体質改善

 次の日に謝罪のオンパレードになった。何しろ、あの後輩たちが、今までのことを全て明らかにして、話したため、みんなが驚いていた。
「よく考えたら変だよね。詩織ちゃんと一之瀬さんは仲が良くなかったのに、喋《しゃべ》ったのは詩織ちゃんだと言う後輩の事を鵜呑《うの》みにしちゃった」
「でもさあ、このままだと困らないかな」
「それはある。あの人とどうしよう?」とやっていた。彼女はまだ来ていなかった。きっと、今日も応援に行きそうだなと思っていた。でも、意外にもやってきたため、シーンとなっていた。
「なに?」とみんなに見られて、じろっと睨んでいた。
「あのね。詩織ちゃんのことで誤解が解けたの。それで話し合ってたの」と言ったため、一之瀬さんが気に入らなさそうに私を見た。怖い。でも、負けるもんかと睨み返したため、周りが驚いていた。
「とにかくね、このままじゃ仲が悪くなる一方だし、一度言いたい事を言い合おうかって言ってて」と湯島さんが言ったため、
「そんなことをして何になるの?」と聞いてきた。
「このままじゃ強くなれないと思わない?」
「意見がバラバラだしねえ。練習内容も不満があるらしいよ」と言い出したため、そうか、色々あったんだなと聞いていた。
「そう、着替えてくるわ」と意外とあっさりと言ったため、驚いてしまった。
「意外だ」とみんなが言ってて、そうだなと思った。日陰に移動して待っていた。
「女子使わないなら、今だけ使わせろ」と男子がいって、
「いいよ」と湯島さんが答えていた。
「それにしてもさあ。男子って張り切っていない?」
「この間言われたらしいよ。部長さんって素敵ですねって」
「えー、誰に?」と言い合っていた。久しぶりに明るい感じになったためほっとしていた。昨日はよく眠れた。言いたいことを少しだけ言えるようになったことで、ほっとしていた。山崎君の手は心配だったけれど、それでも、考えないように切り替えることにした。
「しかしさあ、不満って何がある? まとめといて、一年生」と湯島さんが言ったため、みんなが笑っていて、
「部室だよ。汚い」
「それと臭いよね。後はコートが使いづらい。雨の日の後は特に」
「練習内容は?」と小平さんが聞きながら、ノートにつけていた。
「そうだね、内容がバラバラでさあ」
「サーブ練習が少ない」
「えー、レシーブ増やそうよ」
「ボレーが自信ないな」いっぱいあるなあ。
「佐倉さんは?」と聞かれて、
「その前に目的が知りたい」
「目的?」とみんなが驚いていた。
「昨日ね、バスケの試合を見ていて驚いたの。仲が悪いとか、裏で色々あると聞いてたけれど、試合の応援とかはまとまっていたし、真剣だった。ここの部はそういうのが欠けてる気がする」
「意外、一番ちんたらやってるように見える」と元川さんに言われて、
「そうだね、それはそうだったかもしれない。私には無理だと最初から諦《あきら》めてたの。体力も腕力もないしね、足だって速くない」
「それはそうね」と一之瀬さんがやってきて、言った。
「目的って言ってもさあ。2回戦とか3回戦とかぐらいまでいければそれでいいのかも」
「勝ちたいよ」
「佐倉さんは?」と小平さんに聞かれて、
「少しはまともな試合ができるようになりたい」と言ったら、笑い出した。
「目的って、一人一人違うと思うの。目指すところが違う。少しでも上に行きたい人、それより楽しくそれなりでおしゃべりとかしながら楽しみたい人、体力づくりの人、これは私ね。そういう理由でバラバラだから、その辺をどう兼ね合いをつけるかだけでもハッキリさせておいたほうが分かりやすいかなと」
「なるほど、それはあるなあ。私は勝ちたい」
「私は程々」と言い出して、みんなバラバラだった。
「そうね、それは感じるわね。分けたほうがいいってこと?」
「その辺は、臨機応変《りんきおうへん》で。試合前の一ヶ月だけ特訓期間にしてもいいし、普段から二面に分けて、目的別でやってもいいし」
「そういうのはいいのかも、どうしようか?」と湯島さんが言っていた。
「そうね、意識の違いがあるから、意見も食い違ってしまって、仲が悪いのかもね。試合に出たい人、そうでもない人、バラバラのようだし、一度意識調査しましょう。分かれてくれる」と小平さんに言われて、試合に勝ちたい人と、それなりチームで分かれた。選手候補と、元川さん、百井さんが勝ちたい人になっていた。
「なるほどね。とりあえず分かった。後はどうしましょうか?」
「コート分けようよ。そのほうがいいかも」
「えー、時々息抜きしたいからどっちに参加してもいいようにしようよ」
「特訓はした方がいいと思うわ」と元川さんが言った。
「そうね、まとまらないわよ。佐倉さんはどう思う?」
「その辺は変更ありでしばらくやってみるしかなさそうだよ。特訓はしたほうがいいかもしれない。一人一人メニュー変えないと絶対に勝ていない」
「え?」とみんなが驚いていた。
「だって、サーブが入る率がバラバラだもの。レシーブは重点的に徹底した方が良さそうだし、あとは、戦術練習積まないと絶対に無理だ」
「そんなことまでやるの?」
「その辺はペアの意識によると思う。ペアで決めていけばいいと思うなあというのは先輩の受け売り」
「楢節さんに言われたんだ?」と言ったのでうなずいた。本当は半分以上が山崎君の意見だった。そういうことを指摘されてびっくりして聞いたら、お父さん達と一緒に時々テニスをしていて、練習方法とかも教えてもらったらしい。それで詳しかったんだなとびっくりした。学生時代に部長さんをしていたらしいお父さんがそういう体験談をことあるごとに話してくれるらしい。いいご家庭だよね。うちとは逆だ。父親が親父ギャクばかり言う。
「なるほど、あの先輩もたまにはいいことを言う」
「分からなかったら聞いてくれって言ってたからね。相談してもいいと思う。普段は基本だけ一緒にやって、半分の時間でコートを分けたら?」
「えー、走りこみは減らそうよ」
「その辺は分けた方が良さそうね。そうしましょう。一周の人、2周の人で」と言ったため、そのほうが助かるなあと思った。

 練習を再開していて、前より話しやすくなった。なんだか、このほうがいいのかも知れない。途中で、あちこちでここはこうした方がと言う意見が山ほどあって、みんなの不満がたまっていただけだったのかもねと思った。
 休憩中に、
「詩織ちゃんって意外だ」と言ったので、
「なにが?」と聞いた。
「だってさ。色々アイデア出して、意外」
「受け売りだしね」
「それにしても意外だったな」
「それより、不満がたまってるみたいだから、一日の終わりに不満は吐き出したほうがいいのかも。それか時々反省会ぐらいはしたほうが」
「あるかもねえ。どうする?」と湯島さんが小平さんに聞いていた。
「一年生の意見は?」と聞いていて、
「一年生同士でやります」と言っていて、
「分けてやろうよ。同じでやると、言いにくそうだよ」と話し合っていて、
「文句は裏では言わない。言いにくかったら小平さん、湯島さんどちらかに個人で相談にしてもいいかも」と言ったら、うなずいていた。
「じゃあ、そうしましょう。反省会も一ヶ月に一回はやりましょう。目的を持って取り組んだ方がいいから、そのときに来月の目標を言ってもらうから」と小平さんが言ったため、みんなから、
「えー」と不満が上がっていて、
「ま、その辺も臨機応変で」と言ったら、みんなが笑っていた。

 帰るときに、
「なんだか、ほっとした」と言ったので、驚いた。
「ぎすぎすしててさ。膿《うみ》を出した感じ」
「それはあるねえ」と言い出して、そうかもしれないなと思った。
「一度さあ、言いたいことを言った方がいいんだって」
「それはある。山崎君に言ってすっきりしたから」と元川さんが言って、みんなが笑っていた。
「詩織ちゃんって、どっちなの? 弘通君なの? 山崎君なの?」と聞かれて、
「今の私には言えない」と答えたため、前の方を歩いていた一之瀬さんが振り向いた。
「中途半端だったと反省したの。逃げていて、前向きに取り組む事さえしていなかったもの。だから、少しでも直したいもの。それからだね」と言ったので、
「なるほど」とみんながうなずいていた。
「自分に自信をつけてからなんだ」と言われたけれど、そうしないと恥ずかしいと言うのもあるし、これ以上は迷惑掛けたくなかった。彼は優しい人だから、もう、迷惑掛けたらいけないなと反省した。どうして庇ってくれたのか分かった今となっては、彼の優しさに甘えたらいけないと思っていた。小さい頃遊んだ、幼馴染《おさななじみ》だったからという理由で目をかけてくれていたんだ。それで何度も来てくれて、
「山崎君の好きな人って誰かなあ?」
「前の中学の子なんでしょう? 綺麗な子かな?」
「かわいい子だと思うなあ」とみんなが笑っていた。

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