言われる人によって

 誰がどこの高校に行くという事をあちこちで噂になるようになった。
「さすがに困るよな。ライバル意識が強いやつもいるから」
「ふーん、それはあるな」と言い合っていた。そうなんだろうか? 碧子さんは違う事を言っていたなぁと思い出した。ゴールは一人一人違うのかもしれない。受かったとしてもその後が続く訳だし。
「碧子さんと本宮は普通に話してるな。ああいうのってすごい」と男子が言い合っていた。さすがに私はできないなぁと思った。冷やかされるし、でも、あまりに堂々としていて誰も何も言わなくなっていた。碧子さんは強いんだなと思った。
「みんなの前で告白できるようになれるものか?」と男子が言い合っていた。
 桃子ちゃんは、須貝君に話しかけるのをやめていた。仙道さんと一緒に話していて、あちこち楽しそうだった。拓海君も囲まれていて、男子に教えていた。廊下に半井君がいて、合図していたので、仕方なく外に出た。
「どうかした?」と聞いた。
「爺さんとの食事会。決まったから」と言って紙を渡された。
「いいけど、私は関係ないじゃない」
「一度会っておきたいってさ」
「だって、緊張しそうだよ」
「大丈夫だよ。ざっくばらんだ。それに変なギャクは言うから、笑えなくても笑ってやってくれ」
「あなたのおじいさんだね。間違いなく」と言ったら叩かれた。一之瀬さんがそばを通りかかった。
「ひそひそ話して、うっとうしいわね」と言われてしまい、
「やめたほうがいいよ」とそばの女の子が言った。
「佐分利が」と名前が出た途端に逃げて行った。
「何かあったのかな?」
「さあな。ほっとけよ。あいつがどうなろうと知らないな」と半井君はそっけなかった。
「あなたが愛想良く、ああいう人たちにウィンクしてあげればいいじゃない」
「お前の場合は著《いちじる》しく俺の事を誤解している。栄太も言ってだろう。俺は気楽に声はかけないタイプだと」
「そうだっけ?」
「忘れているようだ」
「覚えてないし、緊張していたし」
「おめかしはしてこいよ。それなりにはしておいた方がいい」
「そんな洋服は持ってない」
「買っておけよ。普段はTシャツ短パンでいいけど、そのうち、いるだろ」
「いるかな?」
「プロムどうするんだ?」
「なにそれ?」
「これだから困ったもんだ。まだまだ教えないといけないようだな」
「あなたに聞くと嘘を言いそうだ」
「☆私は嘘つきである。しかし、恋している時は不器用になる」
「ここで言わないでよ」
「ほらみろ。通じてるじゃないか。お前の方がよほど嘘つきだね」
「☆私は正直です。彼は私の心にいつもいます」
「お前」と呆れていて、
「げ、英会話だ」とそばの子に聞こえたらしくてそう言われた。
「☆もし、その彼が俺なら、正解だな」
「☆ありえない、あきれるんだけれど」と半井君のよく書く文章を真似して言ってみた。
「今まで学習したのから使いやがって」とにらまれてしまった。
「いいじゃない、そういうものでしょう」
「☆やはり、俺の真似じゃないか」
「はいはい」
「お前の場合はまだまだなんだよな」と呆れていた。

「半井君と英語で話していたって、本当?」と美菜子ちゃんに聞かれてしまった。さすがにやばかったかなとは思ったけれど開き直った。
「練習に付き合ってくれただけ」
「練習?」と驚いていた。
「俺さぁ。英語なんて話せなくていいから、国語ができるようになりたい」と保坂君がぼやいて佐々木君とうなずきあっていた。男子はみんなそう言うなぁ。
「英語なんて一生使わないぞ」と断言していて、
「そうだ日本語だけでいい」
「国語得意だったっけ?」と聞かれて、叩かれていた。
「ねえ、あれさ」とみんながびっくりしていた。桜木君が根元さんと楽しそうに歩いて戻ってきていた。
「あれ以来、桜木とよく話してるよ。本宮の時に意見が一致してたしね。前末がちょっとかわいそうだ」と佐々木君が言った。ああいう時にもめちゃうと飛び火するのかも知れない。
「前末、時々、桜木を見てるからな。予想通りそうだったみたいだな。仕方ない、別口探す」と佐々木君が言って、
「え〜! いつ見つけるの?」と遼子ちゃんが驚いていた。
「合格してからだよ。これからは無理。半井のように英語の本読んで、英語で女に話しかける余裕はないね」普通に話しかけてるんじゃないけど、英語だからばれないよね。あの人は冷や冷やものだなぁ。困ったなぁと考えていた。

 成績表が配られた時はどよめいて、うるさかった。どれぐらい上がったか話をしていて、私はため息をつきながら戻った。
「見せてよ」と三井さんが寄って来たけれど、彼女の持っているカードを男子がひったくって、男子がそのカードを勝手に見ようとしていて大騒ぎになっていた。うーん、大変だ。
 拓海君に見せたら、「がんばったな」とは言ってくれたけれど、なんだか様子が変だった。半井君に見せに行ったらにらまれてしまい、
「俺の予想より低い」と怒られて、うな垂れていた。 

 拓海君は優しくなって、帰る時に、
「大丈夫か、ちゃんと寝てるか?」と聞いてくれた。
「大丈夫だけど、なんだか拓海君が変だよ」と聞いた。
「あいつに言われて考えただけだ。さすがに幼稚園児じゃないってことは分からないとな。もう、時間もないんだしね」
「拓海君?」
「詩織の事を縛《しば》ってるつもりじゃなかったけれど、そう言われたらそうかもな。何もかも認めないなんて、さすがに俺もやられたら困るものな。お前の意志を無視してると言われたよ」
「意志って」
「ちゃんと話し合わないといけないよな」と言われてうなずいた。二谷さんがこっちを見ているのに気づいた。
「いいの?」と聞いたら、
「俺にとって大切なのは、どっちか聞かなくても分かるだろう」と言われて、何も言えなかった。
「英語で会話していたらしいな。上達したのか?」と初めて聞いてくれて驚いた。
「どうしたの、急に?」
「本当はそっちを心配しないといけないんじゃないかと思っただけだ。『お前だけでも味方になってやれ』ってさ」
「あの人、そんな事を言ったんだ?」
「違うさ。言ったのは変態会長。さすがに結果を報告したからね。そうしたら言われた。『成長を妨げるようなことだけはするな』と。束縛と心配はバランスが大事だって。そうしないと逃げられると怒られた」
「なんで半井君が言っても怒るのに、あの人が言うと違うの?」
「あの人は認めているからだよ。あの人はああ見えてちゃんと見ている。親切ではないが、冷たくもないんだろうな」半井君と一緒かもね。
「それで変わったんだ?」
「反省しただけ。詩織がやってみたいと言い出したのは初めてなんじゃないかと言われて、そう言われたらそうだなと思った。それなのに止めるのは早急だと言っていた。『駄目で挫折して戻ってきても優しく迎えてやれる男になったら認めてやる』って」
「新たな課題ですか?」
「そういうことだな。俺も未熟だってことだよ。点数にこだわるなって。それより、もっと大きな視野で見えるようになれってさ。半井に負けているって言うのは余分だけど。あの人、何であいつのこととか俺の事を知ってるんだろうな」ひょっとして……。
「菱美坂に住んでいるのは、大和田君だけだっけ?」
「ん? ああ、あの高級住宅地ね」と考えてから、
「え、じゃあ?」と拓海君が驚いていた。大和田君に聞いたんだろう。困った人だ。しっかりそういうことは把握しているとは。
「侮れないな。しっかり把握済みかよ」
「あの人はそういう部分は押さえておくんだろうね。抜け目ない」
「そういう人だから100点を並べられるんだろうなと思った。さすがに俺は無理だったし」
「そう? 向き不向きだってありそうだよ」
「未熟なんだろうな。まだまだね。それより、あちこち決まってきているけれど、何かあったら言えよ。半井がらみで言われているようだし」
「彼が優しくすればいいんだよ」
「違うだろうな。あの近寄りがたさがいいんじゃないのか? 気安くなったら『あてなり』にならないぞ」
「拓海君まで言う。それって流行ってないじゃない」
「いや、『なめし』はあちこちで言ってたよ。覚えやすいからな。塾で暇だから辞典を調べたやつがいて、そいつから流れたらしいけど、もっと分かりやすいのにしておけば流行ったかも」それはあるなぁ。
「『あてなり』も隠語として使ってるようだけれど、どうせばれているだろうな」
「なるほどね」
「後は風邪を引かないようにしてくれよ。一緒にお出かけしないとな」と言われてうなずいた。

 進路を決めている人も多くなり、周りの雑談も増えていた。面接をどうしたらいいかとかの話も多くて、
「髪の毛を伸ばして、背筋も伸ばして、後は『はきはき』だっけ?」と隣の男子が言いあっていた。
「佐倉のところは?」と佐々木君に聞かれた。
「さあねえ。確か……ないと思う。手続きは面倒だったけれど、でも、その前に色々行かないといけなくなったし、準備もあるし」
「どこに?」と須貝君が聞いてきた。
「色々しないといけないの。部屋とか片付けておかないといけないし」
「そうか、引っ越すんだものなぁ」と言われて、あいまいにうなずいた。
「みんなと離れちゃうねえ」と遼子ちゃんが考えていた。
「お前、桜木に言えよ」と佐々木君がからかった。
「無理よ。このところ毎日話していて、前末さんだって気にしてる」と悲しんでいた。根元さんと桜木君はうまが合ったのか楽しそうに毎日話していた。
「成績はいいし、明るいし、あれだけはっきりものが言えるんだもの。勝ち目なんて」とうな垂れていた。
「そうか? 友達かもしれないぞ。恋愛の場合は別の好みがある場合もあるしね」と佐々木君が笑った。
「あちこち噂はあるけれど、実際は違ったのは多いぞ。碧子さんだっていくらでも噂はあったのに、橋場だし。佐倉だって弘通が有力と言われていたのに、山崎と幼馴染だったわけだしね」と、言われて、そう言われてもねえと考えていた。
「弘通君って麻里ちゃんと噂があったじゃない」
「ないみたいだよ。普通に友達として話している。松永は別の人に申し込まれて一度付き合ってるし」と須貝君が教えていた。
「同じクラスだからいいじゃない。仲が良さそうにしてたの見たけれど」
「だから、普通に話しているだけなのか、実は気があるのかは分からないぞ。なぁ?」と佐々木君が須貝君に聞いた。
「須貝君もあったねえ。もったいないよ。桃子ちゃんはいい子じゃない」と美菜子ちゃんに言われて、たじたじになっていた。……難しいかもしれない。

 拓海君と話していて、
「桃は諦めたようだ」と言ったので驚いた。
「どうして?」
「仕方ないさ。好みのタイプの話を聞いてしまったようだ。おとなしい子で優しい子だったか、そういう感じだったはず。桃とは違うからな。須貝は順応性はないだろうから、気軽には付き合えないだろうし、好みじゃない相手に言われても困るんだろうな。そういうことが分かったんだろう」
「どうして、あちこちうまくいかないのかな」
「仕方ないさ。付き合うと言っても本宮もそうだけれど、気軽に付き合っているように見えて、好きな相手じゃないと駄目だと思うやつも多いんだよ」
「拓海君はかわいい子に申し込まれて、揺れないの?」
「そうだな。俺の場合は、そういうのはあまりね。自分からいきたいタイプだし、申し込まれても困るだけだから」
「違うものなの?」
「相手から何度も言われても困るだろうな。思ってくれるのはありがたいけれど、揺れるところまではいかないよ。俺はね」
「そういうものなんだ?」
「お前はどうだよ?」
「どうして?」
「半井に言われてないか?」と聞かれて、噴出した。
「やっぱり」
「あの人の場合は冗談だと思う」
「そうか? 俺にはそうは思えなくなってきたよ。お前の絵を飾ろうとしたもの、最初は怒りが先に来て分からなかったけれど、もしかしたら、それが本心じゃないだろうかと思ってね」
「本心?」
「素直に出せないタイプもいるってことだ。あいつも警戒心《けいかいしん》は強いんだろうし、自分の心なんて人に見せられないタイプだろうな。だから、詩織にこだわっているんだろうし」
「どうして?」
「そういう相性はあるだろう? 最初から話しやすいタイプ」
「お母さんだからかなぁ?」
「確かにそれはあるかもしれない。でもな。だったら、きっと、お前のことは世話は焼かないだろうと思う」
「どうして?」
「母親として甘えたいなら世話を焼くより焼いてほしいだろうな。裏で指導しているのはそういう理由がありそうだと気づいただけだ。最初は詩織に近づくのが許せなくて気づいてなかったよ。怒れる方が先でね。でも、今は違うと思うよ。あいつはあいつなりに心配して色々しているんだ」
「お母さんに頼まれただけだと思うよ」
「なら、楢節さん程度の距離で抑えるだろうな。芥川が相手ならそうするだろう」うーん、そう言われたらそうだなぁ。厳しく言うのも私のためなんだろうし。
「ただ、いじめたりからかうのが楽しいだけと言うのもあるよ。楢節さんに似てるから」
「それはあるかもしれないが、だったら、自分の事をもっと優先するだろう。お前の家庭教師まで引き受けたりはしないだろうな。楢節さんにああ言われて、確かに負けている部分もあるなと気づいたよ。でも、許せないし、あいつとは相性が悪いし」それはあるなぁ。
「あの人は訳がわからない。言うことがころころ変わる」
「それで自分では矛盾がないやつもいるぞ。あちこち」と遠くにいる三井さんたちを見ていた。

「成績落ちた」
「禁句」と三井さんたちがぼやいていた。
「最近さぁ、教室にいるとにらまれるし追い出される雰囲気」と鈴木洋子さんが怒っていた。
「だって、あれだけ捻じ曲げて嘘流せばそうならない?」とそばの女の子に言われて、にらんでいて、
「本当の事を言っただけなのに」とぼやいていた。
「矢井田なんてこの間、『帰れコール』された」
「私も。なんだか風当たりがきついわ」とぼやいていて、
「ねえ、なんかネタない? 面白くないのよねえ。言える人がいなくなった。あの子の点数がばれちゃったら、山崎君とつりあわないとか言えなくなって、反対に私の点数言われちゃうのよ」と三井さんが面白くなさそうに言った。
「あの子って、誰よ?」と一之瀬さんが睨んだ。
「引っ越す子。まったく困るわあ。親に怒られちゃったんだよね。『もっと、うまくやりなさい』って」と三井さんがぼやいたら全員が笑った。
「あんたの親ね、それは」
「うちはさすがに怒られるから、やれない」とあちこち言いだして、
「手越とネタを探せば」
「無理よ。あの子逃げたもの。『親に怒られたのは私のせいだ』って、罪を擦《なす》り付けてきた。同罪なのにさ」とぼやいていて、
「どっちもどっちよ」とみんなが笑っていた。

 円井さんの事を三井さんが何か言ったらしく、
「帰れ」「帰れ」とコールされていた。さすがにびっくりしたら、
「最近、多いね」と美菜子ちゃんが呆れていた。
「どこのクラスでもやってるんだって。止められそうもないよ。ストレス溜まってるから」と隣の女の子が言ったので、そういう理由なんだと見ていた。そうしたら、先生がやってきて、
「おーい」と笑っていた。
「先生、ひどいんです」と鈴木洋子さんと矢井田さん、三井さんがぼやいたら、
「注意してください」と頼んでいて、先生がため息をついていた。男子が一斉に、
「自分が言いたい放題やってきたからだろう」「そうだ、そうだ」と言い始めた。
「静かにしろ」と先生が言って、三井さんがうれしそうにしたら、
「全員、居残りにするか?」と言ったため、
「え〜!」と抗議していた。
「と、言いたいところだが、実は問題が出てきてね。投書箱を取り除こうという案が何度も提案されていて、最近、対処を保留していたんだが、その投書箱に多数の抗議文が出されていた」と先生が言ったので、みんながざわついていた。
「色々な問題が重なって、3年生の方は対処ができないということで、とりあえずしまってあったようで、今回、それを集計したところ、ある特定のグループ、もしくは個人名での抗議が殺到していた」三井さんたちが顔を見合わせていて、
「桜木君達だ」と矢井田さんが笑ったら、
「違う。お前らだ。三井、矢井田、鈴木、その他、『ピーチク』ってなんだ?」と先生に言われて、彼女達は逃げ出したそうにしていた。みんなは笑っていた。
「その対処をどうするかで困っているようだ。そういうことで、後で職員室に行くように」と言われて、
「ほらみろ」と男子が言いだしていた。
「お前らも静かにしろ。いくらストレスが溜まっていても、そのコールややりすぎだ。自分がやられたら嫌だろう? 相手の立場になって考えて行動するように。席に座って」と言われて移動していた。

 放課後に噂が流れていて、今の生徒会と先生があまりの投書の多さに対応しきれずに保留にしていた紙の中から、数の多いものだけ集めたら、彼女達へのものが圧倒的に多くて、これだけは対処した方がいいだろうと言う結論になったようだ。
「どうして、投書箱をやめるのかな?」と女の子が言いだして、
「面倒だからってさ。調べるのも大変だし、嘘も混じるし、いたずらもあるし、面倒見切れないんだろう。しょうがないさ」と男子が言いだして、
「えー、あれがあった方が何かと良くないかな?」と言い合っていた。最初は言い出せない子のための投書箱だったのに、最近は個人の問題ばかりが届いていたようだ。
「学校への不満より、先生への抗議と生徒のいざこざばっかりだったみたいだよ。改善してほしいってことじゃなくて、個別に対応してほしいという言う内容だったから、直接言ってきてもらったほうがいいだろうと言うのが先生の意見なんだって」と言い合っていた。中々難しいんだなと聞いていた。

 終業式の日はあちこちうるさかった。初詣はどうするとか、クリスマスはどうするかを話していた。拓海君と明日約束しているので、それを考えていた。
「俺、下がったよ」
「俺、上がったね」と言う男子の声を聞きながら通知表を受け取り、そのまま戻った。三井さんはまた取り上げられていて、先生に抗議しても先生が、
「やめておけよ」と言っても男子は聞いていなかった。
 帰る時に、
「あいつに見せるのか?」と拓海君に聞かれてうなずいた。
「そうか、あいつも上がってるんだろうな」と言ったので、
「気になるの?」と聞いた。
「それはあるさ。芥川に憧れていた男子は特にそう言っていたけれど、デマがいっぱい飛んでいるよ」
「どうして?」
「国際結婚するんだろうという話が多いけれど、そんなに簡単にはいかないよな。親の同意がないと」久仁江さん、どうするんだろうなと考えていた。

 拓海君と別れたあと、半井君の家に向かった。チャイムを押したら、もう帰っていて、
「珍しいね」と言ったら笑っていた。
「両方ともいないから、こういう時は早くてもいいからな」と言ったので驚いた。部屋に行ってから、通知表を見せていた。
「全然駄目」とにらまれて、
「怖い先生」とぼやいた。
「お前の場合は俺の事を先生としか見てないのか?」
「☆あなたは、変な人だと見ている」と英語で言ったら、
「まだ、発音、文法が駄目だよな」
「You are funny.にしておいてくれ」
「面白いかなぁ?」
「少しは聞き取れるようになったようだ。『Will you ask me on a date?(デートに誘って)』ぐらい言えよ。冬休みなんだし」
「そんな暇ないよ」
「ほらみろ、分かってるじゃないか。呆れるよな。言っとくけれど、『I think I am really in love.(私は、本当にほれていると思います)』」
「違うと思う」
「英語で言え。英語で」
「☆私はあなたの母と思われている。しかし、それは違う。私はあなたの母ではない」
「それは違うさ。お前に会う前に、俺は一度も楽しく過ごしたことがないのかもな。 多分……」
「あなたの場合はただ懐かしいだけでしょう? だから、話しやすいだけだと思うよ。別に、私のことはペットか何かと間違えて」と日本語で言ったら、
「それだけで、貴重な時間を割《さ》いてまで教えるか」と日本語で怒られてしまった。
「さあねえ。どこまで冗談なのやら」
「今度説明するよ」
「説明?」
「それより、山崎と決着つけろよ。いいタイミングだろうからな。やっと折れてきたようだし」
「楢節さんに何か言われたようでね」
「俺が言っても聞かなかったくせに、なんだよ」
「さあねえ、彼はあなたには言われたくないみたい」
「☆あいつは俺のライバルだ」
「☆そうじゃないと思う」
「俺に取ってはそうなりそうだ」と笑った。
「あなたって人は分からないなぁ」
「☆少なくとも、お前が俺をもっとわかってくれることを願ってる。今まで会った中で一番幸せだから」
「え?」
「☆俺は今まで会ったどの女よりもお前の事を考えている。ずっとお前のような相手を待ってたんだよ」
「え、早くて、聞き取れなかった」
「先入観って良くないぜ。一度自分の気持ちを真っ白にしてから俺を見てくれよ」と真剣な目をして言われて、さすがに戸惑っていた。

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