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もめごと

 あちこちで勉強していて、みんなで教えあっていた。知り合いに聞いている子も増えていて、須貝君達も勉強していた。私は一人で、英語の勉強をしていた。
「なにしてんだ、それ?」と男子が覗き込んでいた。英語で色々文章を並べていたからだろう。
「ああ、ちょっとね」と答えた。学校ではあまりやらなかったけれど、数学と英語だけやってると煮詰まってくるので気晴らしに英作文をしていた。
「新しい勉強方か?」と聞かれて、あいまいに笑った。男子は勉強している人が多く、喋っているのは女の子が多かった。
「ねえ」とトイレから戻る時に声を掛けられて、三井さんだった。
「あの話、内緒にしてくれないかな」と言ってきて、
「そう言われても、昨日は、電話越しに喧嘩してたということだけしか」と言ったら、
「違うって。受験の時に言わないでってこと」と言いだして、この人もなんだなと思った。
「私に言われても、あれは先生と話したんでしょう?」と聞いたら、
「そうじゃなくて」とじれったそうだった。
「とにかく」と言おうとしたら、
「志摩子」と根元さんに見つかってしまった。
「また、なにかやらかしたねの?」と怒られていて、
「違うってば」と慌てて逃げていた。

 根元さんから拓海君に報告が行ったようで仕方なく、昨日あった事を話した。
「呆れる親子だな。お前に口止めというか、そういうことまでするとはね」
「なんで、今更、気にするんだろう?」
「噂が流れてるからだ。デマもあるけどね。この時期って多いらしいぞ。赤木が困ってた」
「どうして?」
「焦りから、あちこちの話が混ざってね。噂がとんでもない方向にでも行くんだろうな。内申のことでデマがあったんだよ。嫌がらせとか、三井のテストを覗き込んだのも載るだろうと男子が冷やかし程度で言った事を、尾ひれが付いてもっともらしく流れているだけ」
「どうなんだろう?」
「さあな。先生も困ってるだろうけど、お前に言ってどうするんだよ。俺が言っておくよ。仕方ないし」
「先生に言うの?」
「そんなことしたら、逆恨みするだけだぞ。あいつに注意しておくよ。デマだってね」
「それで大丈夫かな?」
「さあな。あちこちうるさそうだけどな」と拓海君が困った顔をしていた。

「だから、デマだ」と拓海君が説明したけれど、
「でも、だって、みんなが」と三井さんたちが焦っていた。そばに付いていた桃子ちゃんと戸狩君が困った顔をして見ていた。一緒にいた一之瀬さんや宮内さんも心配そうで、
「詳しく知りたいのなら、先生に聞いてみたらどうだ」と拓海君に言われてから、
「だって、そんなこと聞けないよ。知らなかったんだもの。言ってくれたら、気をつけたのに。ばれないようにやったのに」と三井さんが言ってしまったため、3人が呆れるような顔をして見ていた。

 半井君は堂々としていた。面接練習だと言うのに緊張していないかのようだった。
「☆私は日本の○○という都市から来ました。生まれは東京で、フランス、ボストン、ニューヨーク、ロサンゼルスなどを転々として」と英語でスラスラ言ったので、すごいなと思った。それにしても、そんなにいっぱいあちこち行ってるんだ。志望動機を聞かれて、
「☆中学までをアメリカで過ごし、日本との教育制度の違いを………………」あまりにスラスラ言うため、先生も呆気に取られていて、英語だと聞き取れないだろうなと思った。
「☆以上が志望動機です。ここで学べることはとても楽しみにしています」と言ったため、うーん、そういうことも言わないといけないのかと思った。
「学校での、生活、クラブ活動ではなにを」
「☆美術部です。主に風景と人物を描いています。放課後に残って描いたり、休日に筆を持ちます。学校生活では…………」最後の方は何を言ってるか聞き取れない単語も多くて、
「うーん」と先生が呆気に取られていた。
「あなたは自分のどんなところが好きですか?」と聞かれてもよどみなく、
「☆創造性があり、物事のとららえ方に客観性を持ちながら、柔軟性を持って取り組んで行くことができることだと思います。実際に、友達の問題などを自分なりのアイデアを提案し…………」あまりに早くて聞き取れないよ……とぼやきたくなるぐらい、スラスラ言っていた。自信を持って、相手の目をしっかり見据えて、背筋は伸ばしていて、先生の方がたじたじになっていた。
「☆貴重なお時間をありがとうございました」と英語で言われて、先生があっけに取られていて、
「えっと、終わったのか?」と聞いていた。
「そうです。大体がこういうことになると思いますが」とそばにいた教頭先生と2人に言った。なぜか担任と教頭先生までいたので、私は緊張していた。
「バイリンガルだとしっかりしているようだな。今までの誰よりも、よどみなくはきはきしっかりしている。磯部も負けそうだなぁ」と先生が苦笑していた。
「ありがとうございます」と頭を下げていて、
「では」と言って立ち上がった。私の顔を見て促して、
「失礼します」と立ち上がり、
「いや、さすがに、勉強になりましたねえ」と先生が言い合っていた。
「俺だけ、教頭が立ち会うことないのにな」と外に出てから言っていたら、
「違うみたいだよ」とそばの女の子が言った。
「教頭が時間が空いた時に時々立ち会ってるんだって」と教えてくれた。
「仕方ないよ。ミゲールに受からないと学校としてもさあ」
「面接で落ちたわけじゃないのにね」と言い合ったので、びっくりしたけれど黙ってそこから立ち去った。
「さっきのどういう意味だろう?」
「ああ、あれね」とかなり歩いてから半井君が笑った。
「ミゲールに落ちた子の噂があった。家がお金持ちだったようだけれど、何か手違いがあったのか、そういう話があって、三井、一之瀬、加賀沼が慌てているんだ」
「どう言う意味?」
「テストはそれなりにがんばったのに、面接を失敗したとその子が言い訳したのを先生は真に受けた。でも、実際は……」
「なに?」
「素行が悪いのがばれたという話だ。素行調査でもしたんだろうと言われているが、それもデマかもな」
「そういうのばかりだね」
「仕方ないさ。本当の事を言っているとは限らないしね。ミゲールは人気があるけれど敷居は高いわけだから」
「面接個別練習はそれがあるからなんだね?」
「いや、面接個別練習は確か、違う。転んだ子がいたんだよ。それで、親から苦情があってそうなったと聞いたぞ。でも、噂だから本当かどうか知らない」
「そればっかりだね」
「仕方ないさ。先生もあまり言わないよ。緊張して暗示になったら困るだろう?」
「そうだけど」
「それより、明日のお前の方が心配。添削するから後で見せろ」と言われて、
「はい、先生」と答えたら、
「お前の場合は、『ええと』と言う癖を直さないとな」と言われて、言えるだろうかと心配だった。

「違う。志望動機が弱い。それから長所、短所は裏表だ。例えば行動的だと言ったら、がんばりすぎてしまうところがそうかもしれないと言うんだよ」美術室に行ってから、散々怒られてしまった。
「なるほど」
「もう一度」と美術室で言われて、書き直していた。
「あいつらに何か言われたら、俺に言え」
「え、どうして?」と書きながら聞いた。
「三井とかいう女、お前に難癖つけてたようだな」と聞かれて仕方なく昨日の話をした。
「あいつって、だから反省しないって本当のようだな」
「どう言う意味?」
「親が『もっとうまくごまかせ』とか言うらしいよ。相手のせいにしてね。自分も親に嘘ばかりついていると聞いたけどね。一之瀬のところはどうか知らない。おしゃべりだとは聞いたけれどね」
「親がそんな事を言うの?」
「三井がそう言ってたらしいな。だから、反省しないのだろうと、女の子が怒ってたけれどね。納得」
「そう言われても、私はどうしていいか」
「いいさ。慌ててるってことは、落ちたらさすがに困るって事だろうな。公立に受かればいいが、私立だと結構困るからね」
「え、どうして?」
「義務教育と違って謹慎、停学、退学はあるからだよ。東京の学校のやつが言ってた。いい学校の子だったようで、三井のような事をしたら、親が呼び出しされていたようだ。しかも全教科零点」
「全教科?」
「そうだ。だから、三井のは目に余ったから言ったのに。今頃慌ててどうするんだろうな」
「ふーん。厳しいね」
「仕方ないさ。それより、早くやれ」とせかされてしまった。

 書き直しをしたあと、紙を見ながら面接の練習をした。
「それをスラスラ言えるぐらいにしておけ。明日の昼休みに再チェック」と言われてしまい、
「はい」と言っていたら、ゆっくりと戸が開いた。彼女が来ていて、
「なんだよ?」と半井君が聞いた。うーん。
「なんだよ、そのモードな髪型」
「最新の髪型にしてくださいと言ったらこうなりました」と竹野内さんが言った。確かにお店の前に貼ってあるポスターから抜け出てきたような髪だけど。
「先生に怒られなかったか?」と、半井君が苦笑していた。
「はい、爆笑されました。でも、直してもらったらこうなってしまって、仕方なく一ヶ月はそのままでいいそうです」と言ったため、
「ふーん、なるほど」と見ていた。眼鏡はかけたままで、
「眼鏡に似合わないよな。三つ編よりいいけど、もっと、かわいくしてもらえよ。それから、あまり来ないでくれないか。授業の邪魔だ」
「授業ってなんですか?」
「特別講習だ。時間がなくてね。君にかまってる暇はない。俺としても色々あるんだし、今のうちにできるだけ叩き込んでおかないと間に合わないんだよ」
「はあ?」と相手がわかってなくて、
「君に興味を持ってくれる人と付き合ってくれ」
「分かりました」と帰って行った。
「本当に分かったのかな」
「明日になれば忘れてるさ」と軽く言ったので、うーん、と考えていた。

 体育の授業が始まって、先生が来る前に男子が牽制しあっていた。
「赤瀬川ってことはお前、梅山か?」と言い合っていて、半井君は別の男子と話していた。
「やめろ」と磯部君が止めた。
「そういうことはやめたほうがいい」と他の男子も言い出した。
「これだからいい子ちゃんはやだね」と後ろから声が出ていて、お互いににらみ合っていた。雰囲気が悪くなったところで先生がやってきて、
「どうかしたのか?」と先生が聞いた。けれど、誰もお互いを見合っていただけだった。
 授業の時間は最初から険悪だったけれど、途中でボールをわざとぶつけたと言い合って、喧嘩になってしまった。
「やめなさい」と先生が止めに来て、
「お前たち、やめろと言ってるだろ」と磯部君が止めたけれど、にらみ合っていた。結局、どこかギクシャクしたまま終わって、
「こういうことはやめるように」と先生が戻って行った。ボールを片付けている時に、ボールをぶつけた男子のグループがほくそえんでいて、
「お前、わざとぶつけたのか?」とぶつけられた男子が聞いたら、
「ふふん」と意地悪く笑ったため、
「お前」とやりあってしまい、磯部君は別のところにいて、止める男子が少なくて、
「やめろ」と遠くから注意していて、お互いに殴ろうとした瞬間に、
「いい加減にしろよ」と間にいた半井君が、殴りかかろうとした男子の腕を掴んで払いのけた。相手がさすがにびっくりして体勢を崩してひっくり返り、そばにいた男子が笑っていて、ボールを投げた男子も笑ったため、半井君が回し蹴りの要領で笑った男子の首の辺りに蹴りを入れた。もう少しで当たりそうな、わずか数センチのところで足を止めたため、その男子が何が起こったかわからず硬直していた。あまりのスピードだったので驚いて逃げられなかったため、半井君が足を戻したあとに、力が抜けたように後ろに倒れこんでいて、笑っていた男子が全員引きつった顔で見ていて、誰も何も言えなくなっていた。
「すげー」とその場にいた男子がびっくりしていた。
「こういうことはやめろ。みっともない。どこを受けようが自由だ。自分が納得していればいいだろ。人と比べるな」と半井君が睨んでいた。さすがに誰も何も言わずに見ていて、
「お前、何かやってるんだな?」
「空手か?」と男子が言い合っていて、それには応えず、半井君は、
「悪かったな。虫の居所が悪くてね」と倒れていた男子に手を差し出していて、倒れた男子が手を持って起き上がっていた。さすがに呆気に取られて、
半井君が「相手にするな」と言ったため、
「そうだな、悪かった」と謝っていて、ボールを投げた男子、重枡君達のグループがお互いの顔を見合っていて気まずそうにしていた。

「半井って、やっぱり分からないね」
「そうか、俺は見直したな。喧嘩したって始まらないじゃないか。止めるためにああやったとしても、さすがにスピード早くてびっくりした」と言い合っていて、
「気持ちは分かるよな。重枡、目に余ったし」
「でもさぁ、ちょっとやりすぎだろ。当たったらどうすんだよ」
「あのスピードで来られたら、俺、避けきれないな。あいつ、怒らせない方がいいって噂、本当のようだぞ」
「佐分利がらみだろ。何かあったのかな?」と言い合って通り過ぎて言ったのを見て、
「さっきから、みんなが騒いでますわね。大丈夫かしら」と碧子さんが心配していて、何かあったんだろうかと心配だった。

 昼休みに面接の練習の成果を半井君に見てもらった。
「ふーん、まだまだだけど」と機嫌が悪かった。
「先生、もしかして体育か何かでありました?」と聞いたら、じろっと睨んでいた。当たりらしい。
「やっかまれたの? それとも前のことでなにか」
「心配しなくてもいい。そっちじゃない。どこを受けるかで言い合っていただけだ。受ける前からこれじゃあな」
「でも」
「心配するな。止めただけだ。ちょっとやりすぎだと後で怒られたけど」
「やっぱり」
「大丈夫だ。怒られるほどじゃないと思うし」
「本当に?」
「そんな心配はしなくてもいい。それより、これじゃあ、ちょっとな」と言われてしまい、
「何が駄目?」と聞いたら、
「色々、時制がどうもな。文法が駄目。困ったもんだ。初対面や目上に使えるかどうかって教えてなかったっけ?」
「目上?」
「仕方ない。そこも課題だな。中学生だと、時制が少ないし、丁寧な言い方の使い分けもしてなかったかもな」
「時制は一応、本で読んだけれど、ごちゃごちゃして」
「仕方ないなぁ。整理していくしかないさ。接続の言葉も、『だから』と『しかし』ぐらいしか使ってない。色々教えないと」
「ごめん」
「仕方ないさ。中学生で習う英語だと足りないだけだ。しかも、今まで習った部分もちょっと危ないぐらいだしなぁ」
「そうだよね」
「後で書き直すにしても、これで行くしかない。今日は雰囲気に慣れろ。内容はお粗末でも話し方や姿勢とか、そういう部分を気をつけるように」と言われて、
「I got it.」
「やることがまだまだあるってことだよな」と半井君が考えていた。

 待っている間、最後のチェックをしていた。気が散るので離れたところでやってたら、
「佐倉さん」と呼ばれて、慌てて紙をポケットに入れて、そっちに行った。半井君もやってきて、彼は先に入って行ったので、
「え?」とそばにいた子がみんなが驚いていた。
「失礼します」と言って、彼が入ったあと、私も入って行った。
「えー、それでは」と赤木先生がひどく緊張していた。座るまで半井君が通訳して、その指示に従って座った。隣に教頭先生がいたので、うーん、どうして? と思いながら、赤木先生の目を見ていた。
「えっとだなぁ」と困った顔をして、半井君を見て、彼がうなずいた。
「えっと、我が校の志望動機は?」と聞かれて、半井君が英語に直していた。
「☆私の母はこちらに住んでいます。父とは別に暮らしていて、父は日本にいます。日本の学校で学んでいましたが、母に薦められたこともあり、英語を身につけ、文化の違い、考え方、色々な人とのふれあい、体験を通して…………」と言っていたら、
「背筋はいいが、声の抑揚が足りない。もう少し大きく」と半井君に注意を受けた。

「ふう」と終わったあと、赤木先生がため息をついた。お互い緊張しながらやっていたので、先生も心配そうな顔をして見ていて、半井君を時々確認しながらやっていたので疲れたようだ。
「さすがに疲れましたね。お互いに」と教頭先生にも言われてしまい、恥ずかしかった。
「先生の印象を言ってください。率直に、厳しく」と半井君に言われて、
「そうだな、声はもっとはっきり言ったほうがいいな。目線は鼻を時々見るぐらいで」
「いえ、目線は向こうではしっかり見ることが基本です」と半井君が言ったため、
「そうか、それはそうした方がいいな、それから、途中で考える時間があったのは、慣れない英語だからかも知れないけれど、気をつけたほうがいいぞ」と言われて、
「ありがとうございました」と頭を下げた。
「じゃあ、これで、先に出ます。後で注意しておきますから、失礼します」と半井君が頭を下げて出て行った。
「まぁ、でも、悪くなかったぞ。英語はがんばって言ってたほうだと思う。まだまだ、覚えないといけないだろうけど、がんばれよ」と先生が言ってくれたので、
「ありがとうございました」と頭を下げた。

 教室まで帰るとき、じろじろ見られた。
「疲れた。さすがに疲れた」
「仕方ないさ。緊張感のある場所で言わなければいけないことは出てくるぞ。慣れだよ」
「慣れないよ。話すことが恥かしくて」
「幼稚園児は恥かしいとは思わないんだよ。ただ、相手に注目してほしいから何か言う。そこからでいいんじゃないのか? 下手なプライドはいらないな。そんなものがあると挫折したとか言い出すし」
「そう言われるとそうだけど」
「英会話の場合は中学生で英語習った、テストの点数良かった、なんてものはないほうがいいかもね。通じなくて当然、分からなくて当然。赤ん坊も同じだって思いながら始めたほうがいい」
「え、ひょっとして、だから、キンダーちゃんといつも言うの?」と聞いたら、彼がにやっと笑った。そうか、そういう意味だったんだ。それはあるかもしれないなぁ。教室まで行ったら、拓海君が待っていてくれて、心配そうにしていた。
「どうだった?」と聞かれても、
「30点だって。色々、直したほうがいいって」
「そうか」
「30点?」とそばの男子が驚いていた。過敏な反応だなぁ。
「ああ、違うよ。別口」と拓海君が訂正していた。
「びっくりさせるなよ。その点数で曾田にいけるのかと思ったのに」
「曾田?」と拓海君が驚いていた。
「そう言ってたぞ。女の子達が勝手に言ってたのを小耳に挟んだだけ。俺は良く分からないんだよな」と言われて、
「どうして、そういう事を言うんだろうな」と拓海君が呆れていた。
 帰りながら、問題点を話していて、
「そういうのは仕方ないさ。習っている内容の何倍ものスピードで詰め込んでるんじゃないのか?」
「なにが?」
「英語だよ。英語の授業で習っている内容を、お前の場合は向こう行きを決めてから詰め込みでやってるだろう?」
「そこまでじゃないよ。数学もやっていたし。テストもあったから」
「それはそうだけど、普通はもっとゆっくり覚えるんだろうな。現地の人もそうじゃないのか?」
「さあねえ。でも、そこまでじゃないよ。合間にやってるという感じ。飽きないように色々混ぜてるしね。向こうの歴史、社会、生活習慣とかそういう類の本も読んでいるわけだから」
「そうだったな。それより、気をつけろよ」
「どうして?」
「あいつに聞いてないのか?」と言われてうなずいたら、仕方なさそうに説明してくれた。半井君が体育の授業の時に男子とやりあった事を教えてくれて、
「やっぱり」と思わず言ってしまった。
「あいつ、何かやってるのか?」
「空手だって」
「ふーん。相手の男子達、急に黙ったらしいぞ。半井にも言えなくなったそうだ」
「え、どうして?」
「かなりの迫力だったらしいけどね。さすがにやりすぎだぞ。あそこの組は、こっちと違って男子も女子も結構ライバル心が強い」
「こっちはないの?」
「桜木が明るいからなぁ。本郷がイライラしてた時期は、俺と根元、本宮、仙道辺りをライバルだと思っていたみたいだけれど、さすがに先生に注意を受けてからはやらなくなったしね。仙道は気配りタイプで、本郷やあちこちの男子もなだめてくれたようだ。三井達とか手越とかね」
「そんな事をしてたんだ」
「でも、聞いてくれる子もいるけれど、中々難しいようだ。三井は慌てていて、焦ってたから、先生に確認するように言ったけれど、駄目だったな。デマを言いふらすやつがデマに踊らされていたから、桃が笑ってた。戸狩と2人で」
「おーい」
「自分は結構すごい事を言いふらしていて、自分が反対に言われだして慌てるって、ちょっとなぁ」それはあるけれど、
「やっと気づいたらしいぞ。今まで自分がやってきたことが、自分に降りかかってくるってことにね」
「え、どういう意味?」
「先生は注意だけしていたということで、どこかで舐めてたんだろうな。大目に見てもらっていたって事に気づいてなかった。実際に入試で不利になるという事を言われだしたら、さすがに慌てたんだろう」
「大丈夫なのかな?」
「あれはほっとけよ。それより、半井とあまり話さないほうがいいかもしれないぞ」
「そうは言ってられないよ」
「分かってるけれどな。ちょっと心配。あそこのクラス言い合いしてるって聞いてるしね」どこのクラスも大変だなぁ。

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