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この時期に

 ミコちゃんは、三井さんが怒られていたところをちょうどそばにいたらしくて、内容を教えてくれた。
「赤木が困ってたよ。『親に俺が怒られたけれど、お前が嘘を教えているとしか思えない内容だが、どういうことだ?』と聞いていてね、それで、例のごとく言い訳の山だったけれど」
「そう」
「急遽、PTAが集まった話は聞いた?」と聞かれて、
「知らない」と答えた。
「宮内の親が他の親をそそのかして、点数が噂されているのを知って怒ったらしくて、子供が勉強できない環境にあるとか色々抗議したらしいの。それで、PTAの役員が集まったらしいの」
「そう」
「時期が時期だけに内々にやったみたいだね。それに点数が流れていると言うことも学校の落ち度だと宮内の親がすごく怒っていてね。それで、先生が説明したの」
「そう」
「内容としては言い辛いから省くけどね。とにかく、宮内、一之瀬、鈴木洋子、矢井田の親が出席したの。あ、違う、矢井田じゃないや、小山内さんだったかな? とにかく、その辺の親が都合が付く人が来て、もめたらしいね」
「なにを?」
「仕方ないよ。なじりあいになったらしいね。その辺は教えてくれなかった。とにかく、母親は怒っていて、他のPTAも相当怒っていたらしいから、今日は噂が流れるかもね」
「どう言う意味?」と聞いても教えてくれたなった。風見ヶ丘地区は最近は引っ越してくる人も多くなり、小学生はいっぱいいるけれど、中学生が少ない。そのため、ミコちゃんとはこういう話もできるけれど、さすがに言いにくいのかもしれない。目に余る時だけ教えてくれるけれど、ミコちゃんも言いづらいんだろうと思って聞くのをやめた。
 ミコちゃんと別れたあと、あちこちで噂話しているのが聞こえた。名前が時々小声で出ていたので、誰の話かは分かってしまった。途中で桃子ちゃんに会った。
「聞いた?」と聞かれてうなずいた。
「昨日、ミコに電話もらった。さすがにもうやらないとは思うけどね」
「どうなんだろう?」
「男子はそれどころじゃないし」確かに。
「でも、あの子たちがおとなしくしてるとは思えないというのが、大方の意見」なるほどね。
「お、やってるか?」と戸狩君もやってきた。
「余裕」と桃子ちゃんが笑った。
「タクに負けられるかよ。佐倉も家庭教師がよくていいよな。俺に貸して」と言ったため、
「どこに必要があるの」とぼやいたら笑っていた。
「あいつも結構、いいとこあるな。でも、厳しいのも愛の鞭≪むち≫だと言う部分が分かってないところが女子も甘いよな」と言いながら、さっさと行ってしまった。どういう意味かな? 見ていたら、
「詩織ちゃんって鈍い」と桃子ちゃんに笑われてしまった。
「でも、あとちょっとだからね」と言いながら一緒に教室に行った。
「そうだけど」と聞きながら、いつもの癖で、下駄箱は英語でなんて言うんだっけ? 考えていた。そう言えば、靴は脱がないから必要ないなと考えていたら、
「教室でうるさくなるだろうな」と言ったので、ありえるなあと考えていた。
 教室に着いたら、拓海君が寄って来た。そばでは、三井さんたちの噂が聞こえてきた。
「あの子の親、先生に電話したらしいね」「でもさぁ、あれって嘘を」と言いあっていた。
「受験だと言うのに落ち着かないじゃないか」と怒っている男子もいた。

 噂はあちこちに飛び火していた。とてもじゃないけれど抑えきれないぐらい言われていて、男子は、
「うるさいよ」と怒っている人もいるぐらいだった。そうして、
「つまり、『相手の態度が悪かったので、からかっただけ』ぐらいに捻じ曲げて報告していたらしいよ」
「私が聞いたのは『悪気がなかった、軽く言っただけなのに』と言っていたと聞いたけれど」
「えー、ありえないじゃない」
「あれで悪気がないと言えるなんて」と言い合っていて、
「テスト覗き込んだのも言いがかりで、相手が騒ぎ立てたから悪いと親に言っていたんだって」
「ひどすぎ」
「前の時もそうだったらしいの。問題が色々あったじゃない? 『相手の子が嫌がっていないのだから、そこまでひどくないはず』とか、『相手が嘘を言ったんだ』とか、とにかく言い逃れして認めなかったらしいの。ただね、回数が多くなるにつれて、先生もPTAもさすがにどっちが悪いとか、誰が嘘をついているとかはわかってくるじゃない。学級委員の報告も受けていて、それもひっくるめると、その子達が嘘をついていたと分かるからね。それで、先生は発言を濁していたらしいよ」
「どうなるの?」
「時期が時期だけに穏便にしたいらしいね。もうすぐ卒業じゃない? それに受験、親もストレスが溜まっていたらしくて、そんなに素行が悪い子が卒業して高校に上がって、大丈夫なのかとか、そういう話し合いがあったらしくてね。でも、あの子たちの親が開き直って、『うちの子に限って』とずっと言っていたらしいの。でも、投書の紙とかPTAからの話があってね、一部が言えなくなって、『用事があるから』と逃げようとしたり、一部が認めるどころか反対に怒鳴り返したり、変な言い訳したりで、大変だったらしくて」とその子が説明していて、そばにいた碧子さんと顔を見合わせた。隣にいた佐々木君達は、
「うるさいよ」と小声でぼやいていて、
「『親があれじゃあ、反省しないはずよ』と怒ってたんだって」
「私、聞いたことがあるよ。一之瀬の親は悪口を言って歩く、三井の親は離婚していて、けんか腰で物を言うタイプで、結構すぐ怒ると評判、鈴木洋子の親は、ほら……」と声を潜めた。
「矢井田の親は知らないけど、多分、一之瀬と同じだろうね。それで、小山内さんと手越さんは似てるらしいよ」
「なにが?」
「兄弟が優等生で親の自慢、『それなのに、あなたは』と言われると聞いた」
「それもちょっとねえ」
「でも、なんだかよく分からない。親は知らなかったってことなの?」
「信じたくなかったという人もいるし、親は子供の説明を信じてしまったという人もいるんじゃないのかな。三井なんて都合が悪い部分で嘘つきそう」うーん、ありえるかも。
「ねえ、聞いた、聞いた?」と違う子がそばに寄ってきて、
「あのね、これは聞いた話だけど、リコーダーだったか、ジャージだったか、隠された子が、親とともに謝りに来たはずなのに家の中を覘かれたんだって」と言ったため驚いた。
「その時は3人が親と一緒に来てね。内藤と一之瀬がやったんだって、勝手に持ち物見て笑ってたらしくて、それで、親が怒ったらしいよ。さすがに一之瀬の親は謝ったらしいけどね。内藤のところはすっきり謝ってないらしいし。一之瀬の親は謝る時はそれなりにしてても、ちゃんと子供に怒らないらしいよ」うーん。
「でも、やりすぎだよね。自分がやられたら嫌がるくらいなら、最初から言わなければいいのにね」
「無理だよ」とみんなの声が揃っていた。そうか、そう思っていたんだ……。
「その辺は結構言ってたらしいよ。先生がいくら注意しても駄目だったみたいだね。でも、今度は反省するのかどうか」しないかもしれないなぁ。
「ただ、一部の人が、『そんな人が高校に入って我が校の評判を落としても困るから、しかるべき処置を』と言い出したら、慌てたらしいよ、その親達が」それはそうだろうな。
「どうするって?」
「無理だよ。この時期だから穏便にだってさ。でも、さすがに念を押されたらしくて」とまた、声を潜めていた。

「あちこちうるさいよな」とトイレから戻ろうとしたら、半井君がそばに寄ってきた。
「どうなると思う?」
「無理だ。『ちゃんと処分してください』と、進言してきたらしい」
「この時期に?」と驚いた。
「腹の虫が収まらないぐらいの態度だったと言ってたらしいぜ。俺のそばのやつらの情報」なるほど、どこのクラスも言いふらしているらしい。なぜか、三井さん、手越さんは教室にいなかったからよけいかもしれない。
「例のやつらは処分はできないから、先生のそばで自習させられているらしいぞ。そのまま教室に置いておける状態じゃないからだろう。どういうわけか、PTAの話し合いの内容が筒抜けなんだからな。今までのはそれなりしか出回っていなかったが、今度のはひどいようだな。親もさすがに怒っていたんだろう」うーん、そういう理由なんだ。
「授業に戻れないの?」
「無理じゃないか? 今まで甘くしすぎたと相当言われたらしい。先生もやむを得ずだろう。受験を優先したいだろうから、あいつらがいて揉め事を起こされるより、収まるまで隔離だろ」そうかなぁ? もっと言われるだけの気がするなぁ。
「ほっとけばいいさ。受験が近づいてきて過敏に反応しているだけだ。男子は噂どころじゃないと言ってるやつも多いからね」
「そうだけど」
「それより、お前はもっとやらせないとな。ボーダーもあるし。今度の罰はどうしようかな」とうれしそうだった。うーん、愛の鞭と言えるんだろうか?……と見ていたら、
「なんだよ?」と聞いてきた。
「あなたの場合は分かりづらいなと思っただけ」と言ったら笑っていた。

「ほっといていいのか?」と戸狩君に聞かれて、
「仕方ないさ。距離を置くように注意されたから」と拓海君が私たちを見ながら言った。
「誰に?」
「変態会長」
「なるほど」と戸狩君が笑った。
「実際、俺も詩織に気にかけていてもしてやれそうもないからね。自分の方を優先しないと」
「お前にだけは負けられないからな」と戸狩君が笑った。
「お前らしくない事を言うよな。マイペースのくせに」
「その辺は臨機応変に行かないと。こういう状態で乗り切るには必要だぞ」と周りを見た。
「注意しても無駄だろうな」と拓海君が呆れていた。
「止めると裏で言うだけ。人間ってそういうものだぞ。止めるよりほっとく方が、そのうち厭きて違う話題に行くだろうし」
「お前って、そういうところがシビアだよな」
「楢節さんの方が見てるぞ。その辺ね。俺も敵わないよなと思う。でも、どういうわけかお気に召した理由だけが未だに分からないね」と戸狩君が不思議そうに私を見ていた。

 掃除の時間もあちこち、話に花が咲いていた。「We tidy the classroom.」でいいんだっけ?……と考えながらやっていた。進行形にした方がいいかな? などと考えていたら、
「佐倉」と男子に呼ばれても気づかなかった。「We clean the desk with a dustcloth.」でいいかな……と思いながら、机を拭いていた。
「おーい、気づけ」と再度呼ばれて、
「wash」と、思わず言ったら、
「お前、英語で悲鳴あげるな」と言われてしまい笑われてしまった。
「ごめん、洗わないと、と思っただけ」と雑巾を見た。
「洗う? washだっけ?」と男子が言いだして、
「手を洗うと一緒でいいだろ」と言い合っていた。
「これ手伝え」と言われて手伝いはじめた。
「向こうって、こういうこともやるのか?」と聞かれて、
「掃除はしないらしいよ」と言ったら、
「えー、いいなぁ」と聞こえた人たちがぼやいていた。
「でも、ボランティア活動が盛んだし、そういうことではするのかも」と言ったら、
「そういうのもあるんだな。俺、したこともないよ」と笑っていた。

 手を洗っていたら、
「でもさぁ、あの子たちを隔離したところで一緒じゃないの。反省するとは思えないわ」と言う聞き覚えのある声がして、そっちを見たら、前園さんが嫌な顔で女の子と話をしていた。
「顔に段々出てきてるね」とそばで声がして、女の子達がひそひそ言い合っていた。
「どんなに先生や親に隠していても、最近表情に出てきちゃってるね」と言ったので、もう一度顔を見たら、口角が下がっていた。確かにちょっと表情に出てきているかもしれない。隠していても、態度に出さないとしても、裏で言っていればああいう顔になっていくんだろうか……と見ていた。

 先生が来る前に、碧子さんに顔の表情の話を聞いた。
「それは難しい問題ですわね。確かに、印象と違う方はいらっしゃいますわ」そうだよね。
「そうか? 昔、かわいかった子がいてさ。裏では意地悪だったらしくてショック受けたことがあったけど、今、顔を見ると性格が出てるぞ」と佐々木君が聞こえたらしくて、そう言ってきた。うーん……そうなんだ。
「それはあるよ。顔の怖い人だとちょっと」と須貝君が正直に言ったため、そう思っていたんだと見ていた。
「でもさぁ、俺は顔がかわいい子がいいな。性格の良さだというやつもいるけどなぁ」
「俺、ぽっちゃり系ならオーケー」と保坂君が寄って来た。
「お前、曾田で本当にいいのか?」と須貝君が聞いていた。
「諦めたくないから。佐倉だってムボーじゃん」と言われて、頭を抱えた。確かにそうだけど……。
「そうかな? 家の事情なら仕方ないよ。それに合わせてやっているのに、とやかく言うのは」と須貝君が止めてくれた。
「須貝って、すぐ佐倉庇うよな」と佐々木君が笑っていて、
「そういうことは……」と困った顔をしていた。

 美術室に行くまでノートのチェックをしていたら、雑談している女の子の声があちこちから聞こえた。
「一之瀬の親が言いきったらしいよ。『あれはあの子が悪い。うちの子が悪いはずはない、相手の子が色々嫌がらせして』と言っていたらしいの。ところがね、先生が止めたらしいの。PTAがそのときの事情を全部知っている人もいて、説明したため、さすがに一之瀬の母親も黙ったらしくて」
「私が聞いたのは、小山内さんの方だよ。『この子がそういうことはするはずありませんって。お兄ちゃんと同じように育てた』って言ってたらしいよ。『上は出来がいいですから』とか言って、高校名を自慢げに語ってたらしいけど、納得しないよね」
「手越さんのお兄さんは光鈴館に入ったのが自慢らしいよ。でもさぁ、ミコちゃんのとこの蘭王とかPTAの子供には成績がいい人がいっぱいいるから意味なかったらしいけど」
「『お兄さんと違ってあなたは』と怒られてたのを、三者面談の時に聞いた。『だから、ほかの子の点数とかを言って晴らしていたんじゃないの?』と誰かに聞いたよ。それもちょっとねえ」と言っているのが聞こえてきて、私は疎いかもと思いながら、ちょっと怖かった。裏でそういう風に親に報告し、裏でこうやって言われていたんだなとぼんやり考えていた。うちは母親がいないから、そういう親同士の噂話は入ってこないから、近所の人に何を言われているかも把握していなかっただけかもしれない。ミコちゃんも拓海君も知っていてわざと耳に入れないようにしていてくれたんだろう。親に嘘の報告をする……そういう事をしている人もいるんだな。前の学校だと兄弟がいるから、そういう事をしてもすぐにばれて、太郎なんてお尻を叩かれていたのは数え切れない。次郎はすぐに教えてしまうからだ。あちこち筒抜けだから、悪さもできないって事だろうか? 同じ学校なのに、こうまで差が出るのは、地域の特性だろうか、それとも……。

 半井君に、
「元気ないな?」と、ノートをチェックしながら聞かれた。
「そう?」
「その声もそうだ。何があった?」
「あなたの場合は結局、そうなってるね。いいよ、別に」
「何のことだ?」
「拓海君にあれだけ言っておきながら、結局突き放せなくなってない?」と聞いたら笑っていた。
「それはあるな。お前の場合は付いてないと心配になる性格だしね」
「そう言われても」
「元気だせよ。あれはお前とは関係ない」
「そうだけど、ちょっとね」
「言えよ、気になるから」と言われて仕方なく疑問に感じた事などを説明した。
「ああ、それね。仕方ないさ親が甘やかすからだよ」
「甘やかす?」
「子供の言葉を鵜呑みにするんだよ。子供が言い逃れしてるかどうかの判断ができないのだろう。小さい頃なら、そういうこともしてる子は多い。本人も自覚なくやってることもあるけれど、そのうち、嘘をついてはいけないということを友達や親を通して学んでいく」
「そうだろうね」
「ところが、親が甘いとそこの部分でそのままにしてしまうんだよ。うちの子は嘘を言うはずがないと信じてるのかもしれないが、相手が悪いと言われてそのまま鵜呑みにしてくれるから、子供はどんどんエスカレートしてずるくなっていく。親は簡単に騙されてくれると分かっているから、大人の顔色を伺って、様子を見ながら意地悪したり悪口言ったりして、周りに嫌がられる行動を取る。でも、先生も親もそこまで把握できていない場合は判断がつかないだろう? 子供の場合は説明が下手な場合も多いし、鵜呑みにできないこともあるし、そういう部分で踏み込めないし、子供だけで解決させた方がいい場合もあって、迷うらしい」
「そうなんだ?」
「そうだと思うぞ。高校生の子達とか大学生と付き合ってたから、ベビーシッターのバイトの時の話をしていたのを聞いているよ。子供の裏の姿を親が把握していない場合が多かったらしくてね。それを聞いていてね、俺もそう思っただけ。向こうだって甘い親はいくらでもいる。ライアンのそばにいた子で小さい頃から運転手に送り迎え、高校生でもれなく高級車を乗り回し、小遣いたっぷりで遊んでいた。問題を起こしても親は金で解決して終わり。子供が反省するわけもなく、どんどんひどくなっていって、取り返しのつかないところまで行っていた」
「取り返し?」
「喧嘩に巻き込まれて、刺された」
「え?」
「向こうではそういうこともあるんだよ」
「怖いね」
「誰かが途中で気づいてやめさせていたら良かったんだろうけれど、そうなるともう……」うーん、日本と違うなぁ。
「とにかく、そういう人もいるという話だ。その割合はそれほど多くないから近寄らないようにしている生徒が多いというだけの話。親と先生との問題だ。俺たちがどうこうできるレベルじゃない。言ったろ、自分に関係ない、どうすることもできないだろう部分には立ち入っても仕方ないって。あれはあいつらの問題だ。この時期までほっといた先生にも目に余るものがあったと俺は思う」
「でも、先生は再三注意して」
「厳しくしてる学校もあるからな。先生もどう対処していいか考えあぐねていた結果、ああなってしまったんだろう。向こうの親も慌てていたらしいぞ。処分の話まで出たからね。言い出した親はまさか自分達が責められるとは夢にも思っていなかったらしくて、裏で怒りまくっていたらしい。学校が悪いと」
「え、どうして?」
「仕方ないさ。素直に認められるとは思えないよ。言い合いに慣れていないからね。こっちは」
「慣れてたら違うの?」
「それはあるさ。喧嘩もあまりしないようだから、怒られたりなじられると反対に怒り出す人もいるからね。誰かのせいにでもこじつけないと気がすまなくなるんだろう。日本だと言い合いになる前に、その場の顔色を伺いながらいつのまにか発言している人がいつも同じ。周りはそれなりに距離を置きながら抗議する人はいない。あいつらの迷惑な行動は目に余ったとしても訴えるなんて言われないし」
「向こうだと訴えるの?」
「そういう人もいるってことだ。だから、自分の言い分を通そうとする人が出てきても止める人がいない。向こうだと、反対に言い返されるだろう。でも、こっちだとみんな見て見ぬ振りしたり、自分の意見を言えなかったり、言い分が通ってしまっていたから、ああなったんだろうな。でも、今度は受験前、卒業ももう少し、という時期だったため分が悪かったな」
「そういう問題なの?」
「あるさ。今まではそれなりに付き合っていかないと……あまり事を荒立てるよりは……という考えの人が多かったけれど、今は過敏になってるからね。そのせいでああなっただけ」
「どうなるのかな?」
「そのまま何事もなかったように卒業させるだけ。受験優先。俺の予想はそうだ」そうかもしれないなぁ。
「だから、ほっとけ。点数が言われたことが許せないと、自分の時だけ言い張るのはちょっとね。あいつらはその何倍もみんなの事を言いふらしてきているのだから、しかも、でっち上げた嘘の内容でもね」と言われて何も言えなくなった。

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