初めての

 試合会場にまた自転車で行った。疲れるなあと思いながら、試合が始まるのを待っていた。先輩達も心配だったらしく見に来ていた。意外だった。
「とにかくがんばれよ。佐倉はのびのびとやれよ」と小清水元部長に言われてうなずいた。男子の方もアドバイスしていて、福本元部長が、色々小平さんにアドバイスしていた。
「バスケの会場って、この近くなんだって。第3中学。あそこ大きくていいねえ」と言ってるのが聞こえた。この間は、車で行ったから、帰るとき苦労した。意外と大変だった。かなりの距離を歩いてバス一本で帰れたけれど、その道に迷いそうになってしまい、まだまだだなと思った。ここから15分ぐらい歩いたところにある中学らしい。「帰りに寄ろうね」とかすごいことを言っていた。つまり早々と負けるってことかなあと考えてしまった。
「しかし緊張するなあ」と言って、待っていた。私も初めての大会で緊張していた。
 試合になって、相手のチームもバラバラの個性だった。明るい人と神経質な人のペアがいた。あの人たちかもねと見ていた。一之瀬さんたちが何とか勝ったあと、湯島さんたちが惜しくも負けてしまい、でも私達はやるだけやろうと決めていて、何も耳に入れずにコートにたった。色々言っていたけれど、聞く余裕すらなかった。でも、
「相手も緊張しているね。初めての試合だ。試合慣れしていないかもしれない。こっちと条件は同じだね」と菅原さんに声をかけたらうなずいていた。
 相手の緊張がすごくてダブルフォルトの連続であっけなく勝った。
「良かった」とみんなが言っていて、相手が泣いているのが見えた。自分との戦いなのかもしれないなと思った。
 次の相手は五分五分に見えた。でも一之瀬さんたちは接戦だったけれど、何とか勝った。湯島さんたちまでがんばっていて勝ったため、私たちは緊張せずにできて勝てていた。そのときの相手も最初からやる気をなくしていて、なんだか、こういうのも大事だなと思って見ていた。
 しかし、その次の対戦相手が決まり、相手もこちらを見ていて余裕綽々≪しゃくしゃく≫で、バカにするような態度だった。うーん、困ったなとは思ったけれど、時間があったのでトイレに行った。
「詩織」と誰かが呼ぶ声が聞こえて、見たら、山崎君が来ていた。
「どうしたの?」
「試合終わったんだよ。そっちは?」と聞かれて、
「それなりだよ」と答えた。
「なんだよ、それ?」と笑っていた。
「みんなは?」と聞いたら、
「先に帰ったよ。疲れているのにわざわざ寄ってやるようなお人よしは俺ぐらいなものだ」と笑っていた。
「勝ち残ってるようだな」と聞かれてうなずいた。
「なんとかね」
「次の試合の相手って、どうだ?」
「よく分からない」
「そうか。とにかく、お前たちだけでもがんばれよ」
「なにそれ?」
「一之瀬は気分にむらがあるし、湯島は時々プレッシャーに弱いからな。菅原さんはのんびりしていてスロースターターだし」よく見てるなあ。
「こういうときは百井《ももい》さんの方がいいと思う。彼女とお前が組んだほうがいいのかも」
「え?」
「とにかく、お前は潰されるなよ。狙うとしたら、お前のほうだからな」と言われてうなずいた。そして、その意味が後で分かった。相手が弱いと思う方を徹底的に責めるパターンばかりを使ってきた。一之瀬さんのところは彼女と小平さんがお見合いする場所を何度もつかれていた。湯島さんのときは。ストレートばかり抜いていた。そして私のときは、
そう、私のバックに集めだした。やはりなと思った。でも、あまり打たれたため球に慣れだした。
「なんで?」と相手が言っていた。アドバンテージで取れると思った玉を、私が相手のまねをして打ったため、相手が反対に取れなくなっていた。その後からドンドン崩れだした。相手の隙を突くような玉を打ったため、相手がお見合いしたりバラバラになり、最後はダブルフォルトの連続で自滅して終わっていて、
「勝ってたのに。格下の相手なのに」と大声で言ったため、後輩たちも怒っていて、
「何よ、あの言い方」「勝ちは勝ちよ」と言っていた。
「私達が勝っていたわ」と握手するときに言われて、
「苦手なコースはお互いにありますよ。それより、自分のテニスが出来なくなるほど冷静じゃなくなった事が原因だと思います」と言って戻ったら、びっくりしていた。
「詩織ちゃんの言う通りかも。どっちのペースになっても、取るしかないよね。目の前の玉を」と菅原さんに試合中に何度も言われた言葉をまた言われて、
「ありがたかったよ。ミスしてもそう言い続けてくれたから」
「声をかけることだけは負けたくなかったの」と言ったので、2人で笑っていた。
「しかし、意外な結果だったな」と小清水さんに言われて、
「そうかしら。むしろ当然だと思うわ。ペアの信頼関係の差ね」と福本さんに言われて、そうなのかなあと考えてしまった。
「でも、驚いたわ。私達と違って、しっかり試合が出来てたから。私達のときは上がっちゃってね」
「それはあったな。基本をよほどしっかりやったんだろうな。よくがんばったな」と小清水さんが言ったため、一之瀬さんが驚いていた。
「どうして分かったんですか?」と聞いていて、
「以前のお前達は動き以前に玉をつなぐ事すら出来ていなかったからなあ。少しは何とかなっていたよ。でも、まだまだだな。サーブはがんばってたしレシーブも合格点はやれるが、その次の展開がまだまだだな。そこをやれ」と小清水さんに言われて、
「佐倉さんに言われたとおりの事を言うわね」と小平さんが笑っていた。
「そうか、意外かもね。でも、やっと意見を言えるようになったんだな。そのほうがいいぞ。お前しっかり見てるくせに言わないからな。意見を言えても冷静じゃないヤツがここは多いからな。加藤も言えよ」と千紗ちゃんちゃんが言われていて、
「千沙ちゃんが一番良く見てるのかも」とみんなが笑っていた。

 水を飲みに行ったら、
「惜しかったよな」と声がした。山崎君が後ろに立っていて、
「あれ、まだいてくれたんだ?」と顔をタオルで拭きながら言った。
「しょうがないだろう? お前らは最後の組なんだしね。とにかく、問題点は山積みだな帰ったら教えてやるよ」
「ごめんね」
「いいさ、そういうのも。腐れ縁ってやつだな」
「なんだか、大変だったけれどね」
「俺もがんばるよ。あの先輩に認めてもらわないとね」
「いいよ、別にあの人は相手にしなくても」
「お前が認めてくれるならもっといいけれど」
「そんなこと。これ以上は認められようもないくらい、認めてるけれどね」
「だったら、どうして返事してくれないんだ?」
「それは……」と困ってしまった。
「なにか、あるのか?」
「あのね」と言ったら、
「あれ、山崎先輩も来たんですか?」と後輩がいつのまにかそばに来ていて、みんなもトイレや水飲みにやってきた。
「あ、本当だ。いたんだね。さっき堂島君が来てて、山ちゃんもいると言ってたから、探してたのに」と緑ちゃんが笑っていて、
「どうして?」と一之瀬さんが聞いてきた。
「それは当たり前だろう。だって、昔の彼女って言うのは、」と山崎君が言いかけたために、
「ああ、そうだね。山崎君はクラスメイトに親切で」とごまかそうとしたら、
「おー、山ちゃん来てくれたんですね。待っていました」とロザリーに飛びつかれていて、
「お前はいいよ」と山崎君が嫌がっていてみんなに笑われていた。

 帰るときに、一之瀬さんたちと別れて帰ろうとしたら、
「待って」と呼び止められた。
「なに?」と小平さんが聞いてきて、
「佐倉さんに聞きたいの。あなた、山崎君とどうなってるの?」と聞かれてしまい、困ってしまった。
「わざわざ来て」
「おー。私のために」とロザリーが言い出して、
「黙ってて。違うでしょう? あなたの試合を見に来たんでしょう?」と聞かれてしまい、困ってしまった。
「そう言えば、そうだよね。山崎君、内緒にしてたみたいだったよ。堂島君は湯島さんの恋人だし」と言ったため、
「えー!」とそっちで盛り上がっていた。そうか、それも知らなかった。
「2人で来たんじゃないんだ?」
「堂島君、こっちで見かけて驚いてたんだって」と緑ちゃんがばらしていて、困ったなあと考えていた。
「どういうこと?」と一之瀬さんに聞かれてしまった。
「昔の彼女って、あなたなんじゃないでしょうね?」と言われたためびっくりした。
「え、そうなの?」と緑ちゃんが聞いていて、
「その話をみんながしていて、もしかして前の学校で引っ越した人の中にいるんじゃないかと聞いてたんですよね。それで引っ越した人を考えて、佐倉先輩もそう言えば小学校の5年の時に引っ越したと聞いて」と後輩が言い出して、
「えー、そうなの? それは知らなかった」と緑ちゃんが見ていた。
「そういうわけでは」
「今川にいたんだ?」
「違うって、小学校は今川第2小学校」と言っていて、みんな良く知ってるなあと思った。私はそんなこと全然知らないなー。
「そこにいたんですか?」と聞かれて、首を振った。
「だったら?」
「ごめん。言えないの」
「どうして?」とみんなに聞かれてしまった。
「なんて言ったらいいのか、その…
「あの先輩と付き合ってるからとか? 誰も二股とは思ってませんよ。どうせ、あの先輩の場合は気まぐれでしょうというのが一般的で」と後輩の口の軽い子が言い出した。あのねー。
「そういう訳ではなくて」
「じゃあ、どうして?」
「いいじゃない。何か訳があるんだよね?」と言われて、うなずいた。私はまだ、彼に言っていない。そんな状態でみんなに言えるわけがない。
「ごめんなさい」と頭を下げたら、
「彼の事が好きなの?」と一之瀬さんに言われたけれど、
「ごめん、そういうことは」と言って横を向いた。
「答えなくてもいいじゃない。だいたい、一之瀬さんが今好きなのって、堂島君だったんでしょ。振られちゃったんだから、その腹いせで言わなくても」と緑ちゃんが言ってしまったために、みんなが睨んでいた。
「どうして答えないの?」
「答えられないの。そういうことは聞かれても困る。それに一之瀬さんはいじめっこの意味を先に考えて」と言ったら、みんなが笑い出した。
「いじめっこ、当たってますねえ」
「言えてる」と笑っていた。
「そんなことないわよ」と一之瀬さんが睨んでいて、
「山崎君に言われたんだってね。試合をしてから俺に聞きに来いって」
「分からないわよ、そんなこと言われたって」と一之瀬さんが怒っていて、
「なんとなく分かったわ」と小平さんが言ったため、みんなが驚いていた。
「人の意見に耳を貸さないってことだと思うわ。先輩やみんながいくらアドバイスしても聞いてくれない」
「いじめっこって、そうだっけ?」
「弱い者をいじめるし、人の物は取るし、気に入らないと暴力振るうし」と言ってから、みんなが彼女を見ていた。
「当たってるかも」と緑ちゃんが軽く言ったため、みんながまたにらんでいた。
「加茂さんがいたときはそうでしたね。それに今だって、聞いていないと思いますよ。さっきの先輩の貴重な意見を気に入らなさそうに聞いていて」と後輩の中でも一番しっかりした子が言い出した。
「私も同じだと思う。佐倉さんに山崎君のことで気に入らないとしても、当たるのは間違ってると思う。それに気に入らないと仲間はずれにしていたしね。方向が間違ってるから、きっと山崎君はそう言ったのね」と小平さんに言われて、
「そう」と言って、彼女は自転車の方へ行ってしまった。うーん、なんだか言うべきじゃなかったのかと思ったけれど、仕方ないなと思っていた。

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