22

本宮君の機嫌

 グループで分かれて行動する時間となって、みんなで地図を見ながら歩いていた、そのうち疲れてしまった人も出て来て二手に分かれていた。
「なんだか疲れましたわ」と碧子さんが言って、一緒にトイレに行く事にした。私は早めに出てきたつもりだけれど、碧子さんはいなくて、待っていたけれどずっと出て来なくて、
「ここで待ってても来ないぜ」と声を掛けられて、驚いて振り向いたら半井君がいて、
「あっちで呼び出しされているから。止めてきた方がいいのかもな。もつれ気味で」
「もつれって?」
「本宮と口論してた」
「え?」
「しょうがないな。ついて来いよ」と言われて、さっさと行ってしまった為、慌てて後を追った。そうしたら、
「だから、私は付き合っている方がいると何度も」と途中から聞こえてきて、奥に行ったら、碧子さんが本宮君に何か言われていた。
「付き合ってほしいと言っているだけだ」
「ですから」
「あいつのことが好きだとは思えない」
「好きですわ」
「どこがだよ。あんな、なよっとした男」
「橋場さんの悪口なんて聞きたくありません」
「俺は生まれて初めてこんな気持ちになったんだ」
「私にそう言われても困ります。先ほどから何度も」と碧子さんが言ったあと、私たちの足音がしたため、2人がこっちを見た。途端に気まずそうな顔をしていて、
「悪いけど、その話はどこまで行っても平行線だと思うから、一旦休止しろよ」と半井君が2人に言った。本宮君は嫌そうな顔をしていて、
「別に言いふらしたりしないさ。そういうのはどうしようもないからな。ただ、場所を選べと言ってるんだ。目撃される心配のない場所で続きをやれよ。今のお前は冷静じゃないぞ」と半井君に言われて、本宮君が、
「わかったよ」と言って、行ってしまった。
「ごめんなさい。ただ、グループからあまり離れるのは心配だったから」と言い訳めいた事を言ってしまった。来るんじゃなかったと後悔していて、
「違うさ。止めに来ただけ。二人で来たほうがまだいいかなと思っただけだ。君もさっさと戻ればいいんだ。何も今話す必要はなさそうだぞ」と半井君が言ったため、
「そうですわね。助かりました。戻ろうとしたら手を握られてしまいましたの。さすがに驚いてしまって、でも、来てもらって、かえってよかったですわ」
「え、どうして?」と驚いた。
「多分、二度とこういうことはしなさそうですもの。あの方、プライドは高いように見えますから」と碧子さんが言ったため、半井君が笑っていて、
「見かけによらず、良く分かってるみたいだね。とにかく、君もああいうことはいくらでも言われなれているだろうから、軽くあしらった方がいいね。じゃあな。俺、こっち」と言って、半井君がさっさと行ってしまった。
「不思議な方ですわね。人と距離を置いているように見えて、ああいう時は来てくれて」
「訳が分からないなあ。あの人の行動の意味がどうしても分からない」
「あら、多分」
「多分、なに?」
「詩織さんのためでしょうね」
「え、どうして?」
「あの方もほっとけない人なのだと思いますわ。ただ、それを素直に出せないと言うか、警戒心が強いようですわね。外国暮らしが長いと抑えないといけない部分が歯がゆいのかもしれませんわね」
「抑える?」
「桃子さんが、言ってましたわ。行きましょうか」と促されて戻る事にした。
「外国で暮らしていたら自己主張をハッキリしないと生きていけないそうです。そうしないと負けてしまうそうですよ」
「負ける?」
「外国にホームステイした親戚の方が言ってらしたそうですよ。だから、日本に帰ってくると歯がゆくて、向こうの方が分かりやすくて自分に合っていたから、いつか向こうに行きたいと言っていたそうです」
「彼も同じなのかな?」
「言いたいことが言えないジレンマはありそうですわね」
「それは分かる気がする。注意してばかりいたらしいから。悪口とか嫌いらしくて」
「向こうでは意見があったら本人に言うのが普通なのかもしれませんわね。だから、彼に取ってはそれが当たり前の行為で、でも、日本では嫌われてしまうこともありますから、注意しないと」
「そこまで違うものなのかな? 同じ人間でも」
「文化が違えば、それだけ考え方も違いますよ。歴史の流れで人の考え方は変わると教えて貰ったことがありますから」
「誰に?」
「小学校のときに時代劇や歴史の本が好きな男子がいまして、色々教えて貰ったことがありますの。日本人のこの考え方も気候や歴史の流れがとても関係あるそうですわ。だから、向こうも同じなのではないでしょうか」
「気候……歴史……」
「素敵だと思いますわ。お勉強をしていても、そういう見方もあるのですものね。話してみると色々な考えがあるのだなと思いましたから」
「碧子さんは素敵だね」
「あら、恥かしいですわ」
「私、そうやって考えていなかったかも。井の中の蛙だなあ」
「あら、中学生ですもの。視野が狭くても仕方ないと思いますわよ」
「楢節さんに散々言われたからなあ。あの人は視野が広すぎて付いていけなかったけれど」
「でも、素敵な方だと思いますわ。詩織さんの事をほっとけなかったみたいで、ああいう優しさもいいですわね」
「優しさ?」
「あの方は気まぐれのようですけれど、とても優しい心もお持ちなんだと思います」
「優しい心。碧子さんの方が優しいよ。物事の見方に温かみがあるなあ。そういうところは素敵だな」
「ありがとうございます。でも、橋場さんも素敵なんですよ。心が広くてあたたかい方ですから」
「そう、素敵だね」と言ったら笑っていた。

 その後、男子と合流してから本宮君は顔も合わせなくて、あえて無視しているような態度に見えて、
「なにかあった?」と途中で桃子ちゃんに聞かれてしまい、
「疲れただけ」と言ったら、
「佐倉は体力がなさ過ぎだ」と男子に注意を受けた。
「タクももう少し教育しなおせよ。このままじゃ王子に取られるぞ」
「うるさい」と拓海君が睨んでいた。時々、機嫌が悪くなるなあ。布池さんはみんなよりすぐに遅れてしまうため、
「急いで」と桃子ちゃんに注意を受けていて、
「荷物、持とうか?」と沢口さんに聞かれていて、
「大丈夫」と慌てて歩いていた。
「男子、足が速いって、長さ考えてよ」と桃子ちゃんがぼやいて、
「ピッチ走法でいけ」と男子が笑っていて、
「帰宅部、文科系の部活に言わないでよ」とぼやいていた。沢口さんは吹奏楽で、小宮山さんは卓球部だった。
「卓球はがんばってると聞いたぞ」と男子が言いだして、
「体育館の中で居心地悪いからやめてよ」と小宮山さんがぼやいていて、
「弟を見習えよ」
「あら、弟さんがいらっしゃるの?」と碧子さんが聞いたとき、本宮君が見ているのに気づいた。
「生意気なんだよね」
「え、カッコいいとみんなが噂していたよ」と沢口さんに言われて、
「うちの部もうるさいぞ。年下なのに、かわいい、かわいいと連発していて、やっぱり顔だな」と男子に冷やかされていた。
「そう言えば、言ってたな。小宮山の弟なのか? あのサッカー部の上手な男子」と拓海君が聞いていた。
「そうだよ」と途端に本宮君が気に入らなさそうだった。
「お前はエースストライカーだったな」とみんなが笑っていた。本宮君は校庭で練習はしているけれど、反対側の奥でやっているため、練習風景は知らなかった。野球部よりもはるかに遠くでやっていた。
「最近、騒がれているからってうるさくなってきて、水泳部が覘いてるんだよ」と本宮君が呆れていた。
「へえ、そうなんだ。近くだったね」と桃子ちゃんが聞いて、
「体育館とは反対側だからな。水飲むのもそっちに行くから、ちょっとうるさくて」
「お前は騒がれるのが好きだと思ってたよ」と男子が笑った。
「もうやめたから」と言ったため、
「えー、どうして?」と沢口さんが驚いていた。
「やめたんだよ、ああいうことはね」と機嫌が悪そうで、それ以上聞けなくなっていた。

「なあ、本宮、機嫌悪くないか?」と男子に言われた。一部の人が戻ってくるのを待っている間に、雑談となり、
「タクも同じだろう。佐倉、2人でこれからデートして来いよ。こいつの機嫌が悪くなると俺たちにとばっちりが」
「何を言ってる。他のクラスの女子の後ろをついていくな」と拓海君が睨んでいた。
「みんなあちこちあるね」と沢口さんが笑っていて、
「本宮君が振られたという噂って本当?」と聞いていた。
「誰に?」と男子が興味津々で、
「二谷さん」と言った時、拓海君がほんの少し反応していて、
「えー、あの子にか? ないだろうなあ。確か、二谷さんって、テニス部の男子と噂になったあと、先輩に振られたと聞いたから、本宮は振ってないだろう」
「その辺にしておけ」と拓海君が止めた。
「えー、ちょっと気になるじゃん。あの、本宮が振られたなんて」
「お前らだって、隣のクラスの女の子と色々あったろ、お前は吹奏楽の後輩の」と拓海君が言い出したため、
「ああ、やめてくれ」と慌てて止めていた。
「二度と言うなよ。本宮はああ見えて気にするタイプ。お前らも言われたくないだろうから」と拓海君が注意していて、
「でもさー、あれだけモテたヤツだからな」
「それって、僻み以外の何ものでもないじゃない。ちょっと、小さい」と桃子ちゃんがからかって、
「本郷と一緒にするな」
「何か言ったか?」といつの間にか本郷君が近くに来ていて、
「いーやー、いい天気だな」とごまかしていた。

「本郷がうっとうしい」とお風呂から出てからみんなが言い始めた。
「言えてる。小さすぎて、やだ」と言い合っていて、何があったか報告していた。
「何でもかんでも干渉してきて注意しなくていいことまで言うし、先生の顔色伺った意見になるし、なんだかやだった」
「でもさあ、あの2人なんかすぐに抜けて、怒ってたけど」と言い合っていた。
「困るよね。あちこちもめてるのに仲裁する人がいなかったの。根元さんがいなくなると途端に大変だったからね」
「でもさあ、時間の問題じゃないの? だって、順位の発表で教える約束でしょう?」
「あれって、本郷君以外は参加してないと聞いた。根元さんと本郷君だけしか教えないかもよ」
「ねえ、そろそろ、やめたら」と桃子ちゃんが注意したら、根元さんが戻ってきて、
「ちゃんと感想とか書いておいた? あなたたちの場合はすぐに人任せだからね」と怒っていて、
「はーい」と気のない返事をしていた。

「それで、何が問題なんだよ」と拓海君が聞いたら、
「あちこちでやめてほしいと私に言われてしまったけれど、本郷君はああいう人だから」と仙道さんが困っていた。
「女子も男子も色々ありそうだね」と本宮君もそばにいて聞いていて、
「でも、どうしていいか」
「先生から注意してもらうとか?」と本宮君が助言したら、
「もう、頼んでみたけれど、『先生に言いつけるなんて、君も困った人だね』と言うだけで」
「言いそうだよな」と拓海君が本宮君とうなずいた。
「無理かもしれないな。あいつの場合は校長か教頭ぐらいまで行かないと言う事をきかないかも」と拓海君が困っていた。
「ほっとくしかないさ。あいつが変わるとは思えないよ。学級委員に決まってしまってから、ぼやいてもね。彼の場合は難しいと思うよ。去年はどうだったか知らないけれど」と本宮君が言って、
「似たようなものだろうな。仕方ないさ、このまま様子を見よう」と拓海君に言われて仙道さんは困った顔をしながら離れて行き、
「困ったもんだ。あちこちね」と本宮君が素っ気無く言って、
「お前も途中抜けたくせに」と拓海君に言われて、
「ちょっと道に迷っただけだ」
「嘘つけ。『碧子さんたちと同じ方から戻ってきて道から外れていた』と女子が言ってたけど、何か揉め事でもあったか?」
「ない」と素っ気無く言って、さっさと行ってしまい、
「あちこちあるよな」と拓海君が困った顔をしていた。

「なんだか、眠い」と言いながら布団の上にいたら、みんなが笑っていて、
「ほら、書くだけ書いてから寝る」と桃子ちゃんに注意されて渋々、考えていた。
「えー、嘘ー! 言ったの?」と三井さんの声が廊下から聞こえてきた。
「それで、それで?」
「断ったらしいの。煮え切らないよね、須貝君」と聞こえたため、碧子さんと同時に桃子ちゃんを見たら、ちょっと動揺していた。
「でもさあ、彼ってアニメの女の子が好きなら無理じゃないの? 勝ち目はないし」
「でも、諦めきれないらしいよ。あちこちで写真を頼んでいるしね。それなのに断ったんだって。山崎君も本宮君も隠し撮りしか無理かなあ」
「本宮君、昔は引き受けてくれたのに、急に冷たくなった」
「ねえ、やっぱり二谷さんなのかな」と言い合っていて、
「ほら、うるさい。通行の邪魔。志摩子、早く戻って書く」と根元さんがやってきて注意しているのが聞こえた。

 今日は疲れていたので話には参加せずに早めに寝ていたら、
「もう一度がんばってみたら」とひそひそやっていた。
「でも……」
「がんばったほうがいいよ。諦めきれないでしょう?」
「ねえ、それよりさあ。男子ってどうして見た目ばかり優先するのかな」
「見た目?」
「だって、『お前はちょっとなあ』と顔を見ながら断られて、聞いたら、『顔がかわいくないから』って、言われて叩いちゃった」
「えー、それってひどくない?」
「小学校の時ならよく言われた」
「そっちは子どもだったから無邪気に言えただけじゃないの。未だに言うってことは、そこにこだわってるってことだろうね」
「どうかなあ? 本宮君もそう言えば、断らないように見えて、綺麗系を選んでいる気がする。かわいいタイプもありみたい」
「私は?」
「大丈夫じゃないの?」
「じゃあ、どうして今は駄目なんて」
「理由を聞いてみたら?」
「それよりさあ。王子が気になる。今日も芥川さんと仲良く話していたよ。いよいよ怪しいよ」
「えー、そうなの? やだー」
「おーい、寝てる人がいるから、声を潜めて」と桃子ちゃんが注意していて、
「佐倉さんと氏家さんは寝てるみたいね」とこっちを見ていた。
「山崎君はどうなるんだろうね? 顔は関係ないとか?」
「そう? きついタイプ、積極的なタイプは駄目だと聞いたことがあるよ」と桃子ちゃんが答えていた。
「じゃあ、それで佐倉さんにしてるの? 幼馴染の腐れ縁という噂もあったじゃない」
「ないみたいだよ。ミコちゃんも幼馴染なんだって、でも、『絶対ありえない』と断言してたようだし」と桃子ちゃんに言われて、
「ああ、それは聞いてた。体育館で言ってたもの。ありえないと言ったから、後で観野さんが笑いながら怒っててね。それで気になったから理由を聞いたら、バスケ部も寄って来て、それではっきり言ってたよ。『俺が付き合いたいから付き合ってる。それだけで十分だろ』と言って、逃げられた。はっきり言われて唖然としたけど」
「山崎君って、王子と同じで結構すごい事を言うね」
「王子って、本当にああ言ったの?」
「なにが?」
「『君はそうやって言って楽しい?』とか、色々」
「私が聞いたのは、『悪口言ってる怖い顔を見ている身にもなれ』と言ったとか言わないとか」
「言いそうだね」
「でもさあ、そう言えば、どうして王子は佐倉さんに話しかけてるの?」
「え、そうなの?」
「王子って男子も女子も話しかけにくい雰囲気持ってるよ。霧さんはともかく、佐倉さんとはどうしてかな?」
「さあ、知らない。桃子ちゃん、知ってる?」
「別にいいんじゃないの。彼の場合は嫌いなタイプだけはハッキリしてるらしいし」
「嫌いなタイプって?」
「一之瀬さんでしょ、後は内藤さん、後は怒られていたのは誰だっけ?」
「テニス部の子が怒られてたんだって。後ね、陰口悪口を言う子は嫌いみたいだよ」
「えー、それって困っちゃうね。前途多難だな」
「王子に似合うのは美女かお姫様ぐらいでしょう。高望みし過ぎだって、松平君の時も騒いでね。後は」
「そろそろ、寝てください」と仙道さんに止められて、
「はーい」と言いながら話をやめていた。

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