性格の問題

 応援演説の最中に欠伸をしたら、隣の男子に叩かれた。痛い。
「お前、少しは聞いてやれよ。友達の事だろう?」と言われて、
「ミコちゃんのことなら、もっといい事をいえばいいのに」
「例えば?」
「強気で、男子も打ち負かすパワーとか」と答えたため、周りが聞こえたらしくて苦笑していた。
「それで?」
「それからね。バレーが上手でみんなの中心人物で」
「それはあるよな。あいつ、いつも真ん中にいるよな」と言い合っていたら、
「それにしても、一人3分にしてくれ、長い」とそばの男子が同じように欠伸したので、
「ほら、やっぱり」と言ったら、
「お前のがうつったな」と言って、周りが笑っていた。
「では、それぞれの応援演説が終わりましたので、最後に立候補者の最後の声を聞いて見ましょう」と楢節先輩が、マイクを向けていた。
「あの人もああやってると、それなりにいいよな」とそばの男子が言っていて、
「20人はいるらしいぞ。彼女の数。お前が最後の女になれるとは限らないぞ」と言われてしまい、女じゃあないなあ……とまた欠伸をした。
「お前、のんびりしているよな。それじゃあ取られるぞ」その方がいいのかも……と思いながら見ていた。
「えー、忘れないように職員室の投票箱に」と先輩が言って、お開きになった。
「どうなるかな。今年は意外に多いよな。会長3人、副会長4人、書記4人に会計3人」
「こういうのって、私立とかその後の進路に影響があるらしいぞ」
「えー、でも、『二十歳過ぎたらタダの人』って言われる場合もある」と好き勝手言っていた。そうか、そういう理由なんだ。先輩もそうだろうなと思いながら見ていた。

 教室に帰ってから、碧子さんと「投票に行きましょう」と話していて、いつも話しているメンバーと一緒にいたら、
「やだ、あんな子に入れたくないな」と廊下で言っている人がいた。一之瀬さんが言っていて、どうせミコちゃんに入れたくないとでも言っていそうだなと思った。
 みんなと投票箱に入れたあと、先輩に話しかけられて、
「観野も女に圧倒的に人気があるようだな」と言ったので、
「ミコちゃんはモテるから」と言ったら笑っていた。
「先輩って、入れる事が出来ないんですよね」
「選挙管理委員はそうだよ。しょうがないよな。不正するといけないから、投票箱を開けるのは第3者立会いだからな」選挙管理委員は前期の生徒会の人が担当になっていた。
「そうなんだ?」
「ああ、先生も付くしね」
「先輩って、女の人の人気はどうだったんですか?」
「聞くな。言わずと知れたこと」と言ったため、
「お前、今度もやったらどうなるか分かってるだろうな」とそばの先生に睨まれていた。
「分かってますよ。守ってますよ。彼女一筋、受験が終わるまでずっと一人の女性を大切に」
「その一人が、変わっていくわけですね」と言ったら、
「お前が言うなよ」と呆れていた。

「変なカップルよね。あの先輩が後輩にラブレターもらっても、平然としてたよ。目の前で告白されても、普通にしていて」
「そこまで好きじゃないとか?」とテニス部の部室で一之瀬さんが言いだして、加茂さんと室根さん以外は逃げ出すように外に出た。
「またやってるよね」と外に出てから、みんながため息をついていて、それにも気づかず、中ではまだ色々言っていた。
「ねえ、やっぱり納得できないから」と加茂さんに言われて、
「それは私は思うわ」と一之瀬さんが力説した。室根さんは困った顔をして聞いていた。
「提案すれば、試合させてくださいとでも」
「そうね。こてんぱんにやっつけてやれば分かるかもね」と強気にほくそえんでいた。

 練習が始まってすぐに、加茂さんと一之瀬さんが先輩とこそこそやってるなと思っていたら、突然呼ばれて、
「佐倉さん、菅原さん、こっちに来て試合をして。加茂さんは室根さんと組んで」と言ったので驚いた。室根さんはあまり上手じゃないけれど、一応、補欠の中ではいいほうに見えた。そうしたら、
「どうせなら、湯島さんがいいです」と言い出したのでびっくりした。湯島さんは2番手の後衛だから、向こうの方が有利になるからだ。うーん、困ったぞ。先輩達が話し合っていて、
「いいわ、それでも。やってみなさい」と言われて、渋々コートに入った。困ったぞ、試合なんてほとんどやっていないのに。と思ったけれど、渋々やり始めた。加茂さんはこれ見よがしに強打してきて、強気だなと思った。最初は打ていなかったけれど、私は途中からがんばって返せるようになった。加茂さんの強打にもなれて、反対にボレーやレシーブをきちっと入れるようにしていた。途中から、湯島さんがサーブが決まらなくなって、第三セットがマッチポイントがこっちになって、加茂さんが私をわざと狙って打ったため、
「ひどい」とみんなが怒っていて、一之瀬さんが笑っていた。性格悪いぞ。デュースになって、何度も、アドバンテージが行ったり来たりした。そのうち、加茂さんがイライラしだして、湯島さんがファーストサーブをフォルトになって、セカンドを打った。私が打った球をこれ見よがしに私に狙おうとしていて、その玉が変化したため、加茂さんのガットをかすって、後ろにいってしまった。みんなが驚いていて、
「菅原、佐倉ペアの勝ち」と審判の先輩が言ったため、
「待ってよ。もう一度」と言ったけれど、
「時間がないの。また今度にして」と福本さんに言われてしまい、加茂さんがラケットを投げつけた。明らかに私を狙ったため、
「加茂さん」と先輩達が怒り出した。うーん。
「校庭1周してきなさい。それから、佐倉さんに謝って」と言ったため、すごい形相で睨んでいた。困った。加茂さんは少しだけ頭を下げて、渋々校庭を走りに行った。みんながひそひそ言い合っていた。
「まったく、短気だよな。試合する以前の問題だよ」と男子の部長さんが言い出したため、どういう事だろうなと思った。

「ああ、それはね。試合に出る以前に、その根性を叩きなおせってことだ」と楢節先輩が笑いながら言った。やはり気になったので帰るときに聞いてみた。
「根性?」
「そう、捻じ曲がってるからな」
「そうなんですか?」
「お前達の代は心配だよな。小平だけじゃあなあ」うーん、そう言われると不安だ。小平さんはいい人だけれど、一之瀬さんは曲者だし、加茂さんはきつい性格だしなあ。
「加茂はあれ以上は伸びないから安心しろ。お前は次の試合までにやれるだけのことはやっておけばいい」と言われたので、うなずいた。加茂さんと試合をして、なんだか疲れてしまった。全体的に見れば、湯島さんの力のほうが強い気がした。守ってるスペースも、サーブやその他の試合運びも。だから、湯島さん以外と組んだらどうなるか分からないと思う。ただ、ミスするたびに加茂さんが湯島さんを睨んだため、どっちが味方なのかとびっくりしてしまった。ああいう態度だと、誰と組んでも駄目だろうなと思った。それは一之瀬さんにも当てはまるなあと考えていた。

 次の日思いがけず、山崎君に声を掛けられた。
「気をつけろよ」と言って、通り過ぎていった。なんだろうな? とは思ったけれど、それ以上聞けなくて、でも、山崎君のその忠告は当たってしまった。加茂さんたちにいきなり裏に連れて行かれて、嫌味を言われてしまった。
「あんな、一方的なやらせ試合で勝ったからっていい気にならないでよ」と言ったので、驚いた。
「やらせ?」
「そうじゃない。入ってるのにアウトって言ったり、あなた達の方に甘かったわよ。許せないわ贔屓して」と言ったので、びっくりした。
「ひいきなんて」
「してたわよ。とにかく、二度と出てこないでよ。うっとうしいのよ」と言われてしまい、
「そんな事を言われても」
「あなたさえ来なければ、全て解決するのよ。いい気になるんじゃないわよ。あの先輩に言いつけたりしたら、許さない」
「そんな事」
「とにかく、絶対に」と言ったところで、
「何している?」と後ろから男子の声が聞こえて、振り向いたら山崎君が来ていた。
「何を言われた?」と聞かれて、答えられなくて困ってしまった。相手のほうが今度は困っていて、
「別にちょっと話し合いを」
「話し合い?」と山崎君が睨んでいて、
「だから、別に、そんなたいしたことじゃあ」
「まさかと思うけれど、昼間言っていたことを実行したんじゃないだろうな」と山崎君に言われて、彼女達が動揺していた。
「脅してやればとか、出て来れなくすればとか、佐倉の名前を挙げて言っていたらしいな。そういうことをしたんじゃないだろうな?」とすごい剣幕で言ったので、びっくりした。
「別にそれは」と一之瀬さんが逃げ腰になっていた。
「とにかく、そういうことをする前に練習しろよ。負けたのはお前に問題があるからだ。佐倉や菅原、それに組んでいた相手とも関係ないな」と言ったので、びっくりした。見ていたんだろうか?
「部外者が口を挟まないで」
「部外者だからこそ、見える部分があるだろうと思う。お前は何度やっても、きっと勝ていないだろうな。先輩だろうと、同じレベルの人だろうとね」と言ったため、びっくりした。
「どういう意味?」
「とにかく、自分でよく考えろよ。佐倉を脅して、こういうことをするのは卑怯《ひきょう》だな。顧問に言われたくなかったら、さっさと失せろ」と言ったので、加茂さんがにらんでいて、一之瀬さんは顧問の事が出た途端、逃げ出すように手を引っ張って行ってしまった。
「大丈夫か?」と聞かれて、座り込んだ。
「怖かった」
「あいつらに何を言われた?」
「なんだか、難癖《なんくせ》をつけていて」
「だろうな。何度やってもあの性格じゃ無理だよ」
「どうして?」先輩と同じことを言う。
「それは自分で考えろよ。ああいうタイプといつか当たるかもしれないからな。どうやって崩すのがいいのかってことも考えたほうがいいさ」
「テニスのこと知ってるの?」
「それは……」と困った顔をしていたけれど、
「とにかく、こういう事があったら、逃げろ。相手にする必要はない。今の君には手におえない」それは分かるけれど、
「俺だって、いつも、」と言ったところで切った。
「え?」
「とにかく、気をつけろよ」と言って立たせてくれた。
「ありがとう」とお礼を言ったら、またこの間と同じようにちょっとだけ照れたような顔をしていた。
「行こうぜ。また来るといけない」と言われて、後を付いていった。

 部活に出たら、加茂さんたちが隅の方でこっちを睨みながら色々言っていた。昨日のこともあって、なんだか周りもよそよそしい態度だった。困ったなあと思ったけれど、そのままにしていた。一之瀬さんはまた取り入るようにしていたけれど、先輩は淡々としていた。私も先輩に付いていて、ボールを渡したら、意外にも、「ありがとう」と言われてびっくりした。うーん、どうしたんだろうな?と思った。
 部活の帰りに様子が変だったことを先輩に聞かれてしまい、正直に話をした。
「なるほどな。気をつけろよ。加茂はしつこそうだな。性格が悪いと言う噂も聞いている」だろうけれどね。
「一之瀬と室根とつるんでいるんだろうけれど、福本達も困ってるらしいぞ。最初の方は向こうから話しかけられて、いっぱい話していたんだ。でも、そのうち、『先輩の○○さんが悪口言っていた』とか、言い出したらしくて、後輩の名前もいっぱい挙げていて、でも、それはほとんどでまかせで引っ掻き回していただけだということがばれちゃったんだよな」
「どうしてですか?」
「中山とお前の学年の幹谷が付き合ってるからね。それでだよ。中山と女子の久世が仲がいいから、話が筒抜けで全てばれちゃったんだよな」そういうことだったんだ。幹谷さんは同じ2年生の補欠で、割とかわいい子だ。中山先輩は3年生の選手で、女子の先輩の久世さんとはクラスメイトでよく話をしていた。
「言ってもいないことが言われている事がばれて、問い詰められて、しどろもどろ、先輩達は魔女裁判のごとく言い出したけれど、そのときは負けてたけれど、一之瀬が懲りずに、裏で先輩達の悪口言ってたから、それも筒抜けだ。そばにいた幹谷経由でね」なるほどね。それで、あの態度だったんだ。
「でも、追い出すわけにも行かないだろう? それで、あのままだよ。でも、それと加茂を外したのは無関係なのだけれど、納得できないらしくて食い下がってたらしいぞ。でもなあ」
「そう言えば、何度やっても無駄だって、山崎君も」
「ああ、あいつも試合見てたな。心配そうだったぞ」そういうところは気づくんだな。私は自分のことに必死で見てもいなかった。
「あいつさあ……」と言われたけれど、それには気づかずに、
「テニスって部外者が見ても分かりますか?」と質問したら、
「分からないと思う。でも、無駄だと言うのは別の意味だろう?」
「別の意味?」
「どんな事をやるにしても、共通するものはあるんだよ。性格と言うか、取り組む姿勢と言うか、態度と言うか」
「そうなんですか?」
「運動神経とか、体格やその他も関係があるが、一番大事なものがあいつには欠けているからな」
「なんですか?」
「それぐらいは自分で考えろ。お前なら、そのうち分かるさ」
「そうですか? 自分のことで精一杯ですけれどね」
「お前はそのうち分かるさ。あいつが持っていない、その目がある限りね」目ってなんだろう?
「あいつは色々欠けているんだよ。それに気づくかどうかの差は大きいぞ。というよりその差で変わって来るんだよ。色々なものが。成績にしろ、何にしろな。山崎が言いたいことはそういうことだ。さすが一年から選手に選ばれるだけのことはあるよな」うーん、言いたい事が良く分からないなと考えていた。

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