林間学校

 部活に何度か出て、バスケの試合が林間学校の後にあるらしく、熱心にやっていたようだった。こっちは代替わりがあまり上手くいっていなくて、ことあるごとに一之瀬さんが反抗的だった。一之瀬さんと一緒にいる室根さんはどっちつかずで困っていて、小平さんは黙々と練習させていた。真面目だったため、私語がドンドン少なくなり、つまらないと裏で言い出す子もいた。
「林間学校って楽しみだなあ」と帰るときに言い出して、私は、みんなの話を聞いていた。林間学校の班は仲がいい子同士になっている。碧子さんとバスが隣の予定でほっとしていた。桃子ちゃんは明るくて、千夏ちゃんは私と口を聞いてくれなくなってしまって困っていた。一度、ブラスバンドで見かけて、話しかけようとしたら逃げられてしまった。理由は弘通君の事だろうと思う。弘通君は本当に私の事が好きなんだろうか? 半信半疑だった。山崎君が言った言葉の意味もよく分からなくて、悩んでいる。困ったなあと思っていた。
「今度は本宮君にする」と元川さんが言ったので驚いた。切り替えが早いなあ。
 休んでいたら、元川さんが聞いてきた。
「山崎君とどうなってるの?」と言われて、困ってしまった。後ろにいたあと輩が聞こえたらしく、ひそひそやっていた。
「別に、なにも」
「だって、何度か目撃されてるんでしょう?」
「知り合いがいて、その関係でね」
「知り合い?」
「そう、それでその縁で話すようになっただけだけれど」
「ふーん、よく分からない」
「そういう話はあまりされたくないみたいだから、したくないの」
「山崎君が?」
「みたいだよ。機嫌が悪くなると困るし」
「そう」と言って離れて行った。彼女は苦手だなあと思った。彼女は今のところ、4番手の前衛だ。私のこともライバル視して来ていて、困っていた。こういう雰囲気苦手だ。
「本当のことなんですか?」と後ろから聞かれて、振り向いたら、この間、泣いていたあと輩だった。そうか、返事がもらえないと言っていたのは山崎君のことだったんだなと思った。
「ちょっと絡まれているのを助けてもらったりしただけ。ああ見えて優しい人だからね」
「そうなんですか?」
「困っている人はほっとけないみたい。正義感が強い人だからね。とにかく、その話はしたくない」と言ったら、困った顔をして離れていった。

 林間学校当日は疲れて、立ったまま寝そうだった。桃子さんはうれしそうに話していて、千夏ちゃんが話してくれそうもなくて、困ってしまった。目もあわせてくれない。元々、それほど仲がよくなくて、それ以外の夕実ちゃんと朋美ちゃんと話していた。二人は気さくで話しやすかった。碧子さんの隣に座って、色々話をしていて、ゲームをやりだして、的内君が補助席に座ってきて碧子さんに何度も話しかけて、
「お前は寝ていろ」と言われてしまい、仕方なく寝る事にした。ぼんやりしていて、
「えー、では今間違えた、弘通君にバツゲームで何かやってもらいましょう。学校内きっての優等生だから、歌でも」
「好きな女の子の名前でいいじゃん」と言っているのを私は聞かずに寝ていた。
「えー、だってさあ」
「噂になってるヤツでいいだろう? 票を入れた女で」と言い合っていて、
「それは…」と弘通君が困っていた。
「起きろ」と揺り起こされて、びっくりした。的内君が手でゆすっていて、
「なに?」と寝ぼけながら言ったら、
「お前、弘通と付き合えよ。隣行け。席代われ」と言われてしまい、爆笑になっていた。
「眠い」と言ってごまかしたら、
「付き合えばいいじゃん。どうせ弘通のこと好きなんだろう?」と別の男子が言い出して、
「よく話しているものね。仲がいいし」
「あの先輩より、数倍いいぞ」それはそうだけれどね。
「そういうことはやめて。弘通君が私なんかと付き合うはずがないし、それに彼に迷惑だから」と言ったら、
「またそれだよ。いい加減、本音を言えよ」と言われてしまい、困ってしまった。
「どうせ、あの先輩なんて本気じゃないんだろう? 弘通の事はまんざらでもないくせに。いつもうれしそうに話していてさあ」そう見えるのか。どっちかと言うと、紀久ちゃんがうれしそうだったから、それで私もうれしくなったと言うのが本当なのだけれどね。
「違うよ。とにかく、やめて。そういうことは困るし」
「もう、いいだろう」と後ろから声が聞こえた。
「なんだよ、山崎。止めるなよ。これからが面白いのに」
「山崎、案外焼きもちだったりして」と言い出して、困ってしまった。
「そういうことは言うなよ」と戸狩君が止めてくれて、ほっとしていたら、
「止めるな。ハッキリしろよ。じれったいよな。山崎がそうやって庇うのも実は」と的内君がしつこく言ったため、
「やめて」と言って大声を出した。
「なんだよ?」と的内君がびっくりしていた。
「自分の方をまずやってよ。人のことを言う前に」と言ったため、爆笑になっていた。
「言う前から振られている」
「そうそう、碧子さんは楢節先輩が」と言ったため、隣を驚いて見てしまった。嘘? 碧子さんが赤い顔をしてうつむいていた。困った、それは知らなかった。
「だから、的内は無理」
「なんだよ、それ」
「それより、俺、山崎があの票を誰に入れたかが気になるな。絶対教えようとしない」
「それは気になる」と女の子が言い出して、
「戸狩の碧子さん、弘通の佐倉は決定だろうし」
「えー、そうなの?」と遣り合っていて、困ってしまった。
「ごめんね」と碧子さんに謝ったら、
「いいの」と赤い顔をしていて、困ったなあと考えてしまった。

 バスを降りて歩いている間、考えてしまった。私はつくづく鈍い。弘通君のこともそれに碧子さんが先輩を好きだってことに全然気づいていなかった。困ったなあと考えていて、それでも、班に分かれて色々やっていた。碧子さんにもう一度謝ったら、
「いいの。それはね。でも、ちょっと不思議だったの?」
「どうして?」
「後で話すわ。ここではね」と言われてうなずいた。テントを張ったり、薪を用意したりカレーの用意をしたりグループや班に分かれてやっていた。何度か運んで、
「キャンプファイヤーの班をやればよかった」と夕実ちゃんがぼやいた。たまねぎを切っている間、みんなが、
「泣ける話でもしよう」と言い出して、笑われていた。
「それにしても的内、許せないなあ。しつこいよ」とミコちゃんが怒っていた。ミコちゃんは爆睡していたらしい。それで止めなかったようだ。前日まで打合わせで友達の家で話し合っていて、学級委員の仙道さんも同じく熟睡していたらしい。しょうがないよね。
「だとしても許せないよ。今日はクラスでまとまってお話でしょう? 誰がやるの?」と言い合っていて、眠くて寝そうになった。
「危ないよ」と言われて、
「ごめん」と言って、またやり始めた。
「しかし、意外よね。手つきいいのね」と隣のクラスの女の子達に言われてしまった。そっちは全然進んでいなかった。こっちは夕実ちゃんが手馴れていて、私もいつも家でやっているため、早かった。
「だって、親が働いてるから」
「詩織ちゃんは、お母さんがいないものね」と言われてうなずいた。
「あー出来ない。手伝ってよ」と言い出して、夕実ちゃんが見かねて、手伝ってあげていた。こっちはすぐに終わりそうだったからだ。
「詩織ちゃんがいれば、大丈夫そう」と言って、同じクラスのカレー班の子が手を休めていた。
「そういう問題じゃない。嫁にいけないぞ」と担任が来て、
「もらって、先生」とすごいことを言っていた。
「もう少しできるようになってから言え」と言われてうな垂れていた。
「佐倉は少し休め。クマがあるぞ」と言われてしまった。昨日、また電話が掛かってきて、父が派手に喧嘩したため、また寝れなかった。困ったもんだよねと思った。
「大丈夫です。何とか、がんばります」
「お前ら、少しは手を動かせ。口はいい。言い訳は聞かないぞ」と隣のクラスで守屋先生が怒っていて、でも誰も聞いていなかった。

 カレーを煮込んでいる間、さすがに疲れて、ベンチで寝ていた。
「大丈夫なのか?」と声がしたので、目を開けた。山崎君が覗き込んでいて、
「大丈夫だよ。たまねぎ切りすぎて疲れただけだよ」と言ったら、
「俺も火ばかり点けて疲れたよ。ボーイスカウトやってたからって、何度も頼まれて、違うクラスもやらされた」と言ったので、笑ってしまった。
「少し寝てろよ」と言って離れていった。しばらく寝ていたら、いい匂いになってきた。
「おーい、B組食べるぞ」と誰かが言い出して起きた。

「どうして、まだご飯が、カレーが」とC組がやっていた。火が鍋から遠かったらしく、まだ煮えていないらしい。誰も気づかず、喋ってばかりいたらしい。先生も見ていなくて、私たちが食べ終わっても、まだやっていた。他のクラスは食べ始める所もいくつかあった。
「困ったもんだよな」と男子が笑っていて、
「山崎がいて助かった」と言ったため、みんなが笑っていた。
「だって、材料が切り終わるの一番だったからなあ。田戸のお陰だ」と夕実ちゃんを見て、戸狩君が言った。
「詩織ちゃんと2人でほとんど切ったんだよ。喋ってた子達を恨む」と笑いながら言っていて、
「だって、涙が出ちゃって」とみんなが笑っていた。
 食べ終わって、さっさと片付けも終わり、男子がかくれんぼ、女子が座って話をしていた。私は疲れて、壁にもたれて寝ていた。
「しかし、どういうことなんだろうな?」
「なにが?」
「弘通にからんでばかりいないか?」
「的内君でしょう? 誤解してたからだよ。碧子さんが好きなんじゃないかって」
「蓋を開けたら、碧子さんは楢節さんか」
「なんで分かったの?」
「俺が告白した」と戸狩君が言い出したため、
「ええー!」とみんなが驚いたため、起きた。
「なんだ、そっちなんだ。ところで弘通君の方はどうなの?」と聞いていて、旗色悪いなと思って、また寝た振りをした。
「なんだ、寝ちゃったねえ」
「本当なの?」と知夏ちゃんが聞いていて、
「聞いてみようよ」と言い出したため、困ってしまった。誰かが弘通君を呼びに行き、それから戻ってきたようで、
「じゃあ、聞いてみたら?」と言っている声が聞こえた。
「弘通君の好きな人って誰?」と聞いていて、弘通君が、
「それは……」と困っている声が聞こえた。
「言えばいいじゃん。どうせ、ばれてるぞ。ずっと見てたからなあ。クラス内で佐倉がシカトされてたときから、ずっと心配してただろう?」と言われていて、
「その前からでしょう?」と意外な声が聞こえた。この声? 
「知ってたよ。本当はね、知ってたの。だけれど、怖くて聞けなかったの。一年生の時からだよね。一緒に勉強を教えてもらったとき、はっきり分かったよ。お弁当をおいしそうに食べていてね。でも、この間、言われて、しょうがないなと思った」と言ったので、困ってしまった。
「いいじゃない、それでね。私はすっきりした。ずっと言いたくて、でも優しいから困るんじゃないかなと思って言えなかったの」と紀久ちゃんが言ったため、なんて言っていいか分からなくなった。
「だから、この辺でやめようよ」と言ってくれたけれど、
「だったら、ハッキリさせようぜ。この際さあ。両思いなら言えばいいじゃないか」と言われて困ってしまった。
「あれ? 山崎君の方じゃないの?」
「はっきり振られたから、あの先輩にいったと聞いたぞ。やけで」やけなんだろうか? 
「違う事を聞いた。噂されて困ったから相談したら、俺と付き合えと提案されて、それで」微妙に当たっている……。
「でもなあ、あの先輩は好きでもないんだろう。だったら、山崎の方で」
「弘通君の方がいいよ。優しいし」勝手な事を言っている。
「山崎はありえないな。あいつは別に好きな女がいるらしいぞ」と男子の声が聞こえた。
「誰?」
「さあなあ、忘れられない女が前の学校にいるらしい」そんな人がいるんだ……。
「なんだ、そっちなんだ。どうも、おかしいと思った」と言い出して、そのまま、別の話題になっていた。
「この際、言えよ」と男子が小声で言っているのが聞こえたけれど、それより、この間、山崎君に言われたことを思い出していた。昔からってなんだろう? 時々、変だったけれど……。それに、思慕って?……よく分からないなあと考えていた。

 その夜。碧子さんにはっきり聞かれた。
「山崎君の事が好きでしょう?」と言われて、びっくりした。
「え、そうなの?」と夕実ちゃんに聞かれて、もう寝ている、桃子ちゃんと朋美ちゃんが聞こえたらしく、「うーん」とうなっていた。
「それは……」
「隠さないで教えてください」と言われて困ってしまった。
「ずっと見てましたもの。遠くからだけれど。教室では出来るだけ見ないようにしていて、わざとかなと思いましたの。でも、窓からいつも見ていらして」と言われて、
「そうだったんだ?」
「でも、あの先輩は?」と聞かれて、
「先輩のことは好きじゃないでしょう?」と碧子さんに念を押されたため、もう駄目だなと思って、
「頼まれたの」と言ったら、みんなが驚いていた。
「誰にも言わないで。しばらく続けないといけないの」
「そうなの、どうして?」
「理由は教えてもらえなかったの」
「ふーん、なんだって、また」と夕実ちゃんに言われて、
「山崎君の噂が出た時期だからでしょう?」と碧子さんに聞かれてうなずいた。
「そうだったんだ。変だと思った」
「じゃあ、どうするの? 弘通君は」と知夏ちゃんが起き出して聞いてきた。
「それは、だって……」
「友達の好きな人だもの。そういう気持ちにはなれないと思うけれど」と碧子さんに聞かれてうなずいた。
「紀久ちゃんはずっと好きだったの。かなり長い間ね。だから、とてもじゃないけれど、そんな気持ちには……」
「そうだったんだ……」と知夏ちゃんが考えていた。
「しょうがないよ、こればっかりは。弘通君だって分かってると思うなあ。心配そうだったもの。色々あってね」と桃子ちゃんが起き出してそう言ったため、そうだったんだと困ってしまった。
「いいじゃないの。このままで。先輩のことは時期が来たら自然消滅でいいんじゃないの。碧子さんは告白してもいいし、どっちでもいいしね。でも、詩織ちゃんは山崎君に気持ち伝えないと駄目だよ」と夕実ちゃんが言った。
「そんなこと……」
「言わないと気づかないよ。それにきっとさあ」と夕実ちゃんに言われて、
「山崎君のさっきの話は本当なの?」と桃子ちゃんが聞いてきた。
「私は知らないけれど」と言ったら、みんなも首をかしげていた。

 次の日に、みんなが朝、
「誰にも内緒ね」と言い合った。みんなも今まで言えなかった秘密とか暴露してくれて、気が楽になった。
「しかし、意外だったなあ。てっきり」と知夏ちゃんに言われて、困ってしまった。私が弘通君を好きだと誤解してたらしい。しかも、紀久ちゃんに抜け駆けして話していたと誤解していたと謝ってくれた。知夏ちゃんはちゃんと告白すると言っていて、みんなそれぞれ考えていた。私もいつか、言った方がいいんだろうか? ……迷惑じゃないかなあ……まだ迷っていた。

 眠くて大変で、でも、ぐっすりだった男子もいるらしい。
「暴露話でもりあがったぞ」と言っているグループもいた。
「知ってるか、宮内が」
「やめてよ」と止めていて、でも、そういう話は昼までにすっかり出回っていた。お昼はおにぎりを作って食べていて、散策をしていた。夕方からキャンプファイヤーなので、早めに帰らないといけない。スケッチをしている人、昆虫採集している人、落ち葉の採集をしている女の子と色々だった。私は、適当に日記形式で書いていた。人間観察ぐらいしか出来ない。クラスの誰が落ち着きないとか、何を話していたとか細かく観察して書いている桃子ちゃんと違って、誰がどういう動きで意外と違う面が見えたとかそういうことを書いていた。一緒に絵もつけていて、
「もっと、うまく書け」と担任に笑われていた。
「だって、文章も絵も中途半端だから」と言ったため、周りが笑っていた。
「葉っぱ貼っておこう」という桃子ちゃんに先生が、
「手抜きするな」と怒られていた。
「だからさあ、戸狩が」
「でも、鈴木も」と隣で言い合っていた。こそこそ言っていて、内緒話のはずが全部筒抜けだった。
「山崎の昔の女って誰なんだ?」という声が聞こえてきた。
「ああ、それねえ。それ以上は話さないんだよ。『待ってる』とか言っていて」待ってる? 
「よく分からないよなあ。意外とあいつもそういうところがあるのか? てっきり、女に興味がないと」
「でもなあ。最近は変わってきたよな。笑うようになったけれど」と言っているのを聞いていたら、
「本当ですか?」と碧子さんが迫られていた。隣のクラスの男子が何度も聞いていた。うーん、先輩の話もばれちゃったんだなあ。
「あちこち、出てきたね。また、夜に話そうね」と桃子ちゃんが明るく言った。
 キャンプファイヤー班だけ先に戻って行った。山崎君もその班で、戸狩君も同じだった。代わりに弘通君が色々世話を焼いていた。課題も、帰ってから提出するらしい。
「村中。告白しろよ」と男子にばれたのか、そう言われていて、知夏ちゃんが困っていた。言うのかなあ……と見ていた。
 
 戻ってから、少し話をしながら散策をしていた。時間に余裕があったからだ。うちはまとまりがあるらしく、早め早めで行動していて、隣のC組はいつももたもたしていた。担任もいつもいなくて、学級委員も不慣れのようだった。
「いつも一番行動が早いよね」と言い合っていて、きっとミコちゃんがいるからだろうなと思った。早めの号令をかけてくるから、知らず知らず、早くなる。仙道さんと2人でやっているため、逆らえない雰囲気だった。
「戸狩、疲れたよ」と男子がかけっこから戻ってきた。
「グループ行動してくれよ」と戸狩君が怒っていた。キャンプファイヤーの準備が終わったらしくて、
「そろそろ集まるから、人数確認」と点呼を取っていた。
「ねえ、そっちの班は何を話した?」とおしゃべりで有名な富山さんがやってきた。彼女は宮内さんたちと同じ班で、派手な感じのグループだった。加賀沼さんもいるため、苦手だったため話したことはほとんどない。いつも根掘り葉掘り聞かれて、困ってしまっていた。
「何も」と桃子ちゃんが笑っていた。
「やだ、教えてよ」
「駄目だって、そっちのは聞いたよ。宮内さんのも色々」とみんなが笑っていた。
「宮内の先輩の二股話は笑えないよな。加賀沼じゃあるまいし」と的内君が言い出したため、
「何よ。不幸な女好きの太刀脇君達に言われたくないわ」と加賀沼さんと喧嘩していた。
 集まっている間に、男子の暴露話になって、夜は抜け出したとか、いびきがうるさかったとか、女の子はどの先生がいいとか言っていて、
「赤木はやめとけよ。どうせなら、友松か柳沢」
「やだなあ」
「ハマチヨは?」とE組の女の担任の先生のことを言っていた。浜中千代美という名前で、あだ名がハマチヨだった。
「だれが選ぶんだよ」
「えー、いいじゃない」とみんながやりあっていた。浜中先生は女生徒の一部には人気があったからだ。
 移動して、みんなが色々話していた。
「蛍がいないかなあ?」
「小学校のときはいたよね」と言い合っていて、前の学校のときは川沿いで、蛍の見学を先生としたなあと思い出した。仲がいいクラスだった。引っ越してからはあまりいい思い出がない。そのせいで、色々思い出して悲しくなった。前の学校の方が仲がよかったなあ。人数も少なくて、田舎だったから、おじいちゃんと暮らしていても何も言われなかった。こっちは人数が多すぎるし、悪口なども多くて、ずっと戸惑ったままだ。全然、この雰囲気に慣れないなあ。
「おーい、火の前で何か大声で叫んで来いよ」
「的内、はっきり言ってから、振られろよ」と言われていて、
「なんだよ。弘通が言えばいいだろう? 好きだってね」と言い出して困ってしまった。
「前に出たら」と宮内さんが悪ふざけして私を押し出したために、
「きゃあ」と言って、前に出て転んでしまった。
「大丈夫?」と弘通君が助けてくれたため、「ひゅー」とすごくうるさかった。
「いっそのこと、今、告白したら」
「そうそう、思い出になるぞ」
「そういうことは、言わないで。迷惑だから」
「嫌よねえ。いい子ぶって」と加賀沼さんが小声で言ったけれど、ちょうど誰も言わなかったため、はっきり聞こえてしまい、一斉にみんなが見た。
「その、いい子ぶった態度が鼻に付くわ。もっと、本音で言えばいいじゃないの。どうせ、あの先輩なんて、本気じゃないんだろうし、友達が思ってるから駄目とか言う、もっともらしい事言って、言い訳して、本当は好きなんでしょう? 抜け駆けしたいと思ってるくせに」と言ったため、びっくりした。
「そんなつもりじゃ」
「その態度。卑屈に見えてうっとうしいのよね。ほしいならほしいと言えばいいじゃないの。そういう態度でしっかり山崎君に庇ってもらったりして、猫かぶり」
「どっちがだよ」と隣のクラスの男子が言い出した。
「猫かぶりはどっちだよ。先生がいないとそうやって言ってね。裏でこそこそ性格悪いよな」
「今は堂々と言ってるように聞こえるけれど、裏で嘘を言いふらして、最低だよな」と言ったため、びっくりした。
「何のこと?」と桃子ちゃんが聞いていて、
「加賀沼にしろ、そこの宮内にしろ、色々嘘を行って歩いてるぞ。うちの一之瀬もそれに更に加えて言って歩いてね。気をつけたほうがいいぜ」
「テニス部でシカトしろって命令してたの、誰だっけ?」と言ったため、驚いた。
「シカト?」
「後輩に嘘流してね。楢節さんだっけ? 『取り入って、嘘を先生に流されるから気をつけたほうがいいわよ』と言っているのを聞いた事あるな」と言ったため、そんなことをされてたんだとびっくりした。
「何よ、出鱈目」と彼女が慌てて止めようとしたけれど、
「本当だと思うよ。聞いた事あるなあ。別の件で似たようなことを」とそばの女の子が言いだしてしまい、
「私もある。全然別の件だった」と別の女の子も言い出したため、びっくりした。
「えー、注目」とスピーカーが聞こえたため、そこで話は終わっていた。私は碧子さんたちのそばに戻った。
「大丈夫?」と聞かれて、うなずいた。

 歌を何曲か歌ったあと、フォークダンスになった。マイムマイムでかなり盛り上がっていたけれど、加賀沼さんたちは、「ばかばかしい」と言って、参加すらしなかった。一部の子達だけ残ってやっていて、後はバラバラになっていた。戸狩君が碧子さんに何度か話しかけてきて、そばに山崎君がいた。
「疲れていないか?」と聞かれて、
「疲れたかも」と言ったら、笑っていた。
「星が綺麗だよな」と言ったので、空を見上げた。
「そうだね」
「それにしても、鹿内も田戸もよく踊るよな」と言って、何度目かのマイムマイムを踊っているのを見て笑ってしまった。真ん中に集まるときにこれ以上ないぐらい火に近づいていて、一気に離れていて、というのを繰り返していた。
「昔はもっと、どたどたしてたよ。追いかけっこに変わってたの。人数が少なかったから先生も大目に見てくれて、楽しかったな」
「前の学校か?」
「そう、田舎にあったから、木登りしてもだれも怒らないし」
「お前が木登りねえ」
「こっちに来てから、全然できなくなっちゃった」
「戻りたいのか?」と聞かれて、何度もそう思っちゃった事を思い出した。転校した直後から、ずっとそう思っていた。
「楽しかったんだろうな」
「そっちは?」
「俺の方は団地だらけのところだからなあ。遊ぶのも人数が多かったしね」
「そうだったんだ」
「一戸建てもあったけれど、社宅も多くて」そういう所もあるんだな。
 そのうち、曲が変わって、
「入ろうぜ」と戸狩君に言われて、山崎君を見た。
「そのほうがいいな」と言って、促されたので仕方なく合流していた。

「生意気よねえ」と一之瀬さんが言った。
「山崎君も何であんな子を相手にするんだろう?」
「でも、相手にしているというより、仕方なくなんじゃないの? 冴えない、おどおどした子をね。正義感から、ああしているだけだと思うわ。でないとおかしいもの」
「ねえ」と後ろから、宮内さんたちに話しかけられて、ひそひそ話をしだした。

 一通り踊ったあと、お開きになっていて、戻る人が多くなった。先生のそばで雑談しているグループもいて、私たちは疲れたので、そのそばで雑談していた。
「久しぶりに踊った。すっかり忘れてた」
「先生、昔の話してくださいよ」と桃子ちゃんに言われて、
「お前らなあ」と呆れていた。
「それよりさあ、聞いた?」と小声で、別のグループの子が言っているのが聞こえてきた。
「嘘、加茂さんが」と言っているのが聞こえた。うーん、また何かあったんだろうなと思った。この間、聞いたのは柄のよくない高校生らしき人と一緒にいたという話だった。
「それでなの。危なくない?」と言っていて、うーん、あまり聞きたくないかも。と思った。
 グループで戻ろうという事になって、途中で碧子さんとトイレに行った。その後、帰ることにして、碧子さんが隣のクラスの男子に呼ばれたため、少し離れたところで待っていようとしたら、
「先に帰っていいよ。送っていくから」と言われてしまい、困ったけれど、碧子さんとうなずきあって一人で帰ることにした。怖いなあ。夜道嫌いだ。明かりがあまりないから、嫌だなあと思いながら歩いていて、階段のところで後ろから、
「ねえ」と呼ばれて、なんだろう? と振り向いてから、石が飛んできて、それを避けようとして、何個か飛んできたため、避けきれずよろめいてしまった。目に当たってからそれを払って、周りが見えなくなってしまい足を踏み外して、「きゃあ」と悲鳴をあげた。「やばい、逃げよう」と数人の女の子の声が聞こえたけれど、顔は確認できなかった。「詩織」と誰か、男子の声が聞こえて、落ちるときに誰かが庇ってくれて、私はそのまま気を失ってしまった。

 気づいたときは、畳の上に横になっていた。目を開けて、どこだろう? ここはと考えて、周りを見回した。すぐ隣に、先生がいたため、びくっとなった。
「大丈夫か?」と聞かれて、うなずいた。頭を思わず押さえて、
「痛い」と言ったら、
「ああ、あちこちぶつけたみたいだからな。すりむいた所があるみたいだし、と言われて、起き上がろうとした。体の節々が少し痛かったし、足もかなり痛くて、
「そっちは大丈夫なのか?」と赤木先生ともう一人誰かがやってきた。
「痛くないか?」とそばにいた柳沢先生と守屋先生が聞いていて、
「大丈夫です」と言った声に驚いて、そっちを見た。山崎君が手に怪我をしていて、
「どうして?」と言ったら、困った顔をしていた。
「お前はがけから落ちたんだよ。それで」と柳沢先生に言われて、少しずつ思い出した。
「ああ、あの、あれ?」と手を見たら、あちこちすりむいていた。
「手当てした方がいいわ」とハマチヨ先生が言って、救急箱を持ってきた。
「痛」と頭を押さえた。
「大丈夫か?」と山崎君が聞いてくれて、
「どうして、山崎君が?」と聞いたら、
「助けたんだよ、お前を。お前が足を滑らせて、それを通りかかった山崎が助けて」と守屋先生が説明したため、驚いて、山崎君を見た。
「ごめんなさい」と頭を下げたら、
「お前のせいじゃないよ」と笑ってくれたけれど、また迷惑掛けちゃったなと悲しくなった。
「とにかく、怪我の手当てをして、休みなさい。話は明日ゆっくり聞かせてもらう」
「あの?」
「山崎もこの時期に怪我は困ったな」と守屋先生が言ったのを、
「いえ、それは今は」と山崎君が先生の方を見て困った顔をしていて、
「試合があるしね」と守屋先生に言われて、
「その話は後でもいいでしょう?」とハマチヨ先生が止めた。
「疲れてるだろうからね。観野がさっきまで心配して起きてたけれど、いつ気づくか分からないからと言って、テントに戻ってもらった。お前も送っていくから、手当てして、ゆっくり休みなさい」と言われて、泣いてしまった。またやっちゃった。また、山崎君に迷惑掛けて。
「佐倉?」と先生達が驚いていて、
「外に出て」とハマチヨ先生に睨まれて、男の先生達が外に出た。
「気にするなよ。お前のせいじゃない」と山崎君が言ってくれたけれど、首を振った。
「いいから、外に」とハマチヨ先生が睨んでいた。
「何があったの?」と聞かれて、
「石が飛んできて、それで避けようとして」
「石?」
「ええ、誰かに呼ばれたような気がして振り向いたら、石が」
「変ねえ。誰もいなかったようだけれどね」そうだ、確か「逃げよう」と言っていた。あの声どこかで聞き覚えが、と思い出そうとしたけれど、思い出せなかった。

 その日、テントに戻ってから、聞かれたけれど、とても説明できずに、夜はうなされてしまった。

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