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衝撃ニュース

 成績表が返された時はみんながどよめいていた。
「あー、うるさい。さっさと戻る」と先生が怒っていたけれど、しばらく見たあと、しまおうとしたら、
「どれ?」と拓海君が持って行ってしまった。
「おーい」と後を追っかけた。
「ふーん、なるほど。それなりだな。英語は何とか合格」と言われて、
「でも、数学はだめだね」と言ったら笑っていた。
「俺のも見るか?」と言われて後ろで見せ合っていたら、男子が寄って来て、
「駄目」と拓海君がガードしていた。
「ありがと」と返していたら、手越さんが睨んでいた。
「手越、上がったのか?」と拓海君に聞かれた途端、
「え、それは……」と困った顔をしていて、
「詩織もその調子でがんばれよ」と戻って行ったため、
「何よ、上がったの?」と聞かれてしまったけれど、黙ってしまいに行った。

「王子と同じ高校に行きたいな。どれぐらいかな?」
「光鈴館とか?」
「違うみたいだよ。国語がもっと良かったら違うんだって」
「ふーん。市橋かな? それじゃあ、無理だなぁ」
「あなたどれぐらいよ」とそばで言いあっていた。夏休みが近いなと思いながら音楽室に運んでいた。碧子さんも手伝ってくれて、
「暑くなりそうですわね。部活はどうですの?」と聞かれて、まだまだのところが多いとは言えなかった。本当なら球技大会前に決めたかった順番を矢上さんと美鈴ちゃんの強い希望で、先延ばしにされていた。
「困ってるけどね。なるようにしかならないし」
「そうですか。私も勉強をがんばらないと一緒にいけそうもありませんわ」
「あら、どうして?」
「彼は市橋もいけるぐらいだと言われていますの。もっとも、内申が良くないそうですから」
「そうなんだ?」
「偏りがあるそうですわ。3教科だけですと、市橋はいけるそうです。でも、海星に一緒に行こうと言われてしまいましたの」
「そう」と言っていたら、声が聞こえてきた。
「だから、付き合ってあげてと言ってるでしょう」という声がして、なんだろうと思った。
「どうして返事してあげないの?」と別の女の子がして、この声……? 
「でも、前に断ったはずだ」と本宮君の声がした。碧子さんも気づいたようで、顔を見合わせていたら、紙が一枚風に吹かれて飛んでいってしまい、
「あっ」と小さく声を上げてしまった。仕方なく、取りに行くことにして、ゆっくりとそっちに回った。校舎の裏で本宮君が3人の女の子に迫られていて、碧子さんと目があった途端、困った顔をしていた。
「なに?」と前末さんに聞かれて、
「ごめんなさい。紙、飛んでこなかった?」と聞いたら、周りを見回して、本宮君が気づいて渡してくれた。
「ごめんね」と行こうとしたら、
「あ、ちょっと」と碧子さんに声を掛けようとして、
「逃げないで、今すぐ答えて」とすごい剣幕で言われていて、本宮君が困った顔をして碧子さんを見て、
「答えてあげないといけません」と碧子さんに言われてしまい、
「え、それは……」とかなり困っていた。
「お邪魔しませんわ。すみませんでした。本宮さんもちゃんと女性と付き合ってくださいな」と言って、行こうとしたら、
「いいよ」といきなり言ったため、びっくりした。
「え?」とその場にいた人たちがみんな声を上げて、
「いいさ、付き合っても」と本宮君がちょっと向きになって言ったため、思わず碧子さんを見たけれど、
「お邪魔しました」と頭を下げていて、先に戻ってしまったため、
「ごめんなさい」と私も頭を下げて後を追いかけた。
「あの方は好きになれません」と碧子さんが言ったため、
「え、どうして?」と聞いた。
「前に後輩が付き合っていたそうですわ。でも、お付き合いといっても、相手の方は真剣でしたのに、あの方は不真面目だったようで、そういうのは好きになれません。最初から断るなり、誠意を見せるべきだと思いますわ」それが断った理由なんだ。
「相手の方は泣いていたそうですわ。相手の気持ちになって考えられないのは不誠実だと思いますから」
「そうなのかな?」
「私はそう思いますわ」と階段を上がった。
「彼ね。お兄さんと張り合っていて」
「そういうことは言いわけでしかありません。先ほども、最初断っておきながら、後で態度を変えましたもの。ああいうのは」
「あれは意地だと思うよ」
「意地?」
「碧子さんがいたから」
「でしたら、そうおっしゃるべきでしょう。相手に思わせぶりな態度で接しておいて、その後、本気になったら捨てるなんてことは、許せません」と言いながら、音楽室に入ったら、
「ああ、あんたら来たのか。あれはさすがに目に余るよな」と窓から下を見ながら、半井君が笑ったので、
「覗き見してたの?」と呆れたら、
「聞こえたからな、お前の声が。それで見ただけ。その前の会話は勝手に耳に入ってきた。ここは静かだからな」
「呆れるなぁ」と言いながらプリントなどを置いていた。
「あいつも意地張っちゃってね。君の手前、ああ言ったんだぜ。どうするか見ものだよな。ああいうタイプってしつこいぜ」と笑ったので、
「無責任な発言して」と睨んだ。
「ああいうやつもいたんだよ。学校のほとんどの女の子と知り合いで、デートばかりしてた。もっとも、その後、大変だったらしいな」
「そういうことは言わないの」
「氏家さんが付き合えば即解決だよ」
「私はお付き合いしている方がいますから」
「橋場と本宮なら、普通は本宮を選ばないか?」
「心が大事ですわ。私を大切に考えてくれる人がいいので」と答えたため、そういう理由なんだなと見てしまった。
「ふーん、まぁ、好みの問題だよな。条件が良くたって、本人が好みじゃなければね。いくら見た目が良くてもね」とこっちを見て言った。
「霧さんと付き合ったらいいじゃない。人のことよりね」と言って外に出た。
「うるさいぞ」と声がしたけれどほっといた。
「いいんですか?」と碧子さんに後ろから言われて、
「どうして?」と聞いた。
「多分、あの方は詩織さんが気になっていると思いますわ」と言われて噴出した。
「えー、ないよ。それは、ちょっとあって」
「多分、そうですわ。試合の時にも見てましたから、山崎さんと張り合っている感じにも見えましたし」
「そう? 拓海君しか見てなかったから」と言ったら、笑われてしまった。

 なんだか変だな?……とみんながチラチラ見ていた。
「なにがあったんだろう?」と男子は口に出してしまい、元川さんが声に出さずに笑っていて、美鈴ちゃんが睨んでいた。
「さぁ、もっと行くわよ」と一之瀬さんが絶好調だったためだ。そのため、私たちのペアにも勝ってしまい、
「湯島さんの所にも勝てそう」と言っていた。結局、湯島さんのところには負けていて、順番が決まった。先生がさすがに決めなさいと言ったからだ。男子は既に決まっていて、
「木下が負けるとはね」と言っていたことがあったので、変だなとは思っていたけれど、金久君達のペアが上になっていて、木下君はとうとう試合に出られなくなってしまい、いじけ気味で一年生の男子の指導に回っていて、慰められていたようだった。
「男女とも決まったな」と先生が言ったけれど、みんなはいつになく明るい一之瀬さんを何度か見ていた。
「なにがあった?」と男子に聞かれていたけれど、
「昭子〜」とロザリーが呼んでいた。
「悪い、来ちゃった。ごめん、抜けるね」と言ったため、
「え?」と、驚いていた。
「先生、すみません。抜けさせてもらいます」と明るく礼儀正しく言ったため、
「え……、あ……ああ……」と先生も戸惑っていた。ルンルンした感じでスキップでもしそうな勢いで走っていて、
「デートだろうか?」
「えー、あいつが?」と男子が言いあっていて、
「嘘〜!」と女の子も言いあっていた。その後、一之瀬さんは慌てて着替えてロザリーのそばに行き、田中君がその後をついて行ってしまい、偵察に行った。戻ってきた時は、
「ニュース。あの一之瀬に衝撃の事実!」と言ったため、
「恋人発覚ぐらいじゃ驚かないって」と元川さんが笑ったけど、
「それでも十分、すごいぞ。今年の海星10大ニュースの一つになるね」と男子が笑っていて、
「それだけじゃないって。相手が車で迎えに来ていた」
「えー、じゃあ、大学生? すごいね」と女の子が言いあっていた。
「もう一つ、大事な報告。相手がなんと……」
「王子並のカッコいい人なんでしょう? どうせね。あれだけうれしそうだったし、あの子、面食いだし」と元川さんが笑ったら、
「カッコいいかどうかは分からないけど……外人だった」と言ったため、
「えー!」と男子はひっくり返り、女子は、ラケットを落とした人もいて、
「嘘〜!」と言ったため、
「お前ら、うるさいぞ」と、隣で練習していた野球部に怒鳴られてしまった。
「ありえない」「すごすぎる」「いや、そういう展開になるとは」「王子の次は外人か、それはすごいぞ」と言いあっていて、
「そうか、それでご機嫌なんだな。確かに相手が車持ってる外人なら、王子には勝てる」
「勝てるのか?」と言いあっていて、
「いい加減にしなさいよ」と美鈴ちゃんがさすがに止めていた。
「え、だって、驚きのニュースだぞ。霧ちゃんの恋人宣言でかなりの男子が落ち込み気味だったからな。佐倉以来のありえないカップルだぞ」と田中君に言われてしまい、
「おーい、言いすぎだ」と掛布君が笑いながら止めていた。
「しかし、あの一之瀬が……」
「これじゃあ、練習になりませんね。衝撃的過ぎますよ」と結城君まで言いだして、
「どうやって知り合ったのかな?」と元川さんと相良さんが言い合っていて、
「ロザリーしかありえないだろう。でも、仲たがいしてなかったか?」と後ろで男子が言いあっていた。

「どうだ?」と声をかけられても本を読んでいた。
「英単語もいいけど、こっち向け」と言われても下を向いていた。
「外人恋人紹介所に勤めたら」
「あれ、もう知ってるか。しょうがないな」と半井君が笑ったので、
「やっぱり……」と呆れてしまった。
「効果の程は知らないが、しばらくはこれでおとなしくなると思う。俺にはあいつと笑顔で話せない」
「話してあげればいいじゃない。恋人宣言したあとでもね」
「してないよ。断ったから」
「断らない方がいいじゃない。あれだけ綺麗だし」
「本宮のように意地で付き合えとでも」
「意地と言われても」
「デートの約束してたみたいだな。好きでもない子と付き合う暇はあるんだな。余裕」
「あなただっていくらでもしてきたんじゃないの?」
「大人の付き合いならあるな」と言われてむせた。
「霧と真逆だな。いちいち真に受けて、年上に囲まれていたからそうなっただけ」
「年上ね……」
「霧みたいな子は外人でもいくらでもいたけど、付き合わなかったよ」
「どうして?」
「さあな。お前さ……」と言っていたら彼が私の後ろを見た。振り返ったら拓海君が来ていて、
「もう少し掛かる」と言いながら、その後、半井君を睨んでいた。
「怖い顔するな。スマイル」と言いながら、
「帰るとするか。俺も準備しないとな。調べないといけないし、手紙を書かないとね。過保護も程々にしろよ」と拓海君に声を掛けて行ってしまった。ずっと睨んでいたので、
「拓海君らしくないよ」と言ったら、
「あいつと近寄るの禁止」と言われてしまい、唖然としてしまった。

「あいつと話すな」と帰りながら言われてしまい、
「一之瀬さんの話に切り替えようよ」と言ったけれどにらまれてしまった。
「田中は言い歩いていたぞ。呆れるよ。体育館も騒然だったけど、明日中には学校中に出回るな」と笑っていた。
「どれぐらい続くと思う?」と聞いたら、
「さあな。いいさ。それで機嫌がいいならね。後ちょっとだし」と言われて、それもそうかと考えていた。
「あいつとできるだけ近づくなよ。どうも心配だ、バスケでも俺の前に立ちはだかって。ちょっと背が高いからって」
「拓海君ばかり見てたって言ったらね。碧子さんに笑われちゃったの」と言ったら、
「何の話だ?」と聞かれて、
「バスケの試合。球技大会の時、拓海君ばかり見ていて試合の流れを見てなかったから、細かいところまで知らなくて。本宮君がフェイントしてたとか、色々」
「お前ね」と言いながらうれしそうで、
「あいつは?」と聞かれて、
「見てないかもしれない。拓海君が怪我しませんようにって、そればかり」
「どこを気にしてるんだよ」と驚いていて、
「だって、怪我しないで試合してもらいたいもの」と言ったら、
「そうか、ごめん」言われて、
「絶対悔いを残してほしくないもの。あんなこと、もう嫌だから」と言ったらうなずいていた。


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