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最後の試合

 終業式の間、暑い……と思いながら、ぼんやりしていた。欠伸した男子が先生に怒られて、周りが笑っていた。
「でもさぁ。結局、夏休みと言いながら、休めないじゃないか」と小声で男子がぼやいていた。
「受験でものんびりしてるのはいるけどなぁ。あちこちさ」と笑っていたため、
「こら」と先生にまた注意されていた。
 通知表をもらって、鞄にしまってから、
「ここでがんばらないと後がないぞ。あっという間だからな」と先生に何度も注意されて、そうかもしれないなと思いながら、
「正念場だ。ここで思いっきり差がついた例が毎年ある。だから、しっかりがんばれ」と言われて、あちこちでどよめいていた。
「差ってどれぐらいですか?」と本郷君が手を挙げて聞いたら、
「去年は100番、いや、150番順位を上げたやつが最高だったはず。後は聞いてないな。両方とも男子だ」と言ったため、ざわついた。
「そこまで上がるのか?」と男子がうるさくなった。
「そういう例もあると言う話だ。順位の変動が一番大きいのが2学期だからがんばりなさい」と先生が戻ろうとしたら、
「具体的な順位はどのくらいだったのですか? 下のほうだったのですか?」と更に本郷君がつっこんで聞いたら、
「平均よりちょっと下だった生徒が、上に上がった」と答えて行ってしまった。
「なんだ、それぐらいなら分かる気がするな。もっと下じゃ無理ってことか?」と言いあっていて、
「その男子ってさ。私聞いたことがあるよ。小学校の時にそれなりに出来て、中学に来てからは部活中心だったんだって。ところが、部活を早めにやめて切り替えてから、一気に伸びたんだってさ」
「塾か?」「家庭教師か?」と男子が前のめりで聞き始めて、
「違う。自力だってさ。ただ、勉強方法の指導をお兄さんに聞いたんだって。どの教科でどういう勉強をどれぐらいすればいいか。そうしたら、問題集を山積みされて、それをこなしたらしいよ」
「へぇ、すごいね」と言いあっていた。
「スパルタ方式しか無理ってことか。俺、持続力ないぞ」
「俺、やる気がないかも。励ましてくれないとすぐ落ち込む」
「おーい、やる前からそれでどうする」とあちこちうるさかった。

 練習しながら、
「手首の力入りすぎよ」と小平さんが一之瀬さんと矢上さんに注意していて、
「強打が多いわ。傷めるわよ」と湯島さんが矢上さんにだけ注意していたけれど、一之瀬さんにも言ったようだけど、彼女は張り切っていて無理のようだった。
 男子も仕上げに掛かっていて、木下君はすっかりやる気をなくして一年生を指導していた。美鈴ちゃんたちは矢上さんと途中で試合をして、結局、勝っていた。
「顧問もあながち節穴じゃないんだね。見る目はあるんだ」と2年生が言ったため、
「どう言う意味よ?」と元川さんが怒りながら聞いていた。
「すぐにひっくり返るぐらい、実力が接近してると言ってましたよ。それに矢上さんの場合は気合が空回りするから、それで駄目になることが多いから、今の時点では使えないと言ってました」と言われて、唖然となっていた。そういう理由だったんだな。
「あの人、見てないようで見てるんだ」と元川さんが言ってしまったため、周り全員が笑ってしまい、そうか、みんなそう思ってたんだなと妙に納得してしまった。

 試合の日は適度に暑くて、緊張していたけれど、百井さんは淡々としていて、それで助かっていた。あちこちで話をしながらリラックスしていて、男子も同様だった。先生の話はあまり聞いてなかったけれど、小平さんに呼ばれて集合したら、
「お前らは最後の最後まで俺を信用してないようだ」と言われてしまい、
「だって、先生の熱意は伝わりにくいから。指導するなら徹底してやってくださいよ」と二年生から声が出ていた。
「え、それは悪かった」と頭を下げていて、
「へぇ、反省するんだ。先生って反省しない生き物だと思ってた」と田中君が笑っていて、
「お前、それはひどいぞ。これでも迷って反省してばかりだった。至らなかったのは悪いが、最後だから悔いのないように、一人一人好きなようにやれ。但し、後輩も見ているんだから、その責任は持てよ」と言ったため、
「えー、先生みたいな事を言う」と後輩から声が出ていて、
「これでも先生もやってるんだからな」と柳沢がちょっと拗ねていて、
「そう言えば下の学年は先生として授業受けてないから、その姿知らないよな」と掛布君に聞かれてうなずいていて、
「だから、一度でいいから先生らしいところを見せてくださいよ」と男子が言ったためみんなが爆笑になり、
「えーい、うるさいぞ、お前ら」と先生が怒っていて、でも、みんなは笑っていた。
 
 試合では百井さんと私たちは3回戦まで行ったけれど、後のペアが負けてしまい、うな垂れていて、
「3回戦まで来れたんですから」と後輩に慰められていた。一之瀬さんの悪い癖が出て、接戦になったのに、途中でフォルトを続けたあと、強打したりアウトばかりになって、2回戦で負けていた。小平さんの所はかなり強いチームだったので1回戦で敗退してしまい、くじ運って重要だなと思った。男子は、
「結城のところと掛布が残ったけどさ」と言いあっていて、掛布君は私立と当たり歯が立たなかったようだ。結城君は、
「後ちょっとだったのに」と悔しそうだった。
「でもさ。なんだか、すっきりしました」と結城君と組んでいるペアの子が言った。
「納得できる形にようやくなったから」と言ったため、
「それはあるかもな。自分もテニス部もどこか中途半端で仲悪くてさ。女子と同じぐらい相手のことは見下してたり認めてなかったりしてた」と男子が言いあったのでびっくりした。
「ありましたよね。悪い空気は伝染すると思います。一之瀬さん、これから気をつけてください」と結城君が言ってしまったけれど、なぜか一之瀬さんは聞いてなくて、
「あれ、どうかしたのか?」と掛布君が聞いたら、一之瀬さんがみんなに注目されているのにやっと気づいて、
「ああ、早く終わらないの?」と言ったため、
「無理ですね。これじゃあね」とみんなが笑っていて、一之瀬さんが、
「なによ?」と聞いたけれど誰も答えていなかった。

「分からないわ」と帰る時に美鈴ちゃんが言った。
「え、どうして?」とみんなが聞いた。
「さっさと帰ってしまうことがよ」と美鈴ちゃんが言ったため、何が言いたいか分かってしまった。後輩もバラバラで帰ってしまったけれど、一之瀬さんも挨拶が終わったら、さっさと一人で帰ってしまい、
「あれだけ迷惑を掛けたのに。挨拶もしないで行くなんて。最後までどうしても納得できない」とちょっと怒り気味だった。
「そういう人よ。諦めるしかないわ。彼女には私たちの気持ちは最後まで伝わっていなかったって事よ。分かっていたのなら、あれだけの事をしたあとに、更に不機嫌になったりはしない。振り回していたことに気づかずに、更に相手をなじっていた。あくまでも自分本位で公私の区別がつけられない人だということは嫌というほど分かったわ。彼女に分かってもらうには難しいことだと思って、諦めたの」と小平さんに淡々と言われて、みんな何も言えなくなった。
「もう、やめよう。済んだことだもの。綺麗に忘れて引退しよう。そのほうがいいな」と千沙ちゃんに明るく取り成すように言われて、その通りだなと気を取り直し、
「そうだね」とみんなで笑っていた。

 メモワール3に続く

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