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修学旅行

 朝からにぎやかだった。父はなんだかあれ以来いじけ気味だし、話しづらくなってしまった。私の話は一応聞いてくれたけれど、納得してくれそうもないなという感じで、前途多難だった。この分だと日本を離れるのは大変だなと思った。おばあちゃんにも手紙で報告はしたけれど、反対すると言う内容だったので、説得するのに時間が掛かるなと思っていた。
「えー、くれぐれもはぐれたりしないように班で行動してください」と先生が何度も注意していた。
 バスに乗っている間は、みんながはしゃいでいて、ゲームをしたりとうるさかった。
「酔ったり気分が悪くなった人はすぐに連絡してくれよ」と何度も何度も本郷君が注意していて、
「うっとうしい」と言っている声が聞こえた。戸狩君と違って、ちょっと注意が長いし、くどいため、みんなの不満があるように見えて、
「志摩子、うるさい」と怒鳴っている声が後ろから聞こえた。グループと言っても、バスの席はくじで決めたため、拓海君達とは場所が離れてしまい、彼は後ろのほうで、私たちは真ん中ぐらいだった。碧子さんが通路を挟んだ隣の席の男子に何度も話しかけられていたため、私はぼんやり考えていた。
 説得は難しいし、勉強もとりあえずがんばらないといけないし、半井君が言うには、大学を日本にするなら日本の学校のほうが有利だと聞いていると話していた。宿題も授業の進め方も日本と違うため、駐在員の子どもは必ずホームシックに掛かり、日本に帰ってしまうケースも多いらしい。英語の壁は大きいようだ。ただ、「日本人学校だと楽だけれど、学力の心配があるから、進学するつもりなら、そこまで調べておいたほうがいい」と言われて、一応、留学関係の本は読んではいたけれど、大変なんだなと改めて思った。短期の留学やホームステイもあるようだけど、そっちは全然調べていなかった。
「強くなりたいだけなら、そっちで十分だと思うぞ」と言われて、そういうのを利用することも考えていた。ただ、私は……。
「なんだか、はしゃいですごいですわね。林間学校より盛り上がってますわ」と碧子さんに話しかけられて、
「そうだね」と言っていたら、
「えー、それではゲームなどをして時間を潰したいと思います。このクラスになってまだ話していない人も多いようですから、自己紹介などもかねて、やっていきたいと思います」と前のほうの人がマイクで話していた。
「それでは、まずボクからいきます。今はサッカー部に入ってます、桜木雅人といいます。趣味は」
「おーい、今更、そこからやるのか?」とからかう声が飛んでいて、
「えー、いまいち仲が悪いこのクラスを盛り上げたいと言うのが今年の目標です。後は、市橋を狙っていますから、成績を100番ほど上げるように言われました」
「おー!」とさすがに男子が反応していて、
「今ってどの位なんだよ」と笑っている子がいた。
「えー、なんだか目標を言わないといけない雰囲気だけど、俺は言わない」と次にマイクが渡った男子が最初に断ったため、みんなが笑った。
「当たり前だー。言えるかよ」とつっこまれていた。
「でも、とりあえずがんばりたいと思ってます。俺は野球部。校歌を歌うのが目標です」と言ってしまった為、
「結局、言ってるじゃん」という声が聞こえてきて、
「聞き飽きたぞ。一度でいいから勝ってから歌えー!」とやじを飛ばされていた。

「疲れた」と言ってバスを降りたら、
「お前はすぐそれだ」と後ろから言われて見たら、いつのまにか拓海君がそばにいた。
「だって、ゲームより自己紹介が延々と続くんだもの」
「女子なんて、名前だけ言って交代していたくせに」とそばの男子に笑われた。途中からだれ気味となり、名前と所属の部活だけを言う人が続出して、男子のようには言ってなかった。
「本郷の蘭王と堀北はさすがにすごいよな」と別の男子が言っていて、
「普通はさあ」とそばで言い合っていて、トイレに碧子さんと一緒に行った。
 戻ってから、
「すぐに戻りなさい。えー、勝手にゲームやお土産を見たりしないように」と先生がスピーカーを使って言っていたけれど、聞いている人も少なかった。グループ行動が原則なので碧子さんと桃子ちゃんを探して、
「いないね」と困っていたら、いつのまにか布池さんがそばにいて、すぐ近くに小宮山さんと沢口さんもいた。
「桃子さん、いないわね」と言い合っていて、しばらく待ったけれど来なかったため、バスに移動した。
「桃子さんは見かけませんでしたか?」と碧子さんに聞かれて、聞かれた男子が戸惑いながらも、
「え、あっと」と見回していて、
「やはり戻ってないようですわね」と言い合っていたら、かなり遅れて桃子ちゃんが戻ってきた。
「どこに行ってたの?」
「男子と合流させられた」と言ったので苦笑しながら席に戻っていた。
「男子っておとなしくしてないからね。タクが何度も注意して、他のグループも注意してたよ。本郷もちゃんと見張ってないと駄目なのに」と小声で言っていて、そう言えば、本郷君は見かけなかったなと思った。
「無理よ。あいつ、先生とかのそばにうろついていたから」と他の女子が聞こえたらしくてそう言ったため、なんだか困った人だなと思った。
「本郷、点呼しろよ」と桜木君が怒っているのが聞こえた。
「お前、やっとけよ」と言っている声が聞こえて、
「お前の役目だろ。俺は修学旅行のリクリエーション担当。各班のリーダーのまとめじゃないぜ」と言い合っているのが聞こえて、
「やめないか。すぐにやりなさい。女子はもう終わっていると言うのに」と先生が注意していて、
「仙道じゃなくて、根元がまとめてるから、一緒だよ」と言われていて、なんだか困ったなと思いながら聞いていた。

 長時間のバスに乗っていたため、
「ちょっと痛い」と体をほぐしていたら、
「いい若いもんが」と後ろから教頭先生に言われてしまい、
「先生はどうでした?」とそばの男子が聞いて、
「痛いにきまっとる」と答えたため、みんなが笑っていた。
 グループで集まって移動していたら、誰かがこちらを向けてシャッターを切っていた。
「また、撮られたね」と桃子ちゃんが笑った。
「うるさい。まったく呆れるぞ」と拓海君が言って、
「お前のそばにいると女子が寄って来て困るな。被写体としていいのかもね」と本宮君が言われていて、
「そう言われてもね」と軽く答えていた。
「嘘つけ。十分、分かっていて、内心うれしいくせに」とそばのグループの男子がからかっていて、
「やっぱり、『顔はこの角度』とか思いながら、撮られていたりして」と桃子ちゃんまでからかってしまい、碧子さんまでが上品に笑ったら、
「君まで笑うなんて」と本宮君が困っていて、
「ごめんなさい。でも、満更でもなさそうですもの」と笑ったため、本宮君がいつもと違って、居心地が悪そうな顔をしていたため、みんなが笑っていた。

「エキュスキューズミー」と誰かが外人に声を掛けられていた。
「テイク ア ピクチャー」
「あ、駄目、私」と女の子が逃げていて、
「シャッター押してくださいって」と言ったら、
「あ、なんだ」と言われた子がカメラを撮ってあげていた。
「へえ、そう言ったんだ?」とそばの女の子が笑っていて、
「英語って、聞く前に逃げたくなる雰囲気があるよな」男子も笑っていた。それはあるなあ。中学生でも分かる英語でも外人が話しかけるというだけで逃げちゃうかもね。でも、そのうち、その外人さんが英語でなにやら言いだして、
「えー、それは分かんない」と言ったため、
「『駅のホームはあちらでいいですか』だと思う」と言ったら、
「あれ、聞き取れた?」とみんなが私を見ていて、その外人さんがガイドブックを見せてきて、指差して何か言っていて、
「この場所に行きたいの? あ、でも駄目だ。説明できない」と言ったら、誰かが寄って来て、
「貸せよ」と言って、その本を持って、
「なるほどね」と言った。半井君だったので、
「さすが王子」とみんなが感心していて、彼が綺麗な英語で教えたあと、本を返して、
「グ、ラ」と言ったので、
「なんだ?」とそばの男子が驚いていて、外人さんは手を上げて行ってしまった。
「グッドラックより、良い旅をとかでいいんじゃないの?」と聞いたら、
「無難にしといただけ。聞き取りだけじゃ駄目だぞ」と言われてしまい、あれだけ分かりやすい発音でもとっさに説明ができないなと自信が益々なくなってしまった。
「グッドラックと言ったのか、グラにしか聞こえなかった」と男子がからかっていて、
「語尾って聞き取りにくいよね。キャーントなんて発音しないみたいだね」と言い合っていて、
「いいよ、俺日本人だから」と男子が開き直っていて、
「その日本語も危ないぞ」とそばの先生にもからかわれてしまったため、みんなが笑っていた。

「何してるんだ?」トイレの前で待っていたら、半井君に話しかけられた。そばに誰もいなかったから来たようで、
「グループ行動しないと怒られるよ」
「同じだろうが」と言われて、
「うちのグループはあそこに夢中」と言って、そばのラッキースポットで遊んでいる男子と女子を見た。
「ああ、あれね。俺も同じだ。それより、少しは実践練習つめよ」と言われてうな垂れた。
「さっきのオーストラリア訛りの英語だったから良かったけど、他のところだと早口だぞ」
「へえ、あれ、オーストラリア人なんだ?」
「グッダイだから」意味不明。
「とにかく、そういうことは今からやっても遅いぐらいだぞ。ネイティブな家庭教師を頼んだほうがいいかもな」
「そういうことも考えてはいるけれど」
「外人の友達作るなり、英会話スクールに通うなりしたほうが身のためだ。結構、みんな下準備はしているようだぞ。苦労していたヤツはいくらでもいるから」
「そう言われたらそうだよね。考えておく」
「霧と一緒に探せよ。そういう友達なり、そういう会なり」
「会?」
「あると思うぞ。留学生や帰国子女、外人との交流の会。向こうにいた時に誘われて行ったから」
「ありがとう。こっちにあるかなあ」
「さあな、そこまでは。誰かいないのか? 経験者に聞くほうが早い」
「そう言えば、同じような帰国子女の人がいるって母の知り合いにいたから、紹介してもらおう」
「そのほうがいいな。向こうに行ったはいいけれど、すごすご帰る結果になるぞ」そうだよね、さすがにそれはあるな。
「やっぱり、短期にするとかにしておけよ。お前にはそのほうがいい」
「でも……」
「調べてみろよ。お前の場合はつい心配になるよな。俺も山崎病に掛かった」
「なにそれ?」
「あいつの場合は」と彼が言いかけたら、
「詩織」と呼ばれて振り向いたら、拓海君が思いっきり気に入らなさそうにしてこっちを見ていた。
「ほらな。過保護。少しは考えておけよ。霧もお前も危なっかしくて見てられない」と小声で言いながら離れて行った。
「何を話していた」と睨みながら近づいてきて、
「さっきの英語の話。今度行くから聞き取りだけでも練習したほうがいいという忠告してくれただけ」と小声で言ったら、
「あいつと話すとあちこちうっとうしいぞ」と見回していて、周りの女の子がひそひそ言っている子もいたり、興味津々で見ている子もいた。
「ごめん、気づかなかった」
「あいつは目立ちすぎるからな。背は高いし、ほっそりしていてあの顔立ち。モデルでも俳優にでもなればいいさ」と素っ気無い態度で言われてしまい、
「拓海君、変だよ」と言ったら、
「別に」となんだか機嫌が悪かった。

 バスの中でぼんやりしていたら、
「お疲れですか?」と碧子さんに聞かれた。
「なんだか、ちょっと自信がなくて」
「自信?」
「碧子さんのように綺麗だったら違っただろうな」
「あら、違うと思いますよ」とすぐさま否定されたのでびっくりした。
「え、でも」
「私は自信なんてありませんもの。ただ、自分で出来る事をしていきたいと思いました。詩織さんを見ていてそう思えますから」
「私?」
「変わってきたと思いますよ。山崎さんや楢節さんの影響かもしれませんわね。でも、私も変わらないといけないと思いましたの。姉を見ていて」
「お姉さん?」
「自分の生き方は自分で決められるようになりたいですから」
「自分の生き方?」
「私は祖母や親、姉の言うとおりにしてきたところがありますからね。縛られていたのかもしれません」
「うーん」と考えていたら碧子さんが微笑んだ。
「山崎さんとのお付き合いで変わってきたと思いますよ。だから、そう考え込まなくても徐々にでいいのではないかと」
「私は良く分からなくて」
「本人はそうかもしれませんね。でも、私も同じです。人それぞれの歩幅があるのだと思いますから」
「歩幅?」
「進むペースですわ。私、のんびりしてますから、カタツムリでも牛でもいいのかと思います」
「うーん、そう言われても、自分でも行ったり来たり迷ってばかりで遠回りしている気がする」
「遠回りもいいものですわよ。寄り道、道草、私、好きですわ」とのんびり言われて、碧子さんってなんだかいいなと見つめていた。

 食事はあちこちうるさかった。先生も注意はしていたけれど、学級員や班長が怒っているのがあちこちで見られた。
「いい加減にしろよ」と拓海君も言っていて、
「班長、痛い」と叩かれた男子が後ろでぼやいていた。
「横暴だ。俺は悪くないぞ。おかわりしているだけだ」
「横入りだろう」と言い合っていて、
「うるさい」とやっていたけれど、
「やめろ、みっともない」と本郷君がやってきて止めた。
「お前も注意しろよ」とそばにいた仙道さんに怒っていて、仙道さんが、
「聞いてもらえなくて」と困った顔をしていて、
「はいはい、うっとうしいからやめな。さっさとご飯をつける。後ろがつかえているから」と根元さんが男子の背中を叩いていて、男子は渋々動いていて、
「まったく、2人ともちゃんとしてよ」と根元さんがぼやいていた。

「ねえ、どうなると思う?」と興味本位な言い方で、三井さんが言い出した。ちょっと離れたところにいたけれど、部屋中、みんなが聞こえる声だった。
「知らない。勝った方が優勢でしょ」と言っている女の子がいて、
「手越、甘いって、声が大きい方が勝つよ」と言い合っていた。
「あれ、碧子さんは?」と班長の桃子ちゃんが聞いて、
「逢引」とそばの女の子が笑って答えていた。
「えー、嘘でしょ。あの碧子さんが?」とみんなが途端に笑った。
「それがそうでもないんだよね。さっき、階段のところで会ってたよ」と教えていた。男子は上の階に泊まることになっているけれど、階段のところに女の子も男子もいて話をしていたようで、
「私も行こうかな」と言い合っていて、
「本宮君でしょ」とからかわれていて、
「え、それは」と円井さんが困った顔をしていた。
「返事はどうなったの?」と聞かれていて、
「それが、なんだか、困った顔をしていて、『今は駄目だ』と言われてしまって」と円井さんが赤い顔をしていた。その後はひそひそ言い合ったため、聞こえなくなって、
「ねえ」と話しかけられて、振り向いたら三井さんで、
「王子と怪しいって、本当?」と聞かれて、きょとんとしてしまった。
「あれ、違うみたいだね」とみんなが見ていて、
「詩織ちゃんにそれはないでしょう」と桃子ちゃんがやってきて笑った。
「ハッキリしなさいよ。呆れるわよね。抜けがけするのが好きなんだってね」と三井さんが決め付けるように言ったため、
「抜けがけ?」とびっくりした。
「洋子の情報。あれ、違うの?」と言われて、
「えー、鈴木洋子の話は10に一つしか当たらないガセだと有名じゃない」
「矢井田も同じだって」とそばの女の子達が笑っていて、
「そういうことは言わない」と根元さんが入ってきて、
「志摩子もいい加減にしな。そればっかり言いふらして、それから、仙道さんもちゃんと止めなさいよ」と奥の方にいた仙道さんに言って、
「あ、ごめん、打ち合わせしていて、気づかなくて」と仙道さんが答えていた。
「あなた、そればっかりよね」と呆れていて、
「そっちの戦いは決着つきそうだね」と三井さんが笑っていたため、
「志摩子も逸子も噂話はやめなさいよ。やっかみで嘘流すのも禁止」と根元さんが怒ったけれど、
「え、別に、やっかんでなんて」と手越さんが不本意そうだった。
「山崎君に振られたから言いふらしてると聞いたよ。やめたほうがいいよ」と他の女の子が注意していて、
「ふーん」と気に入らなさそうに外に出て行ってしまった。
「気にしなくていいよ。宇野さんも手越さんも武本さんと同様に山崎君を狙っていたからね。武本さんは注意はしてたけど、友達だから強く言えなかったみたい。でも、面白くないんだよ。あれだけはっきり言われたらね」
「はっきりって?」
「あれ、知らないの?」とみんなが驚いていた。
「体育館で言ってたよ。『付き合ってるのも本当だし、俺は一途だから心変わりはしない』と言い切って、さすがに、すごかったよ」
「そうそう、男子の冷やかしがすごかったのに、山崎君、へっちゃらな顔して、さっさと練習始めたから、さすがに驚いちゃった。ああいうところはいいね」と言い合ったため、頭を抱えていた。そこまで言わなくても。
「詩織ちゃんは鈍い」と桃子ちゃんに笑われてしまい、
「なんだか、よけいに疲れた。もう、寝ようかな」と言ったらみんなが笑っていた。

「せっかく話してたのに、あの後、先生が来たからみんなが逃げたんだよね」と奥でひそひそ言い合っているのが聞こえた。
「でもさあ、やっぱりあの噂って本当なの?あの本宮君に本命の子が出来たって噂」
「そう聞いたけど、一之瀬さんの情報だから当てにならないって」
「おーい、丸ぎこえ」と桃子ちゃんが笑いながら注意していた。
「いいよ、どうせ、知ってるじゃない。志摩子と逸子のそばで言ったら、クラスに筒抜けだけど、このグループはおしゃべり少ないじゃない」と笑っていた。こっちには仙道さんはいるけれど、よほど疲れたらしくて奥の方でもう寝ているようだった。
「うるさい人と部屋別で助かった」と笑っていて、
「向こうは今頃、あることないこと、勝手な事を言い始めていそう」
「根元がいるから大丈夫だよ」
「あの子さあ、すっかり学級委員気取りだよ。このままじゃ、仙道さんがかわいそうだね」
「中々難しいと思うよ。仕切れる子とみんなが従う子は別なんだから」
「根元は言いすぎて、いまいち、ついていけない」
「それぐらいにしておいたら」と桃子ちゃんが止めた。
「私」と隣にいた碧子さんが、
「なんだか、楽しかったですわ」と笑っていて、
「碧子さんが会ってたのはみんな知ってるみたいだね。珍しいね」と言ったら、
「男子も多かったですわよ。上の階に行った方も多くて、でも、呼び出しても出てこなかったそうです」
「だれが?」
「本宮さんとか戸狩さん、それから半井さん」と言ったのを聞こえたらしくて、
「王子は無理だって。話しかけたら無視するもの。綺麗な子が好きだとは思わなかったな。あの2人、くっつくと思う?」と言い合っていて、
「お似合いだけど、できすぎな気がする」
「でもさあ、碧子さんの所も、佐倉さんのところの例もあるし」
「それぐらいにしなさいよ」と桃子ちゃんが止めて、
「本宮君の好きな人って誰なんだろうね?」と円井さんの声がして、
「え、それって、多分さあ」
「誰?」
「二谷さんじゃないかって。話しかけてたらしいよ」
「えー、あの子、先輩に憧れていると言っていたけれど、振られたらしいよ」
「嘘ー、あの子を振るなんてどういう男子よ」
「うちの学年だって」
「じゃあ、本宮君?」
「振られたなら違うじゃない」
「そうかな?ありえるよ。綺麗な者同士でさ」
「そんな」と円井さんが困った声を出していて、
「もう、やめましょう」とさすがに仙道さんが起きて注意したため、話をやめていた。

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