あいかわらず

 朝から、みんなが集まっていて、何かあったのかなと思った。瀬川さんは近寄ってこなかったし、加賀沼さんはご機嫌だった。一之瀬さんはどうだろうなとは思ったけど、確かめる気もなかった。集まっていた団体が、
「いや、やっぱりさ」と言い合っていた。
「多数決で決めたらいいだろ」と言い出す男子がいて、
「なんだよ」とそばの男子が聞いていた。
「ふーん、じゃあ、多数決で決めたら」と男子が言っていて、
「先生に言うわ」と女の子が言っているのが聞こえた。
「多数決って何?」と三井さんがうれしそうによって行き、
「三井の迷惑掛けられた人の人数を数えるんだ」と桜木君が答えたため、
「決取る必要があるのか? 全員じゃん」と男子が言ってみんなが笑っていた。
「ピーチクと話したくないやつ」と男子が聞いて、その辺りにいた男子全員が笑って手を挙げていた。
「やだー」とうれしそうに男子を叩いていて、
「言っとくけど、不名誉なんだぞ」と桜木君が言ったけれど三井さんはうれしそうで、
「噂になれるなら、なんでもいいみたいねえ」とそばの女の子が意地悪そうに笑っていた。手越さんもそばにいてうなずいていたのでびっくりした。
「ほっとけばいいわ。彼女のせいで親に怒られたんだもの」と手越さんが言ったため、うーん、女の子同士って、難しいんだなと思った。
 朝のホームルームで先生に提案されて、学級委員のことは多数決を取ることいなった。けれど、根元さんに挙げたのは男子が多かった。仙道さんの番になって女子がかなり挙げていて、瀬川さんまで挙げていたのは驚きだった。先生がそれを見て、
「もう少しがんばってみないか」と仙道さんに聞いて、みんなが拍手していて、
「どうやら決まったようね。文句なしでみんなと協力し合っていきましょう」と根元さんが言って、
「根元ってきついけど、そういうところがいいよな。さっぱりしてて」と男子も笑っていた。

 休み時間に、碧子さんが、
「良かったですわ」とほっとしていた。私もそうだったので頷いた。
「やらせだったの?」と沢口さんが聞いていた。どうやら仙道さんに入れてくれるように友達から頼まれたらしい。
「別にそういうのがなくても選びましたけどね、私なら」と碧子さんが言って、
「それはあったけど、正直迷ったの。でも、周りの女の子が話を聞いてくれたとか言っていたから、そういうのがなくても入れたのかもしれないな」と小宮山さんが言ったので、
「遼子ちゃんの言うとおりだと思うよ。女子はそういうこともあって入れたんだろうし、今更変えたら、また、ぐたぐたするだけだもの。これでよかったと思う」と桃子ちゃんがさっぱりした顔で言って、そういうのはあるなぁと思った。だからこそ、半井君も取引したんだろうと思う。帰り道、さすがにああ言ったのが気になったので聞いてみたけれど、詳しいことは教えてくれなかった。
「なんだか、あちこちあるね。この間もD組でもめたんだって。平均であそこだけかなり落ちたんだって、こっちとAとCは差がなくなってると聞いた」と桃子ちゃんに言われて、
「平均点か……」とぼんやりしていた。
「いいじゃない。厳しい彼氏がいてね。そういう人がずっと付いていてくれると安心だね」と小宮山さんに言われてしまい、うつむいていた。
「そう言われても」
「いいなぁ。半井君と話せて。私も話したい」と沢口さんが言いだしてびっくりした。
「本宮君は?」と小声で桃子ちゃんが聞いて、隣にいた佐々木君が聞こえたらしくて、
「お、また、一人、聞いちゃった」と笑っていて、
「佐々木君は誰よ」と桃子ちゃんが聞き返した。
「碧子さんか?」と保坂君が聞いたら、
「それは須貝」と言ってしまったため、
「えー!」とみんなが一斉に言って、須貝君が困った顔をしてから、
「そういうことは言うなよ」止めていた。
「悪い。小学生の時はそうだろ。でも、今は違いそうだな、誰だ? 夕実は駄目だったし」と、また、ばらしていて、
「お前の前末も言えよ」と怒りながら須貝君が反撃していて、
「げげーん、言うな」と慌てて止めていた。
「え〜!」とまたもやみんながすごい声を出していて、
「そうか、あちこちあるんだな」と保坂君が笑った。
「保坂も目の前にいるから言えって」と言われていて、桃子ちゃんを見ていたため、
「え?」と桃子ちゃんが困ってから須貝君を見ていて、須貝君が困った顔をしていた。うーん、あちこちあるなぁ。
「いいなぁ。なんだか」と小宮山さんがうれしそうで、
「半井君と話したい」と沢口さんがぼやいていて、私はため息をついていた。

 昼休みに、碧子さんと話していた。
「橋場君の所に行かないんだね」と聞いたら首を振っていた。
「お友達との時間も大切にしたほうがいいですもの。橋場さんは友達思いの方ですから」と言ったので、よく理解してるんだなと聞いていた。
「須貝君が碧子さんと夕実ちゃんだったとは驚きだ。てっきり、生身の女の子は無理なんだと思いこんでいた」
「あの方が好きな人は違いますわ」と言ったので、碧子さんを見た。
「知ってるの?」と聞いたら黙ってしまった。
「そういうことはあまり口に出せない方なんだと思います。あの方も同じでしょうね。『もしも運動神経が良かったら』と言ってました。『そうしたら体型だってもっと中肉中背だろうから』と言っていたことがありますの。そういうことが気になる年頃ですわ」
「あの方?」と聞いたら碧子さんが優雅に微笑んだ。
「優しい方と言うのは、相手の気持ちも考えてしまうのでしょうね。人を思いやる心は私好きですわ。橋場さんにはそれがありますから。だから、私もそうしたいと思います。あの人と話しているとどんどん心が綺麗になるような気がします」
「碧子さんと話すと私も同じ事を思うけれど」
「そうですか? うれしいですわ。こういうことが続くと、ああいう話題が多くなるみたいですね。気にしないようにマイペースでいきたいですわ」
「ああいう話題?」
「恋愛のことですわ。半井さんの事をおっしゃっていたでしょう? あちこち、言われるかもしれませんね」
「なにを?」
「あの方は女の子にしてみれば気になる存在だと思いますよ。最近、明るくて話しかけやすくなったようで、誰のお陰かと言われていて」
「ああ、霧さんね」と言ったら、碧子さんが微笑んで、
「詩織さんは不思議な人ですね。気づいたり気づかなかったり」
「え、なに?」
「恋愛は苦手ですか?」と微笑まれて、
「そう言われても初めてで」とうつむいた。顔が赤くなった気がして頬を叩いていた、
「私も同じですよ」と笑ってくれて、
「碧子さんの方が落ち着いてるよ」と言ったら、優しく微笑んでいた。

 廊下に出たら、半井君に一之瀬さんが迫っているのが見えた。
「うるさいよ。俺、忙しいからさ」とぼやいていて、
「いいじゃない。対決しないと許さないわ」と手を捕まえていた。
「やだね。お前と関わるとろくなことにならない」
「いいじゃない。ちょっと付き合いなさい。認めてもらえるまで離さないわ」とすごい勢いだった。うーん、すごいかも。
「あら、いいじゃないの。それぐらいやってあげなって」と霧さんがやってきて声をかけていた。
「お前、人ごとだと思ってね。俺はやらないぞ。そんな時間があったら勉強しないと困るって言ってるだろ」
「昨日は来てくれたじゃない」
「お前のせいだろ」と言い合っていて頭を抱えていた。つくづく反省しないし懲りない人だ。
「あれは、なんだ?」と後ろから拓海君に聞かれて、
「ほっといて逃げようか」と言っていたら、足音が聞こえてそっちを見たら、
「あんたもやりなさいよ」と一之瀬さんだったので目を合わさずに頭を抱えていて、
「あんたのせいよ。責任取りなさい。ああ言われて納得できないわ」と言った為に、さすがに何も言えなくなった。拓海君がすごい顔で睨んでいるのが見えて、穴があったら入りたい気持ちになった。

「やだよ〜!」とわめいた。拓海君がすごい顔をしている中、半井君もやってきて、「ちょっと借りるぞ」と言って腕を取られて部室まで歩かされていて、拓海君が止める間もなかった。一之瀬さんはすごい勢いで走っていき、とっくの昔にいなくなっていた。
「いいだろ。仕方ないさ。前衛やれ」と半井君に言われて睨んだ。
「お願いします、先生、時間が惜しいので、私は帰ります」
「お前の場合は俺に付き合う義務があるな」とにらまれて、
「えーん」と言ったけど聞いてもらえなかった。結局、着替えさせられてコートに行ったら野次馬が多かった。テニス部の男子が見えて、
「おーい、掛布君まで来なくていい」とぼやいたら、
「大和田以外は来てるぞ」と言われてみたら、男子も女子も冷やかしでいっぱいいた。
「もう、人ごとだと思って」とぼやいていたら、結城君が寄って来て、
「対戦がんばって下さいね。男子の一押しの前衛ですから」と言われて、
「女子にして」とぼやいたけどみんなが笑っていた。柳沢がいなくて、
「あれ、顧問の了解は?」と聞いたら、木下君が、
「あいつ来ないぜ。もめたから来てない、毎回のパターン」と言ったため、何も変わってないじゃないかとあきれてしまった。テニス部でのその後を男子が話していて、女子は改善しようとしているけど、男子は分裂気味、柳沢が一年生の中でも対応に差が出てしまい、不満が続出して、受験をいいことに来なくなったそうだ。
「無責任な顧問」と言った為に、そう思われても仕方ないなぁと思った。
「一年生に言ってるんだよ。迎えに行けってさ。今の一年生かわいいんだよ」と木下君が言ったら、結城君が笑った。
「先輩がいじけて出られなかったから、一年生が慰めたんです」とばらしていて追いかけられていた。あいかわらずだ。
「じゃあ、柳沢に頼みに行くしかないだろうね。かわいい子を集めていけば」
「お前なぁ、俺と同じ事を言うなよ」と掛布君が笑っていた。

 一之瀬さんがすごい勢いで乱打していて、私は男子と乱打してたけど、
「サーブ権、絶対取るわ」といきまいていた。結局、半井君がサーブ権を取って始まった。できるんだろうかと言う心配より、体がついていけそうもないくらいなまっていた。私が危ないなぁと思っていたら、結構すごいサーブが入って、相手が取れなかった。男子も同じで綺麗にカーブしたので走りこんでやっと間に合ったけどネットに引っ掛けていた。結局、本当にラブゲームで第一セットを取っていた。こっちの番になったけど、気合を入れすぎてダブルフォルトの連続でまともな試合じゃなかった。かなり怒りまくっていて、終わってしまい、
「後、一セット」と一之瀬さんが怒りながら言ったけど、
「あれだけで息切らしてる女にその資格はないね」と半井君が笑っていて、私も一之瀬さんも息を切らしていた。
「悪かったな」と結城君にラケットを返していた。一之瀬さんはわめいていたけれど、軽く押しやられて男子のテニス部が寄って来た。
「先輩、僕、色々成長したんで見ていって下さいよ」と結城君に言われたけど、
「待たせているから」と拓海君を見たらすごい顔で睨んでいた。
「あいかわらずですねえ」と結城君が笑っていて、
「ところで、こっちの先輩は僕のライバルですか?」と半井君を見て聞いたので、
「ふーん、お前、佐倉のなんだ?」と半井君が聞いた。
「将来付き合う予定の男です。契約で」と言ったため、男子のテニス部員が一斉に笑った。
「また言ってるよ。そこまで真似する必要がどこにある」
「そうそう、楢節二世を狙うなら美女と付き合え。二谷さんは駄目だぞ」と掛布君が釘を刺していた。
「美樹は山崎先輩にめろめろですよ、あれ以来。だから、先輩、もし駄目になったら僕の胸貸しますから、いつでも来てください」と結城君に言われて、
「えー、ひどい」と言ったら、
「冗談ですって。楢節さんのようになりたいですけど、山崎先輩は敵に回したくないので、一年生の有望な女の子を育てる予定です」と言ったため、
「だから、そこまで真似するな」とテニス部の男子に叩かれていた。

「唖然として何も言えない」と部室に戻りながら言った。
「いいんじゃないか。分かりやすくていいね。憧れの先輩が付き合った相手とも付き合ってみたい。いいと思うぞ」と半井君に言われて睨んだ。
「ライバルがまた増えたしね」
「ライバル?」
「俺のライバル。山崎以外で増えたって事」
「ふーん、数学とか、気になるの?」
「お前の鈍さの方が気になるね」
「あ、じゃあね」とそこで別れて部室に入ろうとしたら、
「お前の聞き流すその態度を改めろ」と言われたけど、聞き流してさっさと部室に入った。

 着替えて外に出たら拓海君が部室の前で立っていて、
「あれ、来てくれたんだ」と言ったら、そばで半井君が立っていて、
「俺のそばに置いておけないらしいね。やきもちの焼きの飼い主」と言ったため、
「おーい」と言ったら、
「失礼にもほどがあるな。お前、さっさと戻れよ。いつもの場所で勉強でもしてろ」と拓海君が睨んでいた。
「あれ、帰るんじゃないの?」と聞いたら、
「こいつはずっと遅くまで残って勉強している。暗くなるまでね」拓海君が言った為に驚いて半井君を見た。
「ふーん、布池にでも聞いたのか? よほど、気になるようだ。籠にでも入れて連れて歩けば。かわいい『kitten』なんだろう」
「キティ?」と拓海君が睨んでいて、
「子猫じゃない」と反論した。
「それぐらいは聞き取れるようだ」と言いながら半井君が行ってしまった。
「つくづく気に食わない」と怒っていたので、
「そこまで怒ることは」
「嫌だね。どうして一之瀬がああ言ったのか、説明してくれるまで納得しないね」と怒られてしまい、仕方なく説明することにした。誰もいなかったけど、さすがに場所を選びたかったので、とりあえず部室の鍵を女子の部長に返したあと、校門を出てから説明し始めた。
「呆れた性格だな。何で、あいつが行くんだよ。俺だろ」と怒り出し、
「だから、拓海君が職員室にいたからとか聞いたよ。それ以上はまだ説明してもらってないの。先生にばれたら困るから内緒にして」
「そういうことは報告した方がいい」
「今更言ってもメリットがないって。それより取引した方がお互いのためだって言ってた。報告したところで、諦めるとは思えないと言ってたけど、同じ意見だなぁ。そこはね」
「ふーん、どうせやるんじゃないのか?」
「佐分利君は騙されていたから、多分、やらないと思う。一之瀬さんをすごい剣幕で怒鳴ってたから、彼女も懲りてたみたいだよ。さすがに修羅場になったから。あの一之瀬さんがひどく動揺してた。でも、半井君とはいつものように喧嘩してたけど」
「教えてくれれば俺が行ったというのに、なんであいつが助けるんだよ。面白くない」
「そうかな? 拓海君が巻き込まれなくてほっとした」
「何を言ってるんだ。そのために俺がいるんだろう?」
「大事な時期だもの。そういう時に巻き込みたくないもの」と言ったら困った顔をしていた。
「絶対に報告しろよ。これからは」
「言うつもりだったけど、牧さんの話を聞いてからのほうがいいかと思ってね。急ぐ必要もなさそうだからそうしたの。ごめんなさい」
「許せないね。半井はそういう事を知ってたからああ言ったんだな」
「なにを?」
「あいつはつくづく気に食わないね。英語使って何か言ってきて。かっこつけていて」
「拓海君のほうがカッコいいよ」と言ったら、
「そういうことは堂々と言え」と言われてしまった。恥かしかったから小声になってしまったからだ。その後、顔が赤くなったようで、私を見て、
「詩織はうぶだなぁ」とうれしそうだった。
「だって、まだ駄目だね。経験積まないと無理かな」
「無理じゃないのか。俺たち、なんだかんだ言って付き合い始めて長いぞ。ちっとも進んでないとみんなに言われるけど、恥かしくて言えやしないよな。デートの回数とか聞かれてもね」
「そう言われても」
「ちゃんとデートしておけばよかった。部活優先してたからなぁ。映画ぐらい行けばよかったよな」
「勉強優先しないと」
「俺もちょっと疲れてきたよ。さすがに100点取るのは難しいと気づいた。あの人、よくやってたな」
「だったら、もう少し力を抜いても」
「やだね。俺の意地だ。それにどうせ内申も関係あるしね」そう言われたらそうだった。
「困ったもんだよな。DもEももめてるってさ。なすり付け合いしてる。点数が低いからとか言う事で。でも、遠藤はやられてるらしいから、また、危ないよな」
「どう言う意味?」
「あいつ、去年も同じだった。余裕がなくなってね」
「そうだけど」
「今度は弘通はそばにいないからなぁ。永峯じゃ話を聞くのに時間を掛けるタイプだし、危ないかもな」
「なにが?」
「お前が昨日やられたようなことがあちこちで起こりだすってことだ」
「どうして?」
「ストレスからああなるんじゃないのか? 親には言われる。先生にも言われる。一番言われたくない事だろうな」
「小学生の時に目立ってた子は、中学からどうして目立たなくなるのかな?」
「なんで?」
「瀬川さんが何度も言ってたらしいの。そばにいた男子が聞き飽きたと言っていた。それが自慢だったのかなと、ふと思ったから」
「それはあるさ。部活や絵、運動などで注目された子は中学に来ると駄目になることがある。成績だって伸びなくなる子もいるしね。そういうこともあって、昔、目立ってたのが自慢の子もいるかもな。挫折からぐれてしまうこともあるのかもしれないけどね」
「そうなの? 彼女もそうなのかな?」
「多分ね。小学校では絵で褒められたら花丸つけてもらえるし、書道、運動、その他、先生はことあるごとに褒めてくれる。後ろに絵を飾るのも普通だ。中学から飾ったとしても時々だし、小学校の時のようにはほめてくれないからかもね。成績の方が言われるし、受験生ならよけいだ。平均点とか気にする男子が多いよ」
「そう?」
「詩織ちゃんはそうだろうな。でも、遠藤はそうだったみたいだ。お前の事を言いふらしてたのも手越と同じ理由だろうな。勝手に自分の点数より下だろうと思いこんでいて、でも、違ったから面白くないという理由」
「え、どうして?」
「そういうのは時々あるぞ。俺、転校生だったから、そばに寄ってきた男子が『お前も出来ないだろう』と言われたことがあった。どういう意味か分からなくてね。でも、運動ができるやつは、きっと勉強もできないだろうと言う思い込みだったようで、よく分からないよ」
「意味不明。半井君も数学で負けた男子に言われたとか言ってた」
「あいつの話はしなくてもいい」
「ごめんなさい」
「思い込みが強いタイプ、三井とか矢井田とか勝手に点数も判断しちゃうんだろうな。見た目だけでね」
「どうしてだろうね」
「無意識でやってるぞ。点数なんて最初は分からないから隠すだろう? 上位の点数を言ってしまう先生もいるけど、ああいうのぐらいしか分からないからな。自分から見せる場合はともかく、それ以外は友達でも知らないから、どこかで意識してる男子は多いんだろうなぁ」
「拓海君も?」
「少しは気になるけど、戸狩とかそういうライバルになりそうなやつだけだね。ミコなんてライバルと思えないほどパワフルだからな」
「そういうものなんだ?」
「人によるんじゃないのか。のんびりしてるお前や、碧子さんにはそういうところは気にしないのかもしれないけど、隣は気になるんだろう」
「よく分からないなぁ」


冷やかし

 半井君が休んだために、みんなが「風邪かな?」と言い合っていた。彼は試験を受けるために休んでいる。準備も大変だったようで、色々用意していた。先生が特に大変だったらしくて、
「書類を英語で書けないと弱音吐かれて」と電話で半井君が笑っていた。
「がんばってね」と言ったら、
「絶対に決めたいね」と笑っていた。かなり勉強したらしく、自信はありそうだった。
「なんで、休んでいるんだろうね」と美菜子ちゃんに聞かれた。碧子さんのそばに集まるのが普通になり、みんながそう呼ぶようになっていた。
「美菜子、そんなに半井がいいなら、好きだって告白したら」と佐々木君が笑った。
「え〜! だって、彼、ラブレター受け取ってもうれしそうな顔しないんだって」
「へぇ、あいつ、愛想ないな」と保坂君が笑った。
「お前は申し込まないのか」とからかわれていて、
「桃、付き合わない?」と保坂君に言われて、
「えっとね……」と困っていた。
「見ろ。どう見ても脈ないじゃん」と保坂君が笑って、
「なぁ、須貝。お前、応えてやれよ」と保坂君に言われて、須貝君が困った顔をしたら、
「えぇ〜!」と運悪くそばを通りかかった女の子が聞いていて、
「桃子ちゃん、須貝君なの?」と大声で言ってしまったため、
「ひゅ〜!」と言われてしまい、2人が赤くなった。うーん、困ったぞ。
「お、須貝が生身の女と初めて付き合うのか?」と冷やかされていた。
「桜木、お前、最近告白されたからって余裕」と言ったため、遼子ちゃんが、
「え?」と動揺していた。
「お、ここにも桜木の相手がいたぞ。ライバル増えたよな。前末がんばれよ」と言われて、男子のかなりの人数が、
「え〜!」と言い出した。前末さんは明るくてかわいい顔で気さくなので、人気があるらしく男子のおとなしい押しの弱いグループのところで特に反応があって、
「お、あちこち反応が」と桜木君が言いだして、
「そういう事を煽るな」と本郷君に注意されていた。
「面白みのないやつ。こういう潤いぐらいはいるだろ。ぎすぎすしてても勉強する気が失せるだけ」と桜木君が明るく言った。うらやましい性格だ。
「桜木に申し込むやつ、早めにしろよ。返事保留してるからな。E組の女子に負けるなよ」と男子が言いだして、遼子ちゃんが困っていた。

 桃子ちゃんの気持ちがばれてしまい、ことあるごとにからかわれて、大変そうだった。気持ちが分かるなぁ。
「ねえ、半井君、どうして休んでいるの?」と隣のクラスの女の子に聞かれてしまい、
「さあ」と答えた。そのうち分かってしまうかもしれないけれど、さすがに言う訳にはいかなかった。
「なんだ、知らないって」と戻っていき、
「半井君が風邪引くのかな? 見舞いに行った方がと言っていた人もいたけど。お母様がいるだろうし」あのお母さんは心配はしそうもないし、看病はしそうもないだろうなぁと思いながら、ため息をついた。彼が受かったらそっちに行く事になるわけだから、拓海君に報告しないといけなくなる。そうなったら、多分、確実に……、
「はぁ」とため息をついていたら、
「逃げてきた」と桃子ちゃんがやってきた。
「碧子さんは?」と聞いていて、
「橋場君のところじゃないの。堂々としていていいね。ほほえましくて」と美菜子ちゃんがうらやましそうだった。確かにねえ。
「二谷さんの演技を見に行かない? 面白いんだって。もう、ほぼ完成してるって。あれからすごい勢いでやり始めたんだって。間に合いそうで良かったね」とそばで女の子が言いだして、あれだけかわいかったら男子がうるさそうだなと思った。半井君か結城君と付き合うなら、これほど心配しないのにと考えていた。
「詩織ちゃん、ため息つきすぎ」と桃子ちゃんが笑った。須貝君が近くに座ったら、
「ひゅ〜!」とまた言われていて、
「はあ」と私がため息付いていたら、
「そんなに半井君に会えなくて寂しいの?」と美菜子ちゃんに聞かれても聞いてなくて、
「あれ、反応ないよ?」と言われて、みんなが見ているのに気づいて、
「半井君のお見舞いって行った方がいいと思う?」と聞かれて、思わず、
「今、いないよ」と答えてしまい、
「え?」と驚かれてしまった。
「ああ、違うの。お父さんが留守をしているとかそういう話を聞いて」と慌ててごまかした。
「なんだ。どうかしたかと思ったじゃない」と美菜子ちゃんが心配そうで、
「ラブレターや告白よりデートに誘った方がいいのかも知れない」
「え、どういう意味?」と聞かれた。
「向こうだと直接デートに誘うらしくて。映画とかランチとか」
「ランチ?」と驚いていた。そうか、そうだ。日本はランチじゃないから、誘わないのかもしれない。当然かもね。お弁当を2人では食べないのが普通だ。女の子のグループと一緒に食べたあとに話したりする程度で、2人で食べる場所もないしね。冷やかされるし。
「そういう類の事を一度言ってたのを聞いただけ。はぁ〜」とため息をついたら、
「5回目だよ」と桃子ちゃんが笑った。ばれたらうるさいだろうな。それより拓海君をどう説得しようと迷っていた。

 須貝君と桃子ちゃんはことあるごとに言われだして、大変そうで、
「うるさいの」と桃子ちゃんに言われていたけど、いつもの元気な感じじゃなくて、
「やっぱり、桃子も女の子だなぁ。顔が赤いぞ。佐倉みたい」と言われてしまい恥かしかった。
「ラブレターじゃ駄目なんだって」と廊下で言っているのが聞こえて、
「半井君にデートに誘う方法って、何かな?」と言い合っていたので、あれ?……と思った。そばにいた保坂君が笑っていたので、
「ばらしたね」と言ったら、
「だって、沢口がどうしようって言ってたから、その話を廊下でしてたら、他のクラスの女が集まってきて」怖いぞ。後で怒られるかもしれない。
「いいじゃないか。あいつはモテていいよな。なにがお見舞いだ。風邪引いただけでこの騒ぎ、隠れファンの多いこと。女ってどうして、ああ条件がいいだけの男に惹かれるんだ」とそばの男子がぼやいていた。
「悔しかったら勉強したらいいじゃないの」と根元さんが笑った。
「帰国子女に英語で敵う訳ないじゃん。バスケも上手、英語もペラペラ、おまけにあの身長にルックスだぞ。数学だってできるし、俺、敵うところないぞ。テニスで注目されたからって、うるさすぎ」
「そう言えばそうだよな。俺、見逃したんだよ。佐倉、どうだった?」と聞かれて頭を抱えた。何で、みんなが知っているんだろう。あの時はさすがに帰った3年生も多くて、文化発表会の支度で残っていた子とか以外はあまりいなくて、どこから聞きつけたのかテニス部の男子は多かった。女子の方はあまりいなくて小平さんがいたようで、元川さんがいたぐらいで後は気づかなかった。
「あの後、うるさいぞ。元テニス部の3年の女に勝ったのはさすがに噂になるのが早いな。気が早い女は今からチョコレート渡すと張り切ってる」
「それはあるよね。彼って、無愛想だけど気になる人だし、詩織ちゃんと何を話しているか興味津々で」と言われてしまい、
「あまり言わないほうがいいぞ。山崎が機嫌が悪くなる。つくづく、恋人に甘いからなぁ。あいつ」
「最強の家庭教師だもの。いいなぁ」と言われてしまい、言いたい事を言ってるなぁと、また、ため息をついていた。拓海君は本宮君と本郷君と話し合っているらしくて今はいなかった。根元さんも協力しているらしい。本郷君はさすがに前のように睨む事をやめてきていた。先生に怒られたようで、
「なんだか、いいなぁ。女子はこの時期に甘いね。俺、期末で運命が決まってしまう」と言っていた。困ったなぁと考えていた。
「俺だって切実だ。ああ、海星にいけそうもない」
「お前、いいだろ。光鈴館はおろか、曾田だって危ないし」と言い合っていた。
「男子は高望みし過ぎだって」と女の子が笑っていて、
「これで今後が決まるんだ」と焦っている男子がいた。
「俺の姉ちゃんさぁ。彼氏がいい高校に受かって自慢してた。ところが燃え尽きたのか、遊びだしてさ。周りが自分より点数がいいやつばかりでいきなり下の順位だったから、がんばっても上がれなかったようでさ。結局、焦っておかしくなって浪人して、でも、遊んでたってさ。そういうパターンもあるから侮れないぞ」
「やだ。楽しい高校に行かないと面白くない」と言い合っていた。うーん、そういうのはあるのかもしれないなと聞いていて、
「俺も半井のように帰国子女なれば、モテるか?」と言い出した男子がいた。
「留学は無理だよ。親の仕事ならともかくねえ。お金がかかるしね」
「俺、外人と一度でいいから付き合いたい、あいつは付き合ったことあるのかな?」
「あるだろ、あれだけルックス良かったら」
「日本人の中に入ればよくても、外人はもっとカッコいい人が多いと思うけど」
「でも、俺、英語ペラペラになってさ」
「現実逃避しない」と根元さんが戻ってきて、
「そういう夢みたいな事ぐらい考えさせてくれ。今の自分に納得してるなら別だけど、とても納得できそうにない」と男子がぼやいていて、
「それはあるな」と言い出した。
「本宮、お前の成績俺にくれ」と本宮君と拓海君、仙道さんも戻ってきていた。
「お前、本宮の成績もらっても、顔が違うぞ。色気も違う」
「やめてくれよ。俺はそういうのは」と本宮君が困っていた。
「本宮なら誰だって落とせるじゃん。俺、彼女出来ないまま中学終わりそうだ。いいなぁ、そのルックス、その余裕、俺にくれ」
「ないものねだりしてどうするのよ」と根元さんが笑ったら、
「俺も駄目だけどね」と本宮君が言った。
「あら、どうして?」と根元君が聞いて、
「自分に戸惑ってるところはあるよ」と正直に言ったため、
「え〜!」とみんなが驚いていた。
「お前さぁ、贅沢だぞ。それ、あのお兄さんがいてさ。お前もモテて」
「やめてくれよ。比べられるのは嫌なんだ」と本宮君が言ったため、拓海君が本宮君の肩を叩いていて、
「いいだろ。気にするな。お前らもやめてやれよ。言われたくないことはあるだろう?」と聞いていて、
「それはある。顔は不問にしてくれ」と言ったため、
「顔は問題に出ないぞ」
「いや、面接で重要だ。見た目の清潔感のあるやつには敵わない。本郷はいいよな。眉毛が太くてしっかりして見られるだろ」と言われて、本郷君が驚いていた。
「それはあるよな。顔って重要だぞ。本郷、きつい顔なんだから優しく言えよ」と桜木君が笑って、本郷君が戸惑っていた。
「聞くかどうかは言い方もあるわね。ソフトに言うほうが女の子は特に聞いてくれるみたいね。本宮君のように」と言われて本郷君がちょっとショックを受けていたようで、
「俺は……」と困っていた。
「その辺でいいだろ」と言って拓海君が本郷君の背中を叩いていて、私のところに来た。
「どうかしたのか?」と聞かれて、
「いいえ、何でもございません」と言ったら、
「その顔で言われても納得しないぞ」と言われてしまった。

「なんだって?」とにらまれて、さすがに逃げたくなった。けれど、逃げる訳にもいかずに、
「そういうことだから」と言ったら、拓海君が考え込んでいた。公園のベンチはちょっと寒かったけれど我慢して話していた。中学生はさすがにいなかった。
「ちょっと待て。ということはあいつも向こうの学校に行き、お前と一緒ということか?」と聞かれて、
「半分はそうなるかも」と言った。
「どう言う意味だ? 何で、早く言わなかった」と聞かれて、
「そのうちばれるだろうと思ったけど、彼のほうはなぜか今日までばれなかったから。でも、みんなの口からばれるより、説明しておいた方がいいと思って」
「なんで言わないんだ。もっと早く」と怒鳴った。
「ごめんなさい。彼のことだから、私が言ってはいけないと思ったけど、でも、言っておかないときっと機嫌が」
「当たり前だ。絶対に反対だ。絶対にお前はいくな。危ない」どういう意味だろう? 
「これだろう? 詩織ちゃんはつくづく鈍いからな。あいつのそばにいるのは反対だ」と私の顔を見て呆れていた。
「そう言われても、別の高校に行くだろうからめったに会わないだろうし」
「あいつのことだ。絶対に会いに行くね」
「そんな暇はないと思う。彼の行く学校は勉強もスポーツも盛ん。私よりはるかに忙しくなるだろうと聞いているからね。蘭王に行くようなものだと思う」
「そんなに難しいところに行くのか?」
「上には上があるみたいだね。母がそう言ってたけど、よく知らない。有名大学に行くような人が集まる学校もあると聞いた。日本の大学よりはるかに難しいらしいけど。よく分からないけどね。だから、きっと向こうではそれほど会わないと」
「いや、安心できない。絶対反対」言うと思った。だから、説明できなかったんだよねと頭を抱えた。
「なんだよ、その態度は」
「拓海君はどうしたら認めてくれるの?」
「無理だね。何があろうと認められない」
「英語検定取るとか、順位が上がるとかしても駄目?」
「無理」
「拓海君、私ね、どうしても認めてほしいの」
「駄目だと言ってるだろう」
「反対されたまま行きたくないの」
「行かなければいいじゃないか」また、平行線だ。
「このままだときっと追いつけない」
「なにが?」
「拓海君に」
「追いつくってなにが?」
「拓海君とはつりあってないから」
「また、そういう事を言う。そんなことは関係ないと」
「私ね。どうしても気になるの。きっと、二谷さんだと違うと思うから」
「はっきり断ったぞ」
「下の学年にさえ、時間の問題とか言われていたみたいだね。テニス部で結城君に言われたの。やっぱりそう思われてるんだよ」
「そんなの関係ないじゃないか。お前と二谷さんを比べる必要がどこにある」
「だって、あれだけ綺麗で」
「綺麗だろうと関係ないだろう」と言われて、さすがに恥かしくてうつむいていた。小学生は遠くで遊んでいたけどお母さんがチラチラこっちを見ていたからだ。
「そう言われても」とうつむいたら、
「お前の方が気にしすぎなんだよ。周りの事なんてほっとけ。どうせ、お前が楢節さんと付き合ったときも似たようなことは言っていた。一之瀬だって同じだ。円井さんでさえ、時間の問題だろうと言われている」
「え、どうして?」
「傍で見てたって分かるだろう? 本宮の気持ちは彼女にない。碧子さんの方が好きなんだよ。どう見てもね。何度も見てる。ばれるのは時間の問題だ。あいつにも相談された。色々あったようだけど、本心を分かってもらえるまで言えと言っておいた。後悔したくなければそうしろと言ったら考えていたぞ。桃子だって知ってるし。根元も気づいているかもな。仙道だって薄々知ってるさ。そういうのに疎い本郷は知らないけどね」
「碧子さんは橋場君が好きみたいだよ。心が素敵と言ってたもの」
「本宮だっていいやつだぞ。結構優しいと思う。碧子さんは誤解してるだけだ。前のことがあったからな」
「それはそうだけど」
「話を戻そう。お父さんだって反対しているだろう?」
「お父さん、さすがに折れてきているの」
「なんで?」と嫌そうだった。
「ストライキしたから」
「ストライキ?」
「さすがにもう、食事作りたくない、下着洗いたくない、ハンカチにアイロンかけたくないって、この間ぼやいたの。それで全部やらなかった」
「え?」
「虫の居所が悪かったの。そういうわけで、あの父がさすがに困って、買い物も手伝うし、やるから機嫌を直してくれと折れてきた。おばあちゃんの手紙も何度も来てるしね」
「だとしても無理だと思う。お前の場合は傷つくかもしれないぞ」
「でも、行ってみないと分からないし」
「お前が新しい場所で知り合いが少ない場所で誰も助けてくれない状況で強くなれるとは思えないな。もし、挫折して戻ってくるにしても困るだろう? 短期のものにすればいいじゃないか」
「そういう人もいるらしいよ」
「なら」
「結局、何度か行ってみて長期のものに変えるんだって。だから、一緒だよ」
「お前なぁ、どうしてそこまで行こうとするんだ」
「拓海君の後ろを歩くのは嫌なのかもしれないね」
「なんだよ、それは」と睨んでいた。
「ごめん、やっぱり、反対されても困る」
「俺は認められないね。たとえ順位が上がろうと同じだ。詩織が向こうに行って苦労するのは見えている。俺は助けてやれない。そんなのは困るだろう?」と言われて、また、駄目だなと困ってしまった。

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