成績

 テストが返されて、先生によっては、
「75」とか数字を言いながら返す先生がいて、
「山崎がんばったな、100」と言われていた。100点の人だけ言う先生もいたりして、上位者の成績はそれで分かる。順位や成績も自分からばらす人もいる。弘通君、山崎君とミコちゃん、戸狩君と仙道さんは上位の常連だった。うらやましいなあ。
「山ちゃん。また100点だよ」と休み時間に言われていた。この差が大きいなあとうつむいてしまった。
「詩織ちゃん、どうだった?」と夕実ちゃんに聞かれて、
「はははは」とまた笑ってごまかした。
「なんで、そこまでがんばるんだ。受験のためか?」と遠くで山崎君が聞かれていて、
「負けられない事情があるんだろう?」と戸狩君に言われて笑っていた。あの先輩、何を言ったんだろうな。「俺に任しておけ」の一本槍で教えてくれないんだよね。100点をいっぱい取れとでも言ったのだろうか? 
「弘通に負けないためとか?」と聞かれていて、
「それもあるな」と山崎君が言ったため、弘通君が困っていた。
「負けないでよ」と夕実ちゃんに小声で言われていて、
「そうだね」とみんなと笑っていた。
「弘通くんのと交換してほしい」と言ったら驚いていた。母が「見せなさい」と言い出して、困っていた。今頃言わないでほしいなあ。
「親に怒られるとか?」
「怒りそうだな。あの人、怖いかも」
「お父さんだったっけ? そうなの?」と聞かれて、母親とは言いずらいなあと考えていた。

 成績表が返されて、うな垂れていたら、
「詩織ちゃん、どうだった?」と聞かれてしまい、
「このままだと怖いかもねえ」と言ったため、みんなが笑っていた。しかし、どこから聞きつけたのか、帰るときにしっかり母が待っていた。
「あのね」と思わず言ってしまった。
「家に行くとあの人が怒るんですもの。了見が狭いわあ。二度と来るなですって」昔、いったい何があったんだろう? 
「だから、こうして迎えに来たの。どこかで食事でもしましょう」
「お母さん、人の都合ぐらい考えてください」
「あら、ちょうどいいところに」と私の後ろを向いて手を振っていて、
「人の話を聞いてよ」と言っても聞いてくれなくて、
「拓海君。良かったら一緒に帰らない」と大声で言ったため、注目されてしまった。彼が走ってきて、
「いいですよ」と笑ったので、呆れてしまった。
「みんなが見てるのだけれど」とぼやきながら助手席に乗った。彼は後ろの座席に乗ってて、
「どうせ時間の問題だ。そろそろばらそう」
「えー、やだよ」と言ったら、母がうれしそうに、
「なんの話なの?」と聞いてきて、
「そろそろ正式にお付き合いをしようという話です」と堂々と言ったため、母が笑っていた。笑い事じゃない。窓が開いているというのに聞かれちゃうじゃない。
「それもいいわねえ。仲が良かったものねえ、昔から」
「お母さん、前を向いて運転してね」と注意した。

「駄目じゃない。これじゃあねえ。平均点は超えていても、もっとやらないと」と成績表を見て母が怒っていた。言うと思った。
「拓海君はどうだった?」と母に聞かれて、成績表を出していた。すごいかも、
「へえ、がんばったわね。今回は特に」成績表は全部の考査のが載っているため、前のと比べられるようになっていた。見るのが悪いなと思って、あえて見なかったら、彼が渡してきた。
「見てもいいの?」
「どうせ、後であの先輩に見せる事になってるから」
「え?」と驚いた。
「あれ、聞いていないのか?」
「何の事?」
「お前と別れてもいいといったぞ。あっちに勝ったらな」いったい何を勝手にやってるんだろうね。
「そう言っていた。俺に勝ってからなら認めてやるってね。だから、体育大会でもタイムを計ってて、五分五分だと負け惜しみを言っていた。こっちは一位ばかりだというのに」
「なにそれ?」
「リレーで、向こうは2位だった」そういうことを裏でしていたのか。
「総合で向こうが勝っていたからとか、負け惜しみ言ってたけれどな。とにかく見ろよ」と言われて驚いた。
「100点ばっかりだよ」
「まだまだだよな。国語で95だ。社会も理科もがんばったけれどなあ」
「なんだかすごいね。私と大違い」
「お前はテニスの試合に勝つことをまず考えろよ。成績よりもね。でも、もうちょっと上げたほうがいいな」といつのまにか私の成績表を見ていて、
「はずかしいなあ」と取り上げた。
「とにかく、やれる事からやっていけよ。一之瀬のせいで試合が危ないからな」
「え?」
「あいつこのままだと。あまり勝ていないかもなあ」
「どうして?」
「分かっていないからだよ。お前や小平達がやってる事が歯がゆく感じてるんだよ。手っ取り早く勝とうとして焦りすぎ。一つ一つレベルを上げていかないと無理なんだよな。テニス部の場合はね。あいつは試合をこなして場慣れしながらレベルをあげたいんだろうけれど、テニス部のほかの人はそれは無理だ。それから、百井だけは試合の数をこなさせた方がいいかも」と言ったのでうなずいた。
「でも、それで変わるのかな?」
「ペアを時々交代させていけばいいさ。本当は一之瀬にもそれをやらせたいけれど、そういう心理状態にさえないようだからな。俺が言っても聞いてくれないかもな」
「どうして?」
「この間いっぱい怒ったから、そういう相手に言われたら面白くないだろうしね」
「振られた相手に言われたらそう思うかも」
「振られたねえ……。あいつの場合はそれ以前だよ。やっていい事と悪い事があるのに、反省していないみたいだ。そういうヤツは無理だな」
「加茂さんみたいだね」
「仲がいいのね」と母に言われてしまい、
「そうかな?」と考えてしまった。成績表見せられたあとじゃあ、なんだか差があるなあ。
「さっきの話だけれど、本当に付き合ったら」と母が簡単に言ったので、机に伏せた。
「あら、何、その反応は?」
「なんだよ、まだ嫌なのか?」と二人に言われて、
「そういう問題じゃないよ」とぼやいた。
「あら、そうなの? 昔は『拓海君のお嫁さんになる』と言ってたのに」そんなことを言うわけが?……と考えていたら、意外にも山崎君は笑っていて、
「笑い事じゃないよ。そんなこと言っていないよ」
「覚えていないの。そういうことを言ってたはずよ。笑っちゃうわよね。子供ってかわいいことを言うわあと思っていたから、良く覚えてるの。それで、酒屋の坂下君が」
「ああ、あいつね」
「それを聞いて喧嘩したんでしょう?」
「ありましたね」と勝手に会話していた。いいなあ、覚えていて、
「なんだよ、まだ思い出せないのか?」と山崎君に聞かれて、
「なんだか、もやが掛かっててわからないんだよね。どうしてだろう?」
「何かあったのかしらねえ。覚えていないけれどね。あの人に聞いても、『お前に関係ない』ってすごい剣幕《けんまく》で言うから喧嘩しちゃったし」
「けんかしないでよ」
「了見が狭い」また言った。
「それより、本当にそうしたら。そのほうがお似合いよね。あの先輩だったっけ、チラッと見たけれど、カッコいいとは思うけれど、誠実さが足りないわ。要領よすぎだわ」
「いつ見たの?」
「体育大会のときに寄ったのよ。あなたも見たかったけれどね。山崎君に挨拶したわよ」
「わたしは?」
「女の子達と話をしていたからね。用事があったから、声を掛けられなくて。でも、楽しそうだったわね。そのときに詩織が付き合ってる相手の顔を山崎君に聞いてねえ。あなた向きじゃないわよ」
「そういうことじゃなくて」
「そう言っても聞いていないんだよな。でも、付き合っていないそうですよ。一緒に帰っただけです。そうクラスで言っていたので」しっかり聞いていたな。
「そうなの? 今は」
「一緒にも帰っていないよ。あの人さあ、きっと、別にいると思う、本命の人。きっと、よほど言えないような立場の人なのかも」
「それはあるな。『道ならぬ恋をしているんだ』とクラスで言ったらしいから」呆れるぞ、あの先輩は。
「なんだ、そうなの。心配したのに。じゃあ、いいじゃないの。私もそのほうが安心だわ。拓海君がそばに付いていてくれるならねえ。あの人じゃ頼りにならないし」自分の元の旦那より、中学生を当てにするなんて、よほど、昔なにかあったな。
「その前に、仲直りしてね」
「いいのよ。ああいう人なんだから。それより、詩織の事をよろしくお願いねえ。昔から抜けていて良く転んで泣いていてね、迷惑掛けていたと思うけれど。腐れ縁だと思って」
「勝手な事を言わないでよ」
「いいですよ。そのつもりで申し込んであるんですよ。今は返事待ちです」と2人で勝手な事を言い合っていて、人の気も知らないで……と思って睨んでしまった。

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