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してほしくない事

 周りの男子が目の色を変えてやっているのに、三井さんが、「きゃー」と騒いでいた。手越さんとまた仲良く話していて、それもちょっと驚いた。
「女って余裕だな」とそばの男子がぼやいていた。拓海君は男子に質問ばかりされている。本郷君は余裕がなくて、本宮君は女の子に囲まれていた。
「佐倉、この問題やったか」と通りすがりに桜木君に聞かれて、
「ああ、この間やった気がする」と答えたら、
「サンキュー」と行ってしまった。意味不明だなと思っていたら、
「半井の予想はこれかもな」と言い合っていた。うーん、それ以外にもどっさりあったけどね。
「ねえ、これって、さあ」男子は教えあっていて、
「佐倉。半井って、何でお前に教えてるんだ?」とそばにいた保坂君に聞かれた。美菜子ちゃんが、
「そう言えば、どうして話しているの?」と聞かれてしまった。
「まぁ、色々あって」と言葉をごまかした。
「あいつってさ。ちょっと変わってないか?」と言われてもあいまいにしか笑えなかった。
「でも、素敵じゃない。ウィンクしてたの目撃した子がそれはうれしそうに言っていたの。一度でいいから見たい」とぼやいていた。
「眠い」と欠伸をしたら、
「お前はいいよなぁ。受験がないってことはさ」とそばの男子に言われてしまい、
「受験なくたって、英語話さないといけないってことは一緒だろ」と須貝君が言ってくれた。授業の内容は半年は分からないだろうと半井君に脅されていた。語学学校だって、分からない人もいたらしい。人によって言うことが違うらしい。「勉強になった」と言っている人もいれば、「日本の英会話スクールのほうがいい」という人も多いらしい。「すぐに溶け込める」という人もいれば、「中々話せない」という人もいる。「つまり、それだけ個人差があるってことね」と母が言っていた。
「授業内容って差があるのかな?」とそばの男子に聞かれても、分からなかったので、
「さあ」としか言いようがなかった。
「でも、俺、一度行ってみたいなぁ。その時は頼むぞ」と言われてしまい、頼むと言われても、その段階じゃないなぁと考えていた。

 私立高校の結果が出たらしくて騒いでいたけれど、落ちたと言う子はあまりいなかったようだ。蘭王に弘通君が受かったため、あちこちで噂になる程度だった。
 テストが始まった頃は、またみんなが目の色が変わっていた。それなりにこなしている人も多かったけれど、先生に質問に行く人の数が多くなり、
「がんばれよ」と何度も声をかけていた。テストが一通り終わったあとに事件が起きた。
「なによ、あれ?」とみんなが言っているのが聞こえた。
「おい、行ってみようぜ」と言われていて、みんなが走っていたので、なんだろうと思いながら、廊下を歩いていた。E組の教室に人だかりができていて、黒板にでかでかと数字とイニシャル、そして……、
「これってさぁ、やっぱり矢井田か?」と言い合っていた。
「数学がこんなにいいわけないじゃん」と言い合っていた。
「な、なによ、これ」と女の子が慌ててやってきて、黒板を消そうとしていて止められていた。
「先生に見せてからだ」と男子が言ったので、
「そんな」とその女の子が怒って物を投げつけていた。
「お前のって、これだよな」と言われていて、丸をつけられていた。イニシャルの下に名前が書いてあった。三井さんの名前があり、そして……、
「ひどい」と怒りながら慌てて黒板に近寄って消していたのは、
「やめろ、一之瀬。そんな事をしても無駄だ」と男子が笑っていた。
「ふーん」と言いながら笑っている女の子達がいて、その中に前園さんがいた。
「あなたって、あれぐらいなんだ」と緑ちゃんが周りの子に興味津々に聞かれていて、
「え、やだ」と言いながら逃げようとしていて、
「これって、やばくないか?」とそばの男子が言いあっていた。
「誰が書いたんだよ?」と、学級委員らしい男子がそばの女の子達に聞いていた。
「多分、男子」と言ったため、
「このクラスの男子か?」と聞いていた。
「字を消されたから無理じゃない?」と女の子に言われていて、
「一之瀬」と学級委員の男子が睨んでいた。
「ひどいわよ、こんな事」とすごく怒っていた。けれど、
「お前のやってきたことと同じ事だろう?」と男子が怒っている人がいて、女の子はひそひそ言いあっていた。
 B組に行ったら、三井さんがいて、
「お前の順位と点数書かれてたな」とからかわれていた。大声で男子が言いだして、そのため周りも色々言っているのが聞こえた。
「や、やめてよ」と慌てて止めていたけれど、
「お前の場合はさ、人に『やめてよ』と言う権利はないな」と男子がからかっていたら、
「やめないか」と意外にも本郷君が止めた。いつもはあの程度だと見て見ぬふりをしていたからだ。
「お前、そうは言うけど、自業自得だぞ」と男子が抗議したら、
「例えそうでも、同じ事をしてもいい理由にはならない」と怒鳴ったため、シーンとなった。
「それはあるわね。やりすぎよ。誰か、犯人知らないの?」と根元さんも聞いていた。
「知っていても言わないさ。だってなぁ」と言い合っていて、みんながひそひそ言いあっているのが見えた。

「犯人が名乗り出たそうですわ」と碧子さんが言ったので、
「そうだってね」と美菜子ちゃんが言って、
「誰?」とみんなが小声で聞いていた。
「E組とD組の男子が勝手に予想を書いていただけらしいぞ。先生が来たために、慌てて消さずに逃げたと聞いた。
「それが何で残ってたんだ?」
「先生はそれに気づかずに余所のクラスに行き、その間に面白がって、みんなが消すなと言ったらしいよ」と言ったため、
「ちょっと、やりすぎだよ」と言い合っていた。
「消しておけばいいのに」
「一緒だろ、だって、ほとんどの連中があの例の紙の写しを見てると聞いたぞ」
「三井のと矢井田、一之瀬のは見た。残りの全部が書かれたのは知らないぞ」と男子が言いだして、
「あれってさ。出鱈目という話と本人達の誰かの仕業じゃないかって話と両方聞いた」
「本人達が書くと思えないな」と保坂君が言いだして、それはあるなぁと思った。
「誰が書いたんだよ。しかも、書かれた教科がバラバラなのはどういう理由だろうな?」
「あちこちの噂を合わせたんじゃないの?」と言い合っていた。

「もう、恥かしくて親に怒られるよ」と矢井田さんがぼやいた。
「でも、あれ書いたの。誰なの?」と鈴木洋子さんが面白おかしく聞いたら、
「あんたのが知られてないからって」と一之瀬さんが怒っていた。
「宮内のだったの? 三井のだったの?」と聞かれていて、
「三井があの点数のわけないじゃない」と一之瀬さんが怒っていた。
「ちょっとやりすぎよ」と矢井田さんが壁を叩いていて、
「あんたのせいよ」と一之瀬さんを怒り出して、
「何よ、知らないわよ」
「あんた。私の成績知ってたじゃない、言いふらしたんでしょ」と言い合っていて、そのうち喧嘩になっていた。

「すさまじいな」と先生が思わず言った。職員室に呼ばれた生徒の一人の頬が赤くなっていたからだ。
「気持ちは分かるが、お前たちの事を面白くなかったと言っていた男子がしてしまったことだ。両方が謝るしかないな」
「なんでですか?」と一之瀬さんと矢井田さんが怒り出していて、
「俺に言われても困るぞ。廊下で叩き合って喧嘩しないでくれよ。もう、揉め事を起こされると困るんだからな」
「私たちは関係ないですよ」と鈴木洋子さんがぼやいていて、
「全員関係ある」と教頭先生がやってきて困った顔をしていた。
「でも」と女の子達がにらみ合っていて、
「少しは仲良くしろよ。後ちょっとで卒業だろう?」と聞かれて、
「なんで、こんな目に合わせられないといけないのよ」と一之瀬さんが怒っていて、
「お前が言いふらした内容が投書に届いていたけれど、どっちもどっちだぞ。少しは反省しなさい」と先生が怒っていたけれど、誰も反省している様子に見えなかったため、先生がため息をついていた。

 教室で、みんなが勉強していたけれど、女の子は雑談ばかりしていて、どこから出してきたのか、
「ねえ、誰だと思う?」と私たちのところに聞きに来た。紙には黒板に書いてあった人たちより更に増えていて、
「このSMって二つあるけど、なんで?」と佐々木君が気になったようで聞いてきた。
「宮内と三井志摩子」と女の子が小声で答えていた。
「それで、ここは何で確定してるんだ?」と聞いていて、名前の横に確定と書いてあった。
「だって、男子が三井志摩子の英語の点数覚えてたから」と言ったので、そう言えば覘いていた人がいたなと思った。
「順位も知られているから確定」と言い合っていて、三井さんだけ多くの科目が書かれていた。
「やめた方がよろしいのでは?」と碧子さんが注意していて、
「もう無理だって。ほとんどのクラスで予想してるよ」と逃げ出していた。
「俺、あの紙をもう見たあとだし」と保坂君が言っていて、これを知ったら彼女達が怒りそうだなと思った。

 帰る時に拓海君に、
「気をつけた方が良くないか?」と聞かれた。
「でも」
「あいつとは一緒にいないほうが」と言われて、それはあるなぁと思ったけれど、
「あの先生は怒りそうだし」
「あいつ、まだ気があるかも知れないぞ」と言われて、困ってしまった。一緒に美術室に行って、
「なんで、お前まで来る訳?」と半井君が素っ気無く言った。
「今日は一緒に帰るよ。例のことであいつら気が立ってるし」
「ふーん、ほっとけば。あの紙、一時期出回ったやつだろう? 先生とあいつらが知ったのが遅いだけだろ」と軽く言っていて、そうか、みんな知っているんだなと驚いた。
「でも、黒板に書くなんてやりすぎだ」と拓海君が呆れていた。
「あいつらが言いまわった内容のほうがやりすぎだと思うね。だから、こういう問題につながった。もっと毅然とした態度で先生が注意しておけば良かったんじゃないのか? この時期に言っても無理だろうな」と軽く言ったため、
「そういう言い方は」と止めた。
「仕方ないさ。あいつらの事で泣き寝入りしているやつらがそれだけいるから起こった事件だろ。もし、それがなかったら誰か止めてるね」
「とにかく、詩織は今日は俺が送って行くよ」と拓海君が言ってくれたけれど、
「大丈夫、途中までで」と言い合っていたら、
「やらないさ」と半井君が淡々と言った。
「どうして?」
「取引してあるからね。お前は心配してる暇があったら、単語帳でも覚えてろ。言ったろ、そんな時間はないね。教えないと困るのはお前の方だとね。それに母親との契約もある。山崎も自分の時間を大切にしろ。この場合はお前が送って行くほうが危ないな」
「なんでだよ?」と睨んでいた。
「一之瀬のほうはやらない。三井の友達の方は?」と聞かれて、
「それは……」と拓海君が困っていた。
「さっさと帰って勉強しろ。お前がついてたって、こいつの英語力が上がる訳じゃない。あげないと困るのはこいつ。お前も同じだろ。時間を大切にしろ」と軽く言われてしまい、
「大丈夫だから」と言ったら、
「気をつけるんだぞ」と言ってくれてうなずいた。
 拓海君が出て行ってから、
「いい加減、子離れ、親離れしろ」とにらまれた。
「そう言われても」
「そういう関係って一見居心地がいいように見えるけどな、お互いを駄目にするぞ」と言われて驚いた。
「どう言う意味?」
「考えてみろよ。そのほうがいいね。恋愛としても親子関係としてもいいことにはならない」
「うーん」
「離れても相手を信頼できるようにならないと続かないと言ってるんだ」
「そう言われても」
「遠距離と言っても、半端じゃないからな。結構、彼氏、彼女が日本に……と言うのは多かった。でも、うまくいってなかったぞ」
「脅さないでよ、不安なんだから」
「当たり前だよな。近くに気が合う子が出てきたりすればね」と意味深に見てきた。
「先生、やりましょうか」と座ったら、
「その、思いっきり流すのをやめろ」と睨んでいた。
「意地悪な人、嫌い」と言ったら笑っていて、
「意地悪ねえ。事実だと思うけど」と言われて、
「それで言ったら、あなたともないわけだよね。離れるわけだから」
「そうか? 俺たちは距離はそこまで離れてないね」
「心の距離の話」と言ったら叩かれた。

「お前の場合は典型的日本人だと言う事だけは分かった」と日記を見ながら言われて、
「どういう意味?」と聞いた。
「そうだな。まぁ、間違えやすいところは確実に間違えていくタイプだと言うことだ」と言ったので、そうだろうなと思い、ため息をついた。
「前置詞、冠詞、時制が苦手なのはいいけどなぁ」としみじみ言われて、
「はいはい、直せばいいんでしょ」とノートを取ろうとしたら、
「前置詞の使い方って、確か、時、場所、位置とかは習ったよな?」と聞かれ、
「一応」と答えた。
「その分じゃ、危ないな。こういうのは慣れなんだよな。時間が掛かるし」
「そうなの?」
「仕方ないさ。使い分けって自然にしてるだろう? 日本語でもね」
「そう言われるとそうだね」
「徐々にやっていくしかないな。一応、代表的なものの使い方だけは把握しておけよ」
「分かった」
「前置詞もノートに書き出すか?」と聞かれて、
「またですか」とため息をついたら、
「別にやらなくてもいいぞ。強制じゃないからな」とにらまれた。どこが強制じゃないと言うのだろう……とは言えなかった。

 半井君のそばで直していたら、
「あいつらには関わるなよ」と言われて、なんの事だろう? 考えてしまった。
「ぴーちくとどんぐり」
「あなたまでそう言う言い方は」
「仕方ないさ。あいつらは決め付けて見下したあだ名を勝手につけていたらしいから、それで反対につけられた。先生は『やめるように』とは言ったけれど、それでも使っているやつはいるさ。あいつらに言われて面白くなかったのは多いと思う。泣き寝入りしているだけでね。あいつらに怒るとよけいに変な噂を流されるだけだからね。今度は派手に喧嘩したらしいな」
「それは聞いたけど。でも、やりすぎだと思う」
「お前は知らないようだ」
「なにが?」と聞いたけれどしばらく黙ったあと、
「人に言われたくない事を言われたら、誰だって怒るってことにあいつらは鈍感だと思う。でも、言われた方はかなり傷ついている人もいるからな。でも、そういうことは分かっていない。『どうしてこういう目に合わないといけないんだ』とわめいていたらしいよ。一之瀬が」そう言いそうだ。やっぱり、反省しないのかも。
「あの人たちはやめることってあるのかな?」
「無理かもね。親が似てるらしいという話はあちこち聞くからね。楽しいからなのか、軽い気持ちなのか、癖なのか知らない。ただ、気づいてやめる子もいることは確か。でも、ああやって率先して言って歩くタイプだと、難しいと俺は思うね」
「そう」
「テニス部の時と同じだ。どこかでやめてほしいな、加わりたくないな、もしくは関係ないなと思っている人は、反省することも多いかもね。でも、率先してやってる一之瀬の場合は自己中心的であり、客観性に乏しい考え方に偏りがちだから、将来、大人になった時に、その部分が成長しているかどうかは個人差があるのかもね。でも、俺は一之瀬はあのまま行くと予想する」言うと思った。楢節さんも同じ事を思いそうだな。
「同じ事を経験しても、どうして個人差が出るんだろうね。考え方が違う。ミコちゃん、桃子ちゃん、拓海君、碧子さん、あなた、楢節さん、意見が違ってくるね」
「それは当たり前。それまでの経験、今いる環境、そこで分かれると思うからな。考え方は千差万別、どれを選択するかは人による。経験の差が大きいのも確か」
「楢節さんはいったい、何を経験したんだろう?」
「俺には聞かないのか?」
「あなたの場合、どれを信じていいか分からないぐらいだから」
「そうか? 結構、俺と同じような経験したやつはいると思う。親に恵まれない環境で育つってことだよ。そうなると、中々相手を信用できないからな。ひねくれてしまうのかもね」
「でも……」
「同じ経験しても明るくとらえるやつもいるから、一概に言えないけどな。でも、見守ってくれる人、信じられる人が一人でもいると違ってくるのは確かだよ。それが友達、親戚、近くの他人、そして……」と私を見ていた。
「なに?」
「いや、そういう部分で認めてほしいんだろうな。あいつらだってね」と言われて、よく分からないなぁと考えていた。


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