少しずつやっていこう

 試合まで後少しのため、周りが目の色が変わってきた。ロザリーの相手をしていた男子もやりだして、補欠の男子が教えていたけれど、あまり面白くなさそうで、後輩と遊んでばかりいた。小平さんはそれどころじゃなくなって、余裕もなく、周りも緊張しているのか、色々だった。先輩達は修学旅行の準備で色々話をしていた。中間テストの前に行くため、慌しいと先生がぼやいているらしい。
「それにしても山崎は変わってきたよな」とクラスで何度か言われていた。
「本当、笑うようになったね」とそばの女の子に言われていて、
「俺は元々こういうタイプ。転校したてでへらへらはしないだろう」
「それはあるなあ。転校生ってそれだけで注目の的だし、謎めいてていいよね」
「俺も転校してくると違うかなあ」
「いや、顔の問題もあるだろう?」と言われて笑われていた。クラスの中もそれなりに仲良くなっていた。的内君があまり教室にいないからというのもあった。最近は彼女が出来たと言う噂だった。加賀沼さんも大学生と歩いていたらしく、そういう話がいくつか耳に入ってきた。宮内さんは、例の事件の後、山崎君に怒られて、その話を聞いた先輩に振られてしまい、気落ちしているらしい。さすがに「それはやりすぎだよ」と注意されたらしく、あの後、謝ってきたためちょっと驚いていた。時々、
「そこ違ってるぞ」と山崎君が話しかけてきて、それを周りが冷やかしてくる回数も減ってきた。
「あ、本当だ」と直していた。
「ほかの女がやきもち焼きそうだな」とそばの男子が言い出して、
「いいよ、そういうことは」と彼が睨んでいた。
「しかし、このクラスも変わったね。あの加賀沼がいないだけで快適」と言っている声が聞こえた。彼女は最近、廊下や違う所にたむろしているらしい。加賀沼さんは例の事件の後、先生に叱られたらしい。私を睨んでいるのを見つけて、かなり長時間話をしていて、それで、色々不満を言ったらしく、その内容は私とは関係がなかったらようだ。
「家庭の問題だったらしいよ」と桃子ちゃんが教えてくれた。八つ当たりだったようだ。そうか、山崎君の方は関係なかったんだなと思った。先輩に聞いたら、
「より、当たりやすいヤツで晴らす情けないヤツはいくらでもいる。本人に直接言えず、言い易い当たりやすいヤツで晴らすってことだな。一之瀬も同じだったようだけれど、お前言いたいこと言ったらしいな。それにこっぴどく怒られたらしいぞ」
「誰に?」
「山ちゃん」
「先輩まで、そのあだ名で呼んで」
「あいつに何か言われなかったか?」と聞かれて、むせてしまった。
「当たりか。大方、告白されたとか?」鋭い。
「それも当たりか。そろそろ言ってきそうだとは思ってたけれどな」
「え?」
「知らなかったんだろう? あいつ、お前の事を心配して何度か見てたなあ。俺と付き合い始めてから面白くなさそうだったしな」そうだったんだ……。
「あいつがお前に本気かどうかは俺が調べてやるから、安心しろ」
「何の事ですか?」
「ああいうタイプは、意外とお前みたいなタイプはほっとけないって感じだからな。正義感が強くて、いじめられやすいタイプをかばうんだよ。そのために心配しているのかと思ってたけれどな。でも、どうも違うようだし、ま、そのうちハッキリするさ」
「裏で何か企んでますね?」
「その辺は俺の息抜きにも関わってるから、勝手にやらせろ。最近は成績がどうのってクラスでもうるさくなってきてるからな。少しは解消しないとな」何やってるんだか? 
「それより、卒業試験はどうなった?」
「まだ無理ですよ。少しでも言えるようになりたい、自信が持てるようになりたい。そのためにテニスで無様な試合だけはしないようにしようと決意して、その目的に向かって、ゆっくりと進んでいる段階ですよ。とてもじゃないけれど、告白なんて」
「できるようになれよ。好きなんだろう? あいつのことをね」ばれてるよ。
「いつから知ってたんですか?」
「最初からだよ」そうか、ばれてたんだな。
「あのうな垂れてた顔を見ていて、少しは世話を焼いてやろうかなと思ったけれどな。今のところ順調だよな」
「なんだか、楽しんでいませんか?」
「当たり前。お前はおもちゃだからな」
「先輩ですね。変な事を山崎君に言ったのは」
「ま、俺の楽しみの一つを減らされるんだ。少しは苦労してもらわないとな」
「嫌な予感がするんですけれど」
「それぐらいの障害があったほうが盛り上がるぞ」なにやってるんだか? 

 山崎君はバスケの練習もがんばってやっているようで、居残りでやっていると聞いていた。戸狩君はバレー部だから一緒に帰るようになったそうだ。バレー部のほうが熱心で練習がきついとらしい。
「しかし、水泳部といい、吹奏楽といい、がんばってるのに、演劇部がんばれよ」とそばの子に言われていた。
「男子、誰か入ってよ」と演劇部のあかりちゃんが頼んでいた。
「山崎君でも、戸狩君でもいいからさあ」
「高望みじゃないか。顔で選ぶな。背の高さなら、加賀沼がいるだろう?」
「いつの話よ。最初しか在籍していなかったわよ。『下手な人とはやってられない』と言ったため、反感くらってたから来たら怖いけれど」そうなんだろうか? 
「あいつなあ。『私が一番上手だったわ』とか得意げに言ってたけれどねえ」
「あいつの話すると後が怖いぞ。靴が踏まれる。教科書が汚される。最後は呼び出し食らう」と男子が小声で言っていた。そうか、ほかの子もやられたんだ。
「そう言えば、後輩がやられたんだって。ちょっとかわいかったからと言う理由で」
「嫉妬だよ。こわー」と小声で言っていた。加賀沼さんは最近、牧さんと一緒に外で話している。彼女はおとなしい感じで、従ってるという風に見えた。一緒にいても楽しそうじゃなかった。クラスでは彼女が先生に話した事が筒抜けになっていて、先生に怒ったらしいけれど、話した場所が悪かったらしく、窓の外で聞かれていたらしい。その辺りにたむろしていたほかのクラスの子と後輩から全部言われたようで、そのせいでクラスで当り散らしてから、こういうことを時々言われるようになって、みんなの目線が冷たくなっていた。
「それにしてもさあ。山ちゃんばかり行くなよな。応援、こっちも来いよ」と野球部の男子が言って、
「応援行ったら、勝つの?」と聞かれて、
「今度こそ」と言った声に力がなくて、みんなが笑っていた。
「ロザリーはどうなんだ?」と聞かれてしまい、よく分からないと思った。
「あまり話さないの」
「男子とばかり話しているらしいな。あの髪は綺麗だよな。茶色で綺麗にカールしててさあ」
「えー、がんばってセットしているんじゃないの?」
「しかし、ああいうのと付き合ってもいいよな」と勝手なことを言っていた。ロザリーはモテるらしく、先輩に申し込まれていると聞いていた。
「ハーフってそれだけで目立つのに」と別の女の子が言って、
「あいつ演劇部で使えよ」
「役がないぞ」と言って、みんなが笑っていた。

 部活で何度ももめだして、話し合いになった。
「だから、このままだと負けるから、ペアを変えて」と元川さんたちが言い出して、試合のメンバーをどうするかで話し合っていた。今のところ一之瀬さんと小平さんは決定だけれど、それ以外をどうするかでもめていて、百井さんが試合をして決めたいと言っていた。私達はそれでもいいと言ってはいたけれど、自信がなかった。
「このままのペアで行くわ。それは決定。それから、もっと話し合ってもらいたいの。こっちも話をしたいのだけれど」と一之瀬さんに言っていた。彼女はロザリーと一緒にいる事が多くなっていた。気が強い同士合うのかもしれない。試合以外は話もせず、さっさと男子の方へ行って、ロザリーたちとぺちゃくちゃやっていた。小平さんはそれが気に入らなさそうだった。
「いいじゃない、別にこのままで。私達は決定なんだもの。後の人のほうが問題よ」とにらまれてしまった。
「試合をどうするのよ? あと一ヶ月しかないけれど、勝ていないよ」と緑ちゃんに言われて、
「出ない人は気楽よね」と一之瀬さんが言い出して、
「何よ、できれば出たいわよ」と言い出して、みんなもうなずいていたので、そうだったんだなと思った。
「このままじゃ、新人戦に間に合わないよ。どうする?」と湯島さんが小平さんに言った。
「佐倉さんはどう思う?」と聞かれてしまった。
「え、わたし?」と言ったら、
「この頃は意見を言うようになったじゃない。時々当たってるし」と緑ちゃんが言い出して、
「緑ちゃんの意見は無責任だから、人のことは言えないよ」とみんなに笑われていた。
「目標は?」と聞いたら、困った顔をしていた。
「一回戦、二回戦組み合わせによるけれど、とりあえず、このままだと、一回戦も危ないね」
「あなたが足を引っ張るからね」と一之瀬さんが言って、元川さんが笑った。でもほかの子が笑っていなくて、
「人のことは言えないかも。自信ない」と菅原さんが言った。
「試合ね。練習試合が2週間後にあるから、それに勝つことを目標にしよう」
「どうやって?」
「考え中。とりあえず、基本はできてきたと思う。一部はね。サーブの入る率はまだまだだし、凡ミスがあるのは性格の差によるからなあ」
「性格?」
「だって、あると思うよ。勝ち気過ぎる人は、ペアがミスしたりしたあとはイライラして、駄目だったりするし、ペア同士で自信がないところは最初がミスが多い。その辺をどうして行くかも考えないとね。それに、今のままだと通用しないなあ」
「通用?」
「そうだね、やってみれば分かると思うな。男子誰か協力してくれないかなあ。あ、お願いできる?」とそばの男子に聞いた。彼は補欠だった。
「なんだよ?」と言われて、
「一之瀬さんと対戦してくれる?」と頼んだら、引き受けてくれた。別の男子にも頼んで、湯島さんのペアともやってもらった。結果は、
「ぼろぼろじゃん。レシーブはまともになってきたけれど、その後、駄目だよなあ」と言われてしまっていた。
「なんで?」と聞いていて、
「動きが合っていない。ぎこちない。後衛の守備範囲が広い。前衛が機能していない」と掛布君につっこまれた。
「そういう事だね。レシーブ練習に専念したから、今度はそっちも増やそう」
「だって、あなたが言うから」と一之瀬さんが睨んでいて、
「きっと、そのときにやっていたらラリーにもなっていなかったよ。レシーブでネットに引っ掛けすぎてね。また一段階上がったと前向きに考えて」と言ったら、驚いていた。
「言えてるな。前の試合はちんたらやってもすぐ終わっていた。続いていなかったから、ストロークなどの基本がまともになってきたから、こうなってるのかもな。少しはマシになってきたんだよ。ラリーの練習しろ」と掛布君に言われた。
「どうやってやるのよ?」
「それだけをやろうか。サーブ練習は半分に減らして、残りの時間をそれをやろう」
「えー、もっと他にやりたい」と元川さんが不満そうだった。
「今はまだまともに戦えないしね。使えるものもないし、その辺は先生に聞こう。とりあえず、ラリーの動きがぎこちなさ過ぎるから、その辺の練習しようか?」と小平さんに聞いたら、うなずいていて、
「そうね。少し上達したんだと思う。まだまだってことよ」
「最初から、試合形式だけでやればいいじゃない」と一之瀬さんが怒りながら戻って行き、ほかの子が困った顔をして見ていた。

 その日の夜に山崎君から電話があった。
「戦術練習しろ」
「それを今考え中」
「3つに絞れ。一辺にはできない。一人一人変えてもいいけれどな」
「でも、どうやったら?」
「その辺は、」と言って色々教えてくれた。

 次の日から、山崎君に言われたとおりの練習を取り入れた。最初は戸惑っていたけれどがんばってやっていた。先輩達が修学旅行から帰ってきて、その後、体育大会だったので、その準備をクラスでやっていた。
「俺、走るの苦手なのに」と男子がぼやいていて、足の遅い子が二人三脚でがんばって廊下で練習していて、
「歩くだけにしてくれよ。走るなよ」と戸狩君に睨まれていた。
「転ぶなよ」と山崎君が桃子ちゃんに言っていた。桃子ちゃんは、明るく活発で発言も多く、授業でも質問もいっぱいする子だった。先生にもよく話しかけられていて、戸狩君たちともこの頃よく話していた。戸狩君のそばには、高山さんと学級委員の仙道さん、ミコちゃんがいて、山崎君たちと一緒に話すようになっていて、クラスの中心人物という感じだった。
「山ちゃんと桃ちゃんでいいじゃん。付き合っちゃえよ」と言われていて、
「えー、そんなの困る」と言い合っていた。
「しかし、お似合いだって。成績だって似たようなものだしなあ」と言われていた。
「そうか? 桃ちゃん、成績はいいけれど、顔もそれなりに愛嬌あるけれど、なにより運動音痴だろう?」と言われていて、
「この辺りが豊かだからいいだろう」と男子が胸を叩いて、
「やだー」と女の子が笑った。
桃子ちゃんはふくよかで胸も豊かだった。
「ロザリーならありそうだよな。山ちゃん」と蔵前≪くらまえ≫君達に言われて、
「なんで俺に言うんだよ」と山崎君が怒っていた。
 須貝君が私達の横で、漫画を書いていて、
「上手だね」と碧子さん達と見ていた。そばにいた弘通君も笑っていた。
「そうだよな。俺、星の事なら分かるけれど」と光本君が言った。
「俺、鉄道マニアだけれど」と遠藤君が笑った。
 席がそばにあるため、須貝君たちとよく話すようになっていた。弘通君や今のメンバーはいつも集まっていて、桃子ちゃん以外の私達もそばで話をしているからだ。
「絵を描くのが上手な子ってうらやましいな。私、ド下手だから」と須貝君の絵を見てしみじみ言ってしまった。
「弘通は?」
「俺も駄目だ」
「俺もなあ。ロボット系書けないんだよ」
「昔、よく書いたよなあ」と盛り上がっていて、
「漫画でも習字でも、何かできるといいなあ」と言ったら、
「何か得意なものはないの?」と須貝君に聞かれた。
「得意なものを探し中。人と話すのは苦手だし、勉強も普通だしねえ。運動神経はどんどんだめになっていく」
「どんくさそうだ」と光本君が笑った。
「弘通も少しは走れよ」とみんなに言われていた。彼は運動神経があまりよくない上、少しぽっちゃりとした体型だった。
「弘通君は人格者だからなあ。私も何かないかなあ?」
「詩織ちゃんは先輩と付き合ってるじゃない」
「付き合ってると言えるような間柄じゃないと思う。ただ、一緒に帰って話していただけだもの」
「え?」と弘通君と須貝君が驚いていた。
「なんだよ、それ?」
「あれ、デートとかは?」と聞かれて、
「あの先輩とするわけないよ。危なくて。それに完全におもちゃにされてるもの。遊ばれてるの、犬か猫の扱いだよ。『お手』とか言われた事がある」と言ったら、全員が笑った。
「なんだ、てっきりちゃんと付き合ってるのかと思った」
「そんな付き合いを私とすると思う? 他にいくらでもいるだろうなあ」
「それはありえるね」
「そうだったんだ」と弘通君が言ったので、
「そういう恋愛なら相手がいくらでもいるからね。あの人の場合は」
「それはあるだろうな。『道ならぬ恋』とか言ってたの聞いた事あるぞ」と光本君が言って、
「どうも変だと思った」と夕実ちゃんが笑っていた。

 部活の方では、一之瀬さんがイライラしていた。
「何かあったの?」とみんなが聞いていて、
「はっきり聞いたらしいよ。山崎君に」
「あれ? 別のバスケ部の人にしたんじゃ?」
「その前に聞いたんだって。私のどこがいじめっこかって」あれを本人に聞いたのか。
「自分で考えてからにしろって。『このままだと試合に勝ていないだろうな』って言われたらしいよ。『試合やってから、もう一度来い』と言われたらしい」なるほど、それでイライラしているんだ。
「それよりさあ、小平さんとの仲がドンドン悪くなってるよね。二大勢力になりそう」
「なんで?」と聞いてしまった。
「ロザリーと小平さん。そのうち対決あるかも」うーん、確かにロザリーはマイペースで小平さんは真面目だしなあ。
「一之瀬さんのイライラを何とかしてよ」と言っていて、困ったなあと考えていた。

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