33

スムーズにいかない

 テニス部の問題がもめていたけれど、手探り状態でやっていた。クラスの方では、テストが近くなり、男子も一部の女子も目の色を変えている人もいた。
「さすがに、あちこちの顔が変わってきてるよな。今度は誰が勝つやら」とそばの男子が話していた。女の子は固まって話をしていて、
「いい加減にしろ」と怒鳴られているグループがいた。三井さんと加賀沼さんたちだった。
「あら、いいじゃない」とぼやいていたけれど、本郷君が睨んでいた。
「これぐらいで怒鳴るなんて、噂どおり小さいさいのね」と小声で加賀沼さんが言ったため、
「なんだと」とすごい剣幕で睨んでいて、
「本郷、やめろ」と拓海君が止めたけど、
「やらせてやれよ。本郷も一度はみんなの本音も分かったら」と無責任な事を言い出した男子もいて、
「ほんと、小さい」と小声で言ってる男子もいた。本宮君と仙道さんも寄って来て何とか取り成しているのが見えた。
「テスト前だとピリピリしてるらしいね。他のクラスでも」と沢口さんが言ったため、そうなんだ……と聞いていた。
「A組は仕方ないよ。先生も他のクラスに負けてはいけないということを言うんだってだ。あの先生、昔からそうだからね。受験関係なんだと思う。負けず嫌いなのか、PTAや教頭校長の顔色伺ってるとお母さんが言ってたの」うーん、色々ありそうだ。
「夏休みに早めに部活をやめて塾に行きなさいと言われてるけれど、文化発表会の後しか駄目なんだよね。だから、両立しないと」と言ったので、びっくりした。
「そこまでやるんだね?」
「仕方ないよ。人数合わせ。体育館でやる時にあまり少ないと貧弱だからという理由。でも、ほとんどが直前になって加わるらしいよ。勉強を優先すると聞いた。当たり前だよね」それはそうだろうなぁ。
「美術だって、3年生も絵を提出するし、2枚描くから大変だって。もっと多く展示する人もいるらしいけど」半井君、ひょっとして展示しないだろうなと心配になった。

 休み時間に半井君を見かけて、聞いてみた。
「ああ、するよ」と簡単に言われて、声を潜めて、
「えっと、誰を描いたのかばれないようにお願いします」と頼んだら笑っていた。
「それじゃあ、意味ないじゃん。いいだろ、顔は小さく描くから、多分、分からないぜ」
「そう言われても、じゃあ、霧さんの絵をたくさん描くとか」
「そういうのは面白くない。あいつばかりでもつまらない」
「でも」と言っていたら、ちょっと離れたところにいた女の子達がこっちを見てひそひそ言っていた。
「あいつら、うっとうしい」と半井君が顔を向けた途端、逃げるようにして行ってしまった。
「俺が見るといつもああだ。たまには、『ハーイ』と手を上げて返事ぐらいすればいいのに」
「え、どうして?」
「向こうじゃ、普通。気候がいいところのやつは結構フレンドリーだぞ。手を上げて、挨拶ぐらいはするさ。目が合えばね」
「えー!」
「お前は何にも知らないな。しょうがないか。日本は外人はめったに会わないからな。まあ、いいや。指導してやるよ。指導をかねて、やってもらわないとね。俺、3枚描けって言われたから」
「多いね」
「仕方ないさ。下手なやつのは少なめにしたいと部長がぼやいていた」何も言えない。
「俺のは結構評判がいいから、多めにしておけば見学者が来るって。釣りの餌かよ」と言ったので笑ってしまった。
「仕方ないよ、話題の人だし」
「ふーん、そういう理由でああいうものをくれるんだな。直接言えばいいものを」
「え?」
「日本って、不思議だよな。ラブレターって机の中に勝手に入れるんだな。靴箱だと目立つからと聞いたけど、そうなのか?」
「もらったんだ?」
「時々もらう。山崎もか?」
「さぁ、知らない。そういうことは言わないかもしれない。昔はあったと思うけれど」
「ふーん。まあ、いいや。文章の練習で俺も書いてみるかな」
「えー!」と言ったら笑っていて、
「お前ってすぐ真に受けるな。からかい甲斐があるよ」と行ってしまった。そうか、かなりもてそうだなと思いながら教室に戻った。

 昼休みの間も拓海君と問題を出し合っていて、周りも似たような風景になっていた。
「あちこち、真面目」と言って、井尻君がやってきたけれど、すぐに出て行った。
「あいつが来ると緊張する」と言い合っていて、
「義務教育だから、出席日数だけ考えて来てるらしいよ。授業なんてそのうち、来なくなりそうだね」と言い合っていた。井尻君は休みがちだった。
「なんだか、たまり場のそばに寄れないよね」
「あそこ、タバコくさいって言われてるよな。でも、他の学校のやつが吸ったと言い張って逃げたらしいよ」
「ふーん、なんだか嫌だね」と言い合っているのが聞こえた。
「お前は英語だけ、やけに出来るようになってないか?」と拓海君に聞かれて、
「そうでもないけどね」と言いながら英単語を出し合っていた。
「俺は英語は苦手だからな。数学の方が楽だ。
「そう」と考えていたら、
「どうかしたのか?」と聞かれたけれど何も言えなかった。

 期末テストに入ったら、さすがに先生も生徒も必死な感じになっていて、のんびりしているのは一部だけだった。
「俺の入りたい学校に入るには点数が足りない」と言い合っていた。
「本郷は今度負けたら、面子丸つぶれだよな。あれだけ威張っておきながら」とそばの男子がひそひそ言い合っていた。
「磯辺だって必死みたいだぞ。あいつ、少し落ちたんだって。矢部が部活やめて家庭教師をつけたらしい」
「へえ、あちこちマイペースなんじゃないのか。ミコと弘通はどうなんだろうな?」
「ミコはダントツだろ。磯辺は負けてばかりいるじゃないか。2年になってからはそうだってさ。弘通も途中から上がってきた口だろ。あちこち、変わってくるような。転校生で強敵でも来ない限り、ミコはずっと一番かも」
「ふーん、あいつってすごいよな。バレーもテストも全力って感じ」
「でも、男には振られたぜ」と言ったのでびっくりした。
「あー、それ聞いた。何度もアタックしても駄目だったらしいね。あの顧問もさすがに困ってるらしいよ。結構、本気なんだね。先生なんて好きになれないよ」と手越さんがばかにするように言って、三井さんが、
「やだー!」と大声を出した。
「やめろ。そういう事を言うな。みっともない」と拓海君が止めてくれた。
「え、でも」と、途端に手越さんがしおらしくなった。
「お前も同じじゃないか。恋だと女は変わるよな」とそばの男子が笑っていたけれど、拓海君は黙ってそばで勉強していた。

 テストが終わって、
「はあー」吐息を漏らしたら、
「眠い」とそばの男子が欠伸していた。
「お前、どれぐらいやった?」
「4時だよ」「えー、俺は5時」「徹夜した」と言い合っていた。
「えー、そんなにやるの?」と三井さんが笑って、
「お前、点数どれだけだよ。人のだけ言いふらしていて」
「知ってる、こいつの点数はね」とそばの男子がばらそうとしていて、
「え、駄目ー!」と騒いでいて、
「いい加減にしろ」と本郷君がまた怒鳴っていた。これで何度目か分からない。本郷君はなんだか様子が変で、怒鳴ってばかりいた。
「順位が落ちそうだからって、うるさい」と小声で言っている男子もいて、本郷君が睨んでいて、
「本郷君」と仙道さんが見かねて声をかけていた。
「さすがにね、苦情が来てるし、先生も心配していらっしゃるわ」と廊下に出てから仙道さんが言った。
「それは、分かっているが、あいつらは自覚がなくて」
「焦るのはやめた方がいいぞ」とそばにいた拓海君が注意したら、
「お前には言われたくない」と行ってしまった。
「あいつ、余裕がなくなってきてるな」
「そうね」と2人で心配そうだった。
 
 部活に行ったら、テストの話題をしている人と、夏休みの話をしている男子がいた。
「塾に行けって勝手に申し込みされていてさ。部活の方は休めとか言われてる」
「俺も早めに引退できないか聞かれたけど、さすがにそこまでしたくない。ちゃんとして引退したいから」
「焦られるとこっちも焦るよ」
「お前ら、余裕がないな」と掛布君が笑った。
「お前は出来る方だからな。前園とお前ぐらいなもんだ。後は全然駄目だ。女子は?」と聞かれていて、みんなが笑って誤魔化していた。
「山崎ってどこ受けるって?」と掛布君に聞かれて、
「まだ、そこまでは」と誤魔化した。
「佐倉も心配だろう? 離れちゃうとさあ」
「絶対にほかの子に取られちゃうよね」と緑ちゃんが笑ったら、
「いい加減さ、そういうの、やめたら」と大和田君が冷めた感じで言ったので、びっくりした。
「小山内先輩って事あるごとに佐倉先輩を馬鹿にしてますけど、どうしてですか?」と結城君が聞いたら、
「だって、ドンくさいじゃない。要領悪くて、小学校の時に先生に怒られてばかりいたって聞いたよ」と思いっきり笑っていた。一之瀬さんに聞いたに違いない。
「ああ、それね。確かに要領は悪かったけど、成績が一之瀬が悪かったからやっかみだと女子に聞いた。佐倉が100点取ったのを知って、それで言い出したって聞いたぞ」
「え、100点?」と緑ちゃんがのけぞった。
「まさかあ」と私を見て思いっきり笑っていた。
「取っただろう? 俺、同じクラスだったから覚えてるもん。そばの男子が佐倉が答案の点数隠してたから取り上げて、勝手にめくって見たら、100だったんだってさ。一之瀬と瀬川が同じバレー部で何かあるたびにばかにしていたのに、面白くなくて色々言い出したと聞いたぞ。二人ともあまりテストの方は良くなかったと言ってた。バレーの女子と話していたバスケの女の子がさすがに見るに見かねてやめるように一度注意したんだって、でも、あの通りの性格だから改める訳もなく、と言ってたよ。そういう話って女子は覚えてるもんだな。俺はそう言えばそういうことがあったな、とこの間の事で思い出して、だから、佐倉を目の敵にしてたんだと納得した。山崎の事だけであそこまでやっかむのは変だし」
「嘘……」と緑ちゃんが私をまじまじ見ていた。
 そういうことがあったなと思い出した。転校したばかりで慣れない事だらけで要領が悪くて先生に怒られてばかりいた。前の学校の先生と違って団体行動ができないとにらまれるため、よけいに萎縮していたなと思い出した。反対に一之瀬さんは何かあるたびに先生のそばに行き話しかけて、かわいがられていたようだった。でも……、
「一之瀬ってその頃から性格が悪いんだな」と田中君が笑ったら、
「やめろ」と掛布君が止めた。
「小山内も田中も残り少ない時間を有効に使いたいから協力してくれ。お前たちの場合は羽目をはずしすぎる。処分なんてしている暇があったら少しでも時間を有効に使いたい。それか、遊びに来るなら早めに受験準備に入って引退するか」と言われて、さすがに緑ちゃんが困った顔をしてうつむいていた。
「そういうことで頼む」と掛布君は練習をし始めた。
「前から思ってたんですけど、小山内さんって佐倉先輩をばかにできるほどクラスでは活躍してるんですか?」と結城君が聞いたら、
「えっと、それは……」と緑ちゃんが逃げ出そうとしていて、
「反対だから言うんだよ。小山内の成績、俺知ってるから」と男子が言いだして、
「えー!」と緑ちゃんが慌てていた。
「少なくとも小山内の場合は人のことは言えないよな。点数言えないから省くけど」と笑われていて、緑ちゃんは逃げていた。
「まったく」と結城君が呆れていて、
「ほっとけ。人のことは言えないやつが言うんだよ。俺のクラスの女子も同じだった。俺が友達と点数張り合ってたら馬鹿にするように笑ったんで、友達の方がその女の子の点数聞いたら逃げたんだぞ。結局俺よりはるかに下だったんだよ。俺、そういうやつ、苦手」
「俺も」と男子が言いながら練習しに行った。
「意外。口に出さないだけで、やっぱり思ってるんだね」と後輩達がうなずきあっていて、意外と見ているけれど、口に出さないだけなんだなと思った。

「ねえ」と休憩時間中に緑ちゃんがおずおずと聞いてきた。
「なに?」と聞いたら、
「本当なの、さっきの? 100点なんて嘘だよね」と聞かれて、
「ふーん、お前でも成績を気にするんだな。了見が狭い」と近くにいた大和田君が冷めた顔で言った。
「え、どういう意味?」と緑ちゃんがいつもと違って元気なく聞いたので、どうかしたのかなと思った。
「自分より下だと思ってたんだろ。だから、馬鹿にしてたんだ。お前、そういうことは気にしないのかと思ったけど、だから、佐倉をからかっていたのか。女子ってどうしてそうなんだろうな」
「大和田、言いすぎだ」と戸狩君が止めた。バレーの男子もその辺で休憩していた。
「大和田の気持ちは分かるよな。俺にもさぁ、お前よりは出来るぞってアピールなのか、見下した言い方する、癪≪しゃく≫に障るやつがいるんだよ。お前も同類に聞こえたんだけど」とバレーの男子に言われて、
「ひどい」と緑ちゃんが怒っていて、どこかに行ってしまった。
「あいつは反省しないな。謝っとけばいいのに」と戸狩君が笑っていて、
「無理だね。だから、テニスも上達しないんだ。学習しないタイプは俺は苦手」と大和田君も行ってしまった。
「あいつも冷めてるねえ。正反対の女が好みだから分かるけれど」と戸狩君が苦笑していた。
「どう言うタイプがいいの?」とそばの人が聞いていた。
「女の子は綺麗で控えめ、3歩下がって付いてくるタイプ。後は上品でおしゃべりじゃない子だろうな。今までの例から考えると」とバレーの男子が笑っていて、
「納得」とテニスの後輩がいつのまにか聞いていて、かなりの数がうなずいていたので、みんなが苦笑していた。

 練習後に小平さんから相談があって、今後の練習方針を話し合っていた。
「球技大会の練習に参加したいという希望が出ているので、そちらを優先してもらおうと思います。後輩の間では練習内容と指導不足の問題で苦情が出ていますので、変更したいと思っています。一人に一人が付く形は変更して、指導は担当を決めて日替わりで付く事。選手の方は空いた時間に協力してください」
「えー、そんな時間あるわけないじゃない」と相良さんから文句が出ていた。
「選手を選考するのはいつなの?」と元川さんが聞いて、
「試合まで時間がありませんから、折を見て顧問と決めたいという話です」
「早く決めたら」という声が上がっていたけれど、
「一之瀬さんと緑ちゃんが帰ったあとだけど、事後報告でいいの?」と美鈴ちゃんが心配そうに聞いた。最近、2人は面白くないのかさっさと帰ってしまう。小平さんは淡々とした顔で、
「それでかまわないでしょう」と言い切ったため、誰も何も言わなかった。
「練習方法は試合直前には実践を取り入れてやっていきます。今は基本の見直しをお願いします。それから、ペアの話し合いをしてないところはちゃんと意思確認をお願いします」
「できないわよ」と相良さんから文句が出ていたけれど、みんな何も言わなかった。

「点数ねえ」と拓海君にさっきあった事を聞かれて、しかたなく説明したら、そう言われてしまった。
「戸狩から軽く聞いた。まったく、あの子も困ったもんだよな。コンプレックスって、やっかいだ」
「え、どうして?」
「誰でもどこかに欠点はあるさ。もっとも気にしないタイプもいくらでもいる。芥川さんなんか典型的なタイプだよな。小山内は気にしないタイプだとばかり思ってた」
「それは私もそう思ってたけど」
「一之瀬が裏で昔の事をばらしてバカにしあってたから、前園さんや加茂さんもどこかお前の事を下に見てたんだろうな。柳沢とテニス部員に垣根があることと同じかもな」
「え、どうして?」
「言い合うことで連帯感ができるとでも思ってるんだろうな。そこにいない誰かをバカにする事でグループにまとまりができ、自分達の憂さを晴らすんだろうし、周りが同調してくれる事で連帯感があると錯覚するのかも」と嫌そうな顔をした。
「え、そんな理由なの?」
「だと思う」と苦い顔をして言った。
「俺はそういうやつは苦手だな。大和田がきつい事を言ってたらしいな」
「ああ思っていたんだね。結城君も男子も。ちょっと驚いた」
「口に出さないだけ。男子は、言うとヤバイなと思うと言わないぜ。女の子は裏で言うだろ。だから、それでギクシャクしやすいし。女は『はっきり言ってよ』と怒るけど、全部言えばいいってもんじゃないし」
「そう言われたらそうだよね」
「一之瀬の尺度で物事を見てたら、偏るからな。それで小山内もどこかでバカにしている態度で接していたんだろうな。前園さんも同じ。なんだか、嫌だよな。そういうのってさ。せっかく、同じ場所で同じように練習する仲間なんだから、うまくやっていきたいと俺は思うね。誰かをバカにしてたら絶対に仲良くなんてやれないぞ。困ったもんだ」
「どうしたらいいのかな?」
「ほっとけよ。男子に注意されても逃げてるようじゃ。多分、無理。前園さんは変わったんだろう?」
「一之瀬さんたちと離れただけ。緑ちゃんは元々千沙ちゃんとよく話している方だったから」
「ふーん。そうか」
「でも、話す人がよく変わるみたい」
「投書であったらしいな。テニス部の派閥問題」
「派閥?」
「書いてあったんだってさ。絶えずやり合って怖いって。当然だけどな」
「困るね」
「仕方ないさ。意見がぶつかるのはよくあるけど、話し合いで解決できないから」
「公私の区別をつけてほしいと小平さんが」
「普通はそうなんだぞ。どこの部活でもうまが合わないやつなんていくらでもいるさ。一之瀬のような態度はしないだけ。普通はそれとなく表面上だけ合わせておく。それでいいと思う。気に入らないから相手をこき下ろしたり嫌がらせしたりするから嫌がられるんだよ。そこまでやるやつはさすがに少ない」
「半井君が言ってたの」
「また、あいつかよ」
「それがあの人が一度追い出された理由だろうって。気に入らない人がいても、その人を困らせて、『ざまあみろ』とは普通は思わないと言っていた」
「ふーん。まぁ、同感だけど。あいつって意外と見てるよ。この間も驚いたけど、どうしてテニス部の事をそこまで知ってるんだ? 噂だけでそこまで分かるのか?」
「さぁ、気になって見ただけと聞いた。そう言えばすごいよね。部活での体制まで言えるのはね。当事者同士でも分かってなかったし」
「違うさ。加茂さんに一之瀬問題が続いたからだ。先輩が引退してから問題が次々起こったから、そんな余裕がなかっただけ。今になって立て直そうと本気で思ってるから、そういう部分が気になってきてるんじゃないのか?」そう言われたら、そうだったかも。目の前の事を片付けていく事に必死でそこまでの余裕がなかったなと思い出していた。
「仕方ないさ。普通は変更程度で、そこまで崩れ切ってない。部活として体制が崩れてきているのに先生もほっといたから、ああなっただけ。小平さんと湯島さんだけで立て直せるわけないじゃないか。部長になり立てで後輩もいて、手探りでやってたんだろう? こっちも同じだったけど、練習の仕方も全て先生が仕切ってくれているし、一人一人の注意点は先生が教えてくれて、後は先輩がフォローしてくれる体制なんだよ。そういう部分で違いすぎる。バスケの女子はその辺が崩れてきているし、やる気のないやつが混じってるからな」
「そうなんだ」
「立て直すのは骨だぞ。お前たちの学年の事だけ考えて、後輩の指導は選手以外と先生に任せるしかないさ。時間がなさ過ぎる」
「そうだよね」としか言いようがなかった。
「あの時、ああすれば違ってたかなって思うことばかり」
「スムーズにことが運んで計画通り行くのは稀≪まれ≫だと思う。修正しながらやっていくものなんだよ」
「そうなんだ?」
「そういうものだ。どこの部活も大変なんだよ。人数が少ない柔道は存続問題で必死だし。美術も同じ。人数が多すぎても少なすぎても問題はあるの」と言い切られて、そういうものなんだなと聞いていた。

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