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デート気分

 球技大会の話を周りがしていた。ざわついているのはテストが終わって夏休みが近いからかなと見ていた。
「でも、困っちゃうなぁ。親がうるさくなってきてね。あちこちと噂話をしていて、そろそろ受験準備に真剣に取り組んだ方がと親に言われちゃった」と小宮山さんがぼやいていて、
「こっちはそうでもないけど、女の子なんだから、商業高校に行って、結婚相手を見つけなさいと言われちゃった。どうしたらいいのか」
「いくらなんでも早いよ」と小宮山さんも笑っていて、
「笑い事じゃないよ。結婚相手なんて、彼氏もまだいないのに」
「好きな人に告白すれば」と言って沢口さんが笑っていて、
「そんな、恥かしい」と小宮山さんが照れていた。
「小宮山さんね、サッカー部の」と沢口さんが言いかけたら、
「ああ、だめ」と慌てて止めていた。
「みんな知ってるって。桜木君でしょう?」とそばの女の子がからかったら、
「え、やだ」と慌てて顔を伏せていてみんなが笑っていた。
「本宮君に言いつけるよ」と小宮山さんが顔を伏せたまま、沢口さんに言って、
「えー、だめ」と2人で止めあっていた。本宮君と碧子さんはあの後、進展はしていなかったようで、
「勉強だけしてたって、つまらない」と女の子が言い合っていた。男子は球技大会の話で盛り上がっているところもあれば、
「模試の点数が分かったら、俺、困るよな」と言い合っている人もいた。
「夏休みの点数が結構参考になるんじゃないの?」
「夏休みの模試でもさ。結構差がつくらしいよ。兄貴に聞いた」
「俺もやらないとな」と言い合っていた。

 昼休みに半井君が教室の入り口に来ていて、私と目が合ったので、なんだろうと外に出た。
「お、また密会だ。誰か山崎に言ってやれよ」と言っているのが聞こえたけれど、そのままそこから離れた場所に行ってしまったので慌てて追っかけた。
「さっき、霧から再度頼まれてね。爺さんに相談はしたけど」
「そう」
「行ってもいいってさ」と言ったため、びっくりしてしまった。
「え、でも、だって」
「爺さんはそういう方面で理解はあるからな。俺の進学も心配してくれて、あの親じゃ口出ししてくるのは当然だけど」
「えっと……」
「だから、お前たちと一緒に行くよ」
「じゃあ、霧さんは喜ぶね」
「無理だ」
「え、でも」
「霧とは別行動。大体、親も説得できてないようだぞ」
「そう。じゃあ、駄目かもね」
「だから、親の同意を得て、更に親が付いてくるなら行けるかもな」
「半井君が行くのに駄目なのかな?」
「だから、別行動だって言ったろ。俺が行きたいのは海のほうじゃなく、学校の方だ。見学したいからと言ったら、爺さんが許可してくれた。こっちの高校も見学はする予定だけど、一応進学する学校を見ておきたいからな」
「そういう理由なんだ?」
「校風は重要だと思う。今後の選択のためにね。俺はどっちに行くかはまだ決めてないけど、大学は向こうにしたいと思ってるからな」
「そう」
「それに日本語苦手だからな。国語が受験科目になければもっといい高校にいけるのに」
「それはあったね」
「でも、しょうがないからな。爺さんは赤瀬川受けろって言ってたけど、俺は高校の中身も重要だから」
「中身?」
「先生の質が悪いところに行ったら意味ないからな」すごい事を言う。
「結構、重要だと思うぞ。お前のテニス部と同じ。上が悪いと下も悪くなるから」
「半井君って、結構、そういう目線で物事を見るんだね」
「ああ、これね。仕方ないさ。レポート書いたから」
「レポート?」
「そういう宿題が出される。本を読んで書けとか、そういうのが結構多い。昔書かされたんだよ。そういう読書感想レポート。確か子どものグループでの内部分裂や問題続出で、何とかまとまってみんなで力をあわせて乗り越えていく話を読まされて、そのレポートでそういう内容を書いて出した」
「なんだかすごいね」
「そうでもないぞ。結構、レポートが多かった気がするな。もちろん、担当の先生によるけど。レポートが少ない先生は喜ばれる」
「そういうものなんだ?」
「こっちと一緒。宿題はみんな苦手」
「なるほどね」
「とにかく、そういうことで、俺も準備しないとな。日にち決まったら教えてくれ。俺も一緒に取らないと」
「それは母が手配してくれると思う」
「ふーん、じゃあ、任せるよ」
「でも、すごいね。お金が掛かるのに。一人旅をさせるなんて」
「俺、結構ふらっと遊びに出かけていたよ。爺さんがお小遣いを多めにくれてたし、親父もそうだったから、バスを乗り継いで旅をしていた。ヒッチハイクもしたかったけど、さすがにもう少し大きくなってからと止められた。もっとも、何度かやったけどね」
「ヒッチハイクするの?」
「向こうは普通だよ。こっちは知らない人は乗せないけど、向こうはそういうのはどこでもあるよ。紙に行き先書いて、道路の横に立って手を出して待ってる。同方向だと乗せてもらえる」
「ふーん」
「女の子だと危ないからやらない方がいいけど」
「そうだろうね」
「とにかく、そういうわけだから。部活終わってから行くんだろう?」
「そうだけど」
「俺もどうせ受験勉強はしないといけないからな。留学するとなるとプレップにしろと言いそうだし」
「そっちにするの?」
「考え中。だから行くんだよ。それに久しぶりにあっちの友達にも会いたいしね」
「そう」と言いながら考えていた。
「なんだよ、困った顔をして」と聞かれて、
「ちょっとね」
「なんだよ、また、山崎か? 了解なんて取る必要はないさ。俺が勝手に付いていくだけ。あいつには関係ない」
「でも……」
「お前って気にしすぎる。あいつの事はほっとけよ。自分を優先しろ」
「それはそうは思うけど」
「気にしなくてもいいさ。昨日のことも目撃したやつがしつこく聞いてきた。霧には口止めしといたよ。でも、目ざといやつもいるよな。俺があの店に入って行ったのを目撃して近くまで見に来たらしいぞ。下校した時に見たらしくて」
「ふーん」
「とにかく、そういうことでよろしく。それから、部活が終わったら、時間を取ってくれよ」
「どうして?」
「大事な役目があるから」
「え、なに?」と聞いたら、絵筆で描くジェスチャーをしていて、
「それはちょっと」
「家庭教師もいるだろうからな。そういうことでよろしく」よろしくと言われても困るなぁとため息をついた。

 教室に戻ったら、男子が口笛を吹いていて、三井さんが寄って来た。
「ねえ、何を話していたの? 最近、仲がいいけど、どうして? 彼と何を話すの?」と興味津々で、
「いつもそうやって聞くの?」と反対に質問したら、
「え?」と相手がこっちを見ていて、私は思わず彼女の口をジ〜っと見たら、
「えっと、いいわ」と退散していた。
「すごい。あの三井を撃退した」とそばの男子が笑っていた。碧子さんが寄って来て、
「彼とは一緒にお勉強する予定ですの。球技大会はどうしますか?」と聞かれて、
「バスケって苦手。バレーよりはマシだけど」とため息ついたら、
「多分、選手交代はないと思いますから、それに期待しましょう」と碧子さんも困った顔をしていた。
「全員出す予定だって」とそばの男子に言われてしまい、
「えー!」と周りの女の子が声を上げていた。
「仕方ないじゃん。下の学年の親がうるさいんだって。『うちの子はどうして出してもらえないんですか』と電話があったらしいぞ」
「そんな電話しなくてもいいのに」とみんながぼやいていて、困ったなぁと聞いていた。
「バスケの部員がいるところが有利に決まってるじゃん」
「交代しないといけないんだって。ずっと出ると不公平だって話」
「えー、そうなの?」
「でも、無理だよね。絶対交代しないと思う。毎年、そう言っては出ずっぱりらしいよ」そうだろうな。ルールなんていい加減だった気がする。
「去年はバレーだったのに」とぼやいていた。バレーも、変わらない気がするなぁと思いながら聞いていた。
「体育館が生徒数の割りに狭いから仕方ないさ」と男子がぼやいていた。

 テニス部に行ったら、一之瀬さんが機嫌が悪そうだった。こっちを見てひそひそ言っていて、でも、寄っては来なかった。そばにいた室根さんが逃げ出すように離れたからだ。
「今日も人数が少ないわね」と小平さんが言った。菅原さんも来ていないし、緑ちゃんもいなかった。
「前園さんと、菅原さんは球技大会の練習です」と千沙ちゃんが報告していた。男子も何人か来ていなかった。
「緑ちゃん、もう来ないかもね。『面白くないから』と言ってたもの。ちょっと拗ねてた」
「掛布に振られたからだろう?」と男子がそばを通って笑っていた。
「振られたの?」と一之瀬さんが途端にうれしそうで、あれだけ話しておきながら、その態度はなんだろう……と思ってしまった。千沙ちゃんも困った顔をして止めていたけれど、
「加藤に、掛布が申し込んでたからな。無理だ」と田中君が笑っていて、
「へえ」と、一之瀬さんはうれしそうで、さすがにその感覚は分からないなと見ていたら、美鈴ちゃんが軽蔑するような目線で見ていて、みんなも困った顔をしていた。
「やめろ。そういうことは言うな」と掛布君がやってきて言った。
「それから、一之瀬。人の不幸を喜んでいるようじゃ、王子に怒られるぞ」と笑っていて、
「また、怒られたんだ?」とみんなが聞いたら、途端に気に入らなさそうだった。
 着替えをして、コートに早めに着いてから、
「あの人は理解できないわ」美鈴ちゃんがちょっと怒っていた。気持ちは分かるなぁ。友達じゃないんだろうか? 
「本当なの?」と千沙ちゃんに湯島さんが聞いていた。
「そっちと一緒。一緒に勉強しようと誘われただけで」と困っていて、
「返事は?」とみんなが興味津々で、千沙ちゃんは困った顔をしていただけだった。
「夏休み入ってすぐ試合でしょう? その後、引退したら、丸々勉強期間になるね」と湯島さんが考えていた。彼女は堂島君と一緒に勉強しているようで、噂にはなっていた。
「堂島君とやるんでしょう?」と聞かれていて、うれしそうに笑っていた。
「佐倉さんは?」と聞かれて、
「私は別に」と考えていた。試合が終わってすぐに向こうに行く予定だった。その後、勉強もしないといけないし、留学生との交流会にも参加しないといけないな。
「海星なの?」と湯島さんに聞かれたけれど、
「わからない」と答えたら、
「え?」と驚いていた。
「ああ、ちょっとね」と誤魔化した。
「それより、練習始めましょうよ」と言われて始める事にした。しばらく練習していたら、
「佐倉」と呼ばれたような気がして、振り向いたら半井君が帰るところで近くに霧さんがいた。仕方なく寄って行った。
「霧がどうしてもとうるさいから説得に行かされる」とぼやいたので笑ってしまった。
「親の公認で付き合えるね」と言ったら、ちょっと嫌そうな顔をした。
「こいつにそっくりな性格らしいぞ。絶対に俺が負ける。お前も来てくれ」
「嫌」と断ったら、
「だよな。困ったよ。こいつ、離れないんだよ」と言って霧さんを見ていた。霧さんが半井君と腕を組んでいてうれしそうだった。
「カップル誕生だね」
「やめてくれ。さっきから、何度言っても離してくれない。ちょっと困る。俺、べたべた系苦手」と無理やり振りほどいていた。
「がんばってね。親公認カップルになれるじゃない」
「俺はこいつとカップルにはならない」
「無理しちゃって」と霧さんがまとわり付いていて笑ってしまった。
「やめろ。離れろ。俺はお前とは合わないと何度も言ってるだろ」
「クラスも公認、詩織も公認、後は親だけだね。篤彦の親にも挨拶しないと」と霧さんがうれしそうで、
「がんばってね」と手を振って離れた。
「おーい、見捨てるな。助けろよ」とぼやいていたけれど、笑って戻った。
「ねえ、あれなによ」と一之瀬さんと元川さんが寄って来て聞いた。
「さぁ、なんだかデートみたいだよ」と言ったら、とたんに一之瀬さんがすごい顔で霧さんのほうを見ていた。
「霧ちゃん、俺ともデートしようよ」と男子が声を掛けていて、
「今度ね。おごってくれたら考えてあげる」と霧さんが答えていて、
「なによ、あれ」と怒って行ってしまった。

「なんで、あなたに話しかけてたのよ」と休憩時間中に一之瀬さんに言われて、ため息をついた。
「そういう顔をされても困る。笑顔で言って」と言ったら、さすがに困った顔をしていた。
「半井君、怖い顔が苦手なんだって。笑ってほしいと言ってたよ」と言ったら、さすがに、睨むのをやめた。拓海君から弘通君が言ったことは教えてもらっていた。
「あの子はどうして張り付いていたの?」と聞かれて、
「よく知らない。彼女は積極的みたいだよ。がんばってね」と言って疲れたので顔を伏せていた。
「ふーん、そう」と言いながら離れて行った。
「王子と仲いいんじゃないの?」と元川さんに聞かれて、興味津々だなと思いながら黙っていた。
「あれ、返事しない」と言ったけれど何も言わなかった。そのうち、彼女もどこかに行ってしまった。
「一之瀬さんは、やはり、半井さんが好きみたいですね。あれだけ見せ付けられても諦められないんでしょうか?」と後ろで後輩が言い合っていた。
「王子の場合は良くわからないよ。芥川さんとね、あまり仲が良くないんじゃないかって話も聞いたから」と湯島さんが答えていた。
「え、どうして?」
「さっきと同じ。引き剥がそうとしてるからね。嫌がってるみたいだと聞いたよ」
「満更でもないんじゃないですか?」
「違うみたいだね」と湯島さんが答えたため、
「ねえ、知ってる?」と聞かれたけれど黙っていた。

 拓海君を待っていたら、
「もうすぐ終わるからな」と入り口で言われてうなずいた。そのまま体育館のところで座って勉強していた。
「そんな事をしても無駄じゃないの」と後ろから言われて、見たら宇野さんと手越さんがいた。
「だって、山崎君とは離れるわけだから。時間の問題じゃない。あなたとは雲泥の差があるわけだし」と嫌な態度で笑っていた。うーん、感じが悪いな。「それがあなたに何の関係があるの?」と聞きたかったけど我慢していたら、
「邪魔だ、どけ」と男子の怒鳴る声がした。驚いてみんなが振り向いたらバレーの男子がやってきて、
「練習しないなら帰れって言っただろ。そこは邪魔だ、何をしている」となんだかピリピリした感じで言ったため驚いた。
「うるさいわね」とにらみ合っていて、
「練習もせずにおしゃべりする時間があったら、どいてくれ」と手で払って追い出していた。さすがに唖然となったら、
「やめろ。クマとモリキ」と中から声がした。戸狩君がやってきて、
「そいつらがうるさいからって八つ当たりはみっともない。お前たちも帰ったら」と戸狩君が言って私が奥にいるのが目に入って、
「いいのか? タクにばれたら怒られるぞ」と笑っていた。
「何も言ってないわよ」と宇野さんが怒り出して、
「その剣幕だと当たりだな」と更に笑っていた。
「な、なによ……行きましょう」と慌てて逃げていた。
「分かりやすい態度」と戸狩君が笑っていて、そばにいた男子の肩に手を掛けていた。
「焦るなよ。気を取り成してやっていこうぜ。あいつらの相手している時間はない」と言われて、その男子達が戻って行った。どこの部活も必死のようだった。

 拓海君には報告がいってしまったようで帰る時に、
「また、何か言われたか?」と聞かれたけれど黙っていた。
「あいつらは、小山内と似てるから気をつけろよ」
「え、どういう意味?」
「ま、色々あるんだよ。部活に来てる理由だっておしゃべりしたいからだろうな。戸狩が困っていたよ。バレーの男子がこのところ機嫌が悪くなってしまってね。あそこは練習試合は申し込みがいくらでもあるから、この間対戦したところに負けてしまった。かなりの差がついたそうで、焦りが出てきているらしいな。前の学年と比べると弱くなったと言われているし、下の学年の有力選手とどちらを使うかで考えているようだから」
「そういう理由で怒ってたんだ」
「やっぱり何かあったんじゃないか」
「ちょっとね。勉強しても無駄だと言われちゃっただけ」
「あいつら呆れるよな。まったく、これで何度目か」
「え、どうして?」
「あいつらとどっこいどっこいの女の子が一人いて、彼女を馬鹿にしているんだよ。憂さ晴らしにね。彼女は真面目な子だから何も言わないけど、さすがに何度か注意した。お前にもやるなんて」
「何も言わなくていいよ」
「でも」
「手越さんってそんなに勉強できるんだね」
「さあな、平均より下のことは確かだ」
「え、どうして?」
「多分ね」
「拓海君って良く知ってるね」
「想像だけどな。それより、王子と芥川さんはデートなのか?」
「家に遊びに行くんだって」
「へえ、そこまで進展してたのか。意外」
「霧さんはうれしそうだったけどね」
「ふーん。それじゃあ、一之瀬がうるさそうだ」
「無理だって言ってたよ。あの人の場合、気に入らないことが起きればすぐに不機嫌になるだけで変わらないだろう。そういう人に合わせても無駄だって言ってた」
「そうかもな。あいつも気分でコロコロ態度が変わってたらしいぞ。もっとも、テニスやクラスで避けられるようになってからは機嫌がいい時が少なくなったらしいけど」
「引退したら大丈夫なんじゃないの?」
「逆。引退したら受験があるから、よけいに悪くなる」
「どうして?」
「自分で考えなさい」
「えー、どうして?」
「まぁ、多分、そうなるだろう」とため息がちに言ったので、聞けなくなってしまった。

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