他の部活の事情

 山崎君に呼び出されておじいさんのところで一緒に宿題をやった。山崎君は私と違って、ドンドンこなしていて、私はというと、
「暑い。夏バテ」とばてていた。
「お前なあ。この家は涼しい方だぞ」と呆れていた。
「詩織ちゃん、休憩するかい」とおじいさんが言い出して、
「甘い。爺ちゃんは昔から詩織に甘い。甘やかすな。また、ビービー泣くぞ」
「かわいかったよなあ。小さい手で一生懸命ピアノ弾いて、絵も描いてくれてねえ。写真を見ていたら懐かしくてねえ」
「何度も聞いたよ。爺ちゃんも甘いよな。詩織にばっかり」と山崎君がぼやいていた。彼はこの家で勉強するときは詩織と呼ぶようになっていた。私はまだ記憶が全然思い出せなくて、
「一度写真とか見せてもらえるかなあ。そのほうが早いかも」
「いいけれど、話し長くなるぞ。爺ちゃん、祖母ちゃんの話すると長いから」と山崎君がぼやいていた。
 そうやって、夏休みを過ごした。山崎君は左手を安静のために使わなかったらしい。脚力強化ばかりやっていると聞いた。バスケはそれでも熱心で、負けた事がよほど悔しかったらしくて、更に練習方法を変えようかという話し合いをしているらしい。
「女子は全然だぞ。理論派とか言ってるけれど、練習不足につきると思う。シュート練習が足りない。ちんたらやってる」
「こっちも人のことは言えないなあ」
「聞いたぞ。変更したらしいな」
「大変だよ。先生がやたらと口を出したがるし、こっちは慣れないこともあるし、意識の違いって困るからね」
「でも、はっきり分かった方が絶対いいぞ。そのほうが分けられてね。バスケ部ってチーム戦だから無理だからな。そっちはペアで分かれてるし」
「団体戦だと難しいけれど」
「それでも自分達だけでも勝てたら満足できるだろう? こっちは分けられない。足を引っ張られて即負ける」
「うーん、その辺の兼ね合いも話し合わないとって言ってた。ただね、意見をはっきり聞けたのは収穫だったって小平さんが」
「彼女はサボる人、不真面目な人の気持ちがわからないんだよ。なんにでも一生懸命で真面目に取り組むから、手抜きする人はただ不真面目な人としかうつらないんだと思う」鋭い指摘。それは本人も言ってたなあ。
「個人の意見ってバラバラだね。まとまらないかも」
「それでいいんだよ。簡単にまとまらないから、多数決ってのがある。じゃんけんもね。まとまらないのが当たり前だから、不満を残さないように話し合って、最後はそれでいいと思う」
「それは思った。じゃんけん、くじ引き、多数決って、便利な解決方法かもね。どこまで言っても平行線な意見ってあるからなあ」
「子供なんて、そういうのはあるぞ。俺のいた小学校じゃ、言いたい放題で、相手のいうことなんか聞いてなくて、声を少しでも大きくして張り合ってね。それでも、最後はいつも一人の意見になるんだよ。いじめっこタイプがどこにでもいる」
「いじめっこか」
「そういうのがいると色々面倒だよな。お山の大将だから持ち上げないとうるさいし、仲間はずれにされると遊んでいる所にずかずかはいってきて、物を壊すし、当り散らす、それでも意外と面倒見が良かったりして頼りにするんだよ」
「そうかもしれない。太郎がそうだった」
「太郎?」
「いじめっ子でね転校してすぐにいびられた。いっぱい追っかけまわされたな」
「許せないよな」
「でも、そのうち仲良くなったよ。意外と面倒見が良くて世話好きで、それで私のこともよく家まで送ってくれたな。転んで怪我して、おぶってくれてね、意外といい人だった。木登りも崖から川に飛び込むのも全部教えてもらったの」
「ろくな事、教えないな」
「逆上がりができないって泣いたら、最後まで付き合って教えてくれたの。大車輪も得意だった。今頃どうしているかなあ」
「ふーん、そいつの事好きだったのか?」
「まさかあ、下の学年の子が張り付いてて、太郎の事を好きだったらしくて、私は関係ないというのに眼の敵にしてくれて、うっとうしかった」
「お前は誰が好きだったんだよ?」
「そうだね、芳雄君かな」
「誰だよ、そいつ?」
「同じ小学校の学級委員。人数少なくて、みんなの憧れだったなあ。どうせなら、ああいう子がそばに住んでくれれば良かったのに、変なのばっかりだったなあ。男ばっかりだったから、宿題しているのに、『遊ぼうぜ』と誰かやってきてねえ。三郎が一番うるさかった」
「三郎ねえ」
「みんなどうしているかなあ? 同じ中学だろうし。未だに探検とかはしてなさそうだ」
「探検は小学校までだな」
「だろうね。高学年になってから、自転車で10キロ離れたところに行くとか平気で言ってた。私は部活やらされてたから、そっちでね」
「部活?」
「少なくてね。縄跳びとバレーしかなかったから、掛け持ちだった」
「相当田舎だな」
「そうかも、鼓笛隊とか面白そうだったのに楽器とか壊されていて、怒られてた。裏の山で遊んだりして学校の遊具で遊ぶことはほとんどなくて」
「そっちの方が面白そうだよな」
「そうかな。女の子と遊びたかったというのに、太郎と三郎とか、毎日駆け回っていて」
「そんな事しているから手紙くれなかったんだな」
「手紙?」
「約束しただろう? 手紙くれるって、忘れたのか」
「ごめん」
「それも覚えていないのか、ショックだよな。待っていたというのに」
「そう言えば、そっちも引っ越したんだよね、いつ?」
「お前が引っ越してすぐだった。小学校に一学期もいなかったかもな」
「割とすぐだったんだね」
「ああ、だから、この学校に来たときは浦島太郎だったよ。全然覚えてなくてね。角の酒屋の坂下は変わりすぎてて分からなかった」
「ああ、そうみたいだね。今はにきびだらけの顔だし、私もわからなくて」
「だよな。ほとんど知らないから、お前に会ったときうれしかったというのに、知らん顔で通り過ぎてね」
「緊張したんだよ。さすがに転校生って気になるけれど、じろじろ見られないから、通り過ぎてから見てた。遠くとか」
「お前なあ」
「だって、恥ずかしいじゃない。なんだかね」
「何度見ても、こっちに気づかないから、がっかりしたんだよな。まさか、覚えていないとは予想外だ」
「そうだよね、ごめんね。お父さんに聞いたけれど、逃げちゃうの。なんだか、嫌がっていて」
「何かあったのか?」
「それも聞けない。お母さんも聞いたらしいけれど、隠している感じがするなあ。おばあちゃんに聞くのも聞きづらい。手紙でそんな事書けないしね。でも、山崎君のことは書いておいたよ」
「お前、そういうことも書いたのかよ」
「だって、色々報告している。手紙でね。病院だと時間が余っても話ぐらいしかしないと言ってた。今はもう退院しているけれどね」
「それはあるだろうけれどな」
「なんだか、恥ずかしいような懐かしいような気がしたのは気のせいじゃなかったんだなあ」
「なんだよ、それ?」
「山崎君を時々見ていて、そう感じたの」
「拓海と呼べよ、いい加減ね」
「えー、ちょっと恥ずかしいよ」
「昔は何度もそう呼んでくれたのに。拓海君、拓海君って。前の学校じゃ、山崎で終わりだった。女の子も全部そうだったなあ。同じ苗字のヤツがいると、第一鈴木、第二鈴木とかね」
「変だよ、それ?」
「そのうち面倒だから、適当にあだ名になるんだ。最後は苗字すら呼ばれない。忘れられるな」
「なるほどね」色々あるね。

 夏休みの間に何度か部活をやっていて、練習試合をしようという話も出ていた。その前に、また、総当り戦をやった。今度はまた違う結果になった。一之瀬さんが意外にも負けたのだ。湯島さんや、私たちのペアにも負けていた。というのも、
「連携が悪すぎる」と言われていて、そうだろうなと思った。自由にやりたい一之瀬さんと、真面目な小平さんの息が合っていなかった。
「どうして、私たちが負けるのよ」と元川さんもぼやいていた。百井さんとあまり息が合っていなかったようで、
「なんだか、違いがでてきたわね」と相良《さがら》さんが言った。
「それは当たり前だろう」とそばにいた男子の部長の木下君のそばにいた掛布《かけふ》君に言われて、
「どうして?」とみんなが聞いていた。
「性格の違いだ。合わせられる人同士のペアと反発するどうしのペアだからな」と言われて、顔を見合わせた。
「性格的に、相手に合わせる湯島とか菅原と違って、一之瀬も百井も相手には合わせないから、動きがかみ合っていないように見える。もっと相手の動きも見ろ。前衛と気が合ってなきゃ、そうなるだろうな。当然の結果だ」言われて見ればそうかも。
「組み合わせを変えるとか?」
「時間がないよ。菅原さんのほうはどう? うちはこのままでもいけそうだよ」と湯島さんが聞いていて、
「私もこのままでいいわ」と菅原さんが私を見たので、うなずいた。
「大体、分かるようになったよね。次にどう動くかがね」と言ったため、
「そうかな? 私はもっと自由に動きたいのに、そっちが」と元川さんがぼやいていた。
「どっちに合わせればいいの?」と小平さんに聞いていて、
「それは人によるんじゃないかしら。それにそのときによって違うし」
「その辺はタイプによる気がするなあ。小平さんの動きは基本に忠実だし、相良さんはもっと小気味よく動いた方が良さそうだしね」と言ったら、みんなが一斉に見た。
「なに?」
「そんな事、見てたんだ?」と聞かれて、
「大体傾向は分かってきたよ。癖とかね。湯島さんが服で手を拭いたあとはフラットの強打、狙ってくるなあとか、小平さんは目線で大体分かるしね」
「え?」とみんなが見たため、
「あれ? 変な事言ったかなあ」と言ったため、笑われてしまった。
「そうか、そういうのも見られてたのか」と元川さんが考えていた。変だったのかな? 小平さんが苦笑していて、
「その辺はペアで話し合いましょう。このままのペアで試合までやるわ。特訓の期間にそろそろ入るから、その内容についてはどうしましょうか?」と私を見たので、
「え?」と驚いた。
「なにかある?」と聞かれて、
「それは、そうだね、自信がない部分をやっていきたいかなと思う」
「それはあるなあ。レシーブが」
「サーブをやりたい」と言い出して、
「どうしたらいいかしら」と聞かれたので、
「だから、残り時間で、それをやればいいと思うなあ。ボレーはいなさそうだからサーブとレシーブの徹底とストロークコース打ちとか、まず基本を押さえないと難しそうだよ」
「全体の流れは?」
「深い内容の練習をやれるところまでいっていないと思う」と言ったら、笑っていた。
「笑い事じゃないと思うよ。まずレシーブを確実にしておかないとそこはポイントが大きいと思うなあ。サーブもフォルト率が高いから、その辺を考えないと、どうしようもない。先輩の試合の結果はそこに違いがあったから」
「え?」とみんなが見ていた。
「だって、そうだったよ。福本さんのところは50%も入っていなかった。最低60近くでないと、まともに戦えないよ。そのほかの3番手の人は調子を崩しやすくて、そのせいで前衛にイライラして自滅してた。唯一残った男子のところはファーストの入る率70%超えていた。レシーブもしっかりしていて、引っ掛けた率が低い。勝率はそこに差があったと思う」と言ったら、みんなが驚いていた。
「そう」と小平さんが言って、
「だから、そこを直さないとその後の展開なんてとてもじゃないけれど」と言ったら、
「それはあるなあ。ファースト外されるとイライラする」と元川さんが言ったため、
「そうだね、サーブ入れられないと自信がなくなるし余裕がなくなるから、そこを徹底しよう」と湯島さんが言って、うなずいていた。

 バスケの練習試合があって、みんなが見に行っていた。私は小平さんたちと練習メニューの組み立ての見直しを先生のそばで聞いていた。
「しかし、こっちをやった方が、それにこっちも」と色々口出していた。
「基本ができていないのに先に進んだところで勝ていないと思いますが」と小平さんに淡々と言われて、柳沢先生が呆気に取られていた。
「いいじゃん、女子はちんたらやればさあ。それよりこっち見てくれよ」と男子の部長が言い出して、そっちに行ってしまった。小平さんが、
「これで行きましょうと言ったので湯島さんとうなずいた。
「バスケ見に行かなくていいの?」と聞かれて、
「疲れたから休む」と言った。山崎君は出られたとしても、後半だと聞いていたけれど、今の私には前の方で見られるような余裕はまだなかった。少しずつだけれど意見も言えるようにはなったけれど、それでも不安だから先輩や彼に電話で聞いてしまう。先輩は笑って、
「お前の思うようにやれよ」と言ってくれて、山崎君は、
「それぐらいからやるのが一番早道だろうな。それぐらいのレベルだよ。テニス部は」と言われてしまった。気づいていなかったけれど、他の部活と比べると確かにあまり強くない気がした。吹奏楽は練習熱心だし、バスケもそれなりの結果を出せている。バレーは小学校が強かったため、それなりのレベルの子が多くて、基本は今さら必要がないと聞いているし、練習も熱心だ。それに比べて、テニスは中学からやるので、ラケットの素振りからやり始めて玉拾いが多くて、とてもじゃないけれど、あまり上達しない。コートも正式なのが2面、簡易のコートが一面しかない。簡易はネットが高さが合わない。これでサーブの練習したあとに、正式なコートでやれば戸惑うよねと思った。私も最初のときだけ後衛だったから、戸惑った。途中で前衛に変わったため、その気持ちは良く分かった。
「上手くなるためにも、もう少し考えないとねえ」とみんながぼやいていた。一之瀬さんは今は山崎君じゃなくて別のバスケ部の男子に鞍替えした。そういうところはすばやい。はっきり振られたようだから、そのほうがいいのかも知れないけれどね。
「山崎君以外にもバスケはカッコいい人多いよね。ここの部って結城君だけだ」とぼやいたため、
「悪かったな」と男子に睨まれていた。背が低い人が多いのだ。背が高い運動能力の高い人はほとんどバレーかバスケにスカウトされる。そのため、テニスはあまり人気がある人がいないらしい。もっとも、カッコいい人が入っても、練習時間が長いため、敬遠する人も多い。仲が悪かったため、やめていく数も半端じゃない。例年かなりの人数が登録しても、残るのは15人残ればいいほうだ。それも3年生まで残る人は半分になる。7,8人残ればいいほうだ。バスケもバレーも最後までしっかり残るのにテニス部が残らないのは、あまり強くないから楽しくないというのが理由だと聞いた。「選手にすぐなれても、強くなければ」とクラスの男子が言っていたのを聞いた事がある。サッカーも野球も強くなくても楽しいらしい。水泳もがんばっていると聞いた。他にいくらでも部活があるため、そっちに流れてしまうのだ。その点、女子はサッカーと野球がない代わりに文化部のほうへ行ってしまい、テニス部とバスケ、バレー、水泳で身体能力の高いやる気のある子は別の部活に行ってしまうと聞いた事がある。「あまりよくない噂がまことしやかに流れていましたよ」と後輩に教えてもらって、びっくりした。うーん、それは分かるなあ。実際に加茂さんはひどかった。
「また、校歌の練習している」と後輩が笑っていた。野球部は勝ったあと、校歌斉唱があるため、その練習をする。覚えていない人がいると恥ずかしいと言っていたけれど、
「勝たないと意味がないのに」とみんなに笑われていた。そう、あまり勝てない。一回戦負けばかりらしい。
「ここで歌ったってねえ」と言っていて、確かにそれは言えてるなあと思った。野球もサッカーも強くない。背が低い人ばかりだ。バレーが比較的強いため、そっちに流れるらしい。
「やっぱり、バスケだね」とみんなが笑っていた。

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