19

別荘のような家

 テストが終わったため、あちこちで修学旅行の話ばかりになった。でも、三井さんはテストが返されるたびに覗きに行ったり、聞きに行き嫌がられていた。
「志摩子、うっとうしい」と小声で何度か言われているのを見かけた。
「まったく、君たちは」と本郷君が怒っているのも目に入ってきた。
「あれだけの事をしておきながら、おとなしくしてくれよ。恥かしいよ。先生に顔向けができない。くれぐれも修学旅行先で問題だけは起こさないでくれ。恥さらしもいいところだ」と加賀沼さんと瀬川さんに怒ったため、2人が気に入らなさそうにしていた。あの処分以来、クラスでは話す人もおらず、2人で違うクラスに行っているようだった。
「呆れるよな。あいつは」と男子も言っていたので、そばにいた女の子が何かあったのか聞いていて、
「また、後輩いじめ? 今度は誰?」と聞きあっていた。

「俺の美樹ちゃんが主役なんだ」と男子が言っているのが聞こえて、誰かと思ったら田中君が廊下で大きな声で自慢げに話していた。
「お前の美樹ちゃんじゃない」とそばの男子に叩かれていた。
「懲りないヤツ」と拓海君がそばにいて話していて、そばにいた布池さんがじっと見ていて、
「どうかしたのか?」と拓海君が気づいて聞いたら、うつむきながら赤くなっていた。うーん、困った。
「沢口と小宮山さんも意見があったら?」と本宮君が聞いていて、
「え、分からないし。桃子さんにお任せした方が」
「いいよ、意見言ってよ。聞くよ。その方がいいし、みんなで思い出作らないと」と桃子ちゃんが楽しそうに言って話し合いをしていた。
「碧子さんはどうするかな?」と桃子ちゃんが言ったため、
「碧子さんと鎌倉は似合うね。古風で」と沢口さんが笑った。
「美菜子ちゃんも遼子ちゃんも意見言ってね。詩織ちゃんも」
「旅行なんてしたことないから、足引っ張りそうで怖い」と言ったら、
「えー、そうなの? ご家族とかは?」と聞かれて、
「子供会とかボーイスカウトとか色々あるだろう?」と拓海君に聞かれて、
「家事とかあるもの。お父さん一人だと無理だし」と言ったら驚かれてしまった。
「今度は大丈夫なの?」と本宮君に聞かれて、
「多分、帰ってきたら洗濯物と洗物が山積みで怖い」と言ったら、みんなが笑っていた。
「意外と苦労してるんだね」と本宮君に言われて、
「そうでもないよ。マイペースにやってるし、ここ数年のことだから」と笑った。

「あの……」と布池さんに話しかけられて、拓海君が立ち止まった。
「あ、あの……」と言われて、
「部活があるから、悪いけれど、手短に」と言われて、
「えっと、……なんでもないです」と言うのをやめたため、拓海君がため息をついていた。
「君も同じだな」
「え?」と布池さんが驚いていた。
「自分の意見ぐらい自分で言えば」と呆れたように言われて、
「え、えっと……」と困っていて、
「君もグループの一員なんだし、意見ぐらい言ったほうがいいね。それから、あまりこっちをじっと見られると詩織が気にするからやめてくれ」
「え?」と相手が困っていた。
「君がどういうつもりなのかは知らないが、ああいうのはちょっとね。そういうことで、意見が言えるようになったら聞くよ」と言って拓海君は行ってしまった。
 そばにいた碧子さんが寄って来て、
「どうかしましたの?」と聞いたら、
「あ、あの……」と困りながら話し始めた。

「演劇部の発表会。二谷さんが主役なんだって。その前に発表もあるし」とテニス部で休憩中に雑談していた。
「発表?」とみんなが聞いていた。私はぼーとしながら聞き流していて、
「小品を発表したいと言ってね。体育館で発表するつもりらしいよ。有志だけがやるんだって。前々から頼んでいたらしいけれど、部活引退前に田戸さんがやりたいと顧問に掛け合って、実現しそうだって。ただ、体育館じゃなくてクラスで発表するんだって。音楽室でやるって聞いた」と緑ちゃんが言いだして、
「松平君に見せるとか?」
「松平君って、卓球部なのはどうしてなの?」と緑ちゃんが聞いていた。確かに彼に卓球は似合わない。
「背の高さが足りないためにバレーを諦めたそうですよ」と後輩が教えていた。
「生意気だなあ、そういう情報を知っていながら教えなくて」緑ちゃんが後輩をからかっていて、
「えー、密かに有名ですよ。あの先輩が付き合ったために、どれだけの女の子が泣いたことやら、山崎先輩もそうだし、あちこちありますよ」
「え、人気あるの?」と緑ちゃんが身を乗り出して聞いていた。
「先輩の人気は実は松平さんが一番で」
「てっきり年上に人気があると思ってた。同学年だと弱いよね」と元川さんも興味津々だった。松平君は年上キラーと言われていたからだ。
「ねえ、本宮君は?」
「お兄さんは人気はありましたよ。お付き合いも派手じゃなかったから」と後輩が答えていた。意外、知らなかった。
「本宮君のとっかえひっかえって、お兄さんに張り合ってたんでしょう?」
「弟が入りましたから、またあるんじゃないですか?」と言ったため、弟もいるんだなと聞いていた。
「あいつは生意気なだけで駄目だって聞いたよ。運動神経だけの男で、3兄弟の中では駄目だって」と一之瀬さんまで加わったので、さすがにすごい事を言い出した。
「えー、それは良く知りませんよ」
「顔も見た目も一番上が一番素敵だと聞きました」と後輩が言っていて、
「だから、人気はありましたよ。戸狩さんとか山崎先輩も同じぐらいだと聞きましたけれど」と話し合っていて、なんだか聞いていていいんだろうかと思ってしまった。
「後は?」と一之瀬さんが聞いて、
「上の学年だと半井さんとか磯辺さんとか」
「えー!」と一之瀬さんと緑ちゃんが嫌そうな顔をしていた。
「磯辺は同学年には人気ないよ」と緑ちゃんが言いだして、
「半井は性格悪いよ」と一之瀬さんが怒っていた。
「女性だとロザリーさんとか芥川さんとかいますよね」と後輩が慌てて話題を変えていた。
「そっちの学年だと誰が人気?」と一之瀬さんが聞いたら、
「テニスだと結城君ですけれど、吹奏楽の男子とバレーのアタッカーとサッカーの小宮山君と後は」
「結城のどこがいいやら」と一之瀬さんが途端に機嫌が悪くなっていて、
「でも、あれでもいいところありますよ。楢節さんを目指すと言ったのはどうかと思いますけれど、二谷さんに言い寄っていた先輩を追い返したり、あちこちの女子を助けたりしてます。男子にも人気ありますよ。さっぱりしてますからね。育ちの良さですね」
「育ち?」と緑ちゃんが聞いたら、
「だって、お金持ちだと聞きました。別荘を持っているそうですよ」
「えー、すごいね」と途端に緑ちゃんが身を乗り出した。
「彼はそういう話はしないんですけれど、小耳に挟んだんです。元カノが口を滑らしたらしくて」
「すごい。お坊ちゃまなのか。よーし仲良くしよう」と緑ちゃんが言ったため、みんなが笑っていた。

 練習が終わってから、結城君がぼやいていた。
「まったく、そういう話はどこで伝わるか分からないよな。あれだけ口止めしておいたというのに」
「えー、いいじゃない。どういう別荘?」と緑ちゃんが興味津々で聞いていて、辟易しているようだった。
「でもさあ、この辺はお金持ちが少ないよね。せいぜい、土地持ちのアパート経営とか駐車場を持っているとかぐらいだよね。楢節さんの所だって、それなりみたいだけど」と千沙ちゃんが言いだして、
「同学年でも聞かないなあ」元川さんが考えていて、
「王子は? お城説はどうなったの?」と緑ちゃんが聞いていて、
「がせだよ」
「でまだって言ってたよ」と言ったので、アメリカにお城ってあったっけ?……と考えていたら、
「あいつの家。別荘みたいな作りだぞ。池のそばの見晴らしのいい場所に建ってたから。引っ越したらしくて」と男子が言い出した人がいて、
「え?」とみんなが驚いていた。
「どこですか?」と後輩も聞いていて、
「三軒町だよ。上か下か、中か分からない」と答えていて、拓海君の家の近くなのかなと考えていた。三軒町は広くて、上三軒、中三軒、下三軒を合わせるとかなり広くなる。私は良く知らなかった。

「王子の家? あいつ、マンションだと聞いたぞ」と拓海君に確認したら驚いていた。
「引っ越したらしいけれど、じゃあ、知らないんだね」
「池のそばの別荘なら、あれかもな。道路から見えるぞ。チラッとね」
「え?」
「帰る時に教えてやるよ。通りからだと、上のほうしか見えないが、一本入れば分かるさ。結構すごい家だったはず。誰が住むのか話題になった。
「ふーん。すごいんだね」
「それより、変な話題をするなよ」
「みんな良く知ってるよね。私は知らないことだらけ」
「知りすぎて言いふらしてるヤツも考えものだぞ。王子は好奇心旺盛な女はお嫌いらしい。俺も同じだけれど」
「え、どうして?」
「あいつが注意した女はみんな同じ。人の悪口、陰口であまりにひどいと注意するらしいぞ。あの外見で言われるから反論できなくなるってさ。見た目ってそんなに重要か?」
「男子の方が気にするじゃない。かわいくて有名な円井多摩子さんも」
「円井? ああ、あの背の低い子ね」円井さんは同じクラスの女の子で背が低くて色が白くて、本宮君が好きらしくて、手紙を渡したらしいと評判だった。
「そういうのは意見が分かれるんだよな。見た目の好みって意外とバラバラだ。芥川までいけば、ほとんどの男子が綺麗だと認めるが、そこまでじゃなければ分かれるぞ。碧子さんも人気があるが、声を掛けづらいし、ミコも弱気な男子には人気があるが、他の男子だと綺麗だが近寄れないと言ってたぞ」
「えー、ひどいよ。贅沢だよ、それ」
「性格も大事だって、話だよ。俺も同じ。見た目だけで選ぶかよ。話が合わないタイプ、好みじゃないタイプ、俺は付き合えないんだよな」
「そういうものなの?」
「あの本宮だって、もう付き合いをやめたのも同じじゃないか? 前は兄に張り合っていたと聞いたよ。でも、現在は碧子さんだろう? しかも、自分から話しかけられないから小宮山やお前に話しかけてね。修学旅行までに告白するのか見ものだな」
「だって、碧子さんは付き合っている人が」
「あいつのバスケを見たら、きっと、気が変わるだろう」
「え、どういう意味?」
「ある意味、男離れしている」
「え?」
「まあ、好みの問題だ。料理が得意な訳だ」うーん、意味不明だなと首を捻っていたら、拓海君が苦笑していた。

「ピアノが似合いそう」と思わず言ってしまった。寄り道して半井君の家を確かめに行き、思わずそう言ってしまった。
「あれがお城なら、分かるよな」と拓海君も感心していた。確かにこの辺にはない作りだった。部屋もかなりの広さがありそうだし、リビングなのか、大きな窓が見えた。
「あそこにピアノが置いてあるのかなあ」と思わず言ったら、
「王子が出てきたら似合いそうではあるよな。お前は行くなよ」
「なにが?」
「あの王子と親しそうだから言っている。あいつに誘われても行くな」
「あの人とは成り行きで話す程度でそこまで親しくないよ」
「一之瀬がやっかんでいたぞ。相当悔しかったらしいな。お前を庇ったとかぼやいていた」
「庇った?」
「被害妄想が強いヤツは困るよな。あいつに掛かったら、片っ端から自分の敵にされるだろうな。ああいう思い込みの強さが俺はどうも好きになれない。王子なんて絶対に喧嘩するから、あそこがくっつく事はありえないね」と断言していた。それはそうだろうな。あの嫌そうな顔から察するに、昔似たような人に振り回された経験があるんだろうな。
「そろそろ、行こうぜ。あそこが本当にあいつの家かどうかは分からないしね。あそこが建ったときは、話題になってたようだし、親父は結構興味があって、一度見に行ったからな、車でね」
「え、どうして、お父さんが?」
「あれ、教えなかったか? 親父は建築関係の仕事をしている」
「へえ、そうなんだ?」
「今の家だって、親父が設計したんだよ。言わなかったっけ?」
「聞いてないよ」
「母さんがてっきり話していると思ったよ。あの人、おしゃべりだからな。そういう訳で、家族で見に行かされただけ」
「拓海君もそちらに進むの?」
「考え中。弟は興味があるみたいだけど」
「そう」
「そう言えば、お前はどうするんだ? あれから教えてくれないよな。海星に行くのか? その後は短大かどこかだろうな」と言われて、困ってしまった。
「また、そういう顔をする。なんだよ、言いにくいことか?」と聞かれて、
「とりあえず、帰りましょう」と歩き出した。
「なんだよ? また、何かあるのか?」
「テストをがんばらないといけないなと思ってるだけ」
「それはほとんどのヤツらがそうだぞ。模試の結果がでたら教えろよ」と言われて困ってしまった。
「あ、あのね」
「なんだ?」
「いいよ、ごめん。もう少し調べないといけないし」
「ふーん、言えよ。心配になるから」と言われても、どう説明したらいいだろうかと迷っていた。

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