよ」と答えたら、
「えー、楢節さんならいくらでも」と言ったので、
「一緒に帰ってただけだしね」と言ったら、
「えー!」と、どよめいていた。
「そういう約束だしね。あっちは受験生だし、他にもデート相手が」と言ってしまったため、
「その余裕はどこから来るのよ」と緑ちゃんが笑ったら、
「どうして、その程度で付き合うの?」と前園さんがなじるように言ったため、
「怖いぞ」と男子の方から聞こえてきて、
「まじだ」「前園ってだから、佐倉の嫌がらせに加担していたのか?」と男子に言われていて、
「加担なんて」と前園さんが睨んでいて、
「後輩に嘘を教えて流すのは十分加担と言えますね。それでシカトするようになったわけでしょう?」と結城君がにらみ返していて、さすがに前園さんが顔を背けていて、
「それは最初、信じちゃったんですよね。前園さんは勉強もできると聞いていたから、まさか嘘だったなんてね」と後輩が言いだして、さすがに前園さんが嫌そうにしていて、
「そう言えば、まだ聞いていないわよね」と湯島さんが言い出した。
「なにを?」とみんなが聞いていて、
「詩織ちゃんに謝ったっけ?」とみんなに聞いていて、誰もうなずかなかった。
「謝ったらどうですか? あなたも同罪ですよ」と結城君がなじるような顔で言った。
「そんなこと」と前園さんがうつむいていて、
「謝らないとあなたも同じ目にあいますよ。一之瀬さんだって、それでみんなの信用をなくした。我慢するにも限度がある。そういう部分はけじめつけたほうが楽ですよ。男子は校庭一周になってます」と結城君が言ったため、
「校歌を歌えって話も誰もやっていないからな。そのうちコート一周もしようぜ」と言ったため、男子って変なことしているなと思ってしまった。
「ごめんなさい」と前園さんが渋々謝った。うーん、なんだか、
「これで許してあげてよ」と千沙ちゃんが間に入り、
「加藤は優しいよな」と男子が笑っていた。

 帰る時に前園さんから声をかけられた。
「聞きたいことがあるの」と言われてしまい、拓海君を待たせたくなくて、
「少しだけならね」と言ったら、嫌そうな顔をしていたけれど、
「あの先輩と本当に付き合っていたの? そこまで好きだったとは思えない」と言われてしまい、
「うーん」と考えてしまった。
「山崎君と付き合って、乗り換えてと言われてるけれど、態度が違うでしょう?」と指摘されて、
「そう言われるとそうだね。先輩とは師弟関係と言ったほうがしっくりくるかもね」
「だから、それが分からないと言っているでしょう」となじられてしまい、しかたなく、
「そういう約束なの」と言ったら、男子も聞こえたらしくて、
「なんだよ、それ」と言われしまい、
「でも、その内容は言えないの。先輩と約束しているからね。だから、前園さんが思っているような付き合いではなかったの。でも、それが気に入らないと言われても困るのだけれど」と言ったら、
「八つ当たりはみっともないぞ。相手にしてもらえないのはお前だけじゃないって」
「告白すればいいじゃないか。今からでもさあ」と男子が言いだして、
「俺が言ってやるよ」と後ろのほうで大和田君が言いだして、
「あの人、近所だから、時々会うからな。言っておいてやるよ」と行ってしまって、
「あ、ちょっと」と前園さんが言ったけれど、さっさと帰ってしまった。
「こうこ?」と千沙ちゃんが聞いたら、
「そうね。もう、やめるから」となんだか考え込んでいた。

「前園さんのやり方は女の子ならよくあるけれどね」と、拓海君に言われてしまった。
「どうして?」
「バスケ部も多いぞ。気がある男子の前だと素直になれずに、別の女の子の名前を出して、『○○さんのことが好きなの?』とか牽制して聞くタイプ。うっとうしいから好きじゃないね」
「なるほど」
「戸狩は『そういうのは自分の気持ちをもてあましているだけで、そのうち大人になるさ』と言うけれど、小学生までにしてほしい」
「小学生のときにもやられたんだ?」
「毎日いっぱいやられたよ。うっとうしいよな。女の子って、どうして、ああいうくだらない質問をしてくるんだろうと思ったら、山ちゃんが、『あの子はお前に気があるな』と言ったから、半信半疑だったけれど、どうも当たりのようでね。でも、好きじゃないんだよな」
「ふーん、普通は満更でもないとかならない?」
「お前ね、ああいうことを言うタイプは大体が喧嘩したりする相手が多いんだよ。妙に突っかかってきて、他のヤツと違って色々難癖つけて、俺の好みと逆だからな」そう言われるとそうだったかもしれないな。おとなしい子ならそんなことはしないかも。それに話しかけられないだろうしね。
「前園さんもお前に八つ当たりしているようじゃ、無理だよ。あの先輩、そういうのは避けるタイプだろうな。そつないタイプだぞ。要領よさそうだ。面倒なのも嫌いと言ってたしね」
「いつの間にそんなに話したの?」
「廊下で会うたびに言われたぞ。お前の事で色々ね。おもちゃを取り上げられたのがよほど面白くなかったんだろうね」
「おもちゃってね」
「『せっかく楽しんでいたのに』って言い切っていたぞ」
「あの先輩は呆れるよね。だから、好きになれないんだと思う」
「テニス部でもはっきり言ってやれよ。俺のことをずっと好きだったとね。あの先輩のことはそういう対象外だったってね」
「言えないよ。約束してたんだし」
「時効だろう? お前が守る必要はないさ。先生にもバレバレだったらしいぞ。『本当に彼女か? 別にいっぱいいるんじゃないのか?』と聞かれたらしい」
「なんだ、ばれてたんだね」
「だから、言ってやれよ」
「でも、ボタンもらっちゃったよ。口止め料だと思うけれど」
「いや、見返りだろうし、お守りなんじゃないのか? そう聞いたよ」
「それは言ってたけれどね」
「『おもちゃとして面白かったから』とも言ってたけれどね」
「だから、一生男として好きになれないんだよね」
「テニス部で言ってやれよ。本当のことを言ったところで、もう時効だ」と気にいらなさそうだったので、
「何で、そんな顔をしているの?」と聞いたら、
「面白くないぞ」と言ったので笑ってしまった。

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